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027

 事件が解決して一週間後。チェスターは所長室へ呼ばれ、事件解決の功労者として、九月からの一階級昇進が決定した旨が告げられた。ついでに所長からは、これで腹を満たして来いとホテルのビュッフェ食べ放題のペア券を渡された。その場では有難く頂戴したのだが、チェスターは、どちらも素直に喜べないでいた。取りも直さず、チェスターには喉に引っ掛かった小骨のように、気掛かりになっていることがあるからだ。

 

「気が重いが、様子を見に行くか」


 チェスターは、その日の交番勤務を終え、制服と代わり映えのしない半袖シャツとスラックスに着替えると、片手に鞄を持ち、そのまま自宅とは反対方向にある五階建ての雑居ビルへ向かい、一日の疲れが残る足で階段を上る。そして、最上階のアルミドアをノックする。


「チェスターだ。入るぞ」


 部屋の明かりが点いているにも関わらず、返事も無ければドアが開く気配も無いので、チェスターは一言断りを入れてから、ドアを開け、事務所の中へと入った。

 

「なんだよ、チェスター。今日は、暗くならないうちに帰るつもりだぞ」

「家まで送るために来たんじゃない。これを渡しに来たんだ」


 相変わらず散らかっている部屋の中では、ドロシーがソファーに横になっているだけで、ベティーの姿は無い。ドロシーが、心底めんどくさそうにチェスターへ話し掛けると、チェスターは、所長から渡されたチケットの一枚を鞄から取り出し、それを仰向けのドロシーの額へと乗せる。ドロシーは、乗っけられた紙切れを手に取り、それがビジネスホテルのものだと分かると、チェスターに返しながら言う。


「デートなら、かみさんを誘えよ。小遣いがアップするかもしれないぞ」

「これは、断じてデートの誘いではない。あと、かみさんは今、ダイエット中だ」

「あっ、そう。この手のチケットは、金券ショップでも売れないしなぁ」


 チェスターが受け取らないので、ドロシーは、チケットを人差し指と中指で挟んでヒラヒラと動かして遊びだす。その様子を見て、チェスターは、遠回しにアプローチしても無駄だと感じ、照れ隠しに片手でわしわしと後頭部を引っ掻きつつ、直球で勝負することにする。


「あぁ、もう! 少しは、俺の気遣いを分かれよ! あれから元気が無いって言うから、こうして励まそうとしてるんだぞ」


 八つ当たりにも近い形でチェスターが本音をぶちまけると、ドロシーは一瞬、呆気に取られてポカンとしてから、プッと吹き出して腹を抱えて笑い出す。真面目に言ったにも関わらず、ジョークか何かだと思われたと感じたチェスターは、顔を真っ赤にして怒鳴る。


「何が可笑しい!」

「ひーっひっひ。悪い、悪い。やり方が、あまりにも不器用過ぎると思ってさ。そんなんで、よく結婚できたな」

「うるさい! 所長の娘でもなければ、断ったさ」

「宮仕え、ご苦労さま。あー、久しぶりに大笑いしたから、腹が減った。ちょうど良いから、さっそく行こうぜ。レッツ・ゴー!」

「もとより、そのつもりだ」

 

 今泣いたカラスが、もう笑う。ソファーから反動をつけて勢いよく飛び上がったドロシーは、そのまま開けっ放しのドアを抜け、ダダッダダッとリズミカルに階段を駆け下りていく。チェスターは、その変わり身の早さに驚きつつ、カバンを小脇に抱え、大急ぎでドロシーを追いかける。

 このあと、ホテルに着いた二人は、どちらが多く食べられるかの競争を繰り広げ、厨房のシェフやパティシエをてんてこ舞いにさせるのだが、そのあたりは物語の本筋と関係ないので、割愛させていただく。

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