2150年 8月18日-4
「由々しき事態だぞ、これは」
防衛連合即応起動連隊の第二旅団長、オスカー・オベラート中将は、会議の場で、開口一番にそう言った。
夜。それは、J-5エリア前線基地が襲撃された日の夜に開かれた会議だった。
ファシット側は、第一旅団の第二大隊長を含む、前線基地に駐屯していた、防衛連合側の軍人を捕虜にしていることを明かした上で、あることを要求してきた。
「奴らの要求は、人工石油生産エリア──Pエリアの解放、でしたか。長期戦をするためには必須のエリアだ……みすみす、渡すわけにはいきませんな」
それを言ったのは、第一旅団長のアルバート・ウェンデル中将だった。その声には、自分の旅団に所属する兵士を大勢殺したファシットに対する、憎しみが乗っている。
「しかし現実問題、奴らは、Pエリアが解放されなければ、捕虜の生命の保証はない、と言っている。渡す他ないのではないか?」
第五旅団長が言う。
「しかしそれで、捕虜が戻ってくるという保証もないわけだろう? Pエリアを解放させておいて、捕虜を殺す、などという暴挙に出かねないぞ、なにしろ──相手はファシットだ」
オスカーの声音は、ひどく冷たかった。
「ではどうしろと言うのだ!? このまま、彼らを見殺しにしろ、と!?」
「まあまあ、落ち着いてください、中将。事態を収める方法がない訳じゃない」
ふと。アルバートが意味ありげなことを言ったので、その場の士官の興味が、一斉に彼に集まった。
「どう言うことかね、アルバート中将? 説明を願いたい」
そう問われると、アルバートは笑みを浮かべて言った。それは、皮肉にも、同じ日にディヴェルサが浮かべていたものと同じ、悪魔的な、支配者の凄絶な笑みだった。
「──強襲すればいいんですよ。ファシットの奴らに、鉛玉で返事をしてやればいい。A-Bエリア強襲任務──。ちょうど、彼らがこちらの前線基地にやったように、あちらの潜伏先に強襲をかけるんです」
その言葉に、オスカーを含めた旅団長は一様に身震いした。しかし、その震えは、次第に武者震いに変わっていく。
捕虜の命が助かる保証は、どの道ないに等しい。そして、捕虜が死ねば、責任の全ては、防衛連合にのしかかる。
──だが、全てが終わった後で、ファシットが倒されていれば話は別だ。そこからなら、いくらでも言い逃れの「物語」を作ることができる。
それに、強襲をかければ、ファシット残党軍は、捕虜を放棄して逃げるかもしれない。そのような「希望」も残っている。
「し、しかし、それは誰が実行するんだ? 第一旅団の──防衛連合の要──第二大隊は、壊滅したんだぞ?」
「M-2エリア前線基地の第四独立空挺小隊を使えばいいでしょう。ちょうど、彼らもBAP部隊だ。それに、キルギスに駐屯している分の第二旅団第一歩兵大隊も加えれば、充分事足りる」
8月2日のとある任務で、第二旅団第三歩兵大隊は全滅している。しかし、第一歩兵大隊は生きているのだ。
「──そうですね……実行は、明日の早朝でどうでしょう」
「早朝!? 早すぎる……キルギスから移動するのだぞ? それでは、時間通り現地に到着しても、兵どもを、疲弊した状態で任務に臨ませる事になる!」
アルバートの発言に、第五旅団長が噛み付いた。その言葉は、ある程度筋が通っている。
「しかしね、中将。これは戦いなんですよ。それも、相手はファシットだ。これくらいの強行をしなければ、勝てる相手ではない、と私は思いますがね……」
「私は賛成だ。我々第二旅団は、疲弊状態にあろうと充分に戦える」
第五旅団長は、尚も否定の言葉を言い募ろうとしたが、強襲に使う部隊を擁する第一・第二旅団長に賛成されては、否定のしようがなく、低く呻いて押し黙るしかない。
「他に、反対する者は居ませんかね?」
アルバートのその言葉に、異議を申し立てる者は居なかった。
──A-Bエリア強襲任務。それが成功すれば、シリウスとの戦いは終わる。




