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第四独立空挺小隊作戦記録  作者: 大月櫂音
「記録:シリウス抗争」
1/50

プロローグ

 この作品は、今(2019年現在)から百余年後の物語です。

 しかし、この作品内の大陸は大きく移動しておらず、世界的な問題もそのままで、おまけに、人間たちは苛烈な闘争に身を投じたりします。──言ってしまえば、政治的なリアリティーが殆ど介在しない小説なのです。

 だから何だ、という話ですが、作者としては、その前置きを言わなければいけないと思い、ここに書かせていただきました。

 それでは、本編をお楽しみください


 西の空に、星が輝いている。


 星、と言っても、満天の夜空に輝く恒星の類ではない。太陽からの光を反射して輝く惑星のことだ。今、どこまでも開けた大地の空に輝いているのは金星ーー宵の明星であった。


 ──チベット高原、北東部。


 その少女が立っているのは、そこである。防寒着は着ているが、しかし、銃の一つも持っていない、無防備で不用心な少女であった。


 その少女の周りには、砂漠迷彩の施されたの戦闘服を着た、兵士と思しき男たちが倒れている──。


「──あなた。あなたは、何なの」


 ふと。たどたどしく、困惑の表情で、少女が口を開いた。その言葉の向く先は、眼前の、黒い軍服を着た、赤髪の男。


「……「何なの」か。どう答えればいいんだろうな、そういう質問って」


 男は、少し面倒くさそうに言い捨てた後で、左手で頭を掻いた。


 その右手には、ロシア製のアサルトライフルが握られている。──ストックに返り血がついた、使い込まれたアサルトライフルを。


 少女の周囲に転がっている死体の全ては、男が作り出したものだった。アサルトライフルの掃射で、10秒とかからず。


「お前、名前は何という?」


 赤髪の男が質問すると、少女は、


「ない……名前なんて………」


 と不可解なことを言った。少女の着ている服は小綺麗で、名前も与えられていないような、逼迫した環境で生まれ育ってきたようには見えなかった。──それなのに、少女は名前などない、と言う。


「そうかい」


 その言葉に、男は少し考え込んだ。


「じゃあ、今つけてやろう」


「──え?」


 少女はますます困惑した。周囲に転がっている兵士から自分を「守った」男が、今度は名前をつけると言うのだ。


「ミラ。お前は今日から、ミラと名乗ればいい。──まあ、嫌なら変えるが……どうだ?」


 それは気を使っているように見えて、その実ぶっきらぼうな言葉であった。


 しかし、少女は、そんな男の口調に、嫌悪感は覚えなかった。


「──いいわ。「ミラ」と名乗ればいいのね」


 不思議と、少女の困惑は消え去っていた。


「で、私がミラとして………あなたは何なの? 名前は?」


 この単純な質問に対しても、男は少し考え込んだ。──やや間をおいて、彼は返答する。


「──レイヴだ」


「イリーヴ?」


 少女のおうむ返しに、男は少し眉を寄せて、


「LEIVだぞ、英語発音だ。ちゃんと発音してくれ」


 と答えた。


「ふうん、レイヴ、ねえ………」


「どうだ、格好いいだろう?」


 少し冗談めかして、男は言った。とても、数人の兵士を殺した残虐な男には見えない。


「──変な名前だわ」


 そう言って、少女は微笑した。


 ──これは、レイヴハリウッドの物語である。


 世界の全てを敵に回しても、悠然と光り続ける星と、一本だけで独立して立つ、孤独な大木。


 木は星に届かない。しかし同時に、星も木に届かない。


 ──それでも運命は、星と木を引き合わせる。

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