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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あの夏の出来事を俺たちはいつまでもいつまでも忘れることはないだろう

掲載日:2019/09/10

・・・とある洞窟内・・・


人気のないこの洞窟の中に一人の商人がいた。

商人の後ろは壁、前からはモンスターの群れ、商人にじりじりと距離を詰めてくるモンスター達。

まさに絶体絶命。今にも群れの先頭のモンスターが飛びかかってきそうになり・・・


「だ、だれか・・・ッ!!助けてっ!!!」


グシャ ぐちゃ


突然目の前のモンスターがただの肉塊に変わる。そして後ろには鎧を着た一人の男が立っていた。


「あ、あんたは・・・?」


「・・・」


男は答えない。

転移石を商人に渡した後、男は静かにその場を去っていった。



・・・魔王城最上階・・・


「ぐ、ぐぁああ!!」


「な、なぜこのような力を・・・いったい・・何処から・・・?」


男は答えない。

無言で手に持った剣を勢いよく振り下ろす。


グシャ


そしてまた無言でその場を去っていった。




迷えるものに救いの手を伸べる最後の希望。

見たものを恐怖に陥れ絶望させる最初の絶望。

そう・・!

我こそは死と生の攻略者(カオス・リーディング)

人を助け、魔物を駆逐するm「遥稀!出発する準備は終わった!?」


「は、はーい。今やってまーす」


というのはゲームの中だけでの設定。最近やりこんでるゲームの中ではちょっとほかの人には見せられないような厨二病な名前や姿をして、ネット上の仲間たちと楽しく遊んでいる。


俺の名前は天沢 遥稀(あまさわ はるき)

何処にでもいるような普通の高校1年生だ。

そう、どこにでもいそうな隠れ厨二病患者。それが俺。

学校では普通の生徒のふりをしているが、内心は

「俺、100メートル13秒だった!!遥稀はどうだった?」

「俺は15秒だったよ(まぁ、この俺の足に封印されし能力を開放すれば100mなんぞ1秒をきるがな)」

等と思っていたりする。

こんな隠れ厨二病の俺が何一つ厨二病に関して隠さなくていい唯一の場所。

それがこのゲームだった。

ゲーム内では現実では到底できないようなこともボタン操作で簡単にできてしまうし、

ほかの厨二病患者(プレイヤー)もいるのでチャットで厨二病特有の痛い発言も当たり前で何の抵抗もなく、楽しく会話ができる。そんな俺の心のオアシス。


しかし、少しの間このオアシスから離れなければいけなくなった。

家族で田舎に住んでいるおばあちゃんの家に帰省することになったのだ。

今は少しでもたくさんオアシスで厨二病の心を発散させるためにゲームをしている。


「・・さて、準備でもするか・・・はぁ」


正直なところあまり行きたくない。

なぜならおばあちゃんの家は田舎過ぎてテレビもないからもちろんゲーム機もない。

周りは田んぼだらけ、近くに森があるが草が生い茂っていて中に入ると、出てきたときには体中に植物の種子がくっつきまくって最悪。

事実上、遊ぶ場所がほぼないに等しい。

つまり、行ってもおばあちゃんの家でダラダラしてるか、家の手伝いをするかの二択しかない。

しかも、家でダラダラ寝っ転がってゲームをしたり、漫画を読んだりしていると蚊がたくさんやってきて

起きたら地獄のような痒さを味わうことになる。

ということで結局のところ家の手伝いをひたすら頑張るくらいしかやること及びできることがないのだ。

なので行っても疲れ果てて全く休めない。


「着替えと歯磨きと財布・・・は一応持っていくか。あとは・・」


パソコンをちらっと見るが、やはりデスクトップパソコンなので持っていけるわけがなく

少しの間離れることを寂しく思いながら、シャットダウンした。








____車で移動中_____










キーッ

バタン


「やっと着いた~」


前から来た時と変わりがない。やっぱり周りは相変わらずの田んぼだらけだ。

少し遠くに森も見えるがやはり以前来た時と特に変わった様子はなかった。


「遥稀兄ちゃん!久しぶり!」


「おう、久しぶりだな那央也」


この髪がつんつんしてていかにもやんちゃそうなこいつは有馬(ありま) 那央也(なおや)俺のいとこだ。小学5年生の素直で元気いっぱいの男の子。

まさにザ・ボーイみたいなやつだ。

そしてこの隣にいる髪の長い子が、


「久しぶり・・・遥稀お兄ちゃん」


もう一人の俺のいとこ、名前は桜花(さくらばな) 咲希(さき)。性格は内気であまり人と喋らない。初めて出会ったときはそりゃあもう大変でしたとも。何を言っても反応が薄いからよくわからなかったし。でも、話しかけていくうちになれ始めたのか少しずつしゃべるようになってきて、今では意思疎通に問題ないくらいの会話はできる。ちなみに小学6年生である。


「よう、久しぶり咲希。元気にしてたか?」


「うん・・・元気に・・してた」


「そうか、それはよかったな。」


それにしても久しぶりに従兄妹にあったな。確か以前にあったのは去年の夏だったか?あまりよく覚えてないけど、なんというかすごい変わったな。那央也は去年見た時より少したくましく見えるし、咲希に関してはさらに可愛くなっている気がする。


「遥稀ー!私たちは先に荷物運んだりするからその間二人の子と頼むわよー!」


と、さっそくおばあちゃんの家にお土産やらなんやらの荷物をたくさん持ちながら遥稀のお母さんが言ってくる。


「おっけー、荷物運びよろしくねー!じゃあ、ちょっと二人を連れて遊びにでも行ってくるわ!」


そう伝えると、俺たちは田んぼのほうに向かって歩いて行った。


「遊びに行くのー?」


「そうだぞー」


「・・何して遊ぶの?」


「んー、そうだなぁ。何がしたい?」


「かくれんぼ!」


田んぼでやるのか!隠れる場所なんて全くないから一瞬で見つかるだろ!那央也の服装はTシャツだからいいかもしれないが、咲希の服装は白いワンピースなんだから汚したらまずいだろ・・


「か、かくれんぼか~。それはちょっと厳しいかもしれないなぁ。」


「えぇ~、かくれんぼやりたい!」


「私も・・やりたい」


そ、そんなにかくれんぼがしたいのか・・よしっ、だめでもともとなんだ。どうせだったら一度やってみるか。


「じゃあ、俺が鬼になるぞ。1分数えるからその間に上手に隠れるんだぞー」


「「はーい」」


自分の手で目を覆い隠し、秒数を淡々と数え始める。


「1、2、3・・・」


なぜかこうやって数字をゆっくり数えてると気持ちが落ち着いて自然と集中できるんだよなぁ。

遊びに対して真剣に取り組めるようにと考えたのか?、最初にこうやって数えようとか考えたやつは那央也達みたいに遊ぶのが大好きだったんだろうな。

まぁ、そんなことはどうでもいいか。


「58、59、60!!」


よーし、とりあえず草が生えてるところを徹底的に捜し歩いてみようかな。

そうして決意を決めた俺は、近場の隠れられそうなところを探し始めた。




-----10分後-----


「・・・何処だ?」


こんなに隠れる場所が少ないようなところでここまで見つからないなんて


「いったい何処にいるんだ・・・?」


草の茂みや近くの田んぼの隙間も確認したし、あと可能性があるとしたら・・・


「森の方か・・・?」


田んぼの近くには森があるが入ると植物の種が服について体がチクチクするので、基本的には誰も入らない。が・・・那央也が調子に乗って入っていった可能性はなくもなさそうだ・・。


「とりあえずここら辺探してもいなさそうだし、森の方も探してみるか」


そう独り言をつぶやいて俺は森に向かった。


・・・・よし、森についたはいいが想像より草が生い茂っているな。

このまま入っていったら服に種が付きまくって・・・うぅ、想像しただけでチクチクする。

せめてもの抵抗で木の枝とかを使って草を払いながら進むしかなさそうだな。


「木の棒、木の棒・・お、あった!」


茂みには自然に折れた枝のようなものではなく人工的な木材のような木の棒が落ちていた。


「なんでこんなところに木材が?まぁ、いいか」


きっと工事かなにかのときに落ちたのだろう。そう思うことにして俺は先を急いだ。

その茂みの奥に支えを失い、地面に落ちてしまった『この先関係者以外立ち入り禁止』の看板にも気づかずに。




ブンッブンッ

思った以上に量が多いな。服は・・・感触から察しよう。

これじゃあ木の棒もないよりはマシ程度だな。

二人も見つからないし、こんな森の中に隠れられたら見つけるのも大変そうだ。


「ん・・?」


今、何か肌色っぽいものが見えたような・・・。

二人が隠れているのか?それにしては小さすぎる気がするが。

ガサガサ


「これは・・・!?」


俺が草をかき分けて、場所を確認するとそこには見覚えのあるものが転がっていた。


「麦わら帽子・・?もしかして・・」


そう、麦わら帽子だ。しかもついさっき見た咲希のものであろう(・・・・・・・・・)デザインの。

ということは、この近くに二人がいる?


「よしっ・・!手がかり発見!絶対見つけてやるぞぉ!」


ガサガサ


「ッ・・・!!」


なんだ?!俺は動いてないのに音がした?那央也たちか?いや、違う明らかに音が大きすぎる!

もっと巨大な何かだ・・・。森の中で動く巨大なものといえば・・・?


「・・・」グルゥ


「く、熊・・!」


ウソだろ?この森に熊が出るなんて聞いてないぞ?おばあちゃんとかも特にそんなことは言ってなかったが・・

今更愚痴を言っても仕方ない。今は逃げるのが最優先だ。

幸いなことに、まだ熊はこちらに気づいてないようだ。


「たしか・・逃げるときはゆっくりと背中を向けず、走らずに・・・」


バキッ


「あっ」


やばいッ!!やらかした!!


「グォオオオオオオ!!!」


「うわぁああ!!!!」


やばいやばいやばい 逃げろ逃げろ 動け動け!!

動け俺の足!!なんで動かねぇんだよ!!!


だが、足は動かない。生物の根源にある強者に対する死への恐れが動きを妨げるのだ。

熊は全く動かない標的を前に、今にも大きく腕を振りかぶり・・・


血が飛び散った


「グアァアアアアア!!」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

音もなく飛んできた弓矢によって熊の腕の力が抜け、だらんと垂れ下がる。

さらに飛んできた矢が熊の頭を貫き、


ドスッ


熊は絶命した。


「ゆ、弓?この時代で?」


ガサガサ


「!」


茂みの中から出てきたのは俺の知らない、いや性格には知っているが()()()()()()()のものが立っていたのだ。

()()()。それはこの世界に存在しない架空の生物。

ゲームなどでは耳が長いのが特徴で、知識が高いため魔法に優れていたりする。

ちなみに美男美女が多く、人気の種族だ。


「き、君は誰?」


「私はエゼル・メネル。この森に住んでいるエルフよ。メネルと呼んでちょうだい」


エルフ?本物?確かに見た目は似てるが・・・


「大丈夫?ケガはない?」


「ああ、おかげさまで平気だ」


「よかったわ。ところであなたは?見たところ人間に見えるけど・・」


「ああ、俺は天沢 遥稀。15歳だ。遥稀と気軽に呼んでくれ」


「そう、遥稀ね。遥稀、あなたに聞きたいんだけどこんなところで何をしているの?」


「俺はいとこの二人を探してやってきたんだ。

ここらへんでこれくらいの男女二人を見かけなかったか?」


かくれんぼでほかの人に聞くのはルール違反かもしれないが

熊が出るような森でかくれんぼなんて危なすぎる。

早く見つけないと。


「・・・・・・いいえ、見てないわ」


なんだ?今の長い間は。何か隠し事でもしているのか?

エルフだと思って油断してたが少し警戒する必要があるかもな。


「それよりここは危ないわ。さっきみたいな魔獣がうろうろしているから

安全なところに移動してから話しましょう。

こっちに近道があるの。ついてきて」


「・・ああ、わかった」


とりあえず今はついていくしかなさそうだ。断ってまたさっきみたいな魔獣に襲われたら・・って魔獣?

確かに普通の熊とは少し違う感じはしたが・・・

まぁ、エルフがいるくらいだ。魔獣だっているだろう。


ガサガサ ガサガサ


「ここは・・・?」


「見ての通り洞窟よ。私たちエルフが安全に狩りができるように作られたの。」


安全に狩りができるようにこんなことをしているのか。

ということはこの先にはエルフたちが住んでいるところにつながっているのか?


「・・そんなことより、あなたは見たところ人間のようだけど

どうやってこの森に入ってきたの?」


「どうやって・・?普通に入口っぽいところから入ってきたけど・・」


「入口?おかしいわね、特別なことがない限りゲートは開かないはずなのだけれど・・?

これはよく調査する必要があるかもしれないわね・・・」


あれ?俺、もしかして普通だったら入れないような場所に偶然来ちゃった感じなのか?

なんかそれテンション上がるな。とか言ってる場合じゃないか・・・


「・・・説明が必要かしらね。

この世界はあなたがいた世界とは別の世界なの。あなたがいた世界の裏側に存在する別の世界。通称アンダーフォレストすべてが森におおわれた小さな世界よ。ここはその東の森、通称『イースティンフォレスト』大きさは正確には把握できてないわ。どこの森の奥に行っても、みんな命からがら逃げ帰ってくるのよ。理由は木の触手。通称『ウッドテンタクルズ』がとんでもない数で襲い掛かってくるかららしいわ。一つ一つは大したことはないんだけど、数が多すぎるうえに回復するときたものよ。だから倒しながら逃げるしかなかったらしいわ。そういうことで私たちはこの小さな世界でほそぼそと暮らしているの。いつかはあの触手をすべて倒して、自由を手に入れるまでは。」


そんなヤバそうな奴らがいるのか・・・うっかり出くわさなくてよかった。


「とりあえずあなたは、安全かどうかを確認するために身柄を確保させてもらうわ

大丈夫。安全だと分かれば普通に生活できるようになるから。それまではおとなしくしていてね」


「わかった」


「じゃあ、とりあえず里に向かうからついてきて頂戴。足元が暗いから注意して」




-----5分後-----


周りが明るくなってきたな。そろそろつくか?


「ついたわ。ようこそエルフの里へ」


「おぉ・・・!!」


すげー!エルフがたくさんいる!本当にゲームの世界みたいだ。

・・・それにしても美男美女が多いな。やはりエルフだからなのか?

いいな。俺もエルフに生まれたかったかも。


「村長に挨拶しにいくからついてきてちょうだい」


村長?村長もいるのか。

やっぱりよくあるRPGの村長みたいにおじいちゃんっぽい感じの人なのかな?


「ここが村長の家よ。無礼がないように気を付けてちょうだい。几帳面な人だから」


「ああ、わかった」


几帳面な人なのか。ヤバいな、礼儀とか全然わからないんだけどどうしよう?

とりあえず何とか頑張ってみるか。

そう思い、俺が扉を開けようとすると


「ちょっと待って、あなたそのまま行くつもり?」


ああ、そうだった。ずっと森の中にいたから泥もついてるし、何より植物の種子がこれでもかというほどついてる。これじゃあ、取るのも大変だな。


「ちょっと待ってくれ、すぐにおt「じっとしていて」」


「⦅ラヴェラヴァーレ⦆」


「うわっ!」


メネルが祈るようにそう唱えると、二人の周りに光の粒子が集まり、そしてはじけた。

すると、先ほどまでかたくなに二人の服から離れようとしなかった汚れや、

種の繁栄のために必死に二人にしがみついていた植物の種子たちはきれいさっぱり消え去っていた。


「おお・・!すげー!!メネル、これは魔法なのか?

めちゃくちゃ便利だな」


「これは初級魔法の⦅ラヴェラヴァーレ⦆

汚れなどを落としたりする、いわば生活魔法よ。

ほとんどのエルフが使えて、なおかつ便利なものだから結構人気の魔法よ。

だから見ての通り、狩りの後とかにも重宝しているわ

きっとあなたも頑張れば使えるようになれるわよ」


魔法か・・!やべーめっちゃ格好いい!初級魔法ってことは上級の魔法とかもあったりするのか?

マンガやアニメの世界みたいにここら一帯を吹き飛ばすほどの超強力な爆裂魔法とか、超次元的な回復力で仲間を一瞬で全回復させたりとかが・・・ああ、夢が広がるなぁ。元の世界に帰るとしても絶対になにかの魔法を習得してから帰ることにしよう。


「それじゃあ、入るわよ」


コンコン


「失礼します。村長。お客様をお連れしました」


「ご苦労。エゼル。

誰が来たんだい?エルフではなさそうだが」


遥稀の前にいるのは()()()()()()()()初老の老人だった。


「初めまして。天沢 遥稀といいます。」


なんで眼帯をしているのに俺がエルフじゃないと分かったんだ?

何かオーラとかを感知できるのか?


「遥稀・・か。いい名前だ。

私はクルゴン・クルフィンだ。

それで私に何か用かね?」


「それは「私から説明させていただきます」」


うお、いきなりだな。まぁ、安全かどうか確認される側の俺が

言っても信じられないか。


「この男、天沢 遥稀はなんらかの影響によりフォレストエントランスが開いてしまったために、

イースティンフォレストに迷いこんだ人間だと思われます。

素性は不明。安全の確保及び確認のために連れてまいりました。」


「うむ」


フォレストエントランス?あぁ、小声でしゃべってた時にゲートとか言ってたな。

名前からして森の入り口ってとこだろう。


「今のところは何もわからないが、お客様となれば粗末にはできぬ。

今日はこの村に泊まっていくがよい。」


「ありがとうございます!」


よかった!このまま「わけのわからぬものを村の中に置くわけにはいかない」とか

言われて外の森で野宿とかになってたら絶対死んでたな!

この提案はマジで助かる。


「それに今日は久々のエルフ祭だ。

 ぜひとも参加していってくれ」


「エルフ祭・・ですか?」


「エルフ祭とはその名の通りエルフが開く祭りだからエルフ祭よ。

最近は物資が足りなくなってきたからあまりやらなくなってきたのだけど

今日は仲間が特大の獲物を手に入れたようで特別に開くことになったらしいわよ」


エルフ祭か・・。楽しそうだな。みんなでどんちゃん騒ぐのは好きだからな。

結構楽しみかも。

だが・・・


「その特大の獲物ってもしかして・・」


「熊よ」


「やっぱり!?」


熊を食べるのか。さすがに熊は食べたことないなぁ。

よく、臭みが強いとかは聞いたことあるけどどうなんだろう。


「あなたのいた世界ではあまり食べられていなかったの?

 アンダーフォレストだと凶暴な熊が多くて、なかなか倒すことができないの。

 その代わり味は非常に美味でめちゃくちゃおいしいわよ。

 運よく罠に引っかからないと食べる機会がないの。だから食べれるときに食べるのをおすすめするわ」


そんなに美味しいのか。じゃあ食べさせてもらおうかな。

熊か・・・熊?そういえば・・・!


「あの、この村に二人組の男女が来ませんでしたか?

 もしいるのでしたら会いたいんですけど・・・」


あの二人が森に入ったことは確実だろう。その森は危険にあふれているのに

子供が二人で生き残れるはずがない。メネルさんの狩り仲間が見つけて保護してないと・・・


「うむ、二人組の男女ならつい先ほどおぬしらが来る一時間ほど前に

 クーサリオン達が連れてきたぞ」


良かった!!二人とも無事だった!


「それで、今二人はどこに?」


「二人ともひどく疲れてたようだから村の空き家で寝かせておる。

 寝言では「遥稀兄ちゃん・・早く・・来てくれ・・・」「遥稀お兄ちゃん・・・遥稀・・お兄・・ちゃん」などと寂しそうに言っておったわい。

 ここからずーっと右に行くと少し古びた家がある。

 早く二人にあってくるがよい。きっと待ってるぞ。」


「ありがとうございます!」


よしっ!早く二人に会って安心させてあげないとな。

お兄ちゃん(仮)が来るだけでもだいぶ安心できるだろう。


タッタッタッタッ


軽々しい足取りで地面を蹴り、おのれの出せる最高速を出して

遥稀は二人のいる空き家へと向かう。


そして空き家の扉を勢いよく開けて


「うわぁああああああ!!ここどこーーーーーー!!!!!」


「うぅ、遥稀お兄ちゃん・・・」


「ちょ、ちょっと大丈夫だから!大丈夫だから!いったん落ち着こう?な?」


二人とも大号泣だった

男性のエルフが必死に泣かないようになだめているが

その努力もむなしく二人は泣き続けている。


「おーい二人とも、おーい」


「だ、だれだお前は?」


「遥稀兄ちぁぁぁあん!!」


「遥稀・・お兄ちゃんッ!」


「遥稀・・?お前が遥稀か!?

この子たちの知り合いか?

 何とかしてくれ!」


「す、すいません!おーい二人とも大丈夫だ。安心しろ!

 もうお兄ちゃんが来たから大丈夫だぞ!」


二人ともずっと泣いてたからか、顔が涙でぐしゃぐしゃだ。

服も森にいたからか、服装もぐしゃぐしゃで種がここぞとばかりにくっつきまくっている。


「遥稀兄ちゃん!よかったああ!」


「よか・・った!お兄ちゃん!」


二人は遥稀に出会えたことで安心したのかさらに涙を流しながら遥稀に抱き着いてくるが、いかんせん服についた種がチクチクしてくすぐったい。

まぁ、こんなに怖い思いをさせてしまったんだ。これくらいは我慢しよう。


「・・・あー、感動の再開のところ失礼するが、とりあえず二人の服を洗おう。

 ついでに顔もな。涙でせっかくの顔が台無しだ。」


確かにそれには賛成だ。さっきメネルさんに汚れを落とす魔法をかけてもらったばかりだが体の周りがチクチクする。きっと二人もさっさと体の汚れを落としたいはずだ。


「ちょっとじっとしててくれよ⦅ラヴェラヴァーレ⦆」


「えっ!なにこれ!」


「・・・!」


先ほどのメネルに魔法をかけられた時と同じように三人の周りに光の粒子が集まり、そしてはじけた。

先ほどまで涙でぐしゃぐしゃだった二人の顔がいつも通りの二人の顔に戻った。

うん、きれいさっぱり汚れが落ちたな。魔法は偉大だ。


「うおぉ!何かよくわからないけどすげー!!汚れがきれいさっぱり落ちた!」


「・・・すごい」


「よし、汚れも落としたし自己紹介でもするか。

 まず、俺からだ。俺の名前はサイロス・クーサリオンだ。

 よろしく頼む」


「俺は天沢 遥稀。今日からこの村にお世話になろうと思っているものです。

 今後ともよろしくお願いします。」


「僕の名前は有馬 那央也です。さっきはあの・・その・・ごめんなさい。」


「いいって、気にするな!その年だったらあんな反応になるのも無理はない。

 俺の小さいころにおんなじことが起こったらきっと俺はもっと騒ぐに違いない。

 だから少なくとも俺よりはましだ。安心しろ」


「・・あの、その・・・・・」ボソボソ


そうだった。咲希は人見知りだから俺が通訳しないといけないんだったな。


「咲希。俺に向かってしゃべりたいことを言ってくれ俺が伝えてやる」


「あ、ありが・・とう。遥稀お兄ちゃん・・・」


遥稀はそういうと、咲希の声をよく聞きとるために耳を先の口元に近づける。

咲希の顔が少し赤くなった気がしたが気のせいだろう。


ボソボソ


咲希の息が耳にかかってくすぐったいな。だけど、咲希の声を聞き取るには

これくらいの距離じゃないと聞き取れないからな。仕方ないが我慢するしかないか。


ボソボソ


「わかった。『私は桜花・・咲希です・・・よろしく・・お願いします・・・』らしいぞ」


「おう!桜花咲希か。よろしくな!」


「・・!」


咲希は、やはり恥ずかしかったのか俺の後ろに隠れてしまった。

ともかく意思疎通は俺を通せば大丈夫だからこれで話し合いもできることが確認できたな。


「クルゴン村長から話は聞いてるぜ。なんだってイースティンフォレストに迷い込んだんだってな。

 祭りまでは少し時間がある。ほかの仲間たちと会ってきて挨拶でもしてくるといい。

 俺はこれから祭りの準備をしないといけないからここで失礼するぜ。それじゃ、また祭りで会おう!」


そういうとサイロスは小屋を出ていき、村の中心であろう方向へ向かっていった。


「咲希、那央也、体の体調は大丈夫か?もう夜になりそうだから具合が悪そうだったら無理して来ないで小屋で休憩しててもいいぞ。俺がかわりに挨拶とかやっといてやるから。大丈夫、飯のときは持ってきてやるよ」


二人とも精神的に疲れただろう。このまま三人で挨拶してもいいが、念のため二人には負担をかけないようにしないとな。特に咲希は人見知りが激しいから一度にたくさんの人に挨拶するってのも大変だからな


「遥稀兄ちゃんといっしょに行く!」


「・・・私・・も」


と、二人とも捨てられた子犬のような目で遥稀に訴えてくる。

ああ、そうか二人とも森の中では俺がいない状況で二人だけで行動してたんだもんな。

心細くなるのは当たり前か。


「そうか、じゃあ一緒に行こう!だけど態度には気をつけろよ」


「はーい」


「・・わかった」




-----移動中-----


「ついたな」


この村の広場らしき場所にやってきた。周りを一通り見てるいると実にたくさんのエルフがいる。

あるものは薪を持ってきたり、またあるものは料理用の材料を運んだりと忙しそうにしている。

真ん中にはたくさんの薪が置かれており、近くには玉座のような立派な椅子がある。その周りにはすでに宝石のような装飾品や、熊の毛皮が敷いてあった。おそらく祭りのときにはあそこに村長が座るのだろう。


「あ!あの子たちよ!」


「え、うそ?!どこどこ?」


「さっき来たばかりの男の人もいるわね・・」


などと広場にいる遥稀たちを見ながらささやいている者たちが増え始めたとき

建物の奥からメネルが歩いてきた。


「こんばんは、遥稀」


「こんばんは、メネルさん」


メネルは料理中だったのか服はエプロンを付けていた。

熊を料理していたのか熊の毛とかがついてしまっているが家庭的な雰囲気が漂っている。


「すいません、料理中でしたか?」


「いいえ大丈夫よ。ちょうど交代の時間だったから。

 それより三人ともみんなにはもう挨拶した?

 これからともに暮らす仲間たちなんだからしっかりとしておきなさいよ。

 まだしてないんだったら私がついて行って紹介してあげるから。

 ほら、行くわよ、ついてきて」


「ああ、ありがとうってこのままで行くのか?さすがに着替えた方が・・」


「大丈夫よ、服はすぐにしまえるから『プッテイ』」


メネルが魔法を唱えると、彼女がきていたエプロンが光の粒子となり手の中に消えていった。

やっぱ魔法ってすげぇ


「ぼーっとしてないで行くわよ」


「分かった、行こうか。おーい、二人とも行くぞ」


遥稀がメネルと喋っている間、暇つぶしにじゃんけんや手遊びをしていた二人に声をかけ、遥稀・メネル・那央也・咲希の四人で挨拶をしに歩き始める。


「最初は誰がいいかしらね・・・ああ、あの人にしましょう。

 この村で村長の一番仲の良い友達。アミック・ドルージバさん」


「アミック・ドルージバ?」


「そう、アミック・ドルージバ。皆からは親しみをこめて『アミックおじさん』。優しくて何でもしてくれるから子供から好かれていて、大人からは頼りにされている良いおじいさんよ。私も魔法の練習とかでお世話になるの」


「魔法の?アミックさんは使えるのか?」


「ええ、もちろん。みんな子供のころから教えてもらってるわ。魔法のことならアミックおじさん以外には考えられないくらいにね。もしかしたらあなたも教えてもらえるかもしれないわよ」


「マジか!くぅ~ぜひ教えてほしいな!」


「遥稀お兄ちゃんだけずるい~!僕も魔法使ってみたい~!」


「私も・・・使ってみたい・・かも」


「そんなに教えてもらいたいなら多分、いや、必ず教えてくれるわよ」


いやぁ、自分の住んでる世界とは違う世界にきて魔法が使えないはさすがにないだろって思ってたところだったからちょうどよかったかもな!まじで魔法使えるとか最高かよ!あれでしょ、右手うずいちゃうやつでしょ?最高じゃん。めっちゃ良いじゃん。生活魔法しか使えなくても魔法は魔法だ。最高にかっこいい。いちいち着替えるのに魔法とかめんどくさくね?とか言ってるやつはわかってない。全然わかってない。そういう細かいところまでかっこいいのがいいんだろ!自分から光がでるだけですでにかっこいいのにさらに便利!良いとこ尽くしじゃないか!!

というわけで俺は、いや俺たちは魔法を学ぶことにする。異論は認めない。


「アミックおじさんは物知りだから、この村のことは何でも知ってるわよ。何かわからないことがあったら聞いてみるといいわ」


「魔法使いの師匠だからな。やっぱり頭が良いんだな」


「ええ、村長でも知識ではアミックおじさんに負けるというほどよ」


やべぇなアミックおじさん。どんだけ有能なんだよ。魔法が得意でその上知識も豊富。もう魔法じゃ勝てないじゃん。チートすぎだろ。まぁ、そんな良い師匠が弟子にしてくれるかもしれないんだ。文句なんてあるはずもない。むしろ良すぎて少し疑うくらいだ。


「着いたわよ。ここがアミックおじさんの家。通称『アミックベース』よ」


遥稀たちの前に現れた巨大とも言えないが、それでも十分に大きい一戸建ての家が建っていた。

家は柵で囲まれており、壁の表面には苔が生えている。庭はほったらかしなのか、すっかり荒れ果てて、一部のものを除いて植物が散乱している。

うわぁ、あからさまに研究所って感じじゃん。魔法って研究して作るのかな?マンガとかでは簡単に唱えるだけでぶっ放したりするけどやっぱり現実になるとそう簡単にはいかないのかもな。・・・これは魔法習得まで時間がかかるかもな。


コンコン


「失礼します。メネルです。アミックおじさんはいますか?新しく村にきたこの人たちを紹介したいのですが」


扉を開け、出てきたのは見た目が人間では40歳くらいのおばさんだった。服は普段着なのか少しだらしない感じもしていたが料理などをしていたのか、エプロンを付けていて家庭的な雰囲気がした。


「ごめんんさいね、ちょっと待っててね。あなた!あなた!お客さんよ!早く上がってらっしゃい!」


すると少し開いているドアの隙間から見える廊下の床が開き、中から男の男性が出てくるのが見えた。

おお、あれがアミックさんか?以外に若い!あ、だけどエルフだからもう何百歳にもなってるのか・・・


「おお、すまんすまん。すでにクルフィンから話は聞いておる。さぁ、入るとよい」


メネルはまだ手伝いがあるので戻っているといって、広場へ戻っていった。

そういって扉を開けて家の中に入れてもらうと、先ほどまでは扉に隠れていて見えなかった玄関の場所には見たこともないような植物があったり、そこらに転がっている瓶の中には何やら見た目がよくない薬のようなものが入っていたりととにかく散らかりまくっていた。


「メメール、何かお茶でも持ってきてくれ。」


「分かりました。ちょっと待ってください、今入れてきますから」


「それじゃあ、リビングで話でもしようかね」


アミックさんはリビングであろう方向に歩き始める。

しかし、リビングに行くまでの一本道の廊下には物が散乱しており、先ほど玄関で見た光景よりもさらに恐ろしい光景になっていた。ペンキのようなものが倒れて色が壁についてしまっていたり、何か爆発でもあったのか、壁が丸く焦げていたり、一番驚いたのはみたことのないカブトムシや蛾のような巨大な虫っぽいものが飛び回っている。

大きさにして普通の虫の約3倍くらいの大きさである。


「兄ちゃん・・・俺ってよくカブトムシはでかいのがカッコいいって思ってたけど

 いつもの大きさくらいがちょうどいいかもしれない・・・」


「遥稀・・お兄ちゃん・・・怖・・い・・・!」


二人とも顔を真っ青にして遥稀の服をがっつりと絶対に離れないように握りながら、後ろに隠れながらおそるおそるとついていく。


「だ、大丈夫だ・・多分・・・」


マジかよ・・・虫でかすぎだろ・・・俺、ほかの人よりは虫に耐性あるけど流石にこの大きさだとビビるわ。なんていうのか、あれだ、もう見た目がやばい。普通の虫だったら小さくてあまり気にしないかもしれないけど、表面に生えてる毛がリアルすぎる。マジで触ったらぞわってしそうなレベルだ。

俺はなるべく虫を見ないように目を下にそらしていこうとしたその時・・・


足元を()()()()()()()()()()()()()()()のが見えた。

大体の虫が約3倍くらいだとしたらこいつは()()の約3倍・・・


「ひっ!!」


「⦅ラディーレン⦆」


アミックさんがそう唱えると先ほどまで俺の足元にいた()()は光の粒となり、空気中に溶けて消えていった。


「すまんな、そいつは失敗作だ。わしが一番嫌いな虫じゃ。足元をカサカサと動き回って鬱陶しい。

なのに繁殖力はほかの虫を凌駕しておってな。消しても消しても次々と新しい奴が出てくるのさ。

見かけたらなるべく消しておるが気にしないでくれ」


び、びっくりしたぁ!マジでびっくりした!虫に耐性があるっていってもいきなり出てきたらびっくりしすぎて心臓止まるかと思ったわ!こんな調子で大丈夫なのかなぁ。これから魔法習うのにこんなのでいちいちびっくりしてたら出来ないとかありそうだしな。頑張るしかないか。


そうして覚悟を決めた遥稀がアミックさんの後ろについて歩いているとアミックさんが突然止まった。

どうしたのかと思って前を見ると、廊下が終わってしまったらしく壁があるだけで特に何か仕掛けがあるわけでもなく普通の壁だった。


「?」


俺が頭にはてなマークを浮かべていると


「⦅ウーヴリール・エルフォ⦆」


アミックさんが言葉を放つ。すると、今まで目の前にあった壁が透けていき跡形もなくなった。

代わりにその壁があった先には中央にテーブルがあり、いろいろ物が置いてあったりする至って普通の部屋だった。


「ようこそ、私の家へ」


意外と部屋はすっきりしているんだな。廊下もあんなんだったし、部屋は廊下を超えるくらいのすごさだと覚悟していたが拍子抜けだ。


「とりあえず椅子に座って、ゆっくりしててくれ。ちょっくら渡したいものがあるから準備してくるぞ」


そういうとアミックさんはリビングの壁の方に向かい、何やらつぶやくと、壁が透けていき、アミックさんが通った後は元の壁に戻っていった。


「よし、とりあえず座るか・・」


それぞれが机を中心に置かれた椅子に座り、ゆったりする。

しかし、咲希は他人の家で緊張しているというのもあるが、先ほどの廊下での光景が

衝撃的過ぎて軽く放心状態になっていた。

那央也があんなに嬉しそうに捕まえていたカブトムシは、もう捕まえることもないだろう。


コンコン


「失礼します。お待たせして申し訳ありませんわ。

 はい。どうぞ、熱いから気を付けて飲んでくださいね」


メメールは手に持ったお盆の上にあるカップを丁寧に机の上に置いていく。

先ほど入れてきたばかりのココアらしい飲み物は湯気を立ち昇らせ、

甘い匂いを出し、三人ともがやけどしないように口を付ける。


「・・・美味しいッ!」


「ナニコレ?!めっちゃ美味い!!」


「ん・・・美味しい・・」


「よかったわ。これは近くで良くとれるエーデシュという細長い実を割って、中の身を粉砕して作ったんですよ。最近見つかったばかりのものだから少し量がすくないんですけどね」


へぇ、意外に食料には困ってないんだな。甘いものが好きなのはエルフでも変わらないのか。


「ところで、あなたたちはあちらの世界から来たんですよね?あちらの世界はどんな感じになってるのか聞かせてもらえない?私、とても興味があるけど資料が少ないせいであまり知識がないの。」


そうか。こっちの世界には車とかそういうのはないから、テレビとか車とか飛行機を、箱の中身が変わるとか、鉄のイノシシとか、空飛ぶ鉄の鳥とか説明すればいいのか?


「えーと、自分の住んでいた世界がどんな感じかといわれるとこの世界にはないであろう物がたくさんあります。例えばテレビ。テレビは箱を想像してもらってそこにガラスが一枚張ってあって、その中にたくさんのことが見えるものです。他にも移動手段としては車とか飛行機があります。車は・・・そうですね、鉄のイノシシを想像してもらえると良いと思います。飛行機は巨大な鉄の鳥です。そんな感じのものに乗って、高速で移動できるようになっています。」


メメールはいつも持っているのか、懐のポケットからメモ帳のようなものを取り出して、指でなぞっていくと、紙にはしっかりと今まで喋ったことをまとめたであろう文字が刻まれいった。


「へぇー、なるほどね。凄いところなのね!ぜひ再現してみたいけどとてつもない量のマナが必要になりそうね・・・他には何かないの?」


他か・・・食べ物とかはどうだろうか?こっちの世界だとあまり食料が取れないようだから肉料理とかがいいかもな。


「食べ物が凄いたくさんあって、種類も豊富で食べ飽きるってこともないくらいにあります。自分は特に『肉じゃが』とかが好きですね。名前の通り、肉とジャガイモを炒めてつくるんですけど凄く美味しいので個人的にとてもオススメです。多分ですけどアンダーフォレストにある食材たちにも似たようなのがあれば作れると思いますよ」


もの凄い速さで指を動かし、メモ帳にメモを取っていくメメール。みるみるうちにメモ帳は余白の部分がなくなっていく。一通り書き終わったのか、ふぅ、と落ち着いた後にメメールは話しかけてきた。


「いろいろ教えてくれてありがとうございます。私の楽しみがこれでまた増えることになりそうです。自分からずっと聞いていては失礼なので、何か話せることは・・・あ、私の夫、アミックについて教えてあげましょう。アミックはまだ小さい子供のころから、この村の村長、クルゴンと大の仲良しでした。小さかった頃は二人でよく遊んでいたんです。小さい頃はみんなで村長みたいになるんだー!とか言ってました。あの頃が懐かしいです。」


「村長?村長ってクルゴン村長の一つ前の村長のことですか?」


「そうです。じゃあ、先に村の語り継がれている、村長の活躍した話をしましょうか。

少し昔、といっても人間にとってはむかーしのそのまた昔、このアンダーフォレストには今より小さくて人口も少ないエルフ達の村がありました。その村の近くには人間たちが住んでいる村もあったんです。大きさはエルフの村よりも大きく、人口も3倍近くありました。そんな人間たちの住む村の人々はエルフ達を恐れ、化け物だと罵倒し、エルフ達とは敵対関係にありました。」


近くに人間の村なんてのがあったのか・・・。今でも残骸とかが残ってたりするのか?

だとしたら、ちょっと行ってみたい気もするな。


「人間たちはたびたびエルフの村を襲い、そして、それに応戦するエルフ達に気絶させられ、村に送り返されていました。その行為を人間たちは自分たちのことを侮辱していると感じ取り、さらに多くの人間を送り、エルフの村に攻撃を仕掛けますが、やはり攻撃は失敗に終わり、村人たちからの不満とエルフ達に対する恐怖がより一層高まっていきました。そんな戦いを繰り返している日々に終止符を打ちたいと思った一人の人間の魔法使いがある魔法を開発したのです。

その魔法の名は⦅フェアティルゲン・カルト・マヘン⦆

人間たちの言語だと、意味は『殺す、エルフ、絶滅、エルフ』という意味だったらしいわ。」


なんだそれ?本当に憎しみが抑えきれずにあふれ出てるな。自分の感情が魔法の名前に出すぎだろ!

なんていうか、あれだな、例えるなら『絶対エルフ殺すマン』だな。名前からして本当に対エルフ特化の魔法だろうしな。


「その魔法の威力は絶大。使用者の魂を使い尽くして、対象をすべて殺しつくし、絶滅させる。恐ろしい魔法なの。その魔法使いは自分の魂を犠牲にして、⦅フェアティルゲン・カルト・マヘン・⦆の魔法陣を描き、魂をセットしました。でも、だめでした。たった一人の人間の持てる魔力の量じゃ限界があったからです。そのため彼はこう考えました。()()()()()()()()()()()()()()()と。」


・・・確かに、それならエルフ一人の魔力量も多いから人間を誰一人犠牲にせずにエルフだけを根絶やしにすることができるな。

でも、エルフがみずからを滅ぼす呪文を唱えるなんて馬鹿な真似はしないんじゃないか?


「そう考えた彼は、エルフにこの呪文を唱えさせるためにある作戦を立てます。自分の名前を⦅フェアティルゲン・カルト・マヘン⦆にして、エルフと仲良くなって、結婚式で愛の誓いを立てるときに呼んでもらう、その名も『名前が魔法の名前だということに気づかずうっかり言っちゃう大作戦!』」


作戦名が本当にそのまんまだな!俺も人のこと言えねぇけどもう少し何とかならなかったのかよ!ネーミングセンスなさすぎだろ。

しかし、魔法陣を書いたってことは魔法を唱えるだけじゃあ発動しないってことなんじゃないか?

やはりそのために何か自然と魔法陣の上で、しかもフルネームを言わすことができる方法があるのかもしれないな。


「彼はこの計画を実行するにあたっていろいろな準備をしました。エルフがどのような行動をとっているかを観察したり、どのエルフがどこら辺を中心に狩りを行っているかなどを調べたり、自分と付き合えそうなエルフを探しました。そして、見つけたのです。自分と付き合えそうで尚且つ少しバカっぽいけど能力はエルフの中でも上位に入る逸材。そんなエルフを。彼女の名前はエゼル。」


「え、エゼルってあのエゼル?」


「はい、そうです。あなたが考えているエゼルで間違いないです。といっても今とはまるで違う状態でしたけどね。明るく、元気で、誰にでも懐いて笑顔の絶えないとても素敵な女の子だったの。でも、変わってしまった。あの男のせいで・・・。あ、すいません、話がそれましたね。」


エゼルに昔何かあったのか・・・?あの男・・・?もしかして、人間の村の魔法使いの男のことか?いったい何が・・・。


「そして彼は計画を実行するためにまず森で遭難している男を演じました」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







森の中に一人の男がゆっくりと歩き回っている。

そこはウェスティンフォレストの東寄りの場所。

もう少し東に行ったらエルフ達が住んでいる森、イースティンフォレストに入る。

イースティンフォレストとウェスティンフォレスト。この二つの森の境を中心に

東西に分かれた人間とエルフ達は日々睨みあっている。


そんな日々に終止符を打つために俺、フェアティルゲン・カルト・マヘンはある作戦を実行しようとしている。今はその準備をしているところだ。


ガサガサ

「・・・ここら辺でいいだろう」


俺は懐にしまっておいた魔石を粉々にしたものを入れた小袋を取り出し始めた。

魔石。

鉱石が周囲の魔力を年月をかけて、少しずつ少しずつ蓄え凝縮した希少な鉱石。

それは使用すると対象の魔力を倍増させる力がある。魔力とは生命力と比例する。

魔力が増えれば増えるほど寿命が延び、長生きすることができる。

そんな悪魔のような力を持った鉱石を欲の深い人間たちが放っておくわけがない。

人間たちは数少ない鉱石を求めて多額の金を使って人を雇い、

あっという間にすべての鉱山を掘りつくした。

今ではもともと少なかった魔石がさらに少なくなって市場での値段は馬鹿みたいに高い。

当然、庶民たちが手に入れることは不可能なため、持っているのは貴族などの

一部の人間たちだけであり、まず目にかかることはない。

俺は少しの魔術しか使えない一般庶民だったが、今は違う。

俺は・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それは偶然の出来事だった。

森の近くにある洞窟で魔力の制御の練習をしているとき、成功した初級の爆発魔法⦅クライノ・エクスプロジオン⦆が岩を削り、その奥にガスのこもった空洞があったのか、さらに大きな爆発になり、大きく岩の表面をえぐった。そして、()()()()

闇の中で不気味な輝きを放ち、宝石といっていいほどに綺麗で人を魅力する悪魔のような力を兼ね備えた誰もが欲しがる鉱石。魔石を。

その量は、売れば城が2,3つ建つであろうほどという、まさに宝の山だった。


「あれは本当にびっくりしたなぁ。マジでなんかの罠かと疑いまくったからな」


他の奴だったら全部売り払って一生楽して過ごしそうだが、俺は違う。

エルフに復讐するためにすべてを使う。

魔石はその性質のおかげで魔法陣などを描くときにとても優れた材料になる。

本来だったら発動できない術式を使用者の魔力が一時的に倍増するため

発動できるようになったり、魔法の威力や効力などが増大する。

今回はそのために魔石を砕いて粉にしてから持ってきたのだ。

残ったのはは町に残してきた俺の妹に幸せに過ごしてもらうために、置いてきた。


「そんじゃ、さっそく始めるとしますか」


サラサラ サラサラ


小袋から少しずつ少しずつ魔石の粉を振り落とし、魔法陣を描いていく。

今回使う魔法陣は魔法陣の中でもかなり大きい部類に入る。

そのため、魔石の消費が大きいため粉にして持ってきたのである。

それでもぎりぎり足りるくらいの大きさなのだから一苦労である。


サラサラ サラサラ


「よし、こんなもんかな。あとは・・・」


シャベルで近くの地面を掘り、土をどんどん魔法陣の上にかぶせていく。

結婚式の地面に魔法陣が書いてあるのが見えたらバレバレすぎて興ざめもいいとこ。

上から軽く土をかぶせてばれないように細工していく。


「ふぅ、やっとできた・・・」


ここまでおよそ2時間。

効果の範囲などにもよるが上級の魔法陣でも30分~1時間ほどあればできることを考えたらこの魔法陣がどれほど大きいのかが想像できるだろう。


「とりあえず、準備は終わったな。ここからが本番か・・・」


魔法陣を描くのはあくまで準備。ここに目的のエルフを連れてこなければ意味がない。連れてくるためにきちんと作戦は立ててある。

まず、森で人間の町から追い出されたと思わせて、狩りの途中のエルフに保護してもらう。連中は優しい。なぜなら、襲ってきた村人を気絶させるだけなのだから。

次に目的のエルフとどうにかして仲良くなる。ここはまぁ・・・どうにかなるだろ。バカっぽいから多少強引にいけばすぐ堕ちるだろう。

そして最後の仕上げは魔法陣の上で結婚式を開き、誓いの言葉をお互いに言う。

あとはエルフ自らが自分たちを滅ぼす呪文を唱えたことになって、エルフは滅びる。

我ながら完璧な作戦だ。これなら確実といっていいほどにエルフを滅ぼすことが可能だろう。

となれば、さっそく作戦を実行するか。

あいつは確か、もう少し奥の方の森で狩りをしているはずだ。


「・・・行くか」


言葉に出して改めて覚悟を決める。

もう、後には戻れない。

せめて後悔のないように頑張ろう。


ガサガサ


草をかき分けながら森の奥へ奥へと進んでいく。

いつ見つかっても遭難した人を演じれるように少し弱った感じで歩いて・・・


むにっ


「ん?」


何か踏んだか?感触からして何か生物でも踏んでしまったの・・か・・・?


「シュルルルル!」


「ひっ!」


へ、蛇?!そうだった。こちら側(エルフの森)だと今までの場所(人間たちの森)と違って魔獣が多いんだった!!


「うわああああああ!!!」


マズイマズイ、この事態は想定していない!!

魔獣なんて人間一人じゃとても倒せない。

本来なら一部隊、約10人で取り囲んでやっと倒せるレベルなのだ。

それなのにパーティーを組んで援護をもらわないといけないような

魔法使いという職業な俺一人だけで倒せるわけがない!!

しかも、魔獣は運が悪いことにスピード重視の奴が多い。

今回は蛇の魔獣だから良かったが、だからと言って安心できない。

元から魔獣は一部の人間よりは早い奴の方が多い。

魔法使いなんて後ろからちまちま魔法を撃って援護するような職業が

一番必要のないであろう速さというパラメータが高いわけないだろ?

つまり・・・必然的に追いつかれる


「シュルルルルルルル!!」


蛇と魔法使いが全力で走った速度なんて猫とカタツムリのような差だ。

こんなもの気休めにしかならなし、いつかは必ず追いつかれる

それでも全力で走った。たった数秒でもいいから時間を稼ぎたかった。

もう少し奥に行けばあのエルフの狩場に入る。もしかしたら・・・


「こっちにきて!!!!早く!!」


きたっ!!目的のエルフだ!ピンチをチャンスにとはよく言ったものだ。

これなら助けてもらえるし、何より自然だ。

エルフの方へ全力で走る。

2、3歩後ろに行けば蛇がいるような近さだが構わない。

先ほどちらっと見えたとき、エルフは弓を持っているのが見えた。

ならば・・・使うしかないだろ!!


「伏せてッ!!」


彼女がそう言ったとき、反射的に体を下げる。

すると、自分の上を音をたてながら弓矢が通り過ぎていき、

先ほどまで俺のことを食べようと必死に追いかけていた蛇の

脳天に突き刺さり、そのまま蛇は動くことはなくなった。


「ほっ、危なかった・・・」


俺は九死に一生を得たことから少し安心してしまって足腰から

力が抜けてしまい、その場に座り込む。


「あなた大丈夫?けがはない?

 良かったわ。立てる?無理しなくていいわよ」


そういいながら少女は手を差し伸べてくるが

木の隙間から入ってくる光が彼女の髪を照らし、

エルフ特有の金髪が光を乱反射させ、俺の真っ黒な目の中に

一つの光を差し込み、思わず俺はぼーっとしてしまった。

はっ!と我に返ったが、少女に助けられてさらに手を貸してもらうなんて

ここは男としての意地・・といってもすでに命を助けてもらった時点で

ないようなものだけど、そこは置いといて・・・男としての意地で

手は借りないで自分の力のみで立ち上がった。


「あぁ、すまん。大丈夫だ」


そういうと、彼女は先ほどまで心配そうにしていた顔が一気に安堵の表情になっていき、

笑顔でしゃべりかけてきた。


「よかったわ。私はエゼル・メネル。エゼルでもメネルでもどっちで呼んでもかまわないわよ。

ところで、あなたは人間らしいけれど何故こんなところにいるの?魔獣とかが多くて普段は私のような狩りをするエルフくらいしか近寄らないのだけれど・・・」


「ああ。俺の名前はフェアティルゲン・カルト・マヘン。

長いから皆からはカルトと呼ばれていた。よろしく頼む。エゼル。

ここにいる理由はだな・・・ちょっと言いずらいが、村の人間に追い出された。」


「お、追い出されたの?どうして・・?」


エゼルは不安そうな表情でこちらのことを心配してくれるが、

ここからいうことはすべてあらかじめ考えておいた嘘なので少し心が痛む。


「実は、村では魔法使いを役立たずとして見ているんだ。魔力いうのは生命力が源だろ?

生命力が少ない人間が魔法を使ったところですぐに魔力切れを起こす。

しかも、使える魔法は低級の魔法のみ。

だから、人間の魔法使いというのは役に立たずで、忌み嫌われていたんだ。

それでも最近までは数少ない魔法使い同士で助け合っていたのだが、今では残っている魔法使いは俺だけだ。そんな俺一人だけが街で細々と生きていたのに文句を言うやつが出てきてな。

『今までは魔法使いの量が多くて一気に裁くのは抵抗があったが、残りが貴様一人だけなのだったら話は別だ。さっさと今すぐこの村から出ていけ!!』と言われてしまった。

周りに頼れる人はもういないし、人間の村で過ごすこともできない。

仕方ないから、俺は村を出ていった。

そして、エルフ達だったら助けてくれるかもという淡い期待を胸にここまでやってきて、

蛇の魔獣に追いかけられていたところを君に助けられたってわけだ。」


『魔法使いが(戦闘では)役立たず』とか『使える魔法は低級魔法のみ』というのは事実だが、実際のところ人間からは、そんなに嫌われているわけでもない。なぜなら低級魔法には便利なものが多く、生活するのにちょうどいいくらいのものが多いからだ。だからみんなはあまり『魔法使い』なんて呼ばず、『生活の知恵者(ライフマスター)』などと呼ぶことが多い。


「そうなの・・・大変だったのね・・もし、良かったらなんだけど、私たちエルフの村に住まない?

住む場所もなくて、食べるものも満足にない。しかも、周りは魔獣だらけで対処できる武器すらないこの状況だとあなたはいずれ・・・だから!一緒に住もう!エルフの村で!!」


・・・こうも簡単に事が進むとは、エルフも案外単純なのかもしれないな。

まぁ、こいつだけが特別なのかもしれないがな。

ここはありがたくお誘いに乗らせてもらうか。


「いいのか・・・ならありがたくお世話にならせてもらおうか」


「いいよ、いいよ!一緒に暮らそうエルフの村!みんなで楽しくワイワイ騒いで朝から夜まで騒いじゃえ!!ってことで、さっそくエルフの村へご案内!!」


「あ、ああ。」


やけにテンション高いなぁ。ちょっと40代すぎのおじさんには辛いものがある。

正直ついていける気がしない。なんというか若者特有のテンション?みたいな感じなのが自分には恥ずかしい。俺も若い頃はこんな感じのテンションだったのかなー。あ、そういえば俺、小さいころから魔法の研究ばっかりしてたからあんまり人と話さないタイプだったわ。


エゼルにエルフの村への道を導かれながら俺が最近の若者との違いと、自分が昔からぼっちだったのを思い返して落ち込んでいるときに彼女は俺にエルフの村の情報を前もって教えてくれた。


「エルフの村は名前の通りエルフしか住んでないけどみんな仲良く暮らしてるの!私の隣に住んでいるおばあちゃんはいつも私に家事とか教えてくれるし、アミックなんてもっとすごい量の知識を頭に詰め込んでるんだよ!何を聞いても丁寧に教えてくれるし、なんでも答えてくれる。だから凄い頼りになるんだ!クルゴンさんとメメールさんもアミックさんと一緒に狩りに行ったり、魔法の練習をしたりしてるの!

一度だけ見たことあるけど凄いんだよ!魔法の練習の時にはクルゴンさんが手から炎を出したり、メメールさんが風を操って的に的確に当てて行ったり、特に驚いたのがアミックさんの土魔法!土魔法で作られたゴーレムはすごい大きさだったんだよ!!見上げるのがつかれるくらいの高さで凄い迫力だったの!ほかにも他にも・・・」


と、こんな感じに若干早口で村の人たちのことを教えてくれている。聞いてる感じだと何やらクルゴンさんとメメールさんとアミックさんというのは仲良しで、しかも戦いなれている凄腕らしい。

この三人は要注意かもしれないな。目的を悟られないようにに行動しなければ。

そんな感じで三人を要注意人物として頭の中に記憶していると、何やら村のようなものが見えてきた。


「あれが私たちが住んでいる村だよ!ようこそエルフの村へ!!」


ここがエルフの村か・・・意外と普通だな。見た目は俺たち人間が住んでる村とあまり変わらないが・・・何か仕掛けでもしてあるのか?村の中心部分にある所には燃やされたであろう木の枝がたくさんあり、その近くには何か椅子でも置いてあったのか4つの穴がくっきりと跡を残している。

魔法陣を使って何か魔法を行使する場所なのか?わからないな。


「まずは村長の家からご案内!村長はちょっと気難しい人だから礼儀にはきちんとしないと怒られちゃうよ!」


それから俺たちは村長の家に行き、これまでの経緯を話すと、村長はこころよく俺のことを迎え入れてくれた。そのあとは、お世話をするのが好きそうなおばあさんエルフに料理をご馳走させてもらったり、残っている空き家でちょうど良さそうなものを一緒に探したりと、村のあちこちを歩き回った。

おばあさんエルフによると今日は珍しく獲物がたくさん取れたらしく、エルフによるエルフの祭り、その名も「エルフ祭」というそのまんまの名前の祭りを開くそうだ。

この日だけはみんな、食べて踊っての大騒ぎになるらしい。

人間の俺も祭りに参加させてもらえるらしく、夜になったら村の広場に集まれとの事だった。

それまでは特にやることもないので、俺とエゼルと例の三人で何か遊びでもして、時間を潰すという話になった。

というわけで、俺は現在三人がよく魔法の練習をしている場所にとことことのんびりと歩いて向かっている。

やっぱり魔法使いなんだからエルフの魔法については気になる。やはり、人間が扱う魔法の威力とは桁違いなんだろうな。ぜひ、実際にこの目で見てみたい。

しばらく歩いてると、少し開けた場所に出た。


「アミックさーん!メメールさーん!クルゴンさーん!!」


「「「おー、エゼル!(エゼルちゃん!)」」」


エゼルが大きな声で三人を呼ぶ。

遠くにいる奴を呼ぶのにそれくらいの声量が必要なのはわかるが、すぐそばにいる俺の鼓膜の心配も少しはしてくれよな。

俺の鼓膜へのダメージは少なかったものの心に少しダメージを負っていると、エゼルが呼んだ三人が作業を中断してこちら側に走ってくるのが見えた。


「久しぶりです!皆さん!」


「見ないうちにまた大きくなったなぁ、エゼル」


「そうよね、前に見た時よりも背が伸びたわよね~」


「時がたつのは早いよねぇ」


三人とも先ほどまで魔法の訓練をしていたからか、服が泥まみれだ。特に最後に声をかけてきた奴が一番ひどい。泥のついていない場所を探すのが大変そうなくらい泥がついている。顔なんか何かフェイスペイントでも施しているのかと思うくらいだ。


「そちらの方は・・?」


三人のうちの子供にしては少し顔が渋い印象を受ける背の高い奴が話しかけてきた。

そりゃあ、気になるよな。

ぱっとみて、年の取ったお父さんとその娘みたいな感じの差があるからな。

まぁ、実際年齢だとくだらなくとも百は違うだろうけどな。


「俺はフェアティルゲン・カルト・マヘン・というものだ。気軽にカルトと呼んでくれてかまわない。」


「フェアティルゲン・・・なんだっけ?長い名前だな。まぁ、普通にカルトと呼ばせてもらうよ。俺はクルゴン・クルフィン。今は隣の二人と一緒に魔法の特訓をやっていたところだ。そんなことよりだ、なぜ()()のお前が()()()であるエゼルと一緒にいるんだい?」


うっ、なんだ?!こいつからとてつもない()()を感じる。

見た目は笑顔で問いかけているだけだが、俺に対する殺気を隠す気はないようだ。

右手には早く早く何かを燃やしたいと言わんばかりに紅蓮の炎を浮かび上がらせている。

やはり人間がエルフと一緒だというのは傍から見たらおかしく感じるし、それが身近な人だったら心配もするだろう。エルフと人間は敵対関係にあるのだから人間とエルフが一緒にいるのは、周りの奴らもいい思いはしないだろう。少なくとも人間の村でエルフと一緒にいるところなんて見られたら陰謀を企んでいるとされて、死刑などの罰にされてしまうだろう。

とりあえず今のところは誤解を解かないとな。


「じつは・・・」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


村から追い出されて森をさまよっていたところを助けてもらったことなどの今までの一通りのことを話していくと、だんだんとクルゴンの顔が邪悪な笑みから殺気が消えていき、右手の炎はだんだんと小さくなって消えて、最後は普通に相槌を打って話を真剣に聞いていた。


「そんな事情があったのか・・・分かった。それならエルフの村でのんびり一緒に暮らすことにしよう。そのためにいろいろ教えてあげないといけないな・・・。まぁ、そこはだんだん慣らしていけばいいか」


「そうね。私たちがサポートするからわからないことがあったら何でも聞いて頂戴。あ、そういえば自己紹介の途中だったわね、私はメメール・メリー。得意な魔法は風魔法よ。これからよろしくね」


「それじゃあ、僕も自己紹介をさせてもらおうかな。僕の名前はアミック・ドルージバ。知識には自信があるから、何か細かい知識が必要!とかの時にはどんどん聞いくれ。多分だけど答えられると思う。ちなみに得意魔法は土属性だよ」


なるほど、だからこんなにも泥だらけなのか。普通に魔法の練習してるくらいじゃ、魔法の衝撃とかで飛んでくる土だけでここまで汚れないからな。


「ありがとうございます。何かわからなかったら気軽に質問させてもらいます。」


「そういえば、カルトって得意魔法とかあったりするの?もしあるんだったら一緒に魔法の練習とかできそうだなぁとか思っちゃったりして」


「えーと、一応はあるんですけど・・・」


「なになに?すっごきになる!」


「もったいぶらず教えてくれよ」


「えーとですね、自分の得意な魔法は闇です。」


「闇?!珍しいね」


「ふむ、闇か・・・確かに珍しいがそこまで実用的とは言えないな。

特に戦闘のときなどには効果が実感しにくい物でもあるしな」


「はい、そのせいで村を追い出されることになったともいえるので・・・」


「あ、ごめんなさい。嫌なこと思い出させちゃって・・」


「いいえ、大丈夫です。もう、自分にはあなたたちエルフがいるんですから」


「そうか、そういってくれるとありがたいぜ」


「ねぇねぇ、そろそろ夜になりそうだから早く村の広場に行こうよ~みんなを待たせたら悪いよぉ」


「そうだな、そろそろ行くか」


そういうと、俺たちは村の広場に向かって歩いていく。

先ほどの会話からしてエルフというのは基本的に仲間意識が高いのか仲間には優しそうだな。

村の外からきた、しかも人間である俺に対してもここまで優しくできるということは彼らたちは心から俺を信用してくれているんだろうな。

そんな感じでエルフが俺のことを優しくしてくれている優しさを俺は、裏切りの形で踏みねじろうとしていると考えると少し胸が痛んだ。

馬鹿!なぜ今頃エルフに同情なんてしようとしているんだ?

あのエルフだぞ?自分の両親を殺した、あのエルフだぞ?許すな、許したら駄目だ。

絶対に駆逐しなけらばならない。こんな害獣ども一匹残らず・・・


「カ、カルト?大丈夫?怖い顔して・・・」


おっとマズイ。感情が表にでてしまったか?すぐに疑いを晴らさなければ。


「あ、ああ。大丈夫だ。少し考え事をしていただけだよ。」


「そ、そう。それならよかった・・」


「おーい、二人とも!とっくに広場についてるんだぞ?!何、辛気臭い顔してるんだ!

今日はエルフ祭だぞ?パーッと騒ごうや!!そうだろ、みんな!!」


「「うぉおおおお!!」」


俺がエルフについてじっくりと考えているうちにいつの間にか広場についていたようだ。

もうすでにクルゴンは他の男性エルフと盛り上がって酒を飲みまくっている。

周りにはたくさんのエルフでいっぱいだ。

狂ったように踊っている奴や、酒瓶を片手に盛り上がっている奴。

酒の入っているであろう樽を両手でもち、ぐびぐびと飲み干している奴・・・ってあれ大丈夫なのか?

そんなに一気に飲んだら死なないか?まぁ、エルフなのだからきっと大丈夫なのだろう。

中心部にはたくさんの薪に炎がついて、辺り一面を光で包んでいる。

その周りには独特な楽器を持ったエルフ達がそれぞれ好き勝手に弾いているが、不思議にも心地よい音楽となって耳に届いてくる。

昼間に気になっていた四つの穴の場所にはいろいろな装飾が施された豪華な椅子が置いてあり、その上には村長がゆったりと座っていた。

周りには熊の魔獣からとったであろう皮が敷き詰められておりその上には果物などの食べ物が置いてあった。

近くでは女性のエルフ達が魔獣のお肉などを焼いていて、とても香ばしい匂いを辺りに漂わせている。

朝は早くに人間の村を出発してから何も食べてなかった俺は匂いを嗅いで、思わずお腹がグゥ~となってしまった。


「ふふ、カルトさんもお腹がすいたんですか?それなら一緒に食べましょう!それじゃあ、お肉とってきますね!!」


そういうとメメールはお肉を焼いているエルフ達のところへどこから取り出したのかお皿と箸を持ちながら走って行ってしまった。


「じゃあ、僕もお酒でも取ってくるかな」


懐から収納魔法でしまっておいたであろうコップを人数分取り出し、酒樽が積んである場所にさっさといってしまった。


「「・・・」」


必然的に二人だけの状態になってしまったが、こういう時なにを話せばいいのかまるで分からん。

・・・そういえば、俺って恋愛に関してのことは何もわからないな。

・・それってヤバくね?え?ヤバいよね?完全にアウトだよね?だって作戦が「名前が魔法の名前だということに気づかずうっかり言っちゃう大作戦!」だよ?仲良くなるか、重要な場面・・例えば結婚式とかのときくらいしかこんな長い名前わざわざ言わないよな・・・。まずいな・・どうにかして状況を打破しないとな・・・。

などと今後の作戦の修正などを頭に浮かべていると彼女が少し恥ずかしそうに話しかけてきた。


「あ、あの・・」


「ん、ああ、どうした?」


「一緒に・・・踊りませんか?」


「は?」


「え?いや、あの、だから・・・踊りませんかって・・だめ・・ですか?」


「いや、別に一緒に踊るのは構わないけどなぜ踊るんだい?」


「あれ、説明してなかったっけ?この広場の中央にある焚き火は周りの魔力の影響を受けて大きくなったり小さくなったりする魔法具なの。私たちが編み出したエルフのダンスは魔力を炎に与えることができるようになっていたりと少し特殊なの。まぁ、人間でも効果があるかは微妙だけどやる価値はあると思うよ!」


そんな特殊な踊りがあるのか。どんな仕組みでそんなことが起こってるのか気になるな。

今度、調べてみるか。もしかしたら応用して魔力を集中させることができるならだいぶ使えるな。


「よし、それなら一緒に踊ろうか」


「よ、よろしくお願いします」


俺は彼女の手にそっと触れる。

・・・あたたかい。優しさが手を通じて伝わってくる。

心地いい。ずっと握っていたいくらいだ。


「それじゃあ、踊りますね・・私に合わせて動いてください」


「ああ」


音楽にのせて彼女がステップを踏むたびに俺もあわせて踊る。

今まで踊ったことなどなかったが、意外に踊ることができた。

踊るたびに体の内側がだんだんと熱くなっていく気がしていった。

きっとこれが魔力が増えるという感覚なんだろう。

俺たちが踊り続けるのを盛り上げるようにどんどんと炎が大きくなり、より一層辺り一面を明るくする。


「きゃっ!」


踊っている最中に、彼女が足元にあった小石に躓いて倒れそうになり、


「危ない!」


握っている手に力を籠め、思いっきり引っ張って自分の方に引き寄せる。

周りから見たらまるで抱き着いているかのような格好だ。


「あ、ありがとうございます・・」


彼女は顔を真っ赤にして、俯いてしまった。


「お二人さんともお熱いねぇ」


「「!」」


いつの間にか俺たちとは別の場所でどんちゃん騒ぎだった奴らのところから帰ってきていたクルゴンが二人を冷やかす。

先ほどまでも顔が真っ赤だったエゼルの顔が湯気が見えそうなくらいにより一層に赤く染まってしまった。すぐに離れて下を向いているが耳まで真っ赤に染まっている。よほど恥ずかしかったのだろう。


「お肉、取ってきましたよ~って、あら、お邪魔しちゃったかしら?」


両手に焼けたてであろうお肉が山のように乗った皿を持ってきたメメールが申し訳なさそうに言うが、顔はニヤニヤとしていて感情を隠せていなかった。


「い、いえ!そんなことないですよ!わぁ、お肉おいしそう!早くみんなで食べよう?ね?ね?」


「あ、ああ。そうだな、腹も減ったし丁度いい」


「なら、お酒も必要だよな。もちろん飲めるよね?」


「ああ・・って、うぉ!いつの間に戻ってきてたんだ?!」


びっくりした。こいつ意外に影が薄いな。全く気配を感じなかった。

アミックは両手でお盆をつかみ、その上にはコップに入ったお酒がちょうど人数分乗っかっていた。


「そんな驚かないでいいだろ。ついさっき戻ってきたばかりだから今の状況がよくわからないけど、とりあえずみんなでお肉を食べるんだろ?だったら早く食べようよ。ついでに酒も」


「ああ、そうだな」


酒か・・ここ最近は忙しくて全く飲んでなかったな。作戦中だがちょっとくらいだったら大丈夫だろう。


「よーし、それじゃあ肉を分けるからな。じゃんけんで勝った奴から皿を自由に選んでよし!酒はたくさんあるから好きなだけ飲んでくれ!」


クルゴンが肉をナイフで分けていく。脂がのっていてとても旨そうだ。

じっと見てると思わずよだれが出てしまう。食事をとっていなかったこともあって今は最高に空腹だ。

一秒でも早く肉が食べたくてたまらない。


「ほら、切り終わったぞ。」


は?あからさまに量に差がありすぎるだろ。それぞれの皿には肉が乗っているが一番多いのと少ないのとじゃあ、10倍くらいの差がある。

これじゃあ、最下位だったらほとんど一口で終わってしまう。

絶対に勝たなければ。


「それじゃあジャンケンでどれを選ぶか決めますか。いくぞ?ジャンケン、ポイ!!」


俺がパーを出して、他の奴らはグーを出していた。


「ああ、負けちまった!俺のお肉ぅ!」


「悪いな」


俺は容赦なく切り分けられたお肉の中で一番大きい皿を奪っていく。


「悔しい!だが、ジャンケンはまだまだこれからだ!次はぜってぇ負けねえからな!いくぞ・・ジャンケン、ポイ!」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


結果は俺が一位、クルゴンが二位、メメールが三位、アミックが四位、そしてエゼルが五位。

みんなそれぞれの大きい肉が乗っている皿をとっていき、エゼルがさみしそうに最後の小さすぎるお肉を取っていった。


「それじゃあ、いただk・・」


横にいるエゼルが今にも泣きそうな目でこちらのお肉を羨ましそうに凝視している。

しかも、口からは少しよだれが垂れてきている。


「はぁ、ほれ。皿貸せ」


俺がしょうがなく肉を分けてあげようと皿の肉を箸で示して、上げる意思を伝えると


「わぁあ。ありがとう!!カルト!」


満面の笑みで感謝の意を伝えてきた。

まあ、こんなにたくさん食べられないからな。

それだったら肉が冷えて固まる前にあげる方がいいだろう。

俺は、自分の皿の上に載っている肉をエゼルの皿へと移していく。

移し終わった後は、大体全員が同じくらいの量の肉になっていた。

これじゃあ、結局ジャンケンした意味がないけどな。

まぁ、あの笑顔が見れたからいいか。


「それじゃあ、酒の方も配っていくぞ。これは量に差がないから安心して取っていってくれ」


それぞれがお盆の上に載っている酒を取っていく。

そして、クルゴンがグラスを握りしめながらいう。


「それじゃあ、カルトが村の住民になったことを記念して、乾杯!!」


「!」


「「「乾杯!!」」」


皆がそれぞれ酒を飲み、肉に食らいつき、楽しそうに会話をして始める。

・・・俺も、村の住民として認められたのか。良かった。これでだいぶ難所は超えたな。

あとは、作戦の準備をして実行するだけだな。ひと段落着いたな。

そう思うとなんだか少し疲れた。今夜くらいは酒でも飲んで疲れを取ろう。

そう思うと、俺は酒を小さいグラスに入った酒をクイッと一気に流し込んだ。

あ、あれ?なんだか視界がぼやけて・・それに音も小さくなっていっている気が・・・・

だんだん意識が遠の・・いて・・い・・・く・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


どうやらは俺はあれから酔って寝てしまったみたいだ。エルフの酒は人間には少し強すぎだったみたいだ。



それから何か月もの間、俺は、みんなとの友好関係を築いていき、魔法を教えてもらい、チャンスをうかがった。

そして、作戦を実行できるチャンスがついにやってきたのだ。

俺は夕方、魔法の訓練から帰っている最中にエゼルに話を持ち掛けた。


「エゼル。ちょっといいか」


「ん?どうしたの、カルト?」


「明日、俺と一緒に森に狩りに行かないか?」


「うん、いいけど私一人だと心配だからクルゴンたちも連れて行っていい?」


「いや、二人だけで行きたいんだ」


「そ、そうなの。まぁ、カルトも村に来た時よりはだいぶ強くなったしね。二人だけでも問題ないでしょ。多分。だから大丈夫だよ」


よし、これで最終段階に入れるあとは今夜準備をするだけだな。


「ありがとう。それじゃあ、また明日」


「じゃあね。また明日~」


よし・・・それじゃあ、仕掛けに行くとしますか。

俺は魔法石の粉を撒いたところまで誰にもばれないようにひっそりと向かう。

途中で森の魔獣たちに見つからないように闇魔法⦅チュライ・スニーク⦆を使って気配を消す。

前回、魔獣に襲われたときも使っておけばいいとか思うかもしれないが、前回はエルフに見つけてもらうというのが目的だったから無理だったのだ。

⦅チュライ・スニーク⦆は、術者が相手の視界に入ってもバレなくなるという、優れた魔法だ。しかし、弱点もある。発動時間は60分間と長いが、途中で解除できない。だから前回は使えなかった。

今回は途中で解除する必要がないからな。便利な魔法だ。

とことこと20分ほど時間をかけて歩いて、やっと着いた。

あとは・・・


「⦅テッラ・クレアシオン・ゴーレム⦆」


魔法を唱えると目の前の土がもりあがり、集まって、だんだんと人のような形をした屈強な土のゴーレムができあがる。ここ数か月間の間に練習してきた成果だ。今までは土魔法は扱うことすら難しかったが、

アミックにコツなどを教えてもらい、できるようになった。


「そこの木を切ってなるべく長方形にしろ」


俺が命令するとゴーレムはゆっくりと動き出し、パンチを繰り出し大きな岩と小さい岩に分け、大きい岩をこつこつと小さい岩で殴って削り、あっという間に長方形の形をした石ができた。これくらいでいいだろう。

あとはこれをいくつか作って円状に地面に埋め込んで、周りにそれっぽく差しておけばオーケーだ。

⦅チュライ・スニーク⦆が切れないように何度か重ね掛けでもしておくか。3,4回くらいやっておけば問題ないだろう。


それからの作業はゴーレムに任せておいて、俺はできたばかりの柱となる石たちにに風魔法で細かく削り、模様などを適当に入れていく。花や葉っぱを散らばせて描いたら何となくそれっぽい感じにはなった。俺が作業している間にゴーレムは作業を終え、ただの土に戻っていった。あとは、残っている柱にも同じように模様を入れれば完成だ。


数時間かけて完成させた()()()()を後にし、朝になる前に俺は村へと帰った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


朝だ。昨日は徹夜だったから少し瞼が重い。朝の明るい日差しが少し辛く感じるがそんなことは言っていられない。今日は作戦当日なのだから。

俺は自分の頬を両手でたたき、気合を入れる。


コンコン


「おーい、エゼル。今日は狩りに行く日だぞ」


ガチャ


エゼルはドアを少し開けてのぞき込むようにして、返事をしてきた。


「う、うん。ちょっと待ってて。すぐに支度してくるから!」


・・ドアの隙間から少し見えた感じだと、髪の毛が少しぼさぼさしていて、服装もパジャマのような格好だったからきっと寝起きだったのだろう。


俺はおとなしくドアの近くでのんびりと待っていることにした。

その間にも今日の作戦を確認し、復習をする。

本番でミスったらシャレにならないからな。

そんな感じで緊張しながらドアの前で待っていると、扉が開き中からは・・・


「さ、さぁ、狩りに行きましょ!」


いつもの狩りの服装よりオシャレな感じの服をきたエゼルが出てきた。

服には白をベースに花のような模様が描かれており、まるでウエディングドレスのような格好だ。

確かに狩りの時にいくら汚れても最後に洗濯の魔法を使えばびっくりするくらいきれいに汚れは落ちるが狩りの時には邪魔になるのであまり飾りの多い服は着ない。

だから、エゼルは狩りの格好というより()()()()()()に近い。もしかしたら、今日の目的を薄々察しているのか?それならそれでこちらにとっては好都合だが・・それにしてもあまりにも似合いすぎて自然と目が引き寄せられてしまう。


「そ、そんなにじろじろ見ないで・・恥ずかしいよ・・・」


「す、すまん」


危ない。これからの作戦には彼女の好感度が必要不可欠だ。失敗した時の対策などもあるがどれもいまいち成功しなさそうだから、なるべく本命で決めたい。だから、今、彼女に機嫌を損ねられてしまうとかなりマズイ。下手にしゃべるよりはさっさと狩りに行った方がいいだろう。


「じゃあ、さっそくだが行くか」


「う、うん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


気まずい。

普段使っている狩りのコースを進んでいるわけだが、いつもは五人でお喋りとかしながら気軽に歩いているわけだが、二人きりになると喋ることがあまりない。というか緊張しすぎて話がはずまない。

少しくらいは会話をしたが


「今日の服装いつもと違うな」


「ちょっと変えてみたの。どう?に、似合ってる?」


「あ、ああ。可愛いと思う」


「あ、ありがとう」


と短い会話だけで終わってしまい、残りの無言の時間が長くなり、とても気まずくなる。

黙って二人で歩いていると、俺は15メートルほど前方に熊の魔獣を見つけた。

俺とエゼルは左右に分かれ、挟み撃ちにして倒すことにした。

幸い、この魔獣は子熊だ。親熊が来る前に二人がかり一気に仕留めれば何とかなるだろう。

俺とエゼルの二人が弓矢を構え弓を放つ。

そして子熊の頭に刺さる・・・前に空中で()()()にぐさりと刺さった。


「グォオオオオオオオオオオオオオ!!!」


子熊に弓矢が刺さる瞬間に親熊が身を挺して子熊を守ったのだ。

なんという親子の感動の物語・・とか言ってる場合じゃない!

マズイ。二人だけじゃ、親熊は倒せない。4~5人ほどで戦ってやっと勝てるというレベルなのだ。

無理に決まっている。これは逃げるしかない。

エゼルもそう思ったのだろう。即座に弓をしまって、走り出している。

もちろん、俺も負けじと走る。しかし、魔獣は前にも言った通り足の速い奴が多い。

エルフのエゼルでも走って逃げきることは困難だ。

だから、俺たち狩人はこんな時のためにある道具を持っている。

それが


「エゼル!俺が囮になる!ティアースボムを使え!!」


「分かった!今やる!!」


そう、ティアースボム。強い衝撃を受けると中身を爆散させる木の実『トウガラーシ』を魔法でさらに強く爆散するようにしたものだ。中には超激辛な粉が入っておりそれが目に入ると涙が出て止まらなくなるくらいに痛い。口なんかに入ったら激辛のあまりにその場を転げまわる。だから、それを魔獣にぶつければしばらく戦闘不能になって逃げきれるはずだ。

エゼルがポーチから取り出すまでには時間がかかるだろう。なぜなら強い衝撃といってもデコピンくらいの衝撃で爆発してしまう。だから、少し特殊な魔法をかけ、衝撃に耐性を付けるのだ。それを解除するには20秒ほどの時間がかかる。その間はなんとか俺がおとり役で彼女の邪魔にならないように魔獣を引き寄せつつも彼女から離れすぎないように動かなければならないなどと、意外と囮も大変だ。

俺は木を巧みに使い、避けつつエゼルが準備を終わらせるのを待つ。


その時だった


逃げることに必死だった俺は地面から飛び出していた木の根っこに気づかず、足を引っかけて転んでしまったのだ。激しく横転した俺は体中が泥まみれになり、体の数か所を強く打ち、痛みのせいで動けない。

そんな俺の後ろには先ほどまで必死に俺のことを追いかけてきていた、我が子を守り自らを傷つけた母親の熊が、復讐をせんとばかりに大きく腕を振りあげ今にも迫ってきそうなところで


「カルト!!」


エゼルの投げたティアースボムが熊の横顔におもいっきり当たり、爆発した。直接超激辛な粉を目に受けた熊は目からぼろぼろと涙を流しながらその場を転げまわる。この様子だと口にも粉が入ったのだろう。もちろん、近くにいた俺にも粉は降りかかったがエゼルの呼びかけのおかげで爆発する寸前で目と口を閉じれた。おかげで目と口には入らなかったので一応は大丈夫だった。粉のせいで肌がひりひりするが。


「よし、走って離れるぞ!もうこいつにかまっている暇はない。ついてこい!」


「う、うん!」


俺は走ってこの場を離れた。

・・本当は別の方法で連れていくつもりだったが好都合だ。

このまま連れていくことにしよう。

そう考えた俺はエゼルを例の場所に連れて行った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


しばらく走ったあとに俺たちは俺が昨日、一晩かけて作った結婚式場にいた。


「わぁ、なんだか神秘的なところだね・・」


「ここは俺たち人間たちが作った場所だ。人と人が結婚するときに使われる場所。そう、結婚式場なんだ。じ、実は話がある。聞いてくれるか?」


「う、うん。何?」


俺は彼女にひざまずいた状態で懐から指輪を取り出し、掲げる。


「俺と結婚してください」


どうだ。数か月しか一緒にいなかったが出会いも運命的だったし、話もたくさんしたから、彼女の好感度はかなり高いはずだ。ここで振られた場合の方法は考えてはいるが、・・・使う気にはなれない。お願いだ。どうか、どうかYesと答えてくれ。頼む。


「・・・はい。よろこんで!」


「ぁ、うおぉおおおお!やった!やったああ!!」


きた!これであとはスムーズに作戦を実行できる。


「じゃあ、さっそく結婚式を挙げよう!どうやるかは俺が教えるから大丈夫だ。

まずはここに立ってくれ」


俺は魔法陣を描いた際に目印を付けた場所にエゼルを立たせる。そのあとは俺がとエゼルが腕を組み、あとは呪文を唱えさせればオーケーだ。


「そしたら互いの名前を呼びあって、神に誓いをたてるんだ。俺からいうから聞いといてくれ」


「ちょっと待って。私から言っても良い?ほら、一応、年齢的には私の方がお姉さんなわけだし、先に言わせてほしいかなって」


・・互いの名前を呼びさえすれば術式はきちんと起動するはずだ。だから順番を変えること自体は問題ない。だが呪文の途中に何か言葉をはさむとおかしくなる可能性はある、が、エゼルのことだ。結婚式の途中でふざけるなんてことはないだろう。


「ああ、大丈夫だ。先に言っても問題ない」


「ありがとう。それじゃあ、言うね。私、エゼル・メネルはフェアティルゲン・カルト・マヘンを夫とし、」


マズイ!!名前を互いに呼ぶって言ったはずなのになんで自分の名前を言ってるんだ!これだと魔法陣に誤作動が起きる!


気づいたときにはもう手遅れだった。

魔法陣は俺をあざ笑うかのように光り輝き、暗い森の中を照らす。

俺の足元には本来だったら、エルフを滅亡させるために動く魔法陣が俺の方に光っているのが見えた。

あぁ、このままだと人間が、滅びる!!


それならだめもとで呪文を改変させたまま続行させるしか方法はない!

どうか、成功してくれ!!頼む!!!!


「俺、フェアティルゲン・カルト・マヘンはエゼル・メネルを妻とし、」


「「結婚します」」


そして、俺は手に持っていた指輪を彼女の左手の薬指へとはめる。

そうすると、俺の足元で先ほどから輝いていた魔法陣がより一層輝かしくなっていった。

そして目を背けそうになるほどの光になったとき、俺の視界は真っ黒に染まった。





















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そして彼は術式の失敗によって魔物になったわ。どんなものでも食らいつくすようなマスオブヘイトという恐ろしき魔物に。

そして、それにエゼルは絶望したわ。結婚した人がいきなり魔物に変わったのだから当然でしょう。

だけど、彼女は最後の力を振り絞ってなんとか逃げ出してきたの。

それ以来、性格が変わって今みたいになってしまったわ。」


そんなことがあったのか・・・

カルトっていう奴は俺が今までしてきたことに似たことをやっていたのか・・。

しかもエゼルに助けられるところまで一緒とか似すぎだろ。

これじゃあ、冷たく対応されても仕方ないな。


「そして、我々エルフと人間たちの領地の間に彼がいることで今まで続いていた醜い戦争は終わりを告げました。それからはエルフのみで平和に暮らしています。しかし、最近マスオブヘイトが動き始めたの。しかもその方向は私たちエルフ達いる場所。つまりここなの。」


「そ、そんな」


「どうすればいいんだ・・・」


「こ、怖い・・」


「エルフの村に到着するまでの時間は今からおよそ1週間と推測されているわ。私たちエルフは今現在、武器などを整え、一週間後にマスオブヘイトとの全面戦争をする準備をしているの。・・・そこでなんだけど・・・あなたたちも手伝ってくれないかしら」


「「「え?マジですか?(本気・・・なの?)」」」


「ええ、もちろん。私がここでこんな嘘をつくメリットがないもの。・・・本当に申し訳ないとは思うの。だけど、私たちエルフも必死なの。だから、どうかお願い。」


マジでか。戦うのはゲームの中だけで充分だと思ってたが、まさか現実で戦うことになるとは・・。

だけど、やっぱりお世話になったんだから恩返しはきちんとしないとな!


「はい。わかりました」


「「遥稀兄ちゃん!?(遥稀お兄ちゃん・・!?)」」


「世話になったんだ。こんなの当然だろ。まぁ、世話になってもなっていなくても、俺はどちらにせよエルフ達を救うために戦う道を選んだと思うぜ」


「分かった・・遥稀兄ちゃん。俺も戦う!!」


「よし!よく言った!それでこそ那央也だ!!」


「私は・・・」


・・・咲希には戦うのはやめておいた方がいいかもしれない。

俺たち男が戦ったら多少の戦力にはなるだろうが、咲希が戦いに加わったところで戦力にならず、足手まといになってしまうだろう。


「咲希・・いやならいいんだぞ?俺たちが代わりに全力で戦ってきてやるから。」


「・・ううん。私も戦う!」


「咲希・・・!!」


「私・・・じっとしているなんて耐えられない。那央也と遥稀お兄ちゃんだけが危険な目に合うなんて許せない。だから・・私も行く」


「・・ああ。わかった。それじゃあ、俺たち全員で勝って見せようぜ!」


「「うん!」」


「決まったようね。時間がないわ。さっそくだけど、あなたたちにはアミックと一緒に武器を作ってもらうわ」


「今ある武器だとだめなんですか?」


「種族ごとに得意な武器が違うから、エルフ用に改造してあるものを使っても本来の性能を発揮できないの。だから、人間専用の武器を作ってもらうわ。ということだからよろしくね、アミック」


「おう!任せとけ!!こっちだ。ついてこい」


うお!いつの間にいたんだ?全く気付かなかった。

とりあえずついていかないとな


アミックさんは先ほど魔法で開いていた壁に向かい、入っていく。

そして俺たちも歩いてついていくと、そこには明らかに高温であろうかまどや、熱した鉄を打つための金床などが置いてあった。少し離れたところには木材などがあって、作業用の椅子と机が置いてあり、その上には作りかけの弓などが置いてあった。


「ああ、そっちは今回使わないんだよ。今回使うのはこっち」


そういってアミックさんが指さした方向にあったのは大きな壺だった。


「この壺はちと特殊でな、魔力を籠めて手を突っ込むとそのものにあった道具がフルセット出てくるんじゃ。しかもその道具に関する説明書みたいなものまで付いてくる。便利なもんじゃろ?」


すげぇ、それじゃあ馬鹿みたいに強い奴とか出てきたら最高じゃん!これはテンション上がるな。絶対に超カッコいいウルトラスーパーハイパー最高な奴を引いてやる!!俺のガチャ運なめんなじゃねえ!!


「それじゃあ、俺が一番最初に引いてもいいですか?」


「ああ、かまわんぞ。ちょっと待っておれ。今、魔力を注入するからな」


アミックさんは両手を壺に当てる。そうすると手がひかり始め、魔力が壺に吸い込まれていく。


「はぁはぁ、これで準備はできたはずだ。引いてもいいぞ」


そんなに疲れるものなのか。確か魔力って生命力が強いほど強いって言ってたが、生命力が強いエルフでもこんなに疲れるんだったら人間の俺がやったらどうなってしまうのだろう・・。想像したら寒気がしてきた。そんなことより早く引いてしまおう。

俺は手を壺に入れる。


「これは・・・なんだ?」


手を勢い良く引いた時には俺の右手には片手剣が握られていた。これに関しては想定内だ。驚くには値しない。だが、俺の左手には見たこともない()()のようなものが取り付けられていた。俺は使い方を調べるべく、一緒に出てきた説明書と思われる紙切れを拾う。

・・・どうやら左手のついているこの機械は近未来型の盾みたいだ。拳を握ると手の甲に水色の薄いシールどのようなものが展開された。軽く拳で叩いてみたがビクともしなかった。耐久性に関しては完璧のようだ。

それから、防具もいつの間にか身に着けていた。防具はよくある鎧だが、竜をモチーフにしたのか、やけにかっこいいデザインだった。

これは厨二病心が疼くな。最高の気分だぜ!

そんな感じで喜んでいる俺を横から見ていた那央也たちは羨ましくなったのだろう。アミックさんに次のガチャの催促をし始めた。


「アミック爺さん!早く俺も引きたい!!早く早く!!」


「まぁまぁそうあわてるな。別になくなるものじゃない。それじゃあ、魔力を籠めるぞ」


そういうとまた、壺に両手をあて、魔力を注ぐ。


「はぁはぁはぁはぁ・・!よし・・引いていいぞ!」


なんだか先ほどよりもアミックさんが弱っている気がするが、大丈夫なのだろうか?さすがに死にはしないだろうが、心配だ。


「よっしゃー!俺の番だ!良いやつ来てくれよぉ~」


那央也が勢いよく手を引くと一瞬で服装が変わり、まるで木の葉を着ているかのような格好になった。

しかも両手には短剣を持っている。いわゆる双剣ってやつだ。俺のゲーマーとしての感だがきっとこれはスピード重視の暗殺系の装備だろう。隠れて不意を突き、一撃で敵を葬る。まぁ、一撃かどうかはわからないが、双剣だからそれはないか。だけどきっと超高速の乱れ切りで敵を一瞬で倒すようなスタイルなんだろう。


「おお!すげー!!剣が二つもあるぜ!!だけど、この格好なんだ?葉っぱがカサカサしててなんだか気になるな。まぁ、着心地はいいからどうでもいいか!」


「おいおい、一応説明書も読んでおけよ?何か特別な効果があるかもしれないからな」


「うん。・・・うわぁ、これ結構えげつない能力があるんだけど・・」


「ん、どれどれ?」


「これだよ」


そういって那央也が装備の説明書を渡してくる。

俺はそれをじっくりと読んでいく。

うわ、これはえげつない。チート並みの強さじゃないか?

内容はなんとえげつないことに装備の能力を使えば瞬間移動ができるというものだった。しかも、クールタイムが無い。連続で使えば、一撃離脱の戦法で一方的に攻撃ができてしまうような頭のおかしいレベルの強さだ。

デメリットとしては範囲が30メートルくらいしかないというのと、消えたときに次の移動場所まで木の葉が落ちて居場所がばれると書いてあるがこれくらいのことだったらさほど問題ではないだろう。さらにはスピードが上がるという特殊効果まであるらしい。それにしてもデメリットに比べてのメリットがでかすぎるだろ。そんなに制限もなくて、瞬間移動できるんだったら戦いがかなり有利に進むだろ。ゲームだったら即削除されるか、バランスをとるために弱体化を受けるようなレベルの代物だ。その分、癖は強そうだがな。

うまく使いこなせば最強だな。


「ああ、すげぇ。うまく使いこなせるように頑張れよ!」


「うん。俺頑張る!」


「さて、最後は咲希ちゃんだね。ちょっとまってくれ。すぐに魔力を籠めるからな」


アミックさんは肩で息をするくらいに疲労している様子だ。

マジで大丈夫なのだろうか?本当に死なないのか心配になるな・・。


アミックさんは息も途切れ途切れの状態で壺に両手を添える。そして先ほどと同じく、魔力を籠めていく。


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁああああ!!!」


「だ、大丈夫ですか!?アミックさん!」


「だ、大丈夫だ。それよりも早く引いてくれ」


「・・・ん!」


そして咲希が壺の中から手を抜くと、那央也と同じように一瞬で服装が変わる。咲希の装備は和服だった。どうやら桜をモチーフにしているらしい。和服のいたるところにピンクの桜の花びらが綺麗に描かれている。武器は・・あれはなぎなたか?なぎなたとは、やはり和をベースにした装備に合わせてきたのだろう。だが、なぎなたか。確かに多少は距離を取って攻撃はできるが、咲希の運動神経からして、そんな距離があってもなくても攻撃は避けられないだろう。護身用に使うか、雑魚狩りの時に手伝ってもらうくらいにしておこう。


「咲希。装備に特殊能力があるかもしれないから説明書を読ませてもらってもいいか?」


「・・うん」


「ありがとう」


俺は咲希が持っていた説明書を渡してもらい、確認する。・・・まじかよ。このなぎなた・・()だったのかよ。

説明書を読んだところ、このなぎなたは物理攻撃もできるらしいが、本来の用途としては、魔法発動の補助道具である杖らしい。能力は最上級レベルで、手に取るだけで上位の回復魔法と低位から中位の風魔法が使えるようになるらしい。さらには特殊魔法属性、()()()とやらも使えるようになるそうだ。魔力に関しては、普通の人間が人生を2~3度過ごせるくらいのレベルまで増えるらしい。その代わりに防御力に関しては武道などをやったことない一般人の軽いパンチを一発もらうだけで気絶するほどまでに低下したり、他にも移動速度がゆっくり歩くくらいの速度になるとかのデメリットがあったが、魔法使いが使うようなステータスではないのでそこまで心配はいらないだろう。これだったら咲希からは遠くから援護してもらうことができそうだ。


「すげぇ。咲希。びっくりすることにだな、その杖を使えば魔法を使ったことのないお前でも魔法が使えるようになるらしいぞ!」


「!・・本当に?!」


「ああ、本当だ使える魔法は上位の回復魔法と低位から中位までの風魔法。それから」


その時だった


俺の横に先ほどまで立っていたはずのアミックさんが突如、床に倒れたのだ。


「アミックさんッ!?大丈夫ですか?」


俺は必死に声をかけるが目を覚ます気配は一向にない。


「咲希!早く回復魔法を!」


「ど、どうやって使えばいいの・・?」


「やり方は説明書に書いてある呪文を唱えればいいんだ!早く!」


「わ、わかった・・!」


そういうと咲希は説明書を急いで開き、回復魔法の呪文分が乗っているページを開いて、呪文を唱え始める。


「⦅ベッセルング・ハイルング⦆」


咲希が回復魔法の呪文を唱えると、アミックさんの周りに光の粒子が集まっていき、まるで溶け込むかのように体に吸い込まれていった。そして、アミックさんの目が少し動く。


「アミックさん!大丈夫ですか!気をしっかり!!」


「ん・・あ、ああ、すまんの。心配をかけてしまって」


「はぁ、良かったです。心配しましたよ。まさかいきなり倒れるなんてびっくりしましたよ。・・なんで倒れたか聞いてもいいですか?」


「ああ、これは魔力を使いすぎたゆえの代償じゃ。こんなにたくさんの魔力を使ったのは久しぶりじゃからな。少し体がなまってるようじゃ」


はぁ、良かった。魔力切れで倒れるなんて、アニメや漫画の世界みたいだが、この世界だと本当におこってしまうのはちょっと怖いところだな。まぁ、物によっては魔力切れは死に直結するみたいな作品もあるが、そうならなくてよかった。


「おっと、こんなところでまだのんびりしている時間などないな。特訓は今日から始めるぞ。ついてこい」


「きょ、今日からですか?」


「当り前じゃ。残り日数は一週間を切っているのだからの。一日も無駄にできんわい」


「そうですね・・。」


考えてみれば当然だ。一週間でど素人の一般人を立派に戦えるようにしないといけないのだ。一秒も無駄に出来ない。


「ほれ、ボケっとしてないで行くぞ。ついてこい」


「「「はい!(・・・は、はい!)」」」


「うむ。いい返事じゃ。」


そういうと、アミックさんは少し早めのペースで魔法の訓練場へと向かっていった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


俺たちが訓練場につくと、そこにはサイロスが仁王立ちをしていて待っていた。


「これから先はこの、サイロス・クーサリオンに任せるからの。武術でわからないことがあったら、彼に聞いてくれ」


「そういうことだ。よろしくな!」


そういうと、サイロスはとびっきりの笑顔を顔に浮かべる。


「よし、いいか?これから三人にはそれぞれの武器に慣れてもらう。それぞれにあった練習メニューを考えた。各自、一週間その練習メニューをこなすこと。毎日朝から晩まで続くが頑張ってくれ」


「「「はい!」」」


「それじゃあ、まずは遥稀からだ。遥稀の武器は片手剣だな。片手剣は攻撃と守りをうまく切り替えて戦うのがコツだ。とりあえず、まずは剣を振る練習をするぞ。攻撃しても当たらなければ意味がない。だからまずは攻撃を当てる練習をするんだ。この浮いているボールに剣を当てられるようになれ。剣に振り回されないようにな。練習中も油断はするな。敵はいつ、どこからせめて来るかわからない。常に緊張を保て。」


「はい」


俺は剣を鞘から取り出し、片手で構える。左手の機械の重さでバランスを崩さないように気を付けて剣を振る。

ピンポン玉くらいの大きさの的にはかすりもせず、5センチくらい上の空を切る。


「もっとしっかり握れ。剣の動きを制御するんだ」


「はい」


俺は剣を握る力をさらに強くし、再び的に向かって振る。

今度はボールのど真ん中を真っ二つに切った。


「うむ。なかなかやるな。ボールはたくさん用意してある。なくなったらこの板の上にのせれば自動で宙に浮くからな。好きに使ってくれ」


これで自由に浮かせることができるのか。さすがファンタジー物質。なんでもありだな。


「一つのボールを最低でも2回に1回はど真ん中で切れるようになったら、そこに置いてある板を自分を囲むように敷いて、ボールを浮かせろ。あとはいかに素早くすべてのボールを切れるかの勝負だ。できる限り早く切り落とせ。訓練内容は以上だ」


「はい」


「次に那央也くんだな。那央也君は双剣使いだ。双剣は一撃一撃の威力は低いが手数と素早さにたけておる。那央也君が持っている能力を最大限に発揮するためには、双剣の特徴を生かさなければならない。双剣は攻撃の特徴から、隙を見せることが少ない。だから、それを使い、瞬間移動をした後に不意を突いて相手に攻撃の暇を与えず、仕留めきるという戦術が一番だと思われる。そのために、一瞬で大剣一発分かそれ以上のダメージを敵に与えられるくらいに高速で剣の乱れ切りができるようにしてもらう。装備の特殊効果でスピードが上がっているからそれほど難しいことではない。一週間あればなんとかできるようにはなるだろう。」


「はい」


「そこで、練習メニューはひたすら乱れ切りと瞬間移動を鍛えるようにした。ここに20~25メートル間隔でジグザグに立てられている木材を瞬間移動をして、乱れ切り、瞬間移動して、乱れ切りを繰り返し、全て赤い色が塗ってある方向の逆、実戦でいう相手の後ろをついて倒せ。威力的にもこの木材は大剣で一発殴られてやっと折れるくらいのものだ。本気で挑め」


「うん、俺、頑張るよ!よーしやるぞお!!」


「次は咲希ちゃんだな。咲希ちゃんは魔法使いか・・回復魔法に関しては問題なく使えるようだから、こんどは攻撃魔法を特訓するのが良いだろう。咲希ちゃんはその装備を付けている間は身体能力の低下という効果を受ける。だから、近距離で戦うのは避けなければならない。そのためには敵の位置をしっかりと把握し、敵を近づけないのが大切だ。そこで、練習メニューは、一目でどの敵が一番近くに来ているかを把握し、適切に処理する練習をするために、今回は、動く的を用意した。ここの地面に設置した的は自由に動き回る。その中で一番近くに来たものを魔法で素早く、的確に仕留めていくんだ」


「・・・はい」


「あとは呪文の詠唱じゃが、これに関しては先ほど言った練習を繰り返しているうちに自然と身につくだろう。呪文を高速で詠唱するには、ちとコツがいるがな。呪文は、最初は見ながら唱えてもいいが、なるべく見ないようにするんだ。毎日、訓練の終わりにチェックするからな」


「分かりました」


「よし、今日はここで終わりとする。明日からは一切休まずに訓練をするから、覚悟しておくように。今日のエルフ祭で休みを存分にとっておけ」


「「「はい!!」」」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あれから一週間が経った。

俺たち三人はサイロスさんに言われた練習メニューを毎日欠かさず、朝から晩までやり続けた。

そのおかげで俺はほぼ確実に的に剣を当てることができるようになり、最初は驚いて盾で守れなかったサイロスさんの不意打ちの攻撃も防げるになり、本当に成長した。

那央也は瞬間移動をほぼ完璧にこなし、相手の背後を取ってからの超高速乱れ切りを叩き込む技。その名も『オンスロート・ブリッツ』を習得した。

咲希は説明書に乗っていた魔法の呪文をすべて暗記し、特訓によって空間把握能力を強化したおかげでどの敵が一番近距離にいるのかを瞬時に判断し、素早く呪文を詠唱して攻撃ができるようになった。さらには花魔法を使い、辺り一面に花を咲かせられるようになった。・・・使い道はないだろうが。

とにかく、俺たちは一週間前よりのど素人ではなく、ある程度戦えるようにはなっていた。

そして、今日は奴が来る・・!!


その時だった。

村の近くに設置しておいたマスオブヘイト用の罠が起動し、小さな爆発起きる。

きたッ・・・!!

森の木々の奥にはおどろおどろしい大樹のようなものが見える。その中心部には赤く輝いた核のようなものがあり、その周りには俺の盾と同じ色をした薄い青色の膜が張ってある。きっとあれが弱点なのだろう。周りには恐ろしい量のテンタクルズがところせましと蠢いて、こちらに攻撃する隙を伺っている。


「みんな、準備はいいか!!」


「「「「「「「「「「うおぉおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」」


エルフの男たちは剣などの近距離用の武器を構える。後ろには弓などを持った女のエルフの人たちがならぶ。そして、俺と那央也と咲希は分隊を組み、予定通りに、俺と那央也が前衛、咲希が後方からの魔法での援護という形で戦うことにした。


そしてクルゴン村長が全員の先頭に立ち、その横にはメメールさんとアミックさんがそれぞれ左右に立つ。俺たちはその一つ後ろについていく。


「お前たち!この戦いはエルフと人間との和解を進める第一歩だ!負けたら全滅、しかし、勝てば人間との平和的な和解。お前らはどちらを望む!!」


「「「「「「「「「和解!!!!!!!」」」」」」」」」」


「そうだろ!!!なら、絶対にこの戦いは負けてはならない!!自分の力を信じ、己の最大限の力を発揮しろ!!!いくぞ!!!!!!」


「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」」


クルゴン村長の合図とともにおびただしい量の弓矢が一斉に放たれ、前衛部隊は怒涛の進軍を開始する。クルゴン村長は両手から紅蓮の炎を生み出し、テンタクルズを丸焦げにし、メメールさんは風魔法によって風の刃を発生させ、敵を細切れにしていく。アミックさんは土のゴーレムを10体ほど召喚し、命令をして、次々と薙ぎ払っていく。


「俺たちも続くぞ。那央也、俺とお前は別行動で敵を倒す。そうした方が、効率がいい。咲希、俺たちに次に襲い掛かってきそうな奴を見極めて、魔法で援護してくれ。それじゃあ、いくぞ!」


俺は鞘から剣を取り出し、目の前にいたテンタクルズに切りかかる。剣はテンタクルズにあたるとまるで豆腐に切り付けているかのようにスッと入っていき、いとも簡単に切れる。しかし、テンタクルズは再生機能を持っている。いくら切ったところで倒すには至らない。アミックさんに聞いたところ倒すには先っぽについているボール状の核を破壊しなければならない。大きさはピンポン玉と同じくらいだ。動きを止めずに剣を当てるのは至難の業だろう。俺は切り落としたテンタクルズの先っぽの核に剣を突き立て、破壊する。すると、先ほどまで動いていた体の部分は土となって地面に消えていった。

俺が一匹を仕留めた後に、横をちらりと確認すると、那央也が瞬間移動をして、テンタクルズの背後で剣を振りかぶろうとしているところだった。そこからは俺の目ではとらえられないほどの速度で乱れ切りを繰り出し、俺が瞬きをした次の瞬間にはもうすでに核は粉々に砕け散り、土となって消えていく。

俺と那央也が一体を倒し終えたところの隙をつき、飛びかかろうとする個体が何体かいたが、咲希の超高速詠唱による風魔法⦅ソニック・ヴォーテスク⦆の風の刃で胴体を一刀両断にされ、行動不能にされたところを俺と那央也でとどめを刺していく。


「・・・このままじゃ、らちが明かないな。咲希!那央也!本体を叩くぞ!!雑魚を倒すのは本体までの道を切り開ける程度だけでいい!俺が先陣をきる。那央也、一緒に行くぞ!」


「わしも加勢させてもらおうかの」


「アミックさん!?」


「おっと、俺を忘れちゃいけねぇぜ」


「クルゴン村長!!」


「もちろん私もついていくわよ!」


「メメールさんまで・・!」


「私も当然行くわよ。あの人は私が・・・」


「エゼルさん・・・よし、みんな。気合入れていくぞおおお!!」


本体までの距離はおよそ百メートル。とてもじゃないが、一人だけの力であそこまではたどり着けない。だが、今は仲間がいる。俺のことを信用して、力を貸してくれる仲間が。

俺は先陣を切り、道を切り開いていく。俺たちが六人が通れるほどの道を敵を切り捨てながら、どんどんと進んでいく。当然、周りにいる奴らも襲ってくるが、他のエルフ達が足止めをしてくれている。俺たちは急いでテンタクルズの群れの中を走り抜ける。そして、本体まであと少しのところまでたどり着く。

遠目から見ていただけでも、かなりの大きさだったが、やはり、間近で見ると迫力が桁違いだ。どうしようもなく体の奥底の生存本能が危険信号を発信し、すぐにでもこの場から離れたくなるが、そんなわけにはいかない。


「カルト・・・待っててね。今助けてあげるから・・!!」


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「「「「「「ッ!」」」」」」


もの凄い咆哮だ。うるさすぎて鼓膜が破けそうになるのを、耳を抑えて必死に防ぐ。こんなのまともに聞いたら鼓膜が粉々に破壊されそうだ。

さらに、マスオブヘイトは自らの触手を操作し、俺たちに襲い掛かる。


「ハッ!ていやあッ!!」


俺はとっさに盾でガードした後に、反動で態勢を崩したところを即座に攻撃する。しかし、テンタクルズのように刃は通らず、軽く傷跡を作っただけで終わってしまう。俺の攻撃があまり効かないことが分かったからか、エゼルは弓を構え、魔法効果を付与した弓矢でコアに攻撃を仕掛ける。しかし、青い膜にあたるとあっけなく、弓矢は止まり、地上に向かって落下していく。


「これは、あの青い膜を何とかするしかなさそうだな・・・何か他に弱点のようなものは・・あ、あれはどうだ?」


俺が目を付けたのはマスオブヘイトの斜めにそれぞれ木のこぶのようなものだ。ゲーマーとしての感だが、恐らく、あれを破壊すればコアを守っている青い膜が解除されるような気がする。


「まぁ、このままじゃジリ貧は目に見えておるわい。やる価値はあるのう」


「瞬間移動で後ろから攻撃を仕掛けたときに、後ろにはなかったからきっと前にあるのだけが全部だと思うよ」


「高いところにあるのは私と咲希ちゃんが狙撃して潰すわ。近距離戦闘型は下側にある二つのこぶをつぶして頂戴。咲希ちゃん、行くわよ」


「は、はい・・!任せて・・ください!」


「よーし、わしもちょいと本気を出すかのお」


「あれを使うんだな?わかったぞ」


そういうと、二人はそれぞれが両手に自分の得意魔法を生み出し、アミックさんは土を、クルゴン村長は炎を呼び起こす。そして、アミックさんは両手にこれでもかというほどに泥を塗ると、両手を上にあげる。その両手に向かってクルゴン村長は手に持っていた炎を投げる。そうすると、先ほどまでアミックさんの両手についていた泥が、熱されたことにより固くなり、強固なグローブとなった。

すげぇ、そんな協力技ありかよ。

アミックさんは両手を泥のグローブによって強化した後に、マスオブヘイトの右下にあるこぶにむかって強力なパンチをお見舞いした。


「くらいがよい。我らの編み出した超強力協力技⦅コウアレス・クレイ・フィスト⦆!!!」


「グォオオアアアアアアアアアア!!」


そして、元が泥とはいえ、魔力がこもっている泥だ。普通の泥を固めたものとは比べ物にならないレベルの硬さである。その代わり脆いのか一発殴ったら砕け散ってしまった。その代わりにこぶは粉々に砕け散り、土へと戻っていく。

これで残りは三つ。俺たち、近距離部隊が担当するのはあと一つ。

ここは誰が行くべきか・・・


「俺がいくぜ!」


そういうと、那央也は瞬間移動を使い、一瞬で距離を詰める。そして両手に握った短剣を目に見えない速度で振り回し、あっという間にこぶがズタズタに引き裂かれ、消えていった。


「よっしゃー!さっすが俺!天才!」


そのあとは、また瞬間移動を使い目の前まで戻ってきた。

こぶを無事に潰すことができて喜びすぎて、注意が散漫になっていたのだろう。那央也は横から襲い掛かってくるマスオブヘイトの触手に気づくことができなかった。そして、その触手が那央也にあたる・・・その直前に咲希による魔法が当たり、切り落とされる。


「ひッ!びっくりしたなぁ」


「那央也・・!油断しないで・・・!!」


そうだ。ここは戦場なのだ。いつ命が消えてもおかしくない。ある程度のケガは咲希の回復魔法で直すことはできるだろうが、無駄に魔力を消費するのは避けたいし、何より死んでしまった場合は生き返すことができない。だから、常に緊張していなければならない。たとえ、攻撃が成功し、無事に戻ってきたとしてもだ。


「⦅アセイル・アサルト⦆!!」


エゼルがそう唱えると、彼女の弓から無数の弓矢が一斉に飛んでいき、右上にあるこぶに目掛けて集まっていく。そして、全ての弓矢が刺さり、こぶは土へと還っていった。

続いて、咲希が呪文を唱える。


「⦅スカイ・ショックウェイブ⦆・・!!」


目には見えない衝撃波がこぶにぶつかり、衝撃でぐちゃりと潰れ、土に変わる。

その瞬間、先ほどまで頑固にコアを守っていた青い膜が消え、コアがむき出しの状態になる。


「グオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああ!!!!!!!!!!!」


「・・!みんな!いまだ、こうげ「私にやらせて」」


「エゼル・・?」


「最後なのに止めてしまってごめんなさい。でも、最後にとどめを刺してあげるのは私がいいの。彼の絶望に終止符を打ちたいの。だから・・・お願い」


「まあ、そこまで言われちゃあ仕方ないよな」


「そうそう、女の子の願いは叶えさせてあげるのが一番よ」


「俺も別に反対はしないぞ」


「・・・私も」


「僕も・・いいよ」


「ほっほっほ、満場一致で決定だの。ほれ、メゼル。・・・やってこい」


「・・・みんな・・・・本当にありがとう!私、行ってくるよ」


「ああ、頑張れ」


そして、エゼルはコアの前まで歩いていき、そっとコアに触れる。


「ああ、聞こえる。聞こえるよ、カルト。あなたの声が。あなたの息が。あなたの心臓の鼓動が。でも、もう終わりにしましょう。この醜い姿で生き続けるなんて嫌だものね。・・・あなたのこと、一生愛してるわ。・・・・・・・さようなら」


右手に魔力を籠めていく。コアは光の粒子が周りに飛び交い、だんだんと輝き・・・そして消えていった。

マスオブヘイトの体はそれに続くように光の粒子となり、彼女の周りを囲むように飛び回る。

それはとてもとても幻想的な雰囲気で、まるで、あの日、カルトが抱いてくれた時のような安心とやさしさに包まれたような、とてもあたたかい光だった。

そして、光の粒子は次々と消えていき、最後に残ったのはエゼル・メネルただ一人だった。


「さようなら・・・・カルト」


宙に消えていく光の粒に彼女はそう小さくつぶやいた。


そして、先ほどまで所狭しと居たテンタクルズたちは次々と土になっていき、うるさかった騒音は嘘のように消え去り、少しの間、静寂になった。


「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!勝った!勝ったぞオオオオオオオ!!!!!俺たちの勝利だぁああああああああああ!!!」」」」」」」」」」


勝利を察したエルフ達が次々に騒ぎ出す。先ほどまで必死に戦っていたエルフ達は無事に村を守り抜くことができたのだ。剣や弓を放り投げ、互いに抱擁を交わしたり、踊りを始めたりするやつもいる。


「みんな!まだだ!!まだ終わっていない!!これから我らエルフは人間との和解を試みる。人間たちとの再会は実に数百年ぶりだ。あの頃の人間たちとは違う可能性はある!だから、今回は争わず、種族が違っても、互いに分かり合えるということを教えてやるのだ!!そのために、これから我ら6人がエルフの村を代表して和解に向かう。皆の者は村に帰り、戦いの傷を癒せ。必ず、和解を勝ち取って見せる」


「「「「「「「「「「うおおおおおお!!!!村長!!!頑張ってください!!!」」」」」」」」」」


「ああ。では、行ってくるぞ。ほら、お前らもついてこい」


そうして俺たち6人は人間の村へと和解へ向かった。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あれからしばらく森の中を歩いていると、遠くの方に町のようなものが見えてきた。

村の入り口には石でできた大きな門があり、その前には鎧を着こんだ兵士がたたずんでいる。

俺たちは、不信感を抱かせないように俺が代表して町に入れないかの交渉をしに行くことになった。

結果からいうと・・失敗に終わった。


「あの、すいません。ちょっといいですか?」


「な、なんだ貴様は・・!」


「俺は天沢遥稀というものなんですけど、町に入る許可をもらえないでしょうか?」


「町に入りたいなら、身分証明書を出せ。そうすれば入れてやろう」


「み、身分証明書ですか・・・?」


「貴様、身分証明書を持っていないのか?」


「あ、あははは・・なくしちゃったみたいです」


「失くしたのか?それだったら町には入れないな。頑張って森の中を探し回って見つけてこい」


「そ、そんな・・・どうにかならないんですか?」


「ならないな。それが規則だ。まぁ、頑張ってこい」


くっ、身分証明書がないと入れないとか理不尽すぎる気がする。なくした場合も見つかるまで探せとか鬼畜すぎだろ。


「まったく・・・見ておられんな」


「き、貴様は誰だ!」


「私は、エルフの村の村長であるクルゴン・クルフィンという。今日は人間たちとの和解を試みるためにやってきた」


「エ、エルフだって・・!?バカを言うな!俺たち人間が住んでいる森とエルフ達が住んでいる森の境目にはあの恐ろしい魔物がいるはずだ。来れるはずがない!」


「そいつは我々エルフが倒した」


「た、倒しただって?あの魔物を?」


「ああ、そうだ。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。それなら、今から防衛長官を呼んでくる。そこで待っててくれ」


そういうと、男は慌てた様子で門をくぐりどこかへ行ってしまった。


それから10分ぐらい外で待っていると、男が戻ってきた。その後ろには、一目で偉い人だと分かるような人物がついてきた。恐らくあいつが防衛長官というやつだろう。


「貴様が・・エルフの村長であるクルゴンというものか?」


「ああ、そうだ」


「後ろにいる奴らは一体なんだ?」


「彼らは私の護衛です」


「・・・ふむ、そうか。言い伝えで伝わっている通りの特徴はしているな・・。今日は一体何の用事で我ら人間の町にやってきたのだ?」


「今日は人間とエルフとの和解を結びにきた。数百年も経った今、結ぶ必要もないかもしれないが、互いに争わないために念には念を押して、というわけだ。」


「・・なるほど。・・・それは私一人だけで決めることは出来ない。町長と話をしてくれ。連れていこう」


「ああ、そうしてもらえると助かる」


そうして、俺たちは防衛長官の後ろについて歩いていき、石造りの家が建っている通りを歩いた後に、ひときわ大きな建物が建っている場所についた。

正面玄関であろう場所には警備員らしきものが槍を構えて、立っている。


「勤務お疲れ様です。防衛館長殿!本日はどのようなご用件でしょうか?」


「今日は、彼らと町長との会談を頼みたい」


「そちらの方々はどのようなお方であるかお尋ねになってもよろしいでしょうか」


「こちらの方々は、エルフの村を代表し、人間との和解をするためにやってきた」


「エ、エルフの村ですか・・!?わ、わかりました。町長に会談ができるかどうかを尋ねに行きますので少々お待ちください。」


そういうと、男は門をくぐりぬけ、駆け足で町長を尋ねに行った。

しばらくすると、男が戻ってきた。


「町長から会談の許可を得ました。どうぞこちらへ」


男は俺たちの先頭を歩き、建物の中へと案内をする。

そうして、歩いていると男は突然、分厚い石造りの扉を前で止まる。


「こちらが町長のお部屋です」


コンコン


「失礼します。町長。お客様をお連れいたしました」


「ああ、ご苦労。・・・そして、あなた方がエルフを代表してやってこられた方々ですか」


「ああ、そうだ」


「今回は、この私、ベレ・セレグに人間の村とエルフの村との和解を結びに来たと」


「その通りだ」


「なるほど。そうですか。和解とはいいですね。争いがなくなり、皆平和になる。なんてすばらしい響きでしょう。・・・しかし、私は和解を結ぶ気は一切ありません」


「なッなんでだ!」


「覚えてもいないんですか・・あなた方は私の、私の兄を・・・殺したじゃないですか・・・・・!」


兄だって・・・?もしかすると・・・この人、カルトの妹なんじゃないか・・?それならば、俺たちはとんでもない誤解をされているッ!


「違う!殺してなんていない!!」


「嘘だッ!!あなたがたのところに向かった兄は、行ったきり帰ってこなかった!!」


「違うんだ!それには事情があって」


「兄を殺したのに事情も何も関係ありませんッ!私の兄を殺した仇は私が取りますッ!!」


彼女がそう言ったとたん、部屋の扉が大きな音をたてて開き、無数の兵士が突入してくる。

あっという間に囲まれ、俺たちは身動きが取れなくなってしまった。


「皆さんは手を出さないでください。私が直接・・・一人ひとり殺してやりますからッ!」


彼女は後ろに隠し持っていたナイフをクルゴン村長に向かって突き立てる。・・・が、しかし、エゼルが身をていして間に入ったおかげでクルゴン村長にはナイフは届かなかった。


「・・・聞いてください。私の話を。」


「誰が聞くかッ!この人殺し!」


ベレがナイフにさらに力を入れ、血が地面に垂れる。


「私・・・、あの人のッ・・・婚約者なんですッ!」


「あ、あなたが?はっ、信じられるわけがないでしょ?あなたはエルフで兄は人間よ!人間である兄が汚らわしいエルフとなんか結婚するわけがないに決まってるじゃないッ!!嘘もたいがいにしなさいよ!」


さらにナイフに力が入り、エゼルの腕に突き刺さっていく。


「・・・ッ!嘘なんかじゃないです!その証拠に、ほら、私があの人からもらった指輪です!!」


そういうと、エゼルは左手の薬指にはめられている指輪を見せる。色はとうにくすんでしまって、塗装も剥げているが、大事に大事にされていたことがわかるような指輪を。


その瞬間、先ほどまでエゼルの腕に突き刺さっていたナイフが床へと落ちる。


「そ、そんな・・・それは兄が、毎日大切にとっておいた母の指輪・・・いつか、「大事に人」に会えたときに渡すと言っていた、その指輪を、なんであなたがはめているの・・・?」


「私が・・彼の婚約者になったの」


「あの、兄が・・・エルフと・・?」


「そう、私と彼が恋に落ちた証」


「ああ、そうなのね・・・お兄ちゃんはいつでも優しかった。人を見る目は一流だったわ。その兄が認めたのなら、私も・・・認めないわけにはいかないわね」


「そ、それじゃあ」


「ええ、認めるわ。エルフと人間との和解を」


「やった・・・やったよ・・カルト・・!!私・・ついに成功したんだ・・・!やったーーーーーーーーーー!!!!!!!」


「これこれ、あまりはしゃぐでない。まだ、腕にケガが残っているじゃろうが。咲希、治してくれるか」


「・・うん」


「それじゃあ、皆のもの。これで我らエルフと、人間は和解をし、一切の争いをしないことをここに宣言する。早く、村に戻って皆にも知らせてやらないとな」


そうして俺たちは、エルフと人間との長い長い戦いに、ついに終止符を打つことができたのだった。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


村に到着した後は、村中どんちゃん騒ぎだった。

俺たちが来た日にやったエルフ祭とは比べ物にならないほどの騒ぎだった。

そこら中に酒が飛び交い、踊り、肉に食らいつき、楽しく笑いあう。

そんな最高な祝いをした。


そして、夜。那央也、咲希、そして俺の三人は村長の家へと呼ばれた。


「お前たちのこれからのことなのだが・・・二つの選択肢がある。一つ目はこれからもここで暮らしていき、生涯を終える。二つ目は・・・元の世界に戻り、元の暮らしに戻るかだ。好きなように選んでくれ。だが、期限は明日の夕方までだ。それまでに出さなければ、ゲートが閉じ、元の世界へとは戻れなくなってしまう」


「そうですか・・・」


やはり・・そうなるよな。これは薄々気が付いていた。閉じていたゲートが偶然開いてこちらの世界に来れたのなら、戻るのも開いている間のみということになる。だから、気が付いてはいた。いたが・・・


「すいません。いちど小屋に戻ってからゆっくり考えさせてくれませんか」


「ああ、明日の夕方までに答えてくれれば問題ない。じっくりと考えてくれ」


「ありがとうございます」


そういうと、俺たちは小屋へと戻っていった。


俺は小屋のベッドに体重をかけ、ドスンと座る。


はぁ。流石に悩む。確かにここでこのまま暮らしていくのも悪くはない。魔法を使えるようになりたいし、大切な仲間もできた。これを捨ててまで元の世界に戻るのは心が痛む。だが、そうはいっても、置いてきてしまった家族や友達が心配だ。俺がいないことで悲しんでしまったりすると思うと胸が痛い。これに関しては俺一人の責任じゃない。何より、咲希と那央也もいるのだ。俺一人で決めていいことじゃないだろう。


「なあ、二人とも。お前たちはこれから・・・どうしたい?」


「俺は・・・元の世界に帰りたい。だって、この世界は危険が多いから・・・」


那央也は一度、死の寸前までいったからな。そう思うのも仕方のないことなのだろう。


「・・・私も・・元の世界に帰りたい。エゼルさんたちと別れるのも嫌だけど・・・向こうに置いてきちゃった友達と別れるのは嫌なの・・・」


「そうか・・・わかった。そうしよう」


そうして俺たちは深い眠りへとついた。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


朝になった。

周りには鳥の鳴き声が聞こえ、木々が揺らめき、心地の良い風が肌に触れる。

東京じゃあ絶対に味わえないようなものばかりだ。

俺は、みんなのことを一秒でも多く記憶に残すために、村中を歩き回った。

咲希は村の人々を治してあげたいと言い、けが人のところへ向かっていった。

那央也は瞬間移動を使い、俺の知らないところでいつの間にか覚えていた芸をして、村の人々を喜ばせていた。


そして、日も暮れ始め、辺りがオレンジ色に染まり始めたころ。

俺たちは村長に言われていた場所へと向かった。


「・・どうだ。答えは決まったか」


「はい。決まりました。俺たちは・・・元の世界へ帰ります」


「そうか・・・残念だが、君たちのこともあるのだろう。仕方のないことなのだろうな」


「ちょっと待ったあ!」


「うわ!」


いきなり、草むらからサイロスが飛び出してきた。

それに続いて、エゼル、アミック、メメール、サイロス。そして、村のみんなが出てきた。


サイロスは言う


「遥稀。俺たちには黙って行っちまうのか?」


「・・・」


メメールが言う


「私たちで、あなたたちにお礼を言いたいの。本当にありがとう。エルフのために命を懸けてまで戦ってくれて・・・この、感謝。いつまでもいつまでも忘れないわ」


アミックさんが言う


「おぬしたちのことは心から感謝しておる。三人とも、またいつでも遊びに来ていいぞ。」


そして、エゼルは、恥ずかしそうに俯いて、そして・・・・・・抱き着いてきた。

ひゅーひゅーと周りからはやしたてられる。


「遥稀・・・あなたには本当に感謝してるわ。感謝してもしきれないくらいにね。だから、いつでも帰ってきてね。ずっとずっと・・・・・・待ってるから」


そして、エゼルが顔を頬に近づけると・・・・俺の頬に温かい感覚がした。

おめでとう!よかったなあ!!などと周りから聞こえてくるが、自分の顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。


「残念だが、そろそろ時間だ。準備はできたか?」


「ああ、ばっちり」


「それじゃあ、ここを数十メートル先まで進めば、元の世界に帰れる。途中で絶対に後ろを振り向くなよ」


「分かった・・・・それじゃあ・・・さようなら、みんな」


俺は目からこぼれそうになる涙をこらえながら、一歩一歩踏み出していく。

後ろからはみんなの声が聞こえてくる。

だが、しばらく歩いているうちに、だんだんと声は小さくなっていき、消えてしまった。

その時にはもうすでに、俺が・・・いや、俺たちが入った森の入り口についていた。

俺は後ろを振り向くが、辺りには静かな森の木々が立ち並ぶだけだった。

空はすっかり夏の夕焼け色に染まってしまって、周りにはセミの鳴き声が響き渡っている。

隣には那央也と咲希が辺りを不思議そうに眺めながら立っている。


「今までのことは・・夢・・・だったのか?」


「ううん、そんなことないよ。遥稀お兄ちゃん」


咲希が答える


「ど、どうしてそう言い切れるんだ・・?」


「だって・・・・お兄ちゃんの頬に・・・まだ残ってるんだもん」






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