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009

 アリーたち三人娘が、マーケットで野菜や魚を北風と太陽方式に値切り交渉している頃、チェスターは交番で書類に判を捺していた。

 そこへ、デスクの固定電話からプルルルルと着信音が鳴ったので、チェスターは瞬時にガチャンと日付印を捺す手を止め、ワンコールで受話器を取る。

 

「こちらダウンタウン五区リバーサイド第三交番です。もしもし?」


 受話器を持ったまま三秒ほど沈黙すると、無言のままツーッツーッ電話が切れる。チェスターは、首を傾げつつ受話器を元に戻す。

 そして、日付印に手を伸ばしかけたところへ、再び着信音が鳴る。チェスターは、ワンコール置いてツーコール目で受話器を取る。


「こちらダウンタウン五区リバーサイド……。イタズラに使うな、馬鹿者!」


 今度は、チェスターが言い切る前に電話が切れた。チェスターは、苛立たしげな様子で乱暴に受話器を戻す。

 それから、再び日付印に手を伸ばそうとした矢先、着信音が鳴る前に生じる独特の雑音を聞き取ったチェスターは、ノーコールで受話器を取り、名乗りもせずに怒鳴りつける。


「お前の遊びに付き合ってる暇は無い! ――ハッ! 所長でしたか。これは、とんだ御無礼を。……いえいえ、先程まで無言電話のイタズラがあったものですから。……はい。もちろんであります。……はい。速やかに対応に当たります」


 数秒前までの威勢は、どこへやら。チェスターは、三度目の通話相手が上司だと判明するやいなや、平身低頭である。組織に属する者として、地位が上の者に逆らうことは、すなわち、出世街道から外れることを意味するからである。悲しいかな。


「さすがであります。……はい。すぐに確認いたします。では」


 さて。訓示の長い所長からの電話の内容をまとめると「紅の悪魔、入港のおそれ濃厚なり。くれぐれも用心されたし。ゆめゆめパトロールを怠ることなかれ」という三行になる。

 簡にして要を得る内容とは真逆の自慢オンパレードに付き合わされたチェスターは、相手が通話を切ったのを慎重に確かめてから受話器を置き、その姿勢のまま緊張から来る気疲れに任せてガックリと俯き、一時停止する。

 そうしている間に、ポケットの携帯端末がブッブーン、ブッブーンと三拍子を刻み始めたので、チェスターはすぐさま姿勢を正し、音源となっているスマホを取り出してタップする。すると、画像付きのメールが届いているという表示が現れたので、宛名がいかがわしいアドレスではなく警察のものでないことを目視で確認し、通知をタップする。

 

「これが紅の悪魔だとしたら、……いや。まさか、そんなはずは……。でも、有り得なくは、ないか?」 


 交番に誰も居ないのを良いことに、盛大な独り言を呟きながら思考を重ねるチェスター。その瞳に映っている添付画像は、真犯人と思しき人物のモンタージュ画像である。その顔の特徴を三つにまとめれば、レッドのトラ耳、マルーンの髪色、イエローの虹彩である。しかも、その性別は女だ。

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