013
時間と場所が前後して申し訳ないが、話の舞台は、再びベティーのアパートに戻る。
ベティーがカレーを煮込んでる間に、アリーとドロシーは、先にシャワーを浴びていた。
「ヒャッ! 冷たい」
「悪い、悪い。こっちは水だった」
なんてことを言いながら、シャンプーで髪を洗ったり、ボディーソープとスポンジで背中を洗い合ったりしてたのだが、そのへんのキャッキャウフフな展開は省略する。十八禁小説ではないので、全裸のお色気シーンは書けないのである。あとは、読者諸氏の妄想力で脳内補完されたし。
さて。至福のシャワータイムを終えたあと、アリーはノースリーブでエーラインのワンピースに着替え、ドロシーは、朝と同じチューブトップにホットパンツ姿に戻り、ダイニングへと移動した。その頃には、すでにベティーは鍋の火を止め、白米が炊き上がるのをソファーで雑誌を読んで寛ぎながら待っている段階だった。
「もう出来たのか?」
「まだよ。味を染み込ませてるところだから、蓋を取らないように」
「ほーい」
キッチンへ向かい、鍋に近付こうとしたドロシーに、ベティーは雑誌をマガジンラックに戻して立ち上がりながら釘を刺した。ドロシーは、伸ばした手をそっと戻し、ダイニングへ移動する。
「あたしもシャワーを浴びてくるから、ドロシーとここで待ってて。腹ペコなトラが鍋や釜を空にしそうになったら、容赦なく止めてね」
「あっ、はい」
「いくらあーしでも、全部は平らげられねぇよ」
アリーをソファーへ座らせつつ、ベティーが廊下へ向かいながら言うと、ドロシーは、その背中に向かって文句を返しながら、アリーの横へどっかと腰を下ろす。そのあと、二人がほのぼのとした他愛も無いお喋りをしている間に、ベティーはクローゼットから着替えを出し、バスルームへ向かう。
「あたしのことや、エリックのことも、多少は話しておいた方が良いかしら」
憂え顔でポツリと呟きながら、ベティーはホックとファスナーを開けてスカートを脱ぎ、カゴに入れる。次いで、開襟シャツのボタンを上から順に外して脱ぎ、それもカゴに入れる。
「後ろがユー字になってるから、見えちゃうわよねぇ」
下着一枚になったベティーは、畳んで置いてある着替えを見ながら、再び呟く。そのベティーの背中には、右の肩甲骨のあたりに、青い蝶のタトゥーが刻まれている。そのまま、しばし思案顔で考え込んでいたが、ダイニングの方からアハハと豪快に笑うドロシーの声が聞こえると、ベティーはすぐに気を取り直し、両手を後ろに回し、ホックを外しにかかった。
このタトゥーを入れた経緯については、このあとの話で明らかにしよう。