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二十二話

「ユリウスの奴が受け取れと言ったのだろう? 渡された物を受け取った事に何の問題がある。気兼ねなく使ってやれ」


 ガタン、ガタン、と音を立てて私達の世界が揺れる。

 馬車の中。

 ゆっくりと移り変わる景色を時折眺めながらも、物憂げにユリウスから半ば強制的に渡されていた無銘の剣へ視線を落とす私を見て、ヴァルターは呆れ気味にそう言った。

 そんな彼の表情は不満げに未だ(、、)歪められている。


 本来、ヴァルターはサテリカへ向かう際、馬に乗って向かう予定だったらしい。

 それも、一騎がけである。

 流石にそれはダメだろうと私がヴァルターを説得し、馬車を手配してくれとハーメリアに頼み込んで今に至るというわけなのだが……。


 どうにも、御者だろうとヴァルターはそばにいる事が不満らしい。

 ……どうして私は良いんだよと、本気で疑問に思った事は秘密である。


「そういうもの、ですかね」


 もしかすれば。

 ヴァルターに相談でもすればユリウスに返してくれるのでは。

 そんな希望的観測が私の中に無かったとは言わないが、向けられたこの言葉を耳にする限り、その希望は儚く散ったと見ていいだろう。


 思わず深いため息が出た。


「……そういえば、陛下はどうして私なんかに目をかけてるのですか」


 ふとした疑問。

 ヴァルターとミシェル公爵閣下との会話にて、私がヴァルターの知り合いに似ているから。という理由で側仕えに指名されたのだと耳にしていた。けれど、似ているだけでここまで厚遇されるものだろうか。


 しかし、フローラ・ウェイベイアとして彼と出会ったのは間違いなくあのパーティーが初めての出会いである。


「お前がお前であるからだ。理由なんてもの、これ以外にあるものか」


 ざっくばらんに話される。

 しかし、全くもって意味がわからない。


「とはいえ、これに関しては特別急ぐ必要もないだろうさ」

「……どうしてですか?」

「いずれ分かるからだ」


 即答。

 そうなる未来を信じて疑っていないのか。

 ヴァルターの表情は一変して自信に満ち満ちていた。


「だから、急ぐ必要はない。この距離感も存外悪くはないしな」


 だからどういう事なんだよと。

 訳知り顔で言葉を並べ立てるヴァルターに向かって不満をぶつけようとした私であったが、


「……そうですか」


 言いたくないのならもういいです。とばかりに会話を断ち切った。

 そうした理由は、どうしてか薮蛇になってしまうような、そんな気がしたから。

 最近、こんな事多いなと思いながらも私は己の勘を信じる事にした。


「ん」


 ふと、思う。

 私の側には今、ユリウスから受け取っていた無銘の剣。加えてヴァルターから賜っていた剣。

 あわせて二振りの剣がある。


 どちらも大切な物なので自ずとサテリカでは腰に下げて持ち歩く事になるだろう。

 しかし、そこで漸く気づく。

 今の私の状態に。


 二振りの名剣を贅沢にも腰に下げ、国王陛下の側仕えをしている女騎士。

 属性てんこ盛り過ぎないだろうか。

 もしかしてびっくり箱か何かだろうか?


 自分の事ながら頭が痛くなった。


「うぇ……失敗したかも……」

「どうかしたか?」

「い、いえ、何でもありません。お気になさらず!」


 変な声を出していた私を心配してか、ヴァルターが声を掛けてくれていたのだが、慌てて私は取り繕う。



 これでは目をつけてくれと言っているようなものじゃないかと。


 実家が大貴族で、無理矢理に国王陛下の側仕えへとねじ込んでもらった挙句、過保護な両親が名剣を二振り持たせた。

 今の私の姿を何も知らない他者が目にしたならば、思い浮かぶ筋書きはこんなところだろうか。


 全く、嫌な金持ち貴族である。

 ……他でもない私の事なんだけれども。


「……さっさと観念してこっちだけ持ってくれば良かった」


 ぼそりとひとりごちる。

 元々、馬車の中でヴァルターに相談し、ユリウスに返却してくれる、という事で話が纏まればヴァルターから賜った剣を。

 それが無理ならばユリウスから受け取った剣を使おうと考えていた。


 しかし、やはりメセルディアの人間でもない者がメセルディアの家宝を扱うのは如何なものなのかと私は最後まで納得出来ず、こうして二振りの剣を持ってきていたのだが、


「……ぅぁー、失敗した……」


 どうしてか、このタイミングで思い出してしまった忌々しい過去。


 確かサテリカといえば。

 アメリア・メセルディアであった頃の私が確か14の時だっただろうか。

 当時の当主であり私の父の勧めもあって父と共にサテリカに赴く機会があった。


 その際に、


『スェベリア王国はどうにも女児にまで剣を振らせるようだ!! 余程の人材不足と見える!!! こんな脆弱な国が我が国の友好国だと!? あぁっ、おいたわしや……』


 などと鼻につく言葉をほざく私と同世代の貴族がいたものだから、私も負けじと挑発し、決闘にまで持ち込み、ボコボコのズタズタのけちょんけちょんに5回くらい叩きのめしてやった過去が蘇る。


 あまりに手応えが無かったものだから今の今まで記憶から消えていたが、そうだった。

 サテリカはそういうヤツがいる国だった。


 ……面倒事は、間違いなく起こるだろうなぁ。

 と、最早、諦めの境地に足を踏み入れながらも今だけはとばかりに窓越しの景色を私は堪能する事にした。

 うん。現実逃避って素晴らしい。

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