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最強家族のまったりライフ  作者: もちろう
44/58

44話 不穏な気配はどこへやら

近付いてくるグループは6人の若い男だけで構成されていた。こちらを見ながら近付いてくるので十中八九、目的は俺達だろう。


「なんですかね~あの人達~。気持ち悪いです~。」


ノイントの言う通り、その男達はニヤニヤとした笑みを浮かべてこちらに向かってくるのでとても気色が悪い。


「坊っちゃまは私の後ろに。」


アマリエも警戒した様子で俺を守るように立ち上がった。6人組の連中は依然としてニヤニヤとした笑みを浮かべたまま俺達の目の前まで近付いてきて━━━


バゴンッ!


━━視界から消えた。

…………………え?ちょっ、え?えぇぇぇ………?


「「「えぇ………。」」」


俺達は突然現れた連中のあまりに呆気ない退場の仕方に理解が追い付かず、呆れたようや声を出した。


「え?アマリエも知らないの!?」


アマリエを見ると俺達と同じように口を開けて呆然としていた。連中が吹き飛んだのはアマリエが何かしたのだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

じゃあ、一体何が………。


「!?………え?あ、そうだったんですね。はい、はい、畏まりました。え?坊っちゃまに聞かれるから声に出すな?こっ、これは失礼しました!━━━」


そう思っていると、いきなりアマリエが誰かと喋り始め、一人納得したあと慌てて誰かに向けて謝り口をつぐんだ。


「ええと、アマリエ?」


「はっ!坊っちゃま!ななな、何でもないですよっ!」


俺がアマリエのおかしな行動に驚いて話しかけると、アマリエは俺の存在にたった今気づいたのか俺を見て驚くと、物凄く動揺しながら何かを隠そうと一生懸命はぐらかしていた。


「今の出来事について何か知ってるの?」


「な、何だったんでしょうね?私にもよくワカリマセン………。」


これ、絶対知ってるやつだ………。


「ち、昼食が途中でしたねっ!食べましょうか!」


その後もアマリエを疑いの目で見続けていると、アマリエはわざとらしい程の話のすり替えを敢行した。

もう少し粘ればポロッと言いそうな感じはするけど、それを言ったことでアマリエが何か罰を受けることになりでもしたら困るからこれ以上は止めといた方がいいかな。

俺はそう思ってアマリエのあからさまな話題転換に乗って昼食に戻ることにした。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




………時は少し遡る。

クルス達の歩く街道から外れた森の中に気配の一切を消し、クルス達を監視する複数の影があった。


「ここで昼食をとられるようですね。」


「そのようだな。」


「むー!私もクルスと一緒にお昼ご飯食べたーい!」


「いけませんお嬢様。今回の任務は坊っちゃま達に気づかれないように護衛をすることなのですよ。」


「わかっているけど………。」


「レレナ、今は我慢よ。クルス君の初めての偵察なんだから邪魔したら駄目よ。」


「むう………。」


今回の偵察の別動隊であった。|熾烈な争い(くじ引き)を潜り抜けて別動隊への切符を手にしたレレナ達4人は、クルスが困っているところを颯爽と助けたいという、だいぶ邪な思いを持ってこの任務に臨んでいた。尚、|熾烈な争い(くじ引き)の際に当主権限を振りかざして八百長をしようとしたカレイドは自ら(・・)|別動隊の選定から身を引いたのでこの場にはいない。………理由はお察しの通りだ。


「おや、何者かが坊っちゃま達に近付いてきますね。」


別動隊の4人がクルス達の監視を続けているとクルス達に6人組の男達が近付いてきた。


「あいつら凄いニヤニヤしてる!絶対クルスを見て変なことを考えてるんだわ!あんな奴ら潰しましょ!」


「坊っちゃまは顔を隠しているのでおそらくアマリエが目的かと………。」


「だとしても不愉快だわ………。レレナの言うとおり潰しましょうよ。」


アマリエを見ていやらしい笑みを浮かべて近付いてくる男達にレレナ達は一様に不快感を顕にした。


「ですが、本当に無害な場合も可能性も捨てきれません………。それに、坊っちゃま達の目の前でそんなことをすれば、坊っちゃまに気づかれてしまいますよ。」


ニヤニヤと笑みを浮かべる男達に憤るレレナとレスティアにメイドは渋面を浮かべながら諌めた。


「うっ、それもそうね………。」


レスティアとレレナはメイドの言葉にやりきれない気持ちを感じながらも踏みとどまり、近付く男達の監視を続けた。


「あ……。」


男達がクルス達の目の前まで近付いてきてしまっているのに、動くに動けず監視をすることしかできない自分達の状況を歯噛みする中、執事が何かに気がついたように声を漏らした。


「どうしたの?」


「いえ、鑑定で連中のステータスを見たのですが、称号の欄に"強姦魔"と"強盗"がありました━━━」


「待っててねクルス!今助けるからーー!」


「こらレレナ!クルス君は私がっ!」


「いえ私ですっ!」


執事がその情報を告げるや否やレレナ達は我先にと男達に向かって音速をも越える速さで突っ込んでいき━━━


バゴンッ!


遥か彼方へ吹き飛ばした。レレナ達は男達を吹き飛ばすと、そのまま吹き飛ばした彼らを追いかけて走り去っていった。一連の出来事はコンマ一秒にも到底満たない、本当に刹那の時間で起こったことなので、動体視力が化け物ではないクルスから見れば、男達が視界から消えたように見えたことだろう。


「………しまった、出遅れた。」


一人取り残された執事は、颯爽と助けに入る場面を逃したことを悔しがっていた。


「一応、アマリエには上手く誤魔化してもらうために事情を伝えておくか………。」


いきなりの出来事にクルス達と同じように呆然としているアマリエを見て、事情の説明が必要と判断した執事はアマリエに念話を飛ばした。


『アマリエ、私だ。』


「!?」


執事がアマリエに念話を送ると、アマリエはビクッと肩を跳ねさせて辺りを見回した。


『落ち着け、これは念話だ。私達は別動隊として坊っちゃまの護衛をしている。先ほどの事はあの男達が坊っちゃま達に悪事を働くことが確認できたので行動に移したまでだ。アマリエは坊っちゃまが余計な混乱を招かないように先ほどのことを上手く誤魔化してくれ。』


「え?あ、そうだったんですね。はい、畏まりました。」


『………おいアマリエ。これは念話だ。声に出さずとも話はできる。坊っちゃまに気づかれないように念話を使ったが、お前が声を出しては意味がないではないか………。』


「こっ、これは失礼しました!」


アマリエは今になって声が出ていたことに気づいたのか慌てて口をつぐんでいた。


『はあ………。ともかく、そういうことだから坊っちゃまには私達のことを勘づかれないように上手く誤魔化しておくのだぞ。』


アマリエにそう伝えると念話を切り、一人クルス達の監視に戻った。


「とりあえず、お嬢様達の回収に向かわなければ………。」


執事はクルス相手に上手く誤魔化せず、話を有耶無耶にしようとしているアマリエを見ながら、任務を放棄して吹き飛ばした男達を追いかけていってしまったレレナ達を回収する算段を考え始めた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「ダンコーツまであとどれくらいかかるの?」


昼食を食べ終わり、また歩き始めてから2時間が経過した。別に1時間やそこらで着くとは思ってはいないが、一向に国の姿も見えないとやはり気になってくるものである。


「そうですね、このままの速さで行けばだいたい2週間はかかりますね。」


「2週間………遠いね。」


「まあ、これも旅の醍醐味ですから。気長にいきましょう。」


「カリスに乗せてもらえばもっと早く着けるんだろうけど………。」


「カレイド様からの命令ですからね。」


俺達が転移を使ったり、カリスに乗ったりしてショートカットせずに徒歩でダンコーツへ向かっているのは家を出る前に父さんにそれらを禁止されたからだ。なんでも初めての遠出には多少の苦労があった方が楽しいからだそうだ。


「あと1時間程歩けば町が見えてきますので今日はそこで宿をとりましょう。」


「うん。」


あと一時間か………。

ステータスのおかげで全く疲れはないが精神的に少し疲れてきた。白いローブに身を包み顔を隠している俺が不思議なのか、人とすれ違う度にじろじろと見られていたからだ。"隠密"を使ってもいいのだが、それを使ってアマリエと話すとアマリエが一人で見えない誰かに語りかけているイタイ人だと思われてしまうので使いづらいのだ。

それにしても馬車なんて初めて見た。座るところも車輪も木製なんだ。凄い揺れそうだ。うっ、想像しただけで酔ってきた。


『何やってるんですか………。この世界ではあのような幌馬車が一般的な移動手段です。高級なものだと座る部分にクッションが付いたり、衝撃吸収の魔法が付いたりします。他にも、引かせる動物を馬から調教(テイム)した魔物に変えている馬車もあります。』


色んな工夫がされてるんだね。でも、衝撃吸収の魔法か………。これがあれば地球の車みたいにサスペンションとかつける必要がないね。魔法って凄い。


『ですが、裏を返せば魔法に頼ってしまったからこそ地球のような発想が浮かばないのだと思います。』


そうとも言えるのか………。まあ、地球は地球、この世界はこの世界だよ。魔法があるから地球じゃ実現できなかったことができるわけだし。どちらが優れているとかないと思うよ。


『なるほど。』


『む?クルス、前から気になっていたのだが、クルスのいた世界には魔法はなかったのか?』


うん、そんなの奇跡か何かと同じようなものだと思われていたからね。


『魔法がない世界とは、想像ができんな。』


地球の人から見たらこの世界だって想像もつかないと思うよ。


『そういうものか。』


「坊っちゃま、町が見えて参りましたよ。」


そんな話をティオ達としていると1時間も歩いていたようで、正面に行列ができている町の門が見えてきた。



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