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二十五話

「どうしてこうなっちゃうかなあ」


 ぶん、ぶんっ。

 手の感触。刃渡り。感覚。マナに対する強度。


 手探りにユリウスから半ば無理矢理渡されていた剣の具合を確かめていく。


「というか、何考えてんだか。あの国王様は」


 ぶん、ぶんっ、ぶんっ。

 そして手を止める。


 んー……と、悩ましげなくぐもった声を出しながら、私は考え込む事にした。


「どうしてかは知らないけど……つまりあれか。ヴァルターはどうにかして私に剣を振らせたいのかな……でも、そうする理由が分からないんだよねえ」


 この場に、私を揶揄って遊んでた諸悪の元凶は不在。故に気兼ねなくヴァルターと呼び捨てる。

 ヴァルター提案の力試しからはどうやっても逃れられそうになかったので割り切って私は剣を振るう事にしていたのだ。


 剣を振れる場所はあるかと部屋の外で待機していたメイドに問い、案内されたのがここ——小さな庭園のような場所。


 人目もなく、随分と心地の良い場所であった。


「そもそも、なんであんな無条件に私を信用してるのかが分かんない」


 私を悩ませる一番の疑問がソレである。


「私がアメリアだった事を知ってるのだとすれば……百歩譲って分からなくもない」


 ただ、当時の私ですらあまり実力が上位の方では無かったので、今回のようにこれ見よがしにひけらかそうとされると私がとっても困る事には違いないのだが、それでもまだ納得は出来る。


 しかし。


「でも……、うん。ないな。ないない。それは絶っ対、有り得ない」


 17年前に死んだ騎士がひょんな事あって二度目の生を受け、別の人間として転生を果たしていた。ゴシップにしてももう少し現実味のある話を作れる事だろう。

 ましてや、あのヴァルターである。


 すっかり性悪に育ってしまった彼が、そんな与太話を思い付いた上で信じ込む。

 そんな馬鹿な話があるものかと。

 性悪である事は全く関係ないのだが、それだけはあり得ないなとかぶりを振り、私は思い付いた選択肢の中から真っ先に切り捨てる。


「と、すれば……残る可能性は身内ぐらい、かな」


 脳裏に浮かぶ父親、そして数名の使用人の姿。


「剣を振って鍛錬に励んでた事を誰かがヴァルターにチクって……」


 チクっていないと。

 私としてはそう言い切ってしまいたかった。


 しかしどうしてか、私の口からは歯切れの悪い言葉しか出てこない。

 その理由はきっと……アレだ。


「まって、よ。……まさか、間違ってマナを込めちゃってお父様が大切に育てていた木を折っちゃったアレの腹いせ……? いやいやいや、アレはちゃんと知らないフリを通せた筈だし10年も前の話」


 なんだかんだと私に残されていたのは剣、ただひとつであった。だから、転生して尚、私は剣を振ろうと思った。それが確か7つの時。

 間違ってマナまで込めちゃって小規模の災害でも巻き起こったかのような惨事を引き起こしてしまったが山から魔物が降りてきたのだろう。という事で事は収束していた筈だ。


「あー……、なんか頭が痛くなってきたや」


 気になりはするものの最早、ヴァルターが私に寄せる謎の信頼に関しては今更何を言っても手遅れでしかないだろう。

 故に、私は割り切る事にした。


「にしても、ヴァルターの護衛だからかな、変に絡まれないしそこだけは気が楽でいいね」


 ————覚えていろ……っ!! アメリア・メセルディアァァア!!! この屈辱、一生涯忘れんぞ……っ。このトリ****侯爵家が嫡男。****・トリ****に恥を掻かせた事、末代まで後悔させてやる……ッ!!!


 それはいつぞやの私がけちょんけちょんに叩きのめした男が吐いた捨て台詞。興味が絶望的なまでに無かったからだろう。名前の部分が全く思い出せない。


 確か……、トリクラウゾ(食らうぞ)侯爵家?  いや、トリクラウデ(食らうで)侯爵家? なんか違うような……、トリタベルゾ(食べるぞ)侯爵家? ……うむむむむ。


 確か美味しそうな名前だったような気がする事だけは覚えているんだけど、そこから先が全く思い出せなかった。


「あの、えっと……あのワカメ頭お坊ちゃんなんて名前だったかな……」


 爵位だけはきちんと覚えている。

 なにせ、こんなヤツが僕と同じ侯爵家の人間だとォッ!? などと、散々に馬鹿にされた過去があるので爵位だけは覚えていた。

 名前はすっかり抜け落ちてるけど。


 そんな折。

 足音が聞こえてきた。


 私のいる庭園に向かっているのだろうか。

 その音は徐々に大きくなっていく。


 そして共に聞こえてくる話し声。

 何処か既視感のある小憎たらしい話し口調。

 これは……どこで聞いたんだったかな、と頭を悩ませる私をよそに、やって来る声。


 それから数十秒もの時間を経て。

 縮まる連中と私の距離。

 そして私の姿を見るや否や、放たれた嘲弄のような言葉。それは私に対し、向けられていた。


「む? むむむむむ? その紋章。その騎士服はまさにスェベリア王国のものではないか。いやはや、女騎士がいると聞いて飛んできてみれば本当に女が剣を手にしている。スェベリア王国はどうにも女にまで剣を振らせるようだ!! 余程の人材不足と見える!!! こんな脆弱な国が我が国の友好国だと!? あぁっ、おいたわしや……」


 どっかで聞いたような腹立つセリフが私の鼓膜を揺らした。けれど考え事をする私の頭の中にその言葉は全く入ってこない。


 そう、確かこんな声でこんな話し口調で今しがた私の眼前に映る見るからに鬱陶しいワカメ頭がトレードマークのこんな男だった。


 確か名前は……、そう! 


「あ! トリクラウヨ(食らうよ)侯爵家!!」

「トリクラウド侯爵家だ!!!」


 びしっ!!

 と、人差し指で記憶に残る17年前と似たり寄ったりな面貌の青年に向けて私は自信満々に指差す。が、どうにも違ったらしい。

 紛らわしいんだよ、その名前。

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