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二話

「ご足労いただき、感謝します」


 司会らしき男性のその言葉から始まった今回のパーティー。

 花嫁を探しているという国王陛下の甥であり、弱冠17歳という若さでありながらルベルガ公爵家の当主であるミシェル公爵閣下は、それは凛々しい男性であった。


 甥というだけあって7歳という幼き頃に数日だけ護衛をした少年の面影が見え隠れしている。

 恐らく、前世の私の人生のなかで一番濃密だった瞬間。忘れようにも忘れられないその面貌は私の中のナニカを擽る。

 気付けば、私の顔は綻んでいた。


「————あら?」


 私と同様の境遇らしき令嬢の子達がミシェル公爵閣下を取り囲み、必死にアピールをする中。

 それを傍目からまるで他人事のように眺め、今し方微笑んでいた私に向かって掛けられた声が一つ。


 その声は私にとって覚えのあるものであった。


「フィー?」


 肩越しに振り向くや否や、口を衝いて言葉が出てきた。それも、フローラとして生きてきた私の一番とも言える友人の名前。

 フィール・レイベッカの愛称を私は声に出していた。


「ローラ? やっぱり! ローラじゃないっ!」


 赤を基調とした豪奢なドレスに身を包む華奢な女性——フィールは声を弾ませ、私の名を呼びながら嬉しそうに私の下へと歩み寄ってくる。

 私もこのパーティーの為にとドレスを着衣しており、それ故にすぐ目の前で立ち止まっていたが、ドレスがなければ今にも抱きついてそうな勢いであった。


「ローラも公爵閣下の花嫁を狙って?」

「ええ。とは言っても、実家の命令なんだけどね」


 苦笑いを浮かべながら、私は本音を口にする。

 別に隠す程の事でもないと思っての発言であったのだが、フィールはその事を既に気づいていたのか。

 でしょうねと言わんばかりにその発言に対して二度、三度と軽く頷いていた。


「フィーは?」

(わたくし)もよ。たとえ無理であっても交友を広げてこいとお父様が、ね」


 どうやらお互いとも此処へ赴いた理由は似たり寄ったりらしい。その事実を確認し、私達は顔を見合わせて笑い合う。


 私とフィールは10年以上前からの家族ぐるみの知己であり、姉妹と言っても差し支えないほど気のおけない仲であった。

 だからこそ、こうして胸に秘めていた感情も呆気なく吐露出来てしまったというわけである。


「成る程ねえ。フィーのお父様なら言ってそう」

「言ってそうじゃなくて、本当に言ってきたのよ」


 父親なんだから、私が公爵閣下の花嫁なんて無理と一番分かってるでしょうに。

 と、呆れ顔を作りながら彼女はぼやいた。

 実際のところ、私もフィールと全くの同意見なのだから、他人事とは思えず苦笑する。


「ま、誰が好き好んであそこに混ざるんだって話だもんね」


 そう言って私が視線を向けた先には一際賑やかな人混みが生まれていた。

 ドレスを身に纏った少女達が黄色い声をあげながらナニカを取り囲んでいる。

 それは、一人の男性であった。

 今回のパーティーの主役、ミシェル公爵閣下を取り囲み、彼女らは己を必死に売り込んでいる最中なのだ。


「本当に。別にお父様も(わたくし)に期待は寄せてないでしょうし、このパーティーでは(わたくし)なりにやり過ごさせてもらう予定よ」

「すっごいフィーらしい」

「フィーらしいって、どの口が言うのよ。ローラも(わたくし)となんら変わりないじゃない」

「あははっ、そうだった」


 てへ、と小さく舌を出してやると貴女だけは……、とばかりにフィーは少しだけ呆れていた。


 とはいえ、それも一瞬。


「ま、今回は出来レースな部分もあるでしょうし、きっとローラも責められる事は無いと思うわよ」

「出来レース?」


 思わず聞き返してしまう。


「そう。噂話として広がったりはしてたけど、ミシェル公爵閣下はある令嬢と婚儀を挙げたがってるの」

「婚儀を? え? でも、これ花嫁探しのパーティーだよね?」


 じゃあ、このパーティーは何の為に開催されたのだと私が聞き返すと、


「だから、出来レースなのよ。ミシェル公爵閣下は婚儀を挙げたい人が既にいらっしゃる。けれど、その子とはえらく身分違いな立場にあるらしいの。だから、こうしてパーティーを開き、運命的にであった。そういう演出をする為だけの出来レースなの」


 成る程。それで、公爵閣下ともあろう人がこんなパーティーを開催し、花嫁を決めるなどと公言していたのかと今更ながら納得をした。

 うちの父親がその事実を知っていれば私がこうして王宮にまで赴く必要もなかったのになとため息を吐く私であったが、ふとした疑問が脳裏を過ぎる。


「ふぅん。でもどうしてフィーはそんな出来レースなんて話を——」


 知ってるの? と。

 私が尋ねようと試みた折、一際大きな声が上がった。それは悲鳴ではなく、どちらかと言えば歓声のような。


 そして、そのせいで私の声は遮られ、フィールの注意も発声主の下へと向かってしまう。


 どうして急に歓声のような声が生まれたのか。

 その疑問を抱いたのは刹那。


 今回のパーティーを取り仕切っていた男の凛とした声による一言によって、その疑問は見事に霧散した。



 ————国王陛下がお越しになられた。


 その一言によって。

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