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受付ちゃんのお休み 3

勝手知ったる教会の台所で、ココアを入れて戻ってくると、神父さん以外にも雪だるまが子供たちと一緒に屋内に戻ってきていた。

雪だるまはいつの間にか服装が変わっており、もこもこの白い上着と赤い帽子をかぶっていた。すごい雪だるまな外見になっていた。どこから持ってきたんだその服。

部屋には香ばしいにおいが充満していた。どこから調達してきたのかわからない焼き鳥が机の上に置いてあり、神父さんと雪だるまが食べていた。子供たちはよく食べるな、といった表情で二人を見ていた。


「あれ? 神父さん、今って断食じゃなかったでしたっけ?」


竜神教では新年15日から10日間、断食の期間がある。昔竜神様が、悪い竜を10日間かけて退治したとか、そんな出来事に由来しているとかなんとか。聖職についていない人たちは行わなくてもいいのであまり知られていない教義だが、神父さんはダメなのではないだろうか。

ちなみに食べるのはダメだが飲むのは許されている。といっても酒はダメとか、他にもダメなものリストがあって、結構厳しい。リストから洩れている飲み物の一つが最近大陸外から入ってきたこのココアであり、これに糖蜜をたっぷり入れて飲むのが神父さんは好きである。だから今もココアを入れてきたのだけれども……


「断食中ですが、これは捧げものですから。捧げものは食べても構わないんですよ」

「へー、そんなルールがあるんですねぇ。あれ、でも前は食べてなかったような」

「同じ聖職者からしか基本的に貰えないんです」

「それ、ルールとして意味あるんですか?」


聖職者はみな同じ時期に断食しているんだし、同じ聖職者から食事をもらう、なんてことはあり得ない様な気がするんだけど……

私も神父さんに教えられたので聖典はある程度頭に入っているが、細かいルールまでは知らないので、もしかしたら何か意味があるのかもしれない。


「断食中でも自分で狩ってきたものは食べられるんですよ」

「へー」


神父さんは足が悪い。もともと冒険者だった神父さんだが、魔族との戦争で膝に矢を受けてしまったとか。日常ではそこまで困っているようには見えないが足を引きずることもあるし、狩りはできないだろう。


「あれ? 同じ聖職者ってだれです?」

「私ですよ。これでも竜人教の上級司祭位も持ってるんです」

「あんたほんとに色々無駄に持ってるね」

「それほどでもないですよ」

「褒めてないよ」


雪だるまがどや顔している。そういえばおととい、雪だるまはコカトリスを狩ってきていた。この焼き鳥はその肉で作っているのだろう。コカトリスといえば高級食材、ひとまず私も置いてある焼き鳥に手を伸ばす。甘しょっぱい味付けの美味しい焼き鳥だった。


「え、ちょっとまって雪だるま、あんた聖職者ってことだよね」

「そうですよ。すごいでしょ」

「でも昨日あんた、普通にケーキ食べてたじゃない」


コカトリスを狩った記念ということで、昨日マスターがケーキを買ってきてくれたのだ。一人一つだったが、こいつだけ甘いものが得意ではないベアさんからもらって二つ食べたのも覚えている。別に恨んではいない。雪だるまがおいしそうに食べていた新作のチョコレートケーキおいしそうだなと思っていたなんてことはない。いつもモンブランだが、チョコレートケーキを選べばよかったとかも思っていない。なんとなくいつも通りでモンブランを選んでしまって結構後悔したなんてこともない。というかこいつが来る前はベアさんが残すケーキは私の次の日の朝ご飯になっていたのに。そうすればあのチョコレートケーキは私のものになっていたかもしれないのに。


「そう、普通のクリームのケーキと、チョコレートケーキと二つも食べてたよね? 二つ。」

「受付ちゃん目がこわいよ!?」

「しかもチョコレートケーキは新作。すごいおいしそうに食べてたよね? ね?」

「半分要る? って聞いたら要らない、って言ったの受付ちゃんじゃない!」

「異論は認めない。神父様、これ、断食を破ってますよね」


今日で断食3日目なはずだが雪だるまは普通に食事していた気がする。ケーキも普通にチョコレートケーキまで食べたし。悪い子にはお仕置が必要ですね。


「アンジェ、教会ではちゃんと守っている風に見せていましたけど、まさかギルドのほうでチョコレートケーキなんて言うごちそうを食べていたなんてずるいですねぇ」

「神父さん待った待った! 鞭持ちながら笑顔でにじりよってこないで、けっこうこわいよ!!」

「お話は懺悔部屋で聞きましょう」

「ちょ、神父さん力強い!! 助けて受付ちゃん!!」

「チョコレートケーキの恨み、忘れない」

「だから半分わけるっていったのにー!!!!」


主役が雪だるまだったし、なんか甘いものでがっつくのはキャラクターじゃないからできなかったという乙女心がわからない雪だるまはまだまだです。


バシーン、という何かが叩かれる音と、「いたい!!!!」という雪だるまの叫び声を聞きながら、私はもう一本焼き鳥を手に取った。


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