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005

 探偵事務所のある雑居ビルを下り、そのまま通り沿いにしばらく歩き、タバコ屋の角を右折すると、西部劇に出て来そうな佇まいのサルーンが見えてくる。入口の看板には、カフェバー・エリクソンという活字が読み取れる。

 ドロシーが一歩店内へ踏み込むと、店の奥から青年期を過ぎた男の声が聞こえてくる。


「いらっしゃい。……なんだ、君か。商売の邪魔だから、帰ってくれ」

「ご挨拶だな。せっかく今日は、青箱を持って来たっていうのに」


 スイングドアを押して一足先に入ってきたドロシーに対し、カウンターの向こう側に立つ、身の丈五フィート六インチでグリーンのキツネ耳を持つ男は、ウェスタンシャツのポケットからライターを取り出す手を止め、ドロシーの後ろに隠れている人物に目を光らせる。


「奮発した理由は、そっちのお嬢さんとも関係しているのかな? ホワイトのウサギ耳が見えてるよ」

「ひゃっ!」

「エリック。そんな品定めするようなイヤらしい目で舐め回すなよ。ろくに話が出来ねぇじゃん」

「悪いね。つい、昔の癖で。まぁ、座りなさい」


 エリックが見開いていた目を細め、肉食獣めいた眼光を営業スマイルの裡に隠すと、二人に着席を促した。

 ドロシーは、タバコ屋の紙袋を口に銜え、小柄なアリーを脇の下から両手で抱えてカウンターチェアに座らせてから、自分もその隣の席へ陣取る。それから、銜えていた紙袋を口から離し、中から青い箱のタバコを一箱取り出し、カウンターに置いてエリックの方へと滑らせる。


「とりあえず、日頃の迷惑料も兼ねてコレをやる。もう一箱あるけど、そっちは情報次第だ」

「わかったよ。いつもの赤い箱よりは、マシな情報を流してやろう」


 エリックがポケットに青い箱をしまうと、カウンターに肘から先を載せ、身を乗り出して話を聞く姿勢になる。

 ここでこの世界でのタバコについて説明しておくと、青い箱のタバコはタバコの葉が使われた市販品で、赤い箱のタバコとは名ばかりの代用品で、実際には柿や松の葉が使われている。


 ドロシーは、時々アリーに間違いを訂正されたり、言葉足らずの部分を補足されたりしながら、アリーが抱えている事情を洗いざらい話し、何か有力情報を知らないか訊ねた。

 ひと通り話を聞いたエリックは、右手の人差し指でカウンターをコツコツと叩いてから言う。


「フードの人物が、アリーの兄ちゃんをどの方面へ連れて行ったのかまでは、知ってる」

「ホントか! どこへ行ったんだ?」


 ドロシーはエリックの発言に食いつき、アリーも期待に瞳を輝かせてエリックを見つめる。しかし、エリックは二人から目をそらし、棚に並んでいるウィスキーのラベルを見るともなしに見ながら言う。


「だけど、追いかけるのは待った方が良い。そこには、奴等のボスが居る。策も練らずに突っ込めば、逆に奴等に捕まってしまうだろうし、下手すると命を落とす」

「なんだよ、それ。じゃあ、どうすりゃ良いんだ?」


 アリーが失望を隠せない様子で落胆する横で、ドロシーがカウンターに両手を突いて立ち上がり、その勢いで身を乗り出してエリックに食ってかかると、エリックはその額を中指で弾き、落ち着かせにかかる。


「慌てるな、脳筋女。僕は、君たちが到底考えつかないであろう秘策を持ってる」

「もったいつけずに教えろよ。ん?」

 

 イスに腰を下ろしつつ、ドロシーは額を抑えて言う。すると、エリックは片手を手の平を上にして、ドロシーへと差し出す。


「ここから先を知りたければ、先にもう一箱渡してもらおう」

「ケッ。足元を見やがって」


 エリックの手の上に、ドロシーが紙袋ごと力任せに叩きつけると、エリックは受け取った紙袋を逆さにし、出てきた青い箱を灰皿の横に置く。そして、紙袋を広げてシワを伸ばすと、ポケットからペンを取り出し、おもむろに作戦を話し始めた。

 彼の考えた秘策とは何なのか? それについては、後程改めてお話しよう。

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