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天城 望(あましろ のぞむ)

見直しが終わった分から随時投下していくことにしました。よろしくお願いします。



「何やってんだあいつは……」


自分のクラスに戻ると教室の出入り口の戸に友人(仮)こと愛田公平が挟まっていた。


いつもならスルーするところだが、放置しておくには奴は目立ち過ぎていた。


「……おい、何やってんだよ」


俺は仕方なく声をかける。


「…わかんねえのか?」


扉に挟まりながら愛田は低い声で答えた。


「これは踏切だよ。」

「いや、そんな当たり前のように言われてもな…」


言われてみれば、愛田の腕は踏み切りのバーのように入口を塞いでいた。


「通してー」

するとちょうど、人が通りかかり、愛田は腕を上げ


「はいよー」


とそいつを通した。うむ確かに踏切だ。


何をしているかは実際に見たのでわかったが、それでも意味はわからない。わかるのは愛田がまたバカなことをやっているということだけだった。


「……で? お前はどうして踏み切りごっこをしてるんだ?」

「てめーを待ってたんだよ!」


 愛田はご立腹だったが、対して俺は冷ややかに言う。


「いや、それにしたって待ち方ってもんがあんだろ。踏切ってお前」


「だあーっ! んなことはわかってんだよ! これは失敗だったって!」


愛田は自分の坊主頭をガリガリと掻きむしる。


「揚げ足とってねえで早くワケを聞けよ!」

「ワケって……高校生にもなって踏み切りごっこしてるワケをか?」

「ちげえわ! てめーを待ってた理由だよ!!」


 愛田は一人で勝手にキレていた。完全に八つ当たりだ。いつもなら言い返すところだが、鬼ごっこで疲れていたし、時間もなかった。


「……何で俺を待ってたんだ? 普通に中で待っていれば良かっただろ。」

「てめー、俺を見たら避けるだろ!だからこうして出入り口を塞いで、避けるに避けられないようにする必要があったんだよ!」

「はあ……落ち着け愛田。この教室に出入り口は二つある。それじゃ不完全だ。」


 俺は肩をすくめながら、もう片方の出入り口の方を指す。


「はっ! なめんなって! もう片方の出入り口は天城に塞ぐように頼んである!」


愛田は胸を張って答える。


「俺と同じやり方でな!」

「…天城が?」

「そうだ!」

「……そのやり方で?」

「そうだ!」


全く想像できなかった。こんなバカなことをやる高校生が愛田以外にいるのか?、いるかもしれないが、

天城望に限ってはそんなことはありえない。断言できる。


「てめーと違って俺には頼れる友達がいるんだよ!」

「そうか。それはよかったな」


とりあえず適当に頷いておく。


「だろ!」と、愛田は勝ち誇っていた。


教室の時計を見れば、昼休みはもう5分もなかった。次の授業は物理で移動だ。急いで物理の授業の用意を取って移動しなければならない。


「愛田、話は聞くから教科書を取らせてくれ。次は物理で俺は移動なんだ」

「させっかよ。お前そう言って教科書を取ったら逃げるだろ!」


 警戒されるのは当然だった。俺はそれくらい何度も愛田から逃げている。


「……わかったよ。じゃあ中にいる友人にとってもらう。それならいいだろ」

「勝手にしろよ。そんなやつがお前にいるのならの話だけどな!」


 だが、愛田はわかっていない。友人のことをわかっていない。


 俺は廊下からその友人の名前を呼んだ。俺がクラスで友人と呼べるのはあいつくらいしかいない。


「天城ー」


それを聞いて愛田が鼻で笑った。


「おいおい話聞いてたか?天城はあっちで出入り口をふさいでんだよ」

「呼んだかい?」

「……はっ?」


 愛田の背後から天城が顔を出した。


「おう天城。悪いが俺の席から俺の物理の用意を取ってくれないか」

「それくらいならお安い御用さ」


天城は俺の机からノートと教科書と筆箱を取り、廊下に出てきて俺に手渡した。


「待てや。いや、待って。……なにしてんの? 踏切は? 踏み切りはどうした?」


 同胞の裏切りに愛田はうろたえていた。


「あはは、ごめんね」


「ごめんね。じゃなくてさあ。なんでこっちきてんの。俺頼んだじゃん。あっちを塞いどいでくれって。」

「んー…なんか恥ずかしくなっちゃってね。やめちゃった」

「やめちゃった。って……お前なあ! 恥ずかしいのは俺もだよ! でもお前がやってると思ったからそれも我慢できてたのによお…!」


 さすがの愛田でもあの踏切は恥ずかしかったらしい。


「あはは、それはそれは申し訳ないね」


天城は申し訳なさそう笑っていた。

しかし、俺が愛田と話している時、すでに天城は俺の視界に映っていた。完全にポーズだけの謝罪である。


 体育を常に見学しているからとか、一人でいることが多いとか、そんな安直な理由だけで天城は自分を「傍観者」と称してはいない。

 あいつはどんなときでも、何が起きても、えぐいぐらいに「見ている」だけ。

 文化祭も体育祭も校外学習にもロクに参加せず、いつでもこいつは眺めているだけだった。


 しかし、その天城の性質を愛田に説明する義理も時間もない。


「おい愛田。用がないなら俺は行くぞ。時間がない」

「待てって……すぐ済ませっから待ってくれ」


 愛田はげんなりとしながらも、俺を呼び止めた。


「……なあお前。物理の時間は七島さんの隣だよな。あの校内一の優等生の七島優子さんの。」

「何回目の確認だそれは……」


「僕が聞いただけでも53回目だね。」と天城がつぶやく。どうでもいいことばかり覚えているものだ。


「で、俺が七島優子の隣の席で、それがどうしたって?」

「……二ヶ月前にあった例の騒動の後。七島さんに話しかける奴は現れたか?」

「現れたかって」


俺はうんざりしつつ答える。


「そんな奴が出てこないことはお前がよく知ってんだろ。誰ももうあの優等生にちょっかい出そうなんて考えてねえよ」

「……やっぱり、誰も話しかけるわけねえか。」


 愛田は神妙な面持ちだった。


「ああ…すまん。行ってくれ。逃げると思って待ち伏せして悪かったな」


俺が睨んでいることに気づいて愛田は先へ行くように促す。俺は踵を返して物理室へと向かった。


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