表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

016

「ただいま。――あぁ、またソファーで寝てる」


 家に帰ったドロシーが、明かりがついているリビングのドアを開けると、ヒョウ耳の中年男がタンクトップとトランクスでソファーに横になり、グゴーッと地鳴りのような重低音の鼾をかきながら寝ていた。ソファーの前にあるローテーブルの上には、飲み干したビールの缶があり、何本かは床に転がっている。それを見たドロシーは、アチャーとでも言いたげに顔を顰めつつ、男の肩をゆすって起こしにかかる。


「起きろよ、親父。明日も仕事なんだろ?」


 肩を揺すられた男は、夢現の微睡み世界から戻ってくると、眠たげに目をこすりつつ、大口を開けて欠伸をする。そして、視線の先にぼんやり映るドロシーに向かって言う。 


「ん~。……なんだ、ドロシーか。最近、ますますジンジャーに似てきたな」

「いよいよ老眼だな。そろそろ、眼鏡がいるんじゃないか?」

「まだ四十の坂を登り始めたばかりだ。父親を年寄り扱いするんじゃない、馬鹿者め」


 両手の親指と人差し指で輪を二つ作り、それを眼窩の縁に当ててエア眼鏡のジェスチャーをする娘に対し、男は口の端でフッと笑いつつも、眉間にシワを寄せて嫌がる。それから、ヨイショという掛け声とともに立ち上がり、廊下へ向かおうとする。だが、まだ男の身体の中にアルコールが残っているのか、フラフラと千鳥足で歩く。

 その覚束ない足取りを見るに見かねたドロシーは、男の片腕を取って肩を貸し、酒臭い息に辟易しながらもリビングの灯りを消し、寝室へと連れて行く。そして、そのままベッドに寝かせ、ドロシーがそのへんに丸めてあったタオルケットを適当に掛けると、男は瞼を閉じ、ものの数秒で寝息を立て始めた。


「おやすみ」


 そっと呟くと、ドロシーは寝室を出てドアを閉め、そのまま廊下を歩き、その先にある階段を上る。そして、上がってすぐにある「ドロシアの部屋」と書かれたドアを開けて部屋の中へ入る。


「あ~、疲れた! もう、煙草臭いのも、香水臭いのも、酒臭いのもイヤだよ~」


 ガンッと足で蹴ってドアを閉めると、ドロシーは助走をつけてベッドへダイブし、そのまま、しばし枕に顔をうずめ、溜まっていた鬱憤を吐き出す。


「ぷはぁ! 明日は忙しくなるぞ~」


 枕から顔を上げると、そこからズボラに腕だけ伸ばし、月明かりが差し込んでいる窓のカーテンを閉める。そしてドロシーは、寝返りを打って仰向けになると、朝日が差し込むまで爆睡した。服も着替えないどころか、スニーカーすら脱がずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ