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八話 ヴァルターside

『————殿下は否定なさるでしょうけれど、国王陛下という地位は、きっと貴方のような人がなるべきだ』


 俺が——ヴァルター・ヴィア・スェベリアが、国王という地位にまで上り詰めたきっかけは、間違いなくこの一言が理由であった。

 アメリア・メセルディアと名乗る女騎士の末期の言葉であるその一言。

 それが、俺を動かす熱そのものであった。


「信頼など出来るものか」


 俺は呟く。

 執務室——そこに設えられた椅子に腰掛けながら、俺は当たり前のようにそう口にしていた。


「俺を恨む連中なぞ、それこそ数える事が億劫になる程いるだろうさ」


 血を分けた兄弟。

 叔父、祖父。彼らに味方をした大貴族。

 彼らに対し、極刑を突きつけた俺を恨む連中はごまんといる。

 それでも俺がこうして国王という地位に就けている理由は、斬刑に処した彼らがあまり良くは思われていなかった事。

 権力を持っていた邪魔な連中を纏めて処分したから。この二点に収束した。


 護衛はいる。

 それでも、俺は己の側仕えだけは執拗に拒み続けた。その理由は至極当然で、あまりに単純なもの。


「……だから、俺に同情をしただけにもかかわらず、奴隷契約のような〝契約魔法〟を結ばせ、自分勝手にその命を俺の為に散らしたような、そんな馬鹿でないと俺は信頼出来ん」


 知っていた。

 アメリアと王宮から逃げる中で、彼女は王族だからと言っていたが、俺を助けてくれた理由が同情心なのだと共に行動をする中で俺は気付いていたのだ。


 そして、その同情心を最期まで貫いた正真正銘の馬鹿なお人好し。アメリアという女騎士は、そんな人間であった。


「だから、貴女(、、)しかいないんだ」


 たった一つ。

 後悔があった。

 悔恨があった。

 悔やんでも悔みきれない悔いが、あった。


「姿が変わったくらいで、俺が貴女(、、)を見間違うものか」


 彼女は俺に多くのものを与えてくれた。


『死んで良い人間なんて、何処にもいる筈がない。いて良い筈が、ないんです』


 ————だから私が、殿下をお助けすると。


 俺を置いていけば貴女だけならばきっと何事もなく逃げ切れる。身体に矢を受けた彼女に対し、俺が逃げろというと、アメリアはそう言って俺を諫めた。


 そんな彼女に対して、俺が返せたものは何か一つでもあっただろうか。


 ……俺の後悔とは、ソレであった。

 

 俺の為に何かをしてくれた。

 そんな稀有な存在。

 爪弾きものでしかなかったあの時の俺に、手を差し伸べてくれたのは彼女が初めてだった。


 もしかすると。

 もしかすれば、このまま二人で生き延びられるのではないか。そんな甘い考えを抱いていた為に、感謝の言葉も、何もかもを後回しにしてしまっていた。

 結果がこれだ。

 俺を最期まで守り、言葉を残して死んで逝った彼女に俺は何もしてやれなかった。

 途方もないほどの寂しさと後悔が、俺を埋め尽くしたのはちょうどその頃。


「あの言葉が貴女が遺してくれたものであったから、こうして俺は国王になった」


 貴女が遺してくれた言葉を胸に、その地位に拘り、運良くこうして上り詰めた。

 彼女の言葉が、あったからこそ。


「貴女の言葉の通りになった。だから、貴女には義務があるんだ。言い出した者として、俺の行く末を見守る義務があるんだ」


 それは暴論だった。

 あまりにひどい暴論。

 けれど、国王なんだ。それくらいの我儘は良いだろうがと、己の中で言い訳をする。


「俺は義理堅い人間なんでな——」


 そう言って、首に掛けていたペンダントを軽く握り締める。赤色の宝石が埋め込まれた何処にでもあるようなペンダント。

 それは、メセルディア侯爵家の17年前の当主から譲り受けた物であった。


 恩人の形見が欲しいと俺がいうと、当時の当主が俺に、彼女が使っていた剣——それに埋め込まれていた僅かな装飾を使って作り変えたペンダントをくれた。

 俺の初めての臣下だから。


 そんな事を思いながら、俺は好んでそのペンダントを身に着けていた。


「————受けた恩は、多少強引にでも返させて貰うさ」


 ——なぁ、アメリア。


 控えめな性格が影響し、言葉を交わしていた当初は、「貴女」もしくは「アメリアさん」と呼んでいたのだが、「さん」付けはやめてくれと必死に懇願していた彼女の姿がふと、思い起こされた。


 本当に、濃い数日であった。

 命を狙われ、殺され掛けていた日々。

 本来であれば真っ先に忘れたいと思うような体験であったにもかかわらず、俺だけは忘れたくないと強く思っている。

 きっとその理由は、彼女の存在があったから。


 俺の中でアメリアの存在はそれ程までに大きかった。


「あの契約が切れてしまっている事が、心寂しくはあるがな」


 一生涯くらい。

 嗚呼、そうだ。

 彼女とは、そういう約束であった。


 そしてその言葉通り、彼女はその一生涯を嘘偽りなく己の意思で俺に捧げていた。

 だから、心寂しくはあるけれど、もう一度しろとは言わないし、言う気もさらさら無かった。


 〝契約魔法〟なんてものが無くとも、俺にとって貴女はもう既に誰よりも信頼出来る人であるから。


 そんな言葉を胸中で溢しながら、俺は立ち上がった。きっと今頃、ロバーツが彼女を部屋へ案内している頃か。そんな事を思いながら、俺はゆっくりとドアへと近づいて行き————そのまま部屋を後にした。

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