022
「ゴメンで済んだだけ、有難いと思いな!」
大声で部屋の奥へ向かって言うと、ドロシーはピシャリとドアを閉める。ドアには「倉庫」と書かれている。それから、ドロシーがドアから離れるやいなや、フランクは廊下に置いていたソファーを引きずりってドアの前まで運び、その上に、更に長机やパイプ椅子を乱雑に積み上げて封鎖する。
結論を言えば、アリーは自分と兄を攫った二人に「ゴメンナサイ」と言わせるだけで許した。ただ、念のため、アレックスを助け終わるまでは逃げられないよう、小窓しかない一階の倉庫に閉じ込めることにしたのである。
「さて。それでは、上へ向かいましょう」
両手でパンパンと埃を払いつつ、フランクは三人に先へ行くように促した。
「よっしゃー! そんじゃ、中ボスを倒しに行こうぜ。エイエイ、オーッ!」
「オーッ!」
ドロシーが握り拳を天高く突き上げると、アリーもつられて同じポーズをして喜び、階段へ向かって走り出した。ベティーとフランクは、そんな二人を見て微笑ましく思いつつ、パタパタと駆け出した二人を追いかける。
四人は、そのままアジトを上へ上へと移動していく。二階、三階は無人であった。
「五階建てなのにエレベーターが無いってのは、ホント不便ね」
「あーしらの事務所と一緒だな」
「お疲れが出てませんか、お嬢様」
「平気よ、フランク。ありがとう」
四階の廊下へ辿り着いた四人は、そこもまた誰も居ないことに気付き、中ボスはボスと一緒に居るのかと思い始めた。しかし、その矢先のこと。
「伏せろ!」
「キャッ!」
ドロシーは、いきなりアリーの頭を手で押さえつけ、そのまま覆いかぶさるように伏せる。そのすぐ後に、カーンと金属音が響く。二人の背後を見れば、薄刃の投げナイフが壁に刺さっている。
「へぇ~。気配を消してたのに、よく分かったね」
「誰だ! 隠れてないで出て来い!」
ナイフが飛んできた斜め上の方角を睨みながら、ドロシーが大声で叫ぶと、そこにある階段からイタチ耳の小柄な少年が下りてきた。手には、小さなナイフを持っている。ドロシーは、アリーを立たせてベティーに預け、慎重に距離を測る。フランクも、アリーとベティーを自分の後ろへ隠しつつ、臨戦態勢を取る。
「少年のことを諦めてくれるんなら、怪我させずに帰してあげるよ」
「ここまで来て、おめおめと引き下がれるかよ。ウワッ!」
「ッタ!」
犬歯と闘志を剥き出しにしてドロシーが言い返すと、少年はアリーに向かってナイフを投げた。カーブを描いたナイフは、咄嗟にアリーの前に飛び出したベティーの足をかすめた。ベティーは片目を瞑って痛みに耐えつつ、その場にしゃがみ込み、手の平で傷口を押さえる。
「甘く見てると、みるみる血だらけになるから注意するんだね」
「クッ! 小生意気なガキだな」
忌々しげに睨むドロシー、慎重にタイミングを計るフランク、傷口をハンカチで縛って立ち上がるベティー、それを心配そうに見つめるアリー、そして、その四人を嘲笑うかのように、靴の底から新たなナイフを取り出して構える少年。四対一の戦いは、こうして火蓋が切られた。




