024
「恨むなら、男に生まれたことを恨むんだな」
「ひっ、ひきょうだぞ~」
頬に一筋の切り傷が出来ているドロシーは、足元の少年を見下ろしながら言った。この時、少年はナイフを捨て去っており、背中を丸め、両手で股間を押さえて悶絶している。これだけ見ても、男性諸君には痛いほど共感できることであろうが、一応、さかのぼって説明しておく。
懐、二の腕、太股など、あらゆる場所にナイフを隠し持っていた少年は、近寄ってくるドロシーとフランクにそれらを振り回したり投げつけたりして、安易に最上階へと上がる階段へと近付けようとしなかった。ところが、相手は機械ではなく生身であり、しかも少年である。長期戦になれば、自ずと油断が生じる。
「隙あり!」
「ギャーッ!」
フランクが掴んでいた手を振りほどき、距離を置こうとした矢先、うっかり投げたナイフの上に片足を置いてしまい、少年はグラッとバランスを崩してしまった。その好機を逃すことなく、ドロシーは少年の背後から両脚のあいだを思いっ切り蹴り上げ、ノックアウトさせたのである。それでは、時間軸を冒頭に戻そう。
「ねぇ、ベティー。あの子、すごく痛そうだけど、大丈夫かしら?」
「しばらく立てないだろうけど、命に別状はないわ」
「そうそう。――ほっときゃ治るよな、フランク?」
「えぇ、まぁ。それより、先を急ぎましょう」
少年の痛みを実感できないアリー、冷淡に判断するベティーとドロシー、そして、唯一、実体験を持って共感できる立場でありながらも、少年の味方をできないフランクの四人は、その場に少年を放置したまま階段を駆け上がり、いよいよ最上階へと突入する。
階段を上がった四人は、手前の部屋からボスやアレックスが居ないか確認していき、人気が無いのを目視するとドアを閉め、隣の部屋を開ける、という動きを繰り返し、エリックが推理していた最奥の部屋を残すばかりとなる。
「開けるぞ。エイヤッ!」
ドロシーがドアノブを掴み、後ろにいる三人に確認すると、ノブを回して一気に押し開け、部屋の中へと進入する。すぐあとに、ベティー、アリー、フランクも続く。
その部屋には、拘束を解かれたアレックスと、紅のフードを目深に被ったボスが並んで立っていた。ボスは、アレックスの背中を押して言う。
「ここまで来られたのなら、もう抵抗しない。人質を解放しよう」
「アリー!」
「お兄様!」
アレックスが両手を広げて歩み寄ると、アリーは一目散に駆け寄り、その胸に飛び込む。麗しい兄妹愛による感動の再会に、フランクはホッと胸を撫で下ろし、二人のそばへと近付く。
「いやにアッサリした幕切れね」
「そうだな。拍子抜けだぜ。――おい、ボス。何か企んでるんじゃねぇだろうな?」
ベティーの感想に同意したあと、ドロシーはボスに疑いの目を向ける。だが、続いてボスが口を開こうとした刹那、かすかにバタバタと階段を駆け上る足音が聞こえてきた。




