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021

 アリーたちがアジトの一階に乗り込んだ頃、エリックのカフェバーにチェスターがやってきた。荒々しくスイングドアを押してツカツカトとカウンターへ駆け込んできたチェスターの手には、青い箱のタバコのカートンを持っている。そして、エリックが挨拶をする隙も与えず、チェスターはカートンをカウンターへドンと置いて言う。


「紅の悪魔について、知ってることを全て吐け」

 

 エリックは、チェスターの目の下に薄っすらとクマが浮かんでることに気付き、只事ではなさそうだと感じつつも、いつもの軽口で応じる。


「どうしたの、このタバコ? とうとう公費に手を付けたのかい、税金泥棒」

「馬鹿を言え。自腹に決まってるだろう」

「一介の刑事は、それほど高給取りじゃないだろうに。こんなに無駄遣いして、かみさんに怒られても知らないよ?」

「いいから、言え。捜査は時間との勝負なんだ」


 チェスターが催促すると、エリックは少しばかりムッと苛立った様子で皮肉を含んだ口調で言う。


「僕が情報提供した時は、信憑性が無いって取り合わなかったくせに、今頃になって捜査を始めたんだね」

「確かな情報だと上が判断しなければ、下っ端の俺たちは動けないんだ。勝手な真似をすれば、逸脱行為とされるからな」

「変な理屈だね。膏薬と同じだ」


 エリックが不機嫌そうに口を歪めると、チェスターはカウンターに両手と額を付けて謝罪し、懇願する。


「その節は、大変申し訳ございませんでした。紅の悪魔が何者で、今、どこに居るのか、教えてください。徹夜でデータベースを検索しましたが、有力な手掛かりは見つかりませんでした」


 日頃プライドの高いチェスターが耳を垂れ、降参の意を表するのを目の当たりにしたエリックは、片手でポンポンと軽く頭を叩いて顔を上げるように促してから、ニコニコと痛快な気分を隠さない様子で話す。


「釣り逃した魚の大きさに気付いたんなら、それで良い。橋が上がるまで時間が無いから、先に場所だけ教えよう」


 そう言って、エリックはカウンターの下に潜り、胸ポケットに収まるくらいの小さな箱型の機械と、携帯ラジオに繋ぐような片耳用のイヤホンを、カートンをどけてカウンターに置く。チェスターが不思議そうに機械に注目すると、エリックは同じ機械をもう一台手に持ってカウンターの下から姿を現し、使い方を説明する。 


「小型のトランシーバーみたいなものだと思って。ちょっと、向こうの部屋へ行ってるから、ポケットに本体を入れて、利き耳にイヤホンを挿して待っててよ」

「わかった」


 チェスターが指示に従っているのを確かめつつ、エリックは、昨夜フランクを泊めた奥の部屋へと移動する。そして、持っていた機械を胸ポケットに入れ、、イヤホンを耳に挿し込み、胸元へ向かって小声で話し掛ける。

 

「こちら、エリック。聞こえるか、チェスター。どうぞ」

『こちら、チェスター。イヤホンから声が聞こえてる。どうぞ』


 エリックは、機械が正常に作動していることが確かめられたので、再び店舗スペースへ戻り、腕時計をチラッと見てからチェスターに指示を出す。


「アジトは、橋を渡った左岸にある。そこから先の経路や、紅の悪魔についての詳細は、その道すがらに教えるから、イヤホンを外したり、機械を落としたりしないように」

「了解。とにかく、橋を渡れば良いんだな?」

「そうさ。あと十分だから、急いだほうが良い」

「あぁ、そうする。ありがとよ」


 チェスターは、来た時と同じように慌ただしく駆けだして行った。エリックは、面白くなってきたとばかりにニヤニヤと口許を押さえて忍び笑いをすると、アジトの図面を用意しつつ、紅の悪魔について説明し始めた。

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