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バレンタインとチョコと綿あめお姫 1

バレン=タイン祭初日。

あまり信者が多い教会でもなし、そんなに人は来ないだろうと思っていたのに、予想ははっきり外れた。

出店もいくつも出ており、教会前の広い広場は人が多く行き来している。

そんな中、私はいま、仮設舞台の控え場所にいた。


仮設舞台は、冒険者ギルドのおっさんたちが突貫で作った木製の高台である。簡単ながら数十センチの高さと殺陣ができる程度の広さと丈夫さがある。舞台正面にはテーブルと椅子が並べられ、食事ができるようになっている。

そこで、お姫と一緒に私も歌劇をやる羽目になったのだった。


そもそも、最初は二人して並んで祝福を与えながら、お菓子を渡す、というプランだったが、それに異議を唱えたのがお姫だった。


「だって、なんかすごそうさがなくない?」

「なによすごそうさって」

「ご利益のありそうな感じかな? お布施だってとるんだし、効きそうな感じ大事だよ」

「あなたの無駄に高い身分明かすんだし、それで十分じゃない?」

「んー、それもまあそれなりに意味あるんだけど、やっぱりもっとすごそうだなーっていう感じを直接見せつけたほうがいいわけですよ」

「なんで敬語になったの。じゃあ何するのよ」

「歌って踊るのが一番手っ取り早いかな」

「何その歌って踊れて当然でしょみたいなノリ。あんたみたいなのだと当然なのかもしれないけど私は無理だよ」

「でも讃美歌は歌えるでしょ。竜を讃えるアリエッタとかいけない?」

「そりゃ私も神父さんに半分育てられたようなもんだから大体歌えるけど、せいぜい並よ並」


他の人と比べたことがないのでいまいちわからないが、実際あまり歌が得意だとは思っていない。そんなの聞かされても宣伝効果なんてなさそうなものだ。


「大丈夫、演出は任せろー ということで、竜を讃えるアリエッタ、第1と第6、練習しておいてね。神父さんお願いします」

「わかりました。エリスさん、あなたなら大丈夫だと思いますが、一応復習をしましょう」

「うう、どうしてこんなことに……」


そして、お姫に何度も断ったにもかかわらず、予定のまま本番を迎えてしまったのだった。


今私が着ているのは、帝国の正規のドレスである。またこれが、なんというかすごい服なのだ。いろんな意味で。白っぽいのだが光の当たり具合で七色に変わる天絹という素材でできているこのドレスは、人の肌に吸い付くのである。つまり、体のラインがぴったり出る。もともとはお姫がもってきていたものであり、体形が違い過ぎるので、胸や、尻の部分がいろいろ余るかと心配していたのだが、この特性のおかげでそういうことはなかった。なかったけど、これなんというかもうセクハラレベルである。これが本来皇族関係者しか着られない最正装だというのだから、いろいろおかしいと思う。

皇族関係者じゃないのに着ていいのかもちょっと心配になったが、お姫は「私の嫁枠だから大丈夫」とかほざいたのでみぞおちに膝を入れたあと、雪の中に頭から突き刺した。ちょっとすっきりした。


そんなこんなで、なんにしろ本番である。ドレス一枚きりだが、ドレス自体に色々な保護がかかっているため、寒くない。性能的には、戦略魔法の中心にいても生き残れるとかいうやばい代物である。頼りない見た目に反して、冬の寒さ程度余裕で防ぐ防御性能なのである。


「さて、そろそろ行こうかな。はい、受付ちゃん、綿あめ」

「……なんですかこれ」

「緊張してる? これ綿あめだよ。甘くておいしいよ」

「ふーん」


ちぎって口に運ぶと、甘い味とともに綿が解けて消えていった。白くて甘くてスカスカなあたりお姫のようなお菓子である。見たことのないお菓子だったが、今回のお祭りの出店の中にあるようだ。

お姫の格好は騎士鎧である。女性用の鎧で、見た目から女性だとわかるものだが、お姫の立ち振る舞いがキビキビしているうえに結構かっこよく、男装の麗人的なオーラが出ていた。竜神様といわれても、何も知らない人なら信じられる程度の存在感を出していた。中身を知ると所詮綿あめだが。


「さて、じゃあ行ってくるね。適当なタイミングで出てきて」

「適当なって、いつよ」

「大体その綿あめを食べ終わったくらいかな」

「雑過ぎるでしょ、っていっちゃったし」


綿あめのアドリブのフォローまでしなければならないようだ。





魔法道具から流れるBGMとともに、綿あめは剣舞をしている。滑らかな剣さばきと体運びは美しく、それでいて何かと戦っているかのような激しいものであった。始まった時点ではあまりいなかった見物人もどんどん増えていく。激しくも短かった剣舞が終わり、BGMが変わる。竜を讃えるアリエッタの第1だ。いやだなぁ、出たくないなぁ、そんな気持ちが首をもたげる。このまま出ていかなくても綿あめが如才なくどうにかしてくれるんじゃないか、そんな気持ちを抱いていると、綿あめがこちらに来て、手を取り舞台へと引っ張っていく。

ろくに抵抗もできずに、私は舞台に引きずり出された。






結論から言うと、大盛況だった。綿あめが引きずり出した私の腰を抱き、くるくると踊りだしたのだ。必死に動かされるまま足を運び、BGMにあわせて歌を歌う。必死に歌って踊っているうちに曲は終わった。出来がどうだったかさっぱりわからなかったが、終わった時にはすごい拍手だった。

午後からやる予定になっていた祝福の儀も、1組ぐらい来ればいいかな、と思っていたのだが、結局20組以上が参加した。お似合いですね、と何度も言われて、私はどんな顔をしていいかわからなかった。


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