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かくれんぼ


「あれ?消えた?」


廊下から早川の声がする。


「さてはどっかの教室に入ったね? ズルいなあ」


 全くその通りで、俺はある教室の中から廊下にいる早川の様子を伺っていた。


「教室の中をいちいち確認…はダメか。確認してる間に移動されたら捕まえられないし…時間もない。」


 早川は片足をトントンとさせながらなにやら考えているようだった。


「わかった! そっちがそう来るなら私もズルするからね!」


 すると、早川はスマホを取り出して何か操作を始める。電話をかけて鳴らすつもりだろうか。

 確かに今、俺はスマホを持ち歩いている。


 だが、俺の携帯の電話番号を知っているやつなんてこの世に三人しかいない。

 しかもうち二人は親父と母さんだし、残るもう一人も戸成高校の人間ではない。

 他人に聞こうにもそれはできないはずだ。

 友達の少なさは個人情報の保護にもなるのだ。


「あれっ?入ってるの家の番号だけだ? そういやケータイは聞いたことなかったっけ。それなら……」


早川はさらに操作を続けていた。今から助っ人でも呼ぶ気だろうか。

しかし、残り時間は三分を切っている。今から捜索人数を増やしても大した戦力にはならないだろう。


 俺はそこで勝利を確信し、早川の様子を伺うのを止め、クラスの中に溶け込むのに専念した。


 何をするかは知らないがどうあがいても俺の勝ち。悪いが俺のことは諦めてくれ。

 お前ならもっといいやつを探せる。お前の人脈の広さは俺が保証しよう。


 周りを見渡しても俺の存在に疑問を持っていそうな人間はいない。俺は完全に生徒の中に紛れ込んでいた。


「……ん?」


 すると、教室に様々な電子音が鳴り響いた。

 それを聞いてクラスにいた人間が流れるように自分の携帯、スマホを確認する。


 俺のスマホは鳴っていなかった。おそらくアプリの通知音か何かだとは思うが……こんな一斉に、それも同時に通知が来るものなのか?


「ねえ早川さんから通知来た?」

「来た来た。」

「『クラスに変なやつが紛れてないー?』だって」

「誰か探してるのかな?それなら名前書いてくればいいのにね。」

「バカ、ネットで実名出したら不味いでしょ。探してるのウチ学校の人間だよ多分」

「こんな中に怪しいやついないー?」


 クラスの連中がお互いの顔を確認し始める。どうやらこれが早川行った、"ズル"らしい


(早川のやつ、さてはなんかのSNSに投稿しやがったな?)


友達100人できちゃった。で有名な早川だ。その高いコミュニケーション能力がリアルを飛び越えてネットの中で発揮されていたとしてもおかしくはない。


「あ! 怪しいやつってあれじゃない?ほら、そこの……」


 教室の中の誰かが言った。俺は顔を上げずに目線だけを動かして声の方を見る。


「ちょ、ちげえし。何言ってんのお前?」

「いや、ほら、怪しいって雰囲気的に。犯罪者みたいなツラしてんもん。突き出して来ようぜ」

「ふざけんな。犯罪者みたいなツラってなんだよ」

「お前はいつかやると思ってた…やるときはやるっていつも言ってたけど……まさかな……俺は悲しいよ」

「濡れ衣を着せてくんな。真面目に考えろって」


 クラスの男子がふざけているだけだった。俺は胸を撫で下ろす。


「でもこれだけじゃわかんないよねー。」


今度は軽そうな感じの女子二人組だった。


「せめてほかに情報ないの?名前とか写真みたいな個人情報はダメだけどさあ。それ以外ならいいでしょ?」

「それ以外って例えば?」

「イケメンかどうか? とか」

「あんたそればっかりね……聞いてみるけど。」

「アハ、あんたも気になるんじゃないの。」

「イケメンなら捕まえにいくわよ。」


欲望に忠実な女子たちが、早川に更なる情報を提供するように求める。


早川は答えるだろうか……答えるだろう。

向こうだって目的のために全力なのはよくわかっている。そうじゃなきゃこんなことしない。


……しかし、女子にルックスのレベルを評価されるって嫌だな。良い評価を期待するわけではないが。

 俺だって男子だ。不細工とだけは思われたくない。俺は見た目に自信があるわけではないが、これといってコンプレックスがあるわけでもない。至って普通。それが俺だ。


 早川の返信を知らせる通知がクラス全体に鳴り響く。それは、早川が俺の見た目について下した評価が一瞬で拡散したことを意味していた。


(待てよ……?)


 そこである疑念が頭をよぎった。


 そんなことはないとわかっている。


 早川はそんなやつではないこともわかっている。


 だが、考えてしまう。最悪の事態を想像してしまう。


(もしも早川が…俺のルックスを酷評したら?)


 それは俺の学校生活が終わりを告げられたに等しいのではないか?


 また教室中に通知音が鳴り響き、早川からの返信を女子生徒が読み上げる。


「イケメンではない」


 その言葉に背筋がぞわりと冷たくなった。


「……が、ブサメンってほどでもない。どこにでもいそうな顔したやつ。だってさ。」

「特徴なさすぎ。ウケる」

「探すのムリじゃん」


 肉食女子はスマホを机に放り投げる。通知を受けた何人かの地味系男子たちが俺のことじゃね? とふざけていた。

 当の俺はなんだか…なんというか。悲しくはないんだが嬉しくもない。形容しがたい気持ちになった。中の中ってことだろ? 可もなく不可もなくってことだろ?


(いや……何を残念がっているのだ、俺は。)


心のどこかで自分の顔は標準以下ではなく標準以上だと思っていたのだろうか。いやそんなことはない。

自分は並のルックスだとわかっていたはずだ。


……だがこの複雑な気持ちはなんだ?


物事に期待をしないと言っておきながら、実は自分はかっこいいと心のどこかで思っていたのではないか。そう思うとなんだか急激に恥ずかしくなってきた。


「…でもさ、これって逆に言えば顔を見て何にも感じない人ってことじゃない?」


 葛藤の最中さなか、また誰かが言った。


「印象に残らない顔ってことだな。そんなやついるか?」

「気にならないから記憶にも残らないんじゃ?」

「もっかい周りを確認してみようよ」


 教室にいた生徒全員があらためてお互いの顔を確認する。


「……あれじゃね?」

「うん。なんていったらよくわからない顔してる」

「てか誰? あんな人うちのクラスにいた? 黙って勉強してるけど……」


……見つかった。


 俺は静かに席を立ち、入口までは何事もないように歩いて、そして勢いよく廊下に飛び出した。


「あ! 2-Dにいたのね! 進学クラスじゃん!」


廊下にいた早川が声を上げる。


「確実に開いている席が一個あったんでな!」


 俺は、2-Eに居るであろう愛田の席を借り、ついでにノートと教科書も借りて、勉強をしていた。

 普通クラスならいざ知らず、成績優秀者の集まる進学クラスでは、多分珍しくない光景。

 真面目な進学クラスのやつらなら、勉強しているやつのことは邪魔してこないだろうと踏んだ。


目論見は上手くいったのだが、さすがに進学クラス。頭が回る連中だ。あれだけの情報から発想の転換によって俺を炙り出しやがった。


「待てー!」


 早川が追いかけてくる。見つかりはしたが机に座って休んだおかげで少しは体力も回復した。

 スタミナでは大きく後れをとったが、最大スピードならこっちも負けていないのだ。体力など気合いでどうにでも出来る!


 俺は最後の力を振り絞り、全力で逃げた。

時間の指定を間違えて23時の投稿になりました…すみません。気をつけます。

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