大学生期(春休みと入学編)
この自叙伝は、陽キャになろうとしてもなれない、エリートになろうとしてもなれない、スポーツをしようにも才能がない、モテモテになろうとしてもなりきれない挫折ばかりのごく普通の20歳大学生、おれが書く中途半端なストーリーである。
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いよいよ大学生期に突入する。
といっても、ストーリー的には合格発表のその後といったところだろう。
大学が始まるまでのわずかな休み期間を含めて大学生期としようと思う。
〜大学生期(春休みと入学編)〜
合格発表後すぐの春休み、後期試験も全て終了してから行われた、高校の同期の中で「おもろい奴」を集めたとされるキャンプにおれは参加した。
それは漫才大会メンバーを軸とした、その他学年内でも名の通った面白いと言われる人たち、総勢20名ほどの精鋭揃いだった。
そこにはサッカー部のやつらは一人もいなかった。
なぜなら、サッカー部の特に陽キャ的なやつらは、過剰ないじりと独特な笑いのツボ、空気の読めなさから他部からも少々煙たがられていたのだ。
結果的に、サッカー部のやつらはだれもこのキャンプには呼ばれず、おれだけが呼ばれた。
汚い話、おれは自分がマジョリティーに属していることを嬉しく思った。
最初サッカー部しか居場所がなかったおれが、高校ではもうサッカー部のやつらに常にマウントを取られ続けながら過ごさなければならないとまで思っていたのに、最終的に学年でおもろい奴として見定められたときに選ばれたのは、おれ。
認められたのは、おれの面白さ、おれという人間だったのだ。
静かに勝ち誇った。
今までおれを馬鹿にしてきたやつは学年でははみ出者、仲間外れにされている。
おれの方が面白いし、おれの方がカーストは上。
ざまあみろ。
おれの思考はただただ汚かったが、それほどまでに腐らされていたのもまた事実だった。
サッカー部を本気で憎んでいた。
もう二度と他人に舐められたくはない。
この頃から、おれは舐められることに対して異常なほどの嫌悪感を抱くようになる。
キャンプはとても楽しかった。
なにを言っても大抵笑ってくれたし、またみんなも笑いの才能に長けた人ばかりで、とても面白かった。
時間はあっという間に過ぎる。
翌朝、コテージのチェックアウトとともにみな帰路についた。
余韻が消えきらず、何人かで昼ごはんを食べにいった。
こいつらとはたぶん一生の付き合いになるだろうな、と思いながら、うだうだと駄弁りながら飯を食った。
そのまた数日後、元カノとの遊ぶ約束だった日がやってきた。
ショッピングモールで買い物デートの約束だった。
まだ好きな感情が残っていたおれは、少しいちゃつきを仕掛けてみた。
だが元カノは満更でもないような表情で、特に拒否することもなく受け入れた。
ショッピングモールでぶらついたあと、おれはノリでプリクラ撮ろ!と言ってみた。
最初は嫌そうだったが、粘った結果なんとかオッケーをもらえた。
付き合っていた当時よりも若干ぎこちなさが残るプリクラを撮り終え、落書きタイムに入る。
落書きスペースはカーテンで狭く仕切られており、密室。
距離も近い。
落書きを気怠そうにする元カノの整った可愛らしい横顔がすぐ目の前にある。
おれは我慢できなかった。
元カノがなにか言おうとしてこちらを向いた。
言い切る前に、キスをした。
元カノは驚いた。
しかし跳ね除けはしなかった。
ごめん、と思わず言った。
うん、と俯きながら彼女は言う。
「嫌やった?」
そう聞くと、彼女は首を傾げた。
嫌ではなさそうではあった。
もしかしたらこれはワンチャンあるのでは、とおれの期待が膨らんだ。
肩に手をやり、もう一度おれはキスをする、、、
ふりをした。
彼女の唇の前で動きを止める。
彼女は目を瞑りながら、受け入れる態勢のまま、少しこちらに唇を寄せたあと、あるはずの場所におれの唇がないことに気付き、目を開ける。
おれはそれを笑いながら見ていた。
おちょくられていることに気付いた彼女は落書きタイムを終わらせてさっさと外に出た。
おれもすぐさまついていった。
その後、ベンチに座って少し休憩する。
気持ちが傾き始めているのでは、と思い、再び付き合えるかどうかをおれの気持ちがバレないようにふわっと聞いてみた。
結果はノーだった。
どうやらもうあの時ほど恋愛的に好きというわけではないらしい。
おれもそれに便乗する。
一緒やなぁなどと言って共感しておいた。
その帰り道、少し彼女の嫉妬心を煽りたいという一心で、別れている間にあったHとの事を、名前を伏せて言ってしまった。
これは、どうせ復縁することもないだろうし、大学に入れば元カノとは会うこともなくなるだろうと思ってやけくそで言ったことだった。
おれに対して気がなく、会うこともなくなればべつに相手がだれかなども気にならなくなるだろう。
彼女は何度も相手がだれかを興味津々に聞いてきたが、それだけは言えないおれは絶対に言わなかった。
彼女は頬を膨らませて拗ねた。
そんな姿も可愛かった。
しかし諦めきれないおれは、やっぱりアプローチを続行することに決めた。
おれは後日、正直にまだ好きである事をラインで話した。
何度ももう一度付き合いたいという話をした。
最初はノーとしか言わなかった彼女も、徐々にガードが崩れ始める。
そして、おれが彼女と付き合うことに対していかなる覚悟を持っているか、という力説をした日、ついに彼女が折れた。
彼女は再び別れが来る事をとても恐れていたがために、その覚悟の力説が信用を得る要因となったのかもしれない。
おれたちは正式に復縁した。
最高に喜んだが、復縁するとなった後、まず初めに前に話した事について、だれとそういう関係になったのか、を問い詰められた。
こんなもの嘘をついて適当な人を言っておけばよかったものを、当時本当の事を言うことが誠実であり正義だと思っていたおれは、馬鹿正直に全てを話した。
当然、彼女はショックを受けていた。
そりゃ彼女の親友とそんな関係になった男とまた復縁したのだ。
Hとも嫉妬心を抱いて微妙な関係になるわ、彼氏に対しても不信感を抱くわで、気分が良いものなわけがない。
そんなことも気づかないおれは、この撒いた火種がのちにどれだけ肥大化するかを知る由もなかった。
こうして幸先悪く、おれたちは復縁したのだった。
そして4月になり、入学式。
当のおれは浮かない表情をしていた。
大学に対するモチベは、ゼロに等しかった。
なぜかというと、この時のおれは少し学歴コンプレックスを抱えていたからだ。
周りや彼女が有名国公立大学に進学していく中、自分はそこまで有名でもない地方国公立。
こんな大学での大学生活なんて、どうでもいいとさえ思っていた。
さらに自分には彼女がいたし、地元にも友達はいっぱいいるし、高校にもたくさん友達はいるというメンタルがあったのも大きかった。
だから別にここで女ウケを狙う必要もなければ、友達もいらないと思っていた。
そんな負のメンタルであるおれは、超訳のわからない暴挙に出る。
あえて嫌われにいったのだ。
あえて目立つ行動をし、高校時代の女子から圧倒的に嫌われていた状況と同じかそれ以上の状況を作り上げた。
その方が孤独で楽だと感じた。
また、それを話題にする事で、地元や高校の友達と話す際のネタにしようと思った。
結果見事に嫌われる事に成功する。
おれに関する噂が経つほどにまで、おれは大学中で嫌われた。
大学デビュー、頑張りインキャ、イキリミス。
ひどい言われようだったが、それぐらいのことをおれはした。
正直、カスな話だが、自分の大学の生徒全員を見下していたのはあると思う。
周りの友達がエリートすぎるだけに、自分もエリートであると勘違いしていたのだ。
今思えばとても情けない話だ。
そんなおれにも、友達として接してくれる人が現れた。
おれがアメフト部の新歓のご飯会に参加した時に、新入生で唯一ちゃんと会話した、同じ学科のSだった。
会話からしてもとても気が合う、と思った。
おれがわざわざ嫌われるような事を新歓や学科でしようとも、切り捨てるようなことはしなかった。
今ではそれが本当に救いになっていると感じる。
そいつが所属する学科の4人グループに、後からでもおれを入れてくれたからだ。
そのおかげで、そのグループのやつらとも徐々に仲良くなれた。
孤独にならずに済んだ。
あの時、アメフト部の新歓に行かなければどうなっていたかと思うとゾッとする。
あのまま学歴コンプレックスをこじらせ、また、友達などいらないと変な意地を張り続けていたら、今ごろ大学に通うことも億劫になっていただろう。
この時おれは考えを改め直し、友達の必要性、重要性について知った。
そして、アメフト部の主将や副将ともとても深い話をした。
主に高校の部活のことであった。
おれがどれだけしんどい思いをしたかを全て聞いてもらった。
その話から、おれがただの頭のおかしいやつでないことを知った人は多いと思う。
徐々にアメフト部におれを理解してくれる人が増えた。
その後おれはうまい具合に乗せられて、アメフト部に入部することとなる。
高校の部活で不完全燃焼だったその時のおれは、サッカー部での未練をアメフトで果たそうとしていた。
おれが入部すると、学科のグループの友達も一人入部した。
最初に仲良くなったやつとはまた別の、元野球部のNというやつだ。
こいつが背番号1で、おれが背番号2だった。
またポジション的にも、NがQBでおれがRBと、まさに相方のような関係にあった。
チームも去年2部に昇格し、上り調子にあった。
人数が少ないにも関わらず、大躍進を続けるというすごいチームらしく、おれもやる気に満ちていた。
その年の新入生の入部人数は11人だった。
生徒数がもともと少ないこの大学では、毎年5人ほどしか入らないらしく、今年は豊作だという。
似通ったコンタクトスポーツであるラグビーの経験者がいたり、みな運動神経が良い者ばかりだったが、サッカーの時の二の舞にならぬよう、負けられないと思った。
これから四年間、おれたちは切磋琢磨技術を磨き、共に歩んでいく
はずだった。
〜続く〜