004
「アリエッタ・ホワイトラビット。愛称はアリー。九月からハイスクール二年生になる十六歳。ハイランドからフードの人物二人によって、二歳年上の兄と一緒に誘拐されてきた。お兄さんのファーストネームはアレキサンダーで、愛称はアレックス。さっきまで迷子になってたのは、はぐれた兄を探すためで、彼の右手中指には、あんたと同じデザインのゴールドの指輪をしている。ここまでは、合ってるかしら?」
「はい。その通りです」
探偵事務所に戻った二人は、ソファーに並んで座り、互いにリラックスしたムードで会話を交わしている。ローテーブルの上では、ボイスレコーダーが緑のランプを光らせて稼働している。その向こう側では、回転イスに前後逆に座ったドロシーが、アイスキャンディーを齧りつつ、時折足で床を蹴ってクルクル回りながら、二人の話に耳を傾けている。
アリーの右手中指には、ベティーの言った通り、ゴールドの細い指輪がきらめいている。ソファーの背には、ワンピースの上に羽織っていたサマーニットが掛っている。
「あたしたちについては、覚えられたかしら?」
「はい。ブルーのネコ耳のお姉さんのお名前は、ベッティーナ・ブルーキャットで、愛称はベティー。お歳は、十九歳。それで、レッドのトラ耳の彼女の方が、ドロシア・レッドタイガー。愛称はドロシーで、まだ十五歳なんですよね?」
そう言って、アリーがドロシーの方を向くと、食べ切ったアイスキャンディーの棒をしがしがと噛むのを止め、ささくれ立ったそれをゴミ箱に投げ捨てながらドロシーが応じる。
「おぅ。背は一フィート高いけど、歳は一つ下だぜ。ウサギ耳の奴等は小柄だって言うけど、ホントだな」
「あんたが無駄に図体がデカイのよ。あと、もう少し声量を抑えてあげて」
「これでも控え目だっての。あーしがこれ以上喋り声を小さくするのは、あーたの胸を控え目にするくらい難しいことなのさ、おっぱい星人」
「オッパイセージン?」
アリーが小首を傾げると、ベティーは慌ててレコーダーを停止させ、両手でアリーの耳を押さえながらドロシーに注意する。
「ちょいと、ドロシー。純粋培養のお嬢様に、変な言葉を吹き込まないでちょうだい」
「無駄に巨乳なのは、事実だろうが。その胸を絞ったら、ちょっとくらいミルクが出たりしねぇのか、ベティー?」
「出るわけないでしょ。妊娠したこと無いんだから」
「見掛け倒しだな」
「ほっといて。まな板より、ずっと役に立つんだから」
「グイってやれば、ちょっとくらい谷間が出来ますぅ」
「大胸筋は、胸の内に入りません」
「うるせぇ、デカメロン」
ドロシーがプイッと半回転してソッポを向くと、ベティーは両手を耳から離す。
「何をお話ししてたんですか? よく聞こえませんでした」
「それで良いのよ、こっちのことだから。それより、お兄さんを探す方法を考えましょう」
「あっ、そうだ。エリックに聞いてみるってのは? ウサギ耳の少年が居たら、あいつの耳に目撃談が届いてそうじゃん」
再び半回転してドロシーが提案すると、ベティーは思案顔で何かを懸念しつつも、それに賛成する。
「そうねぇ。エリックなら、何か手掛かりになる情報を掴んでるかもしれないわ。聞くだけ聞いてみた方が良いかも」
「エリック?」
「エリクソン・グリーンフォックス。この近くでカフェバーを営んでる人物さ。ヘビースモーカーで、タバコを持って行けば、何かしら知ってる情報をくれるんだ」
アリーの疑問にドロシーが答えると、ベティーは、自分に言い聞かせるようにして納得し、ドロシーに頼む。
「あんまり会わせたくないけど、それ以外に良い手は無いわね。あたしは、ここで待ってるから、今度はあんたが出てちょうだい。何かわかったら、すぐにスマホで知らせてね」
「あいよ。そんじゃ、行こうぜ」
「あっ、はい」
回転イスから降りたドロシーは、アリーの手を引き、そのままアルミドアに向かって走り出す。アリーは、大股で駆けるドロシーに、必死で追いつこうとする。
そのままドロシーが乱暴にドアを開け、バタバタと二人が階下へ向かうと、ベティーはソファーから立ち上がり、ドアを閉めに向かった。




