表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強家族のまったりライフ  作者: もちろう
42/58

42 弾遊び

「………なんかお前ら、やけに仲良くなってないか?いや、悪いことじゃないしむしろいいことなんだけどよ。」


アマリエの部屋でアマリエと蛇談義で盛り上がったあと、父さんの仕事部屋に戻ると父さんから怪訝そうな顔でそう聞かれた。蛇について語り合ったことで、ここまで一緒に手を繋いで歩いてくるくらいには仲良くなっていた。だがアマリエはまだ俺に遠慮があるのかおずおずといった感じで手を繋いでいたが。父さんの仕事部屋には父さんと母さん達家族と父さんの側近の人だけがいた。メイドや執事は仕事に戻ったのか既にこの場にはいなかった。


「うん!父さんがああ言って送り出してくれたおかげだよ!ありがとう。………それで、何で父さんはそんなにボロボロなの?」


父さんの身体を改めて見ると服は、所々焼け焦げていたり切り裂かれたりしており、顔に至っては元々の父さんの顔より二周りほど大きく腫れ上がっていた。


「あ、ああちょっとな………。」


俺の質問に父さんは苦笑を浮かべて誤魔化そうとしたが、父さんの視線が一瞬後ろの母さん達に向いたのを俺は見逃さなかった。


「父さん、母さん達に何かしたの?」


ここまでされるということは相当酷いことを母さん達にしたのだろう。俺は父さんを非難めいた目で見上げた。


「おい!どう見ても俺が被害者だろ!なんで俺が何かしたことになる!」


父さんはそんな俺の反応が予想外だったのか目を見開いて抗議してくる。


「だって、母さん達が意味もなく父さんを攻撃するなんてあり得ないもん。だから、それだけの理由を父さんが作ったと思うのは当然でしょ?」


「ふふふ、クルスはよくわかってるじゃない。」


俺がそう父さんに言うと、今まで父さんの後ろで話を聞いていた母さんが嬉しそうに近づいてきて俺の頭を撫でた。


「カレイドはね、皆の不興を買うようなとっても自分勝手なことをしたからあんな風になってるのよ。」


「セーラ!事実に脚色をするな!余計俺の印象が悪くなるだろ!」


母さんが俺の頭を撫でながら父さんのしたことについて説明してくれたが、それを父さんが咎めた。


「ん?父さん、脚色ってことは自分勝手なことをしたのは事実なの?」


「えっ、いや事実というわけではなくてだな………。」


俺が父さんの言ったことの中で気になったことを聞くと、父さんはあからさまに挙動不審になった。


「………父さん?」


「お、俺は悪くない!悪くないんだーー!」


責めるような口調で父さんに確認するように聞くと、父さんがいきなり叫びだし、勢いのままに扉に向かって走ると、そのまま扉を開けてもの凄いスピードで出ていってしまった。


「ど、どうしたの父さん………。」


「あの人のことは気にしないでいいのよ。どうせ夕食の頃になれば忘れてるから。」


「それよりクルスよ。初めての遠出だが大丈夫か?」


母さん達の反応を見るに、父さんのあの行動はよく見る光景らしい。兄さんは父さんのことよりも俺が遠出をすることの方が大事なのか心配そうに聞いてきた。


「うん!アマリエがいるからね!」


俺はアマリエの方を見ながら自信満々に答えた。

本当は自分だけで困難とか危ないことを乗り越えないといけないのかもだけど、生憎俺はそんな殊勝な心は持ち合わせていないからね。ちゃんと守ってもらうんだ。他力本願とでも何でも言うがいい!


《ご主人様開き直りましたね~。》


『ここまで自信満々だとクルスが正しいのかと思えてきてしまうな。』


『………というか、マスターのステータスなら一人でもそうそう危ない目には遭わないと思いますけどね。』


ノイント達の言っていることはスルーする。万難を排してこそ、遠出を楽しめるのだ。


「ふむ、この短い間にクルスから随分な信頼を得たようだな、アマリエ。」


「は、はいいっ、恐縮です!」


俺の答えに兄さんは感心したようにアマリエを見て言うと、アマリエはそれに対し慌てたように返事をした。やはりアマリエは蛇のことになると饒舌になるが、それ以外は大抵おどおどとしているようだ。


「二人共、例の国に行くのは3日後になるからちゃんと準備しておくのよ。」


レスティアお母さんが兄さんとアマリエの会話が終わると俺達に偵察の詳細な日程を教えてくれた。


「うん、わかった!」


「了解しましたっ!」


「いい返事ね。頑張るのよ。」


レスティアお母さんは俺達の返事に満足したのかそう応援してくれた。


「お母さん、もういい?」


「ごめんなさいね、待たせちゃったわね。もういいわよ。」


「じゃあクルス、早く外へ遊びに行きましょう………。」


姉さん達は話が退屈だったのか話が終わったのを確認すると、即座に俺の両脇を掴み連行するようにして俺をズルズルと屋敷の外まで連れ出そうとした。


「わかったから!自分で歩けるから離してっ!」


姉さん達は俺が離すように言うと部屋を出たあたりで素直に離してくれたので、姉さん達と並んで屋敷の外へと歩いていった。


「さあクルス、今日は(ボール)遊びをしましょう!」


外に出るとレレナ姉さんがそう切り出した。


「賛成………。」


「うん、いいよ。でも、ボールなんてどこにあるの?」


俺はてっきりボールを使うのかと思い、レレナ姉さんに聞き返すが、どうやら俺が思っているものとは違ったようで、レレナ姉さんは心底不思議そうに首を傾げた。


「ん?何言ってるのクルス。(ボール)遊びよ。どこにって自分で作れるじゃない。」


作る?ボールを?どういうこと?


「とりあえず、クルスがわかるようにルーナと一回やってみるわね!」


俺がレレナ姉さんの言っていることがわからず、悩んでいるのを見て姉さん達が実践してくれることになった。


「じゃあ私が撃つ方ね。」


「わかったわ………。」


姉さん達は何か役割を決めるとお互いに30メートル程離れた場所で対峙した。ルーナ姉さんはレレナ姉さんと対峙したのを確認すると、いきなり自分の手首を爪で切り裂いた。そんなことをすれば血が流れるのは当然のことで、ルーナ姉さんの切り裂いた部分からは血がどくどくと流れ出していた。


「ルーナ姉さんっ!?」


俺はルーナ姉さんの突然の行動に驚いて駆け寄るが、そんな俺をルーナ姉さんは手で制した。


「大丈夫よクルス………。」


ルーナ姉さんの切り裂いた方の手首を見ていると、流れ出た血は重力に従って下に落ちずにルーナ姉さんの掌へと集まっているのがわかった。ある程度の血が集まると、ルーナ姉さんは徐にその手を握りしめた。すると、掌に集まっていた血がルーナ姉さんの手から飛び出し、大鎌のような形状へと変化したことでルーナ姉さんの手には血でできた大鎌が握られていた。ルーナ姉さんはその変化を確認すると片手でブンと大鎌を振り抜いた。大鎌を振ると血が飛び散り、血によって覆われていた大鎌の姿があらわになった。その大鎌は柄も刃も全て白で統一され、刃部分には藍色の宝石が埋め込まれており、その宝石から血管のように輝く青色の線が全体に這い回っていた。


「"月下の饗宴(きょうえん)"………。この血武器の名前よ………。」


俺が驚きのあまり口をポカーンと開けて固まっていると、ルーナ姉さんがその大鎌の名前を教えてくれた。

血武器………確かヴァンピルフの種族特性だっけ?


『血武器というのは、その名の通り己の血を糧にして具現化させる武器のことです。血武器の種類は個人によって違い、変更することは出来ません。そして、血武器の特徴として自身の身体の成長に合わせて血武器の大きさも変化していきます。また、血武器ごとにそれぞれ特殊能力を持っているのも特徴です。ちなみに、この血武器は何もヴァンピルフだけのものではありません。ヴァンピルフの種族特性である血武器はヴァンパイアから受け継いだ特性ですので、ヴァンパイアも使うことができます。ですが、ヴァンパイアの場合は高位の者にならないと使えないようです。』


説明ありがとうティオ。そっか、ルーナ姉さんがやったことはただ武器を呼び出すためだったんだね。良かった~。


「凄いかっこいいよルーナ姉さん!」


「ふふん………。」


俺がルーナ姉さんを褒めるとルーナ姉さんは嬉しそうに(ない)胸を張った。


「あっそうだ!ルーナ姉さん、手首大丈夫?」


俺はルーナ姉さんが切った手首が心配になり、ルーナ姉さんの手首を見てみると傷など最初からなかったかのように色白の綺麗な肌があるだけだった。


「私とお姉ちゃんはヴァンパイアの血も引いてるから、あんな傷はすぐに治るわよ………。」


「そういえばそうだったね。でも、いきなり血なんか出したら心配になるよ。」


「ん、ごめんなさい。気を付けるわ………。」


いくら治るといっても血を出されれば見ている側としてはあまり気持ちの良いものではない。そんな感じのことを伝えるとルーナ姉さんは顔をそっぽに向けて頷いた。


「クルスー!私も血武器出すわねー!」


レレナ姉さんは今の俺達の会話を聞いていたのか、俺を心配させないように俺に声を掛けてきた。レレナ姉さんは俺が頷いたのを見ると、ルーナ姉さんと同じように爪で手首を切って血を流した。掌に血が集まると手を握りしめて血を掌から飛び出させた。飛び出した血はルーナ姉さんの血武器と同じ大鎌の形を型取った。それを確認するとレレナ姉さんは大鎌を振るい血を振り払った。レレナ姉さんの大鎌はルーナ姉さんとは対照的に全身を漆黒に染め、所々に美しい黒薔薇の装飾が施されていた。


「私の血武器、"血薔薇の幽契"よ!」


レレナ姉さんは血武器が出現すると、俺に向かって誇らしげに名前を言った。

"月下の饗宴"といい"血薔薇の幽契"といい、血武器ってなんでこんなにかっこいい名前が多いの!?俺もヴァンパイアになれば良かったかも………。


「レレナ姉さんの血武器もかっこいいね!」


「でしょ!」


少しばかりの後悔を感じながらレレナ姉さんの血武器を褒めると、レレナ姉さんは嬉しそうに笑った。


「それじゃあ、始めるからクルスは離れてて………。」


「うん、わかった。」


俺がルーナ姉さんから離れると二人は改めて対峙した。


「いくよールーナ!」


「いつでもいいわよ………。」


レレナ姉さんがルーナ姉さんに一言掛け声を掛けると、レレナ姉さんは自身の頭上に無数の氷の弾を出現させた。氷の弾はレレナ姉さんが手を振るうと次々にルーナ姉さんに向かって撃ち出された。ルーナ姉さんはそれに対し、目にも止まらぬ速さで月下の饗宴を振るい迫ってくる無数の氷の弾をレレナ姉さんの方へ打ち返していった。レレナ姉さんは打ち返されてくる氷の弾を血薔薇の幽契をもって切り裂いていった。撃ち出された無数の氷の弾をルーナ姉さんが打ち返し、レレナ姉さんが切り裂く。そんな人間離れした凄技の応酬は、やがて出現していた氷の弾が全てなくなると漸く終わりを迎えた。


「むう、引き分けかー。」


今の凄技の応酬は勝負だったようで、レレナ姉さんはその勝負の結果に不満を漏らしていた。レレナ姉さんもルーナ姉さんもあんな激しく動いたというのに全く疲れていないようで息切れの一つもしていなかった。


「クルス、これが(ボール)遊びよ。わかった?」


え!?いやいやいや!無理でしょあんなの!というかボール遊びのボールって"火球(ファイアーボール)"とかのボールだったんだ!どうりで噛み合わなかったわけだよ!


「う、うん。わかったけど、俺にはできないよ。」


「大丈夫よ!最初はもっと簡単にするから!」


俺が自信無さげにそう言うと、レレナ姉さんはどうしてもやらせたいようで食い下がってきた。


「一回やってみて、ダメだったらそのときまた考えましょう………。」


ルーナ姉さんにも言われ、完全に逃げ道を塞がれた俺はただ頷くことしかできなかった。


「決まりね!じゃあクルスは最初は打ち返す方ね!」


レレナ姉さんはそう言うと、身を翻して俺と距離をとった。


「そうだクルス………。武器は持ってるかしら………?」


レレナ姉さんが離れていくとルーナ姉さんがふと思い出したように聞いてきた。

ルーナ姉さんに聞かれて気付いたのだが、俺は戦闘のとき、いつも魔力を腕に纏わせて闘っていたので自分の武器というものを持っていなかったのだ。


「いや、持ってないよ。」


「別に武器が無くてもできないことはないけど、どうしましょうか………。」


ルーナ姉さんは俺が武器を持っていないことがわかると悩んでしまった。ルーナ姉さんの反応からしてこの遊びは武器が必要なのだろう。


「でも、魔物と闘うときは魔力を刃の状態にして腕に纏わせて闘っているから、今回はそれでやるよ。」


「そう………。ならいいわ………。」


ルーナ姉さんは俺がそう言うと納得し、離れていった。

武器かー。そういえば転生するときにイリス様から剣術のスキルをもらったような………。それなら武器は剣がいいよね。今度、父さんにでも武器のことを聞いてみよ。


「いくわよークルスー!」


そんなことを考えているとレレナ姉さんが氷の弾を浮かべ始めたので、慌てて腕に魔力を纏わせる。俺の役割は氷の弾を打ち返すことなので、切り裂かないように魔力を薄くするのではなく、魔力の密度を上げて強度を上げた。


「いいよー!」


俺が頷くと、レレナ姉さんが手を振り氷の弾を撃ちだした。

うわ!速っ!ええと………右っ!


キィーン!


先ほどよりは遅いものの、レレナ姉さんが撃ちだした氷の弾は俺が驚くには十分な速さがあった。俺は迫ってくる氷の弾を勘を頼りに右腕を振ってなんとか打ち返した。だが、打ち返した弾は目標のレレナ姉さんから大きく外れて、明後日の方向へ飛んでいってしまった。

ってもう次が来てるっ!

最初の氷の弾の行方を追っていると、次の弾が迫ってきていることに気付いたので咄嗟に左腕を使って打ち返した。今度は打ち返す方向を意識しながら打ったのでレレナ姉さんのいる方向に少し近くなった。

それ以降も次々に迫りくる氷の弾を両腕で打ち返していると、目が弾の速さに慣れてきたのか、だんだん余裕を持って打ち返すことができるようになってきた。そのおかげで打ち返す方向に意識を割くことができるようになり、少しずつレレナ姉さんの方向に修正していくことができた。時間が経つにつれ浮かんでいる氷の弾が減っていき、やがて最後の氷の弾が撃ちだされる。俺はそれをレレナ姉さんに向かって右腕で打ち返した。氷の弾は一直線にレレナ姉さんに向かっていき、そして、切り裂かれた。


「当たった!」


「おめでとうクルス!初めてで空振りしないで、しかももう狙い打つこともできるようになったのね!凄いわ!」


レレナ姉さんに当たったことが嬉しくて喜んでいると、レレナ姉さんも一緒に喜びながら褒めてくれた。

この遊び、結構難しいけど爽快感がある。それに動体視力の修行にもなるよ。


「次は私がクルスとやるわ………。」


その後も相手を変えて遊んでいると、あっという間に時間が経ってしまったようで、昼食の呼び出しが掛かったので姉さん達と一緒に食堂へと向かった。


「クルス、どう?楽しかった?」


食堂に行く途中レレナ姉さんが(ボール)遊びの感想を聞いてきた。


「まだ難しいけど、楽しかったよ!」


「そう!なら良かったわ!またやりましょうね!」


「うん!」


その日は、姉さん達と昼食を食べた後は夕食まで姉さん達の部屋でお喋りをし、夕食を食べて自分の部屋に戻るとすぐに眠ってしまった。

そんな日から二日が経ち、遂に軍事国家ダンコーツへ向けての出発の日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ