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第四独立空挺小隊作戦記録  作者: 大月櫂音
「記録:シリウス抗争」
4/50

2150年 7月15日-2

今回は前2話に比べて文字数が多いです。


 防衛連合即応起動連隊、第四独立空挺小隊二班の面々は、前日の哨戒任務で発見された地下施設へと向かうために、輸送機で空を駆けていた。


 水を打ったように静まりかえる機内には、作戦内容を淡々と読み上げる班長の声のみが響く。


 輸送機に乗った二班の面々は、一様に、戦闘服を身にまとっている。濃緑の迷彩があしらわれた、ありふれたものだ。


 しかし、それはありふれた装備ではなかった。傍目からは分からないが──彼らは、その服の下に、最新鋭の衝撃緩衝素材をふんだんに盛り込んだプロテクターを着ているのだ。防弾性能はクラスIIで、胴体の急所はクラスⅢAである。そのうえ軽量で、装着者の動きを阻害しない。


「10分後に本機は、ファシット要塞外周、E-3エリア上空へと到着する。それと同時に、諸君らは速やかに地上へとパラシュートで降下し、地下施設へと侵入してもらいたい」


 ファシット要塞、外周。放射状に広がるファシット要塞ならではの名称である。


「尚、地上は生体兵器シリウス──四足獣型アルファ虫型ガンマの群れで埋め尽くされていると思われる。奴らは空に対する迎撃手段を持っていないために、過度な警戒は必要ないと思われるが──それでも、注意はしておけ」


 その言葉に、柊人は僅かに体が強張るのを感じた。彼は、一度だってシリウスと会敵したことがなかったのだ。


「また、本潜入・精査作戦は、施設の制圧をもって達成とする。施設内のシリウスは──殲滅せよ」


 制圧。要は、施設内の生物を殲滅し、情報を全て抜き取った上で、連合国の旗を最深部に打ち立てるということだ。


「戦争は終わったんだ。何も、ここで大義のために死ぬ必要はない。そうだろ?」


 最後のその言葉は、私情か、はたまた、士気高揚のための常套句か。


 ー◇◆◇ー


 ──ファシット。2150年の世界に於いて、この名を知らない者は居ない。


 「停滞し、腐りきった世界の転覆」という公約を掲げ、非信仰者によって構成される全世界へ宣戦布告をし、要塞を構えていたチベット高原から全世界を傍若無人に蹂躙し続けた、生ける伝説──。


 全世界にモザイク状に拡散していたファシットの思想に対して、彼らファシット本国の兵士は、皆、練度の高い、言わばエースだった。能力がある者ほど、より強くファシットの思想に感化されたのだ。だからこそ脅威だったのである。


(そのファシットが造った生体兵器シリウスが、俺の目の前に居る──)


 当たり前のようで、歪んでいるその事実に、柊人は畏怖にも似た感情を抱いた。


 しかし、それだけだ。それ以上──戦いに支障をきたすほどの「恐怖」は──欠片ほども湧き上がってこなかった。


 狭い通路の向こう側。そこに、虫型の生体兵器シリウスが佇んでいる。


 ここはファシット国の、地下の研究室へと繋がる通路である──筈だ。昨日の哨戒中に発見され、この地に即応起動連隊が立ち入るのは初であるため、詳しい情報はない。


 ひょっとすれば、この施設そのものが、ファシットの仕掛けた罠かもしれない。


 だがそれでも、柊人達はそこを精査しなければならないのだ。人類は、シリウスについてまだまだ無知であると言わざるを得ない。少しでも、情報を得なくてはいけない。


 次の瞬間、柊人の手元の89式小銃が唸る。トリガーが引かれ、その弾倉から5・56ミリ弾が射出される。


 その銃弾数発は真っ直ぐに虫型ガンマの頭部を貫き、そのまま、向こう側の壁に回転したまま突き刺さって運動を止めた。


(いい当たりだな──)


 シリウスは生物的な見かけによらず頑丈だ。その上、確実に、一度の攻撃で動きを止めなければ、どれだけダメージがあろうが平然と向かってくる。


 そんな中で、奴を一撃で殺せたのは幸運だったと言えるだろう。


「おい、ここ、武器庫みたいだぜ」


 ふと、僅か後ろで、同じ小隊の「仲間」がそう言った。後ろを振り向いてみると、彼の目線の先には確かに小部屋があった。歩みを止めて、扉の壊れたその小部屋の中を覗いてみると、そこには大小様々な銃器やらが所狭しと並べられている。


「武器庫、ですか」


 柊人が独り言とも質問ともつかない口調でそう言うと、その人物は「ああ。見たとこファシット独自の兵器のようだがーー」と言葉を返した。


 ファシット製兵器は完全に摘発されている、と言う訳ではない。大戦期に開発された多くのものが、徹底した秘密主義により防衛連合側に隠匿されていたためだ。柊人自身、それらにはかなり興味があったので、あまり警戒せずに、その部屋に立ち入ることにした。


拳銃オートマチックに、小銃アサルトライフル──これは特殊弾か………?」


 どれも見たことがないものだったが、しかし、さして脅威になるようなものは見当たらない。


 無駄足だったか、と胸中で呟きつつ、その部屋を立ち去ろうとした二班の面々は、ふと、柊人が止まったので、つられて足を止めた。


「どうした?」


 この部屋を見つけた人物──ジョンが柊人にそう問いかける。


「これ……見てください」


 そう言って彼が指差した先には、何やら奇妙な物体が置かれていた。


 第一に、それは金属のようだった。二班班員のライトに照らされて、怪しげに黒光りしている。


 しかしただの金属ではない。それは、延べ棒や彫像ではあり得ない造形をしていた。


 それを明確に言い表すことは柊人にはできようもなかったが、彼は胸中で、刹那的にその物体をこう例えていた。


 ──「動物の骨格」と。


 成る程それは、動物──それも四足獣だ──の骨格と、丁度同程度のサイズだった。それに、そう思って見てみると、確かにそれらしき意匠はある。顔に当たる部分や、足に当たる部分──。それの背と思しき部分に取り付けられた機銃だけが、唯一、その物体に「機械」のイメージを与えている。


(機銃……これは骨格じゃないのか?)


 その思考が瞬くと同時、その物体をライトで照らしていたジョンが、何かに気付いたように息を呑んだ。


 何を、と聞く間も無く、彼は口を開く。


「お、おい。まさか、こいつって………」


「どうしました?」


「こいつ、まさかとは思うが、四足獣型アルファ用の「鎧」じゃねーよな………」


 鎧。その柔軟な発想に一瞬柊人は感嘆させられた。が、直ぐに、その考察への畏怖がその感情を上書きした。


四足獣型アルファがこれを纏ったらお終いだ。銃弾が効かなくなる──)


 アルファは足の速い生体兵器シリウスだ。そんな奴を、長距離ロングレンジないしは中距離ミドルレンジの射撃で倒せなくなれば、ひとたまりもない。


「だ、だが。ここにこいつが置かれてるってことは、もしかしたら開発中止品かもしれないぞ」


 重くなった空気を払拭しようと、ジョンが弁解のために言った。


 しかし、柊人の思考は、彼の発言とは真逆の方向に進んでいた。


「いや、違います、ジョンさん。こいつはきっと、開発中止品なんかじゃあない」


 言いつつ、彼はライトで、アルファ用「鎧」の、機銃の内部を照らした。


「これを見てください。ライフリングに火薬がこびり付いている。これは、この機銃が使われていたという証拠です」


 確かに、よく見てみると、そこには火薬らしきものがこびり付いている。


 それはつまり、この鎧が「使える」ということだ。量産はされていなくとも、このような兵器が、今後の戦線で登場する可能性があるということだ。


 その可能性を頭の中で導き出し、柊人は身震いした。


「そ、そんな奴と戦えっかよ……」


 それを言ったのは、二班の誰だったか。誰にせよ、これはこの場の全員が少なからず思っていることだろう。


 かくいう柊人も、ちらりとそういうことを思った。アルファの脅威は、先の戦闘で十二分に理解している。


 そんな空気は拭い去られなかったが、しかし、作戦は続いているので、仕様が無い。そんな中で、さっきまで先頭に立っていた班長は、構えをとったまま部屋を出て行く。


 ──と次の瞬間。そんな班長が、突如として真横から現れた影にさらわれる。


「う、うわああああああああああッ!」


 その叫びが、最後の言葉となった。


 肉が弾ける音が、部屋の中に居る柊人たちからは見えない位置で響き、そして、そこから、口元を血でべっとりと濡らした、四足の殺戮者が出てくる。


 そいつは、鎧を纏ったアルファだった。背中の機銃はどうしたことか取り払われているが、全身を包む黒い金属の輝きは、そこにある同一品と同じである。


 ──殺される。そんな思考が班員全員の脳裏を駆け巡ると同時、誰かが、そいつに向かって発砲した。恐らくそれは、無意識のうちの行動だろう。


 その銃弾が、鎧に衝突し、そして、弾かれる。


(効かない──)


 銃弾が、効かない。


 その事実は全員の体を、見えない、「恐怖」という感情の糸で縛り上げた。銃が効かない相手に対抗は出来ない。そのため、その場の兵士は、誰も動くことができなかった。──たった一人を除いて。


 刹那、水無月柊人という兵士は、小銃を下段に構えたまま、低姿勢で駆け出した。


「な、何やって──」


 背後でそんな言葉が響くが、構わず、彼は、小銃に取り付けられた銃剣を、下段から上段へ振り上げた。


 それに対応できたのは、そうなるのを「知って」いたからか、はたまた、本能が働いたのか。アルファは、持ち前のその瞬発力で、ものの見事に斬撃を回避してみせた。


 柊人が驚愕する暇もなく、アルファは彼にかぶりつく。左肩口に牙がめり込み、装着しているプロテクターを貫通して、そいつの牙が人体に沈み込む。


(いくら全身を守ろうが、眼球だけは無防備だ。この距離ならッ!)


 だが、柊人はひるんでいなかった。そのまま小銃を投げ捨て、腰から抜き放った拳銃をそいつの眼球に突きつける。


 勝負あった。その場の誰もがそう思うと同時に、柊人はトリガーを引いた。


「グルァァァァァッッ!」


 その攻撃は、成功した。眼球に銃弾が吸い込まれ、体内の機構を破壊しつつ後方へと抜ける。それによって、一瞬だけ生じた「アルファが牙に力を込められなくなる瞬間」を利用して、彼はそいつを殴り飛ばす。


 だが、その攻撃はアルファを殺すには至らなかった。吹っ飛ばされたアルファは、尚も、命を喰らってやろうと不遜にも向かってくる。


「下がってろ、手榴弾でカタつけてやるッ!」


 それをキックでいなした彼に、ジョンが声をかけた。この位置ならば、柊人はなんとか逃げられると踏んでの発言だろう。


 成る程それは事実だった。彼は、仮に手榴弾がアルファを消したとして、その爆発から逃れることができた。


「結構です!」


 しかし、柊人はそうしなかった。


 そのまま、三度みたび向かってくるアルファの腹部に、拾っておいた銃剣を突き立て、殺す気で、体の奥まで突っ込んだ。


 それが決め手となった。銃剣での一撃を受け、アルファは、多量出血か、はたまた重要な臓器がやられたか、さっきまでの威勢が嘘のように、静かに絶命した。


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