023
チェスターが跳ね橋を渡ろうとした時、メガホンを肩に提げ、マイクを片手にしているビーバー耳の人物が、アナウンスを始めたところだった。
『橋を上げますので、止まってください。まもなく、船が通行します』
アナウンスと同時に、踏切のような黄と黒の縞模様のバーが下り、橋に向かう人々は足を止め始める。
「まずい!」
思わず呟くと、チェスターは、橋のたもとに集まった人波を強引にかき分け、そのままハードル走の要領でバーを飛び越え、鎖が巻き上がって徐々に勾配がついていく橋板の上をドタドタと駆けて行く。
『あぁ、困りますよ、刑事さん。危ないから、戻ってください!』
「悪い。捜査中なんだ。許せ!」
勝手な理由で断りを入れつつ、チェスターは鍛え上げられた筋力をフルに活かし、向かい側の橋板へと飛び移り、そのまま橋を渡り切ってしまう。橋のたもとにいるビーバー耳の人物は天を仰ぎ、これで二日連続だと頭を抱えた。その様子が、本体に備えられたマイク越しに伝わっていたのか、エリックはクスクスと笑いながら言う。
『これで犯人を逮捕できなかったら、所長から大目玉だね。場合によっては、謹慎処分かな』
「やむを得ないだろう。事は一刻を争うんだ」
『減俸になったら、かみさんが怒るよ~』
「余計なお節介だ。それより、ここから先は、どこへ行けばいいんだ?」
橋に集まる人だかりから離れ、チェスターが胸元へ向けて声を抑えて言うと、エリックは案内を始める。だが、ある音が耳に入ったために、途中で話を止めてしまう。
『左岸沿いに視線を走らせていくと、五階建てで、鉄骨レンガ造りの古い建物が見えるだろう? そこがアジトなんだけど、……君、バイブが鳴ってないかい?』
「えっ? あぁ、本当だ」
スラックスから携帯端末のバイブ音が鳴っているのに気付き、そのリズムが、ブッブブブーンという不規則な四拍子であることまで聞き取ったが、チェスターは無視してエリックとの会話を続ける。
「これは捜査に関係ない着信だ。続けてくれ」
『ということは、自宅からの電話なんだね。家に帰ってからママに怒られても知らないよ、チェシーちゃん』
「いいから、道案内を続けろ。減らず口ばかり叩いてると、キツネ鍋にするぞ」
『僕は、煮ても焼いても美味しくないよ。――それで、話を戻すけど……』
このあと、チェスターはエリックのナビゲーションに従い、紅の悪魔のアジトへと辿り着いた。その頃には、中ボス少年と四人との攻防に決着がついていたのだが、その話は、この次に。




