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006

 場所は、同じくカフェバー・エリクソンの店内。だが、すでにアリーとドロシーは店を出たあとで、エリックは青い箱の封を切り、賑やかしに閑古鳥がカッコーと鳴くエフェクトを入れたいくらいシンとした空間で、一人静かに紫煙を燻らしている。

 そこへ、フードを被った一人の人物が、出入り口のアーチにぶつからないよう腰を屈めながら、スイングドアを押して店に入る。半袖シャツの上にベストまで着込んだ紳士は、エリックより四分の三フィート背が高い。

 エリックはタバコを灰皿に置き、その巨体を見上げつつ、平然と調子で話し掛ける。


「いらっしゃい。悪いけど、ここは高級な店じゃないんだ。コーヒーとコーラ、それとウイスキーくらいしか置いてないから、紅茶やジュース、あるいはワインが飲みたいなら、パーラーにでも行ってくれるかな」

「私は、休憩に来た訳ではありません。人を探して回っているところです」

「ほぅ。今日は、そういう日なのかな。とりあえず、信用のためにも、顔を見せてくれるかい?」


 エリックがヘラヘラと冗談めかした口調で言うと、紳士はフードを脱いで左腕に抱え持ち、次いで偏光レンズの眼鏡も外してベストのポケットに差し込み、素顔を晒す。フードの下から現れたのは、ブラックのヤギ耳を持った三十代と思しき男である。


「申し遅れましたが、私は、こういう者です」

「あっ、ご丁寧にどうも」


 紳士は、ベストのポケットから名刺入れを取り出すと、中から一枚の名刺を取り出し、片手ながら恭しくエリックに差し出した。

 エリックは、それをカウンター越しに受け取ると、一字一句覚えるようにしげしげと眺めたあと、それを灰皿の横にあるタバコの箱の上に置き、着席を促す。

 

「フランシス・ブラックゴートね。へぇ、ハイランドから来たんだ」

「左様です。フランクとお呼びください」

「オーケー、フランクね。まぁ、立ち話もアレだから座りなよ。ずっと見上げなきゃいけないから、そろそろ首が痛い」

「これは、気が付きませんで。では、失礼いたします」


 そう言って、フランクはカウンターチェアに腰を下ろした。彼が座ると、座面の高いカウンターチェアが普通のイスに見える。


「誰を探してるか知らないけど、ここの情報料は高いよ?」

「信憑性の高い情報をお持ちなら、相応の対価をお支払いすることをお約束します」

「あっ、そう。でも、情報料は現金では受け付けてないんだ。君、タバコは持ってるかい?」

「タバコですか」


 フランクは、一抹の疑問を心に抱きつつも、ベストのポケットから白い箱のタバコを取り出し、カウンターに置いてエリックへと差し出す。それを見たエリックは、思わずフランクの手元を二度見し、感嘆の声を上げる。


「はぁ、これは驚いたよ。この箱のタバコは、久々に見た」

「おや。貴方も、名家の方なのですか?」


 見当違いの発言をしたフランクに対し、エリックはタバコを灰皿の横に置きつつ、否定する。


「違う違う。戦場で下賜品として出回ってるのを、目撃したことがあっただけさ」

「なるほど。貴族ではなく、軍部の方でしたか」

「正確には、元軍医だよ。左目がこの通りだから、傷痍年金で流行らない店を開いてるんだ」


 エリックは、長い前髪をかき上げ、その下に隠れていた左目をフランクに見せる。そこには、上下の瞼を縦断するように切り傷の痕があり、その間にある瞳は光を失っていることが見て取れる。

 フランクが、その痛々しい傷を見て掛ける言葉を失っていると、エリックは、手櫛で髪を元に戻し、努めて明るい口調で言う。


「さて。僕からのリップサービスは、これくらいにするとして。今度は、フランクの話を聞こうじゃないか。誰を探してるんだい?」

「はぁ。二人ほど探していまして、どちらも十代後半でホワイトのウサギ耳を持つ子供なのですが……」


 その後、フランクは、アリーとその兄を探していること、自分は二人の護衛執事なのだが、ハイスクールに迎えに行った日から二人の姿を見ていないことなどを順を追って説明した。それと同時に、話を聞いたエリックの頭の中には、ある妙案が浮かんだのだった。

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