6話 そうだ、強くなろう
あの激闘の戦い(羞恥心との)から、一週間が過ぎた。
最初こそ、いっそ殺してくれ!というくらい恥ずかしかったが、一週間もすれば、まだ多少は恥ずかしいが、心頭滅却すれば火もまた涼し、の心でなんとか乗りきっている。
今もちょうど母親とあのときのメイドらしくないメイドが、俺の部屋に競争でもするかのように入ってきたところだ。
「奥様!まだ仕事が終わっていませんよ!前にも申し上げましたが、ここは私達メイドに任せて、奥様は早く仕事を終わらせてきてください!」
「別にサボってる訳じゃないのよ。これは……そう!ただのアリバイ工作よ!」
「なに自信満々にわけのわからないことを言っているのですか!それにあなたが仕事に向かわないと私が坊っちゃまと二人っきりになれないじゃないですか!せっかく私が考えた坊っちゃまと夜逃げする計画が台無しですよ!どうしてくれるんですか!」
「あなたもなにわけのわからないことをことを言ってるのよ!というかそんなこと考えてたの!?ますますあなたを一人でクルスちゃんにあわせられないわね………。」
『………』
「………」
この言い合いに俺とティオはついていけなくなって、無言になってしまった。
そうこうしているうちに俺の母親とあのメイドが俺のベッドの近づいて、俺を持ち上げた。そのあとのことは無心になっていたので、覚えていない。なんかメイドが「私がやります!」とわけのわからないことを言っていたのとティオが脳内で笑っているのだけが頭に残っていた━━━
━━━授乳という名の地獄(?)から解放された俺はベッドに戻された。
あ"あ"ーー、やっと終わったーーー。
『ふふっ。お疲れ様です、マスター。』
このやろ、他人事だとおもって。
それにしても、赤ちゃんって授乳以外なにもすることないんだな。すっごい暇になっちゃったよ。
『でしたら訓練でもしてみてはいかがですか?』
訓練?なんの?
『気配察知や気配遮断、魔力探知や魔力操作など動かなくてもできるものです。』
なるほど。確かに暇潰しにはなるな。
『なかでも魔力操作は魔法をとれるので、優先的にやるとよいでしょう。』
ありがと、ティオ。早速やってみる……………ってどうやるんだ?
『………魔力操作をやるのでしたら、まず体内に流れる魔力を感じることが重要です。感じかたとしては人それぞれですが、一般的に血液の流れをイメージすると良いそうです。』
呆れないで、ティオさん。
体内の魔力か……。血液の流れをイメージして…………。
ん?なんだこれ?なんかもやもやしたものを感じるぞ。
ティオさんやい。これが、魔力ってことでいいのか?
『おそらくそうですね。』
ん?おそらく?
『この世界の人間は生まれたときから魔力を体内で無意識に循環させているので、血液のように流れていて、それを意識的に動かして魔法を撃ったりするそうなのですが、マスターは転生してこの世界の人間にはなりましたが、魂が魔力のない元の世界と混同してしまい、魔力を循環させるということをし忘れているようです。
ですから、魔力が滞ってしまい靄のように感じたのでしょう。』
魂が元の世界と混同か……。おい、俺の魂!しっかりしろ!
『ですが、安心してください。もう数日もすれば身体に魂が馴染んで、魔力を循環させることができるでしょう。』
そうか。じゃあ数日待って、魔力を循環できるようになってから訓練すればいいのに、なんで今からやろうとしてるんだ?
『そのままにしておくと、身体に魔力が溜まっていき、最悪魂が馴染む前にマスターの小さな身体では魔力に耐えきれず、爆発四散するからです。』
ええ!?俺死ぬの?なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!
『…………忘れてました。てへっ。』
こいつ、本当に俺をサポートする気があるんだろうか。
まあ、でもあの駄女神から生まれたのならば納得か。
ティオ、そういえばこの世界の人間も体内の魔力を動かせるって言ってたよな。それって魔力操作と何がちがうんだ?
『この世界の人間がやっているのは体内に流れる魔力から無理やり魔力を引っ張り出して外に放出しているに過ぎません。
魔力操作とは、周辺一帯の魔力と体内の魔力を自分の魔力として、且つ精密に操作することが可能になるのです。ですので、魔力操作を知るものから見るとこの世界の人間がやっていることは幼児の遊戯もいいとこなのです。』
お、おお。そんなに凄いのを俺は女神様からもらったのか。こればっかりは感謝しないとな。
それで、魔力操作ってどうやったらできるんだ?
『ただ強くイメージすればいいだけですよ。スキルをもっていればそれだけで補正は効くので。また、レベルが上がればもっと複雑なこともできるようになります。』
そうか。よし!我に宿りし魔の力よ!我が意思に従い我の身体を駆け巡れ!
『イメージするだけでいいと言ったのに、なんで余計なことしてるんですか!そんなことして魔力を操作できるわけが―――』
俺がふざけて厨二っぽく言ってみて、ティオがそんな俺に呆れていると、
《了解しました!ご主人様!》
『「!!?」』
俺とティオ以外の声が聞こえ、俺とティオは耳を疑った。
え?誰?
《自己紹介が遅れたね。ボクは魔力の集合体と言ったらいいのかな?名前はないよ。よろしくお願いします。ご主人様。》
姿は見えず声だけが聞こえる。
鈴の鳴るようなきれいな少女の声だ。ボクっ子か……。
魔力の集合体?ご主人様?俺が?
《はい!ボクはご主人様の魔力から生まれたので魔力の元であるご主人様がボクの主ということになります!あと、まだ生まれたばかりなので実体になることはできません。》
色々凄いことが起こったんだな。
『魔力の集合体……つまり精霊ということですか?』
《んー、そうともいうね。でもボクには純粋な魔力から生まれて属性がないから無の精霊ってことになるのかな?》
『無の精霊ですか………。そもそも魔力操作を行って精霊が生まれるなんて前代未聞ですよ。』
なんかティオが凄い驚いてる……。
無の精霊か………。じゃあ、今日からお前は"ノイント"だ!
《ノイント……。ボクはノイントです!ご主人様、改めてよろしくお願いします!》
おう、よろしくな。
ノイントにした理由は無の属性……つまり属性の要素が無い。要素が無いを英語にするとノーエレメントだから、少し文字ってノイントにしただけだ。ネーミングセンス云々は一切受付けません!
さて、予想外の出来事があったけど、もう一度やってみるか。
今度は超常的な力がはたらかないようにしないと。
まずは、体内のもやもやを意識して…………ってあれ?もやもやがないぞ?なんか血液みたいに流れてるぞ?
《あ、ご主人様。ボクはご主人様の体内の余分な魔力を消費して生まれてきたからもやもやしたのは消えていると思いますよ。》
そうなのか。良かった、爆発したらどうしようかと思ってたよ。
《ん?爆発?あはは。そんなのするわけないじゃん。》
ノイントは俺の言ったことがそんなに可笑しかったのか、声に出して笑っていた。
………これはどういうことだ、ティオ?
『マスターの驚く顔が見たくて、つい。』
なんか凄い人間臭いぞ。本当に人工知能か?
まあいいや。じゃあ改めて血液のように流れている魔力を意識して、動けーー。おっ、なんか動いたぞ。これを指先に集中させて……外に放出する!
デ○ビーム!!
そう念じると指先が一瞬光り、その光は俺の指先が向いている方向に認識できない程の速度で 一直線に飛んで行き、周りの柵のうちの一本に穴を開け、さらに進んでいって、しばらくすると放出は止まった。俺はまだ首が座っておらず、動かせないので、そのあと放出した光がどうなったかは知らない。だが柵の、一本に穴を開けた威力から考えるに、壁にも同様の穴が空いているだろう………。
………これからは体内だけでできることをしよう………。
PVが100を越えました!読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございました!
これからも『女神様!俺は異世界を満喫します!』をよろしくお願いします。