012
いつものアリーを思い浮かべながら捜索しても、きっと見逃すだろう、と言ったが、もちろん例外はある。
「あれは、もしや……」
雑踏の中でも人垣より一頭地高い身長のフランクには、パーラーでランチを終えたアリーたちが外階段を下りてくるところが、十ヤードの距離からでも確認できた。いくらアリーは変装しているとはいえ、幼い頃から面倒を看てきた大事な存在を見誤ることは無い。
ただ、フランクは一点、勘違いをしているようで。
「すみません。誘拐犯を追いかけているのです。通してください」
フランクは、ベティーとドロシーを、アリーを唆して連れ去った人物だと早合点してしまったのである。
それは、ともかく。フランクは人混みをかき分けてパーラーへと向かおうとするが、この時点で大柄な体躯が仇となり、風船を持って走る子供や、歩みのゆっくりとした老人などに行く手を阻まれ、なかなか思うように前へ進めない。
そうこうしているうちに、アリーたちはニックナックスと書かれた看板の向こうへと移動してしまった。
数分後、フランクは同じ場所に辿り着き、角を曲がって看板の向こうへ出たが、そこから先は二又に分かれていると分かり、ハタと足を止める。そして、二又の間に位置するドーナツ屋の店主に話しかける。
「失礼。一つ、伺いたいことがあるのですが」
「へい、何でしょう? シナモンクルーラーが焼きたてだよ」
「あっ、そうですか。では、それを二つ」
「まいどあり! 五ダウンスだよ」
フランクは、スイギュウ耳の店主に、表面に五、裏面にダウンスと彫られた硬貨を渡し、ドーナツが入った紙袋を受け取る。それから、紙袋を持たない方の手の人差し指を立てて注目させ、セールストークで遮られていた質問する。
「つい今しがた、ホワイトのウサギ耳の少女が、ブルーのネコ耳の女とレッドのトラ耳の女に連れられて、そこの角を曲がってこちらへ移動したのが見えたのですが、どちらへ行ったか見ませんでしたか?」
立てた人差し指を動かし、フランクがさり気なく道の方向を指し示すと、スイギュウ耳の店主は腕を組み、う~んと低い声で唸ってから答える。
「ネコとトラの姉ちゃんが、ウサギの子を連れて歩いてるのは、見たような気がする。でも、どっちへ行ったかまでは見てないなぁ」
「そうですか。伺いたいことは、以上です。ありがとうございます」
「悪いね、力になれなくて」
「いいえ、お気になさらないでください。では、失礼します」
丁寧に御礼を述べると、フランクは向かって右の道を進み始めた。
この選択が吉と出たのか凶と出たのかは、あとになってからのお楽しみ。