020
「ここが、アジトか」
「ホント、古いタイプの箱物ね」
「ここに、お兄様が?」
「えぇ。情報が正しければ、こちらに」
ドロシー、ベティー、バーカーとジーンズを着たアリー、そしてフランクの四人は、テラコッタ屋根の建物を見上げ、口々に雑感をもらした。
「そんじゃ、開けるぞ。おりゃー!」
ドロシーは、鍵穴が壊されて、ところどころ錆が浮いている鋼鉄製の引き戸を、力任せに思いっ切りスライドさせる。ギーガッガッガという金切り声のような音を立てて引き戸が開くと、ドロシーを先頭に、フランク、アリー、ベティーの順で中に入る。
「誰だ!」
「あっ! 逃げたウサギがいるぞ!」
ウマ耳の男とシカ耳の女が、アリーを捕まえようと駆け寄る。この発言から分かるように、二人は橋のたもとでアリーに逃げられ、のちにエリックのカフェバーで長話に付き合わされた人物と同一である。
「お嬢様をウサギ呼ばわりするのではありません!」
厳かに叱責すると、フランクは三人娘の前に立ちはだかる。
「どけ! てめぇに用はねぇ」
男がフランクを押し退けようと片手を突っ張ると、フランクは、素早くその手首を逆手に持ち、そのまま男の背中側へ反時計回りに腕を回して捻り上げる。
本来曲がらない方向へ引っ張られる痛みから、言葉にならない声で呻く男を見て、女はフランクが只者ではないと悟り、仲間を呼ぼうと走り出す。
「逃がすか、よっ!」
ドロシーは助走をつけて跳躍し、逃げる女の脇腹へドロップキックを炸裂させる。そして、くずおれた女の背中に跨るように座り込む。ちなみにアリーは、突然の出来事にイマイチ脳内処理が追い付いていない。とりあえず、フランクとドロシーがカッコイイと思っている模様。
ベティーは、背後でアリーがポーッと見惚れてるのに呆れつつ、フランクが捕まえてるウマ耳の男と、ドロシーが乗っかってるシカ耳の女を交互に見やりながら言う。
「答えるのは、どっちだって良いんだけど、あんたたち以外に、今、この建物の中に居るのは何人か、正直に答えてもらえるかしら? あたしたち、ボスが少年を人質に取ってるところまで把握してるの」
女が精いっぱい首を斜め後ろへ捻り、男にアイコンタクトを送ると、男は抵抗をやめ、吐き捨てるように言う。
「ボスと俺たちとガキを除けば、今、この中に居るのは一人だけだ。だが、そいつはボスの右腕で、易々と倒せる相手じゃねぇ」
「おや。ずいぶん小さな組織なのですね」
「少数精鋭と言え。正直に話したんだから、いい加減、放してくれ!」
フランクが「どうしますか?」とでも聞きたげな視線をドロシーに送ると、ドロシーは女の両手を持って立ち上がり、女も腕を引かれるままに立ち上がる。そして、そのままドロシーはベティーに訊ねる。
「なぁ。ここは、アリーに任せて見ないか? こいつらがアリーを知ってるってことは、アリーだって、こいつらを知ってるかもしれねぇ」
「そうねぇ。――見覚えある?」
「う~んとねぇ……」
ベティーがドロシーの案を採用してアリーに訊ねると、当のアリーは、ここへ来て初めて二人をまじまじと観察し、ようやく昨日の朝の一幕と結びつく。
「ああ! ハイスクールから跳ね橋までわたしとお兄様を連れ回したフードの人たちは、あなたたちだったのね」
「なるほど。いくら待ってもお二人が現れないと思ったら、貴方がたの仕業だったのですね」
「いってぇな。俺たちは、ボスに命じられた通りにやっただけだ」
つい、フランクが恨みを込めて男の拘束を強めたので、男は顔を顰め、文句を付けた。ベティーは、男のクズっぷりに内心で眉を顰めつつ、アリーに判断を求める。
「まったく反省の色を見せていない様子だけど、どうする? あたしのオススメは、二人の額をぶつけてしばらく気絶させておく方法だけど」
ベティーは涼しい顔で、さらっと残酷なことを言った。アリーは、捕まえられた二人を交互に見てしばし悩んでから、ある一つの決断を下した。




