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自叙伝  作者: ぺぺろん
9/12

大学生期(鬼畜!!アメフト部編①)


この自叙伝は、陽キャになろうとしてもなれない、エリートになろうとしてもなれない、スポーツをしようにも才能がない、モテモテになろうとしてもなりきれない挫折ばかりのごく普通の20歳大学生、おれが書く中途半端なストーリーである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



おれは大学入学後、そんなこんなでアメフト部に入部することとなった。


最初こそ楽しい生活だったものの、日が経つにつれ、大学で部活をするということがどういうことなのか、またこの大学のアメフト部がどんな部活かということを、身をもって知ることとなる。



〜大学生期(鬼畜!!アメフト部編①)〜



新歓期も終わり、学生が徐々に落ち着きを取り戻してきた頃、アメフトのルールすら知らないまま部に入ったおれは、早速ルールを覚えるところから始めた。


というのも、やりながら覚えられるほどアメフトのルールは単純ではないのだ。


ある程度の基礎知識がなければ、試合の展開さえついていけないだろう。


多くの人のイメージとしては、防具があるバージョンのラグビーのようなスポーツ、というぐらいだろう。


ざっくり言うとアメフトとは、サッカーのセットプレーを何度も繰り返し行い、ラグビーのように陣取りをしつつタッチダウンを奪う、といういわばサッカーのセットプレーとラグビーの複合のようなスポーツである。


セットプレーというだけあり、攻撃側は一度攻撃する都度、集まって「ハドル(作戦会議)」を組み作戦を決め、再び「セット」してから次の攻撃に進まなければならない。


その攻撃のパターンとしては大きく分けて「パス」と「ラン」の二つがあり、そのどちらかをハドルで選択する。


そして、全部で4回の攻撃のうちで10ヤード以上獲得すれば、続けてさらに4回の攻撃権が得られるのだ。


ボールを投げたり渡したりと攻撃の要であるQBクォーターバック、それをキャッチするWRワイドレシーバー、ボールを受け取って走るRBランニングバック、味方を守る壁を作るOLオフェンスラインと、オフェンスのポジションは様々だ。


皆はじめは、かっこいいと思ったポジション、向いてそうなポジションを選んでゆく。


おれは、ほとんど一人の力で敵をかわし、フィールドを颯爽と駆け抜けてゆくRBのかっこよさに惹かれ、迷わずRBを選んだ。





続いてディフェンス。


4回の攻撃のうちで、10ヤードを獲得できなかった場合、ディフェンスに交代となる。


ディフェンスにはまたディフェンス専用のポジションがあり、その専門の選手がいる。


そう、アメフトとは攻撃で11人、守備でまた別の11人が出るので、試合に出ているメンバーは実質22人ということになるのである。


だが、人数が極めて少ないうちの部では、一人で攻守一つずつポジションを持つことになっていた。


そのディフェンスのポジションとは、ディフェンス全体の司令塔の役割、守備の中枢であるLBラインバッカー、WRを徹底的にマークし、パスを通させないDBディフェンスバック、OLと相対する、QBやRBを狩りに行く役割をもつDLディフェンスラインである。


おれは最初LBを選んだのだが、割と人気だったので、人数の関係でDBになった。


もう一つのポジションとして、試合開始時のキックと大きくボールを蹴って陣地を取り戻す役割を持つKキッカーというものがあり、元サッカー部だったおれはすぐさまキッカーに任命された。




一緒に入部した同学科のN(以後アルファベットでややこしいので『橋本(仮名)』とする。)は攻撃の要のQBと、おれと同じDBになった。





そこからおれと橋本は、ほぼ毎日練習に明け暮れた。


前回少し述べたように、RBとQBは相方のような関係にある。


もしランプレーが選択されたとき、OLたちが作り上げた一瞬の隙を、RBは最速で駆け抜けていかなければならない。


そこにはQBとRBの息の合ったボールの受け渡しが必要不可欠なのだ。


だから、ここの練習はひたすらに数を重ねなければならない部分だった。


また、RBにはもう一人新入生がいて、ライバル的存在だった。


おれはこいつには負けたくないと思い、サッカー部の二の舞にもなりたくなかったので、必死で練習を繰り返した。


自主筋トレも欠かさず行った。


キッカーの練習ももちろんした。





一方で、同回生部員との交友関係といえば、あまり良いとはいえないものだった。


プレイヤー、マネージャー間でも仲が良くなければ、プレイヤー同士もプライベートで遊ぶほどは仲良くなかった。


それでも、話しかければみなふつうに話し、たまには笑い話もするので、特段仲が悪いというわけでもなかった。


しかしおれは、おれが新歓期に調子に乗っていたことを根に持つ同回のある一人の男、ジョー(仮名)からだけは徹底的に嫌われていた。


ラグビー経験者で、トークも面白く、先輩からも愛されるいわゆる人気者キャラ。


だが独自のお笑い観を持っているがために、異なる笑いの取り方をする、そしてかつ面白くないおれが許せなかったらしい。


また、自分はラグビー経験者であり、やる気を持って入部した反面、ノリで入ってきたおれのようなタイプは特に気に食わなかったようだ。


話しかけても、いつも無視。


おれも、そんな明らかに敵対視してくるジョーに対して、やや嫌悪感を抱いていた。





そんなある日の練習、一回生同士のヒットの1on1が行われた。


ヒットとは、タックルとはまた違う、お互いがお互いの額、両手の3点で相手とぶつかり合うコンタクトだ。(手は相手の胸を突くイメージ。)


タックルとは違い、お互いが全力で正面衝突しながらぶつかるようなもの。


当然、筋肉量や重さではっきりと差が出る。


ラグビー経験者は、やや有利であった。


おれの対戦相手は、例のジョーだった。


ラグビー経験者であったジョーはやはり体がおれよりも一回りほど大きい。


ルールは、合図がしたところで、お互い助走はつけずに歩き、間合いに入ったところでインパクト、場外かどちらかが倒れたら決着。


両者ゆっくりと、コーチや部員が囲むようにしてできた円状の土俵に出る。


ジョーはこちらをちらと一瞥する。


お前にだけは負けないという意思を感じる。


そして静かに構えた。


距離は5歩分程度。


囲いが静かになる。


みなが眼前の戦いに集中する。






合図がする。


ゆらりとジョーの体が動き、おれも距離を詰める。


相手の額に向けて頭突きを、胸目掛けて突きをかましにいく。


ガツン、と鈍い音が響く。


刹那、全身に鋭い衝撃が走る。


後方へと体が弾かれる。


気づけばおれは、そのまま天を仰ぐように転んでいた。


青天、と言われるやつだ。


仰向けに倒され、見事に青い天を仰ぐようにこけることから由来しており、アメフトでは完敗したことの意。


おれはジョーに完敗した。


「気持ちィ〜〜〜!!!」


そう言っているジョーの声が聞こえる。


腹が立った。


勝ちたいと本気で思った。


おれは、コーチにどうすれば勝てるのかを愚直に聞いた。


コーチはこう言う。


「相手より下から、刺せ。低い姿勢から刺し込め。そして相手を殺す気でいけ。『殺意』を持って下から刺せ。そうすれば、必ず勝てる。」


おれはこの言葉を脳裏に焼き付ける。


おれは再びジョーとの対戦に立候補した。


今のところ負けなしのジョーは、完全に調子に乗っていた。


再びおれは定位置につき、先ほどコーチからもらった言葉を頭に浮かべる。


低く、殺意を持って、刺す。


迷いはなかった。


殺す気でいく。


両者構え、合図を待つ。








合図。


ゆらりと近づく。


より低く、低く。


相手がヒットを打つ動作に入る。


こちらも狙いを定める。


足を踏み込むと同時にヒットを放つ。


その瞬間、明らかに先ほどと違う踏み込んだ足のインパクトがそのまま手や頭に伝う感触。


勢いそのままジョーめがけてぶち当てる。


ガンッ!!!!


ジョーの額に、胸に、まっすぐと突き刺さる。


ジョーは接触と同時に後ろにのけぞった。


そのまま奥へ奥へと、押し込む。


気づけば場外。




おれは勝っていた。





場が沸く。


おれは一回り自分よりも大きいやつに勝った。


一方ジョーはふらついて膝をつく。


軽い脳震盪を起こしていた。


気持ちィ〜などと言っていた余裕の表情は、もはやなかった。


最高に気持ちィ〜〜だった。


コーチにもとても褒められた。




これを機に、ジョーはおれのことをだんだんと認めるようになる。


最初は話しかけても無視を貫いていたジョーも、これ以後は話しかけるときちんと返答するようになった。


そこからだんだんと話すようになっていくうちに、お互い、


「コイツ、むっちゃおもろいな。」


となっていく。


今まで話していなかったからこそお互い気づかなかったが、いざ話してみるとむちゃくちゃ気が合った。


お互い違う笑いの価値観があったこそ、会話で生まれる笑いが新鮮で面白かった。






7月になり、それは突如告げられる。


「新入生歓迎会をするので、一回生は全員漫才でも一発ギャグでもモノマネでも、なにかネタを考えてきてください。当日みんなの前で発表させます。優勝者には先輩から賞金が与えられます。頑張ってください。」


それはうちの部で代々伝わる、遅めの新入生歓迎会で行われる一回生の登竜門であった。


一回生はみななにをしようかと戸惑いを見せていたが、おれにはすでに一つのビジョンが見えていた。


迷わず本人に伝える。


「ジョー、漫才やろう。」


意外にも二つ返事でオッケーが出た。


おれたちは本番に向けて、空いてる時間をすべて漫才に費やす。


お互いのアイデアがポンポンと浮かぶ。


高校の時はおれが全て一人で考えていたのだが、その時とは負担が違った。


明らかに楽だし、面白い。


自分とは違うお笑い価値観であったからこそ、お互いに刺激され、インスピレーションが湧き、難なく漫才は完成した。






結果だけ言うと、大ウケした。


周りは漫才師や芸人のコピーをして、ややウケであったなか、オリジナルネタで、だ。


おれらが漫才して負けるわけがないと、もう優勝した気でいた。


そう、優勝したと思ったのだ。


ダークホースが現れるまでは。


真面目キャラの二人がコンビを組んだ漫才が始まった。


まあどうせレベルの低い漫才だろうとか直前までは思っていた。




見終わった感想は、


「こいつらこんな体張るんかい。」


ネタもツッコミもボケも完璧。


みんな爆笑満点大笑い。


ネタはどこかのコント師のコピーではあったが、マイナーであったために審査員である先輩には気付かれていなかった。


いや、コピーだとバレていたとしても結果は変わらなかったかもしれない。


それだけ普段のキャラからのギャップが凄まじく、それも面白さに直結していたのだ。


結果おれたちは2位。


完敗した。


ガチ泣きした。


二人揃って号泣した。


たぶんむちゃくちゃ迷惑だっただろう。


けど今となってはいい思い出だなと思う。


その後おれともう一人のやつでジョーの家に泊まって反省会を開いた。


この時、なにか深い友情のようなものを感じた。


おれたちは一番仲良くなった。


やっぱり漫才は最高だった。


そしていよいよ8月、地獄の合宿へと差し掛かる。





また、この頃おれは、高校を卒業してからずっと付き合っていた彼女と別れる。


原因は、大学という新環境になって気づいた、異性と遊ぶ際の許容範囲や価値観の違い、おれが部活であるがために会える日がなかなかない、という点だった。


お互い好きではあったが、会えない日が多かったり、喧嘩が多くなったりで、どっちみち長くは続かないだろうということだった。


こうしておれの恋人はアメフトだけとなる。




〜続く〜

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