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第四独立空挺小隊作戦記録  作者: 大月櫂音
「記録:シリウス抗争」
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2150年 7月15日-4


「──トカゲ、だって?」


 防衛連合国即応起動連隊、前線基地──その執務室。


 帰投した柊人は、既に別件の任務から戻ってきていた小隊長、来馬らいば 荒次郎こうじろうに、任務の最後で拾ったメモをファイルとともに見せた。


 卓上に置かれたメモの上では、今にも動き出しそうな様子の獣が、二人を睨んでいる。


「はい。僕にはそう見えます」


「いや、私にもそう見えるが──」


 そう言って、荒次郎は顎に手を当てた。


「重要なのは、そこじゃないな。こいつが生体兵器シリウスなのか、そうじゃないのか──。問題はそこだ」


 荒次郎が口にしたのは、柊人も考えていたことだった。


 繰り返すようだが、そいつは、モンスター・ホラーから飛び出た存在か、と言うほど醜悪な見た目をしている。身長は、正真正銘、化け物だ。


 そんなそいつは、二脚で立っている姿で描かれており。その顔には、小さいが、しっかりと眼球が取り付けられている。


 ──その眼球を、柊人は、いや、即応起動連隊の面々は嫌と言うほど見てきた。


 虫型ガンマ四足獣型アルファの目だ。


「これらは連中の倉庫に落ちていたものです。本当に存在するとは限らないですが──」


「そうだな。だが少なくとも、こいつが絵空事ということはないだろうな」


 ふと。考え事をしていた荒次郎は、そう断言した。


「以前遭遇した「盾持ち」と、ある程度のところまで造形が同じだ。おそらく、同一の進化系統を辿った生体兵器シリウスだろうな。……生産されていてもおかしくはない」


 その言葉に、柊人はぞくりとした。


 盾を持ったシリウスは、戦闘用に調整されたとしか思えない存在だ。


 それと同一の進化系統を辿っているということは、つまり。そいつも、戦闘用に「調整」された可能性が高いということである。


「ふむ。これは、こちらで預かっておこう。裏には走り書きがあったのだろう? ひょっとしたら、以前に奴らが使ってた暗号かも知れない。それに、SDカードも解析にかけねばな」


「お願いします」


 それだけ返すと、柊人は部屋を立ち去ろうとする。これの報告のために、彼はシャワーを浴びれずにいたのだ。早く汗を落としたかった。


 しかし、それを荒次郎が引き止める。


「あ、待ちたまえ。君に話しておかなければならないことがある」


 話しておかなければならないこと。その荘厳なフレーズに、柊人の心と体は硬直した。


「な、何でしょう」


「君は、何故自分が、この独立部隊にスカウトされ、そして、「上等兵」になったか、分かっているかね?」


 その言葉に、柊人は僅かばかり考え込んだ。


(理由? 理由なんて考えたことも……強さか? それなら、他にも適任が居る筈だが──)


 だが、結局答えは出ない。彼は正直に「分かりません」と答えた。


「我々防衛連合国は、各国の軍隊の兵士に、調査を行なっていた。──「適合者」を見つけるための調査だ」


 適合者。そのフレーズに、柊人は、かつて国防軍で行われた身体検査のことを思い出した。


 あの時は、それがどんな目的で行われていることか、など疑問に思わなかったし、そこで異常が出たわけでもないので忘れていたが──あれは「そういう」ことだったのだ。


生体脳拡張保護外装(B A P)の、適合者を見つけるためのね」


「BAP……?」


「Brain Advanced Protector……防衛連合の技術部で秘密裏に開発の進んでいる歩兵装備だ。それは文字通り──」


 ふと。彼は、そこで言葉を切った。


 ノック音。荒次郎の言葉を押しとどめたのはそれだ。執務室のドアを叩く者が居るのだ。


「入りなさい」


 ノックの相手は急用を抱えているかも知れない。その事を察した柊人は、あらかじめわきに逸れておいた。


「し、失礼します」


 ドアが開くと同時に響いたのは、どこか緊張したような声だった。使っている言葉は流暢な英語で、声の高さは──女性、いや、少女のそれだ。


 柊人は少し驚いて、その人物に視線を向ける。


 相手は声相応の少女だった。その身長は彼よりも低く、肌は透き通るように白く、虫も殺せなさそうな童顔をしているので、柊人は面食らってしまう。


 どう考えても、前線基地の雰囲気には不釣り合いな人物なのだ、彼女は。


「おや。アリサ技術少尉。どうしてここに?」


(──少尉……!? 少尉だって!?)


 柊人は表情筋を動かさず驚愕した。


 彼女は、どう考えても、自分より年下だと思っていた。軍の関係者でこそあれ、自分よりも高い地位の人間だとは思っていなかったのだ。


 ──少尉。保持する権限は、特務曹長たる来馬 荒次郎と同等かそれ以上だろう。


「BAPのセッティングが終わったので、その報告に、と」


 BAP。荒次郎も口にした言葉だ。その意味を知らないのは、どうやら柊人だけらしい。


「随分と早いな。まあ、ちょうどいいタイミングではあったが──」


 そこで、荒次郎は柊人の方向へと顔を向けた。その目には、どこか期待しているような光が灯っている。


「紹介しよう。彼が水無月柊人上等兵だ。例の適合者だよ」


 その言葉が発せられた瞬間。彼の眼前で、アリサと呼ばれた技術少尉の顔色が、見る見るうちに変わっていった。


 そして、アリサは彼を向き、まるで猫じゃらしに飛びつく猫のような勢いで詰め寄る。


「あなたが、あの適合者さん!? 思ったより普通そうな──というか、ホントに未成年なんだ………」


「近い、です」


 柊人自身、自分が何を言われているのか、何故彼女の反応がこんなにも過剰なのか分からなかったが、冷静さを失うようなことにはならなかった。冷静沈着に言葉を返す。


「あ、失礼しました」


 それでアリサは彼から離れた。そして一つ、目を閉じて小さく咳払いをすると、再び口を開く。


「改めまして。私は、アリサ・アレニチェフ技術少尉です。よろしくお願いします、水無月柊人上等兵」


「こちらこそよろしくお願いします、技術少尉」


 ──これが、これから先の未来、長く関わり合っていく、技術者と兵士の初めての出会いだった。


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