1話 吹雪の果てに
お前また書いたのか…(呆れ)
とか言われそうですけど書きました。
はっきり言って書きたい欲が爆発しただけの作品です、それでもよければ、どうぞ
その話を耳にしたのは強い吹雪の吹いた後日のことだった。
吹雪の影響で積もった雪が雪崩となり村と街への街道を繋ぐ峠道を塞いだ、そんな凶報に村人達は言葉を発することが出来ないでいた。
昨年から稀に起きる強い吹雪の影響で作物が育たず、餓死者が増え村の人口が減っていたが故の沈黙。
崩れた雪をどかそうにも男手が無い、村人達は自分の畑を取り戻すのに必死でそこまで手が回らない、だが雪を退かさなければ街から来る商人から食料などを買い取ることが出来なくなってしまう。
どちらが村にとって良いかは考えるまでも無く後者だった。
雪をどかす人員は村の数少ない若者20人で行われることとなり、それには女子供も含まれていた。
そんな除雪隊に組み込まれた俺、バルト・サニエルは黙々と、峠道近くの森の隅、村の掟で近づいてはいけないと言われている遺跡への道の入口前で雪を退かしていた。
ザクザクと雪をかき分ける音だけが周りに響き、目の前のただ硬い飴のような雪は減る様子を一向に見せずうっとおしくて敵わない。
感情が表に出やすい俺は家の窓を見れば相当にひどい顔をしているのだと思う。
周りから離れて誰もやりたがらない森の前で雪を掻き分ける、数十分もすればいい加減飽きてくるというものだ。
ちょうど近くに雪に埋もれていない切り株があったはずなので休んでおこう。
どうせこんなの一日かけても終わらないんだから。
そう思い立った俺はシャベルと言う名目の木の板をその場所に突き立てる。
切り株に腰掛けると自分が作業していた場所を見回してみる。
目の前に1メートルはあるだろう高さの雪があるのはもちろん、それ以外には背後に入ってはいけないと言われている森の遺跡への道があるくらいだ。
子どもの頃から近づこうともしなかったこの場所に今では人を避けるために使っているとは、自分も厚かましくなったもんだと1人ごちた。
なんてことを思い出したからなのか、急にその遺跡とやらに俄然興味が出てくるものだ。
近づいてはいけないと口を酸っぱくして言われていたが、あれは子供では敵わない野生の動物が出るから、安全のために行っていたのだろうと自己解釈し行ってみることにしたのだ。
森の奥へと入った俺は鬱蒼と生い茂る草を掻き分けながら遺跡への道を真っ直ぐ進んでいた。
村の人間が誰も来ないせいで整備されていない簡素な道のようなものは、逞しい植物達に侵食されて辛うじて数センチの隙間の分だけ地面が見えるくらいであった。
誰も訪れないと言ったが、本当に誰も来ていないのならそもそも地面すら見えないはずだ、見えるということはおそらく村長が立ち入ったりしているのだろう。
村長は代々あの遺跡を管理する役目があるとかなんとか昔に話を聞いたことがあるが案外その役目は僅かながらでも果たされているようだ。
そんな道が数分続いたと思ったら途端に視界が草一色から灰色の建物に変わった。
その建物は4本の支柱のようなもので囲まれた中心に存在していた。
遺跡と言うには余りにも無骨で、荒く削られた石のブロックで積み上げられただけと言われたら納得しそうな、そんな朽ちかけた遺跡だった。
申し訳程度に入口と思われる穴の上に掲げられた飾り物には、何か棒が曲がったようなそんな変な形をした絵が掘られていた。
杖なのだろうか、俺が知っている知識の中じゃあれは魔導師達が使う魔杖に良く似ているような気が…する。
それを確認しながら穴に近づくと、穴がある角度の問題で光があまり入り込んでいないのか中の様子がほとんどわからないことに気がつく。
入口でじっとまって暗闇をのぞきこんでいると目が慣れ、少しだが見えるようになったので先へ進むことにした。
遺跡の内部は意外と広く、俺が両手をめいいっぱい広げても拳三つ分は余裕がある位には広かった。
部屋には中心に鎮座した台座以外に目に付くものはなく、その台座も何か文字が書いてあり、手のひらの形の窪みがあるだけ。
それに落胆した正直もうちょっと何かないのかと期待を裏切られた感情のまま遺跡を出ようとすると、不意に脳裏に浮かんだ言葉があった。
『吹雪の英雄』
今、この時になぜ子供の時に聞かされた英雄譚の名前を思い出したのかは分からないが、俺はそのことを深く考えないまま、遺跡を出た。
あの遺跡から村へと帰ってきた俺は村長に進み具合を報告してから自宅へと戻った。
正直に言ってなぜあそこが立ち入り禁止にされているのかが分からない。
何も無いし、キケンな野生動物も出なかった。
それどころか何時もはうるさいくらいに鳴いている、鳥の声も聞こえなかったぐらいだ。
ただ、まぁ何となくもう一回行ってみたい気持ちはある。
俺の仕事は基本は街から商人が来た時に代金の計算などをする事なので商人が来れないこの期間は何もしなくてもいい。
数ヶ月分の食料の蓄えはあるし、味に頓着しなければ毎日保存のいい硬いパンと干し肉でもなんとかいける。
村の食事なんてせいぜい豪華でも肉入りシチューくらいだ。
何時もなら干し肉もスープに入れたりするのだが、井戸がたまに凍っているせいでタダでさえ少ない飲み水を自分ひとりが独占することは出来ない。
春になれば少しは溶けてマシになるんだが、それでも少し日差しが強くなって水が染み出すと言った程度。
表面に数ミリの氷が出来るくらいならいい方だ。
ひどい時で数センチにもなることがある。
それだけ俺の住む地域は寒いということであり、また住みにくいということだ。
初めてこの地域に来た旅人はまず宿を取ることを最優先でおすすめする。
外で野宿した日なんか凍傷で死んでしまう。
キチンと風が入らない屋内で寝ること。
食事はお世辞にも美味しいとはいえないが、食べれるだけましだ。
俺は1人だから数ヶ月分もの食料を備蓄することが出来たが、ほかの村人は家族がいたり、育ち盛りの子供がいたりと、食事に困っているようなので俺としては分けてあげたい…が何せ自分ははみ出しものとして扱われている。
俺が九つの時に両親が街で狂った邪神崇拝主義者に殺されてから今の年齢、18まで村人の助けを借りずに生きてきた。
俺は頭が良かった、だから親は俺にもっと知識をつけようと街へ出向いて色々な本を買い与えてくれた。
決して裕福な家庭ではないというのに、俺の将来のためにやりくりしてくれていたのは知っていた。
そんな両親が願っていたのは、俺が一人になっても生きていけるようにすること。
俺の両親は2人とも決して治らない病に陥っていたらしく、いつか来る別れの時から後のためにと育ててくれていた。
両親を殺した犯人は既に捕まり、背後関係などを調べあげられた後に死刑。
正直怒りなど行き場がないようなものだった。
葬式の日、遺体を見た俺は涙が出なかった。
俺は二人がいつか死ぬことを知っていて、覚悟はとっくに決めていたからだ。
死んだことは悲しい。
だが泣いてばかりもいられない、これからは一人で生きていかねばならず、両親はその時のためにあの日までそだててくれた。
ならばそれに報いよう。
一人で生きると決めた。
だがその姿を見ていた他の村人は両親がいなくなったと言うのに子供相応に涙を流さない俺を不気味な子供と認識したらしく、露骨に俺を避けるようになった。
そしてその日から俺の孤独な毎日は始まった。
気がつけば朝で、あの後すぐに眠ったようだった。
夢を…見ていたようで両親が死んだ日のことや覚悟を決めた両親の葬式の日のこと、それを思い出した俺は、今日も一人で一日を始める