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解決

 俺が購買から戻ると、教室はもういつもの騒がしさを取り戻していた。


「この切り替えの早さは見習いたいよね。さっきまで同じクラスの人間を糾弾していたとは思えないよ」

「連中にとっちゃその程度のことだったってだけだろ」

「違いないね。君がいなかった間に、話題の流行は夏休みの予定に切り替わった」


 俺は自分の席に着く。


「おめでとう。君の容疑は無事に晴れたようだ」


 天城は俺の席の後ろでクラスを眺めていた。こいつが近くに来たと言うことは俺の対する面倒ごとが解決したと言うことなのだろう。


「愛田君なら早川さんが連れてったよ。あのままだとクラスの人に噛みつきかねなかったから強引にね」

「なんだ、そんなにキレてたのかあいつは」


 俺はパンの袋を開けながら言う。怒るのはわかるが、あれはやむをえなかったことだ。俺が謝るようなことでない。


「よっほど君のしたことは愛田君にとって許せなかったようだね。テストくらい大したことはないと思うけど、進学クラスの彼にとっては違うんだろうね。おっと、それがわかってない君じゃないかな?」


 わざとらしく天城は言った。


「……お前やっぱりいい性格してんな」

「そりゃどうも。ま、この通り全部が丸く収まった。早川さんに頼まれてた件も、クラスメイトからの容疑も上手くかわし切った。見事な愛田君の使い方だったね。流石だよ」


 天城はまばらな拍手を俺に送ってきた。いちいち反応する気も起きなかった。


 クラスメイトが俺を気にしている様子はない。

 腹の中で何を思っているかは知らないが、とりあえず俺への興味はなくなったらしい。


 一時はどうなるかと思ったが、とりあえず俺はいつもの平穏を取り戻したようだった。

 あとは、先行して配られたの夏休みの課題を消化しながら夏休みを待つだけ。

 イレギュラーはあったが、いつも通りに過ごしていれば問題ないはずだ。


 パンを食べ終えると昼休みの終了五分前の鐘が鳴った。

 次の時間は物理だ。俺は夏休みの物理の課題と用意を抱えて席を立つ。


「くれぐれも、居眠りには注意することだね」


 横を通り過ぎるとき、天城が笑顔で忠告してきた。


「……いい性格の友達を持てて幸せだな俺も」


 お礼に天城の頭を教科書で叩き、俺は教室を出た。

 


 俺はクラスメイトよりも一足早く物理室に向かった。それもlこれもいち早く夏休みの課題を終わらせるためである。

 物理の時間はチャンスタイム。無駄にするわけにはいかない。

 中では進学クラスのやつらがすでに席についており、各自で勉強をしていた。


 俺は自分の席に着いて、さっそく課題のプリントを広げる。


「帰宅部のエースさん」


 すると横から声がした。三度目となるとさして驚きもない。


「……話しかけないでくれるか。こっちは勉強してんだよ」

「そうですか。では勝手に話しますね」


 七島優子が俺に話しかけてきていた。横目で見てみれば、俺の方は見向きもせずに、机の方を向いて問題を解いている。舐めくさった態度だが、俺もまともに応対する気はないので何も言わなかった。


「どうやら陸央りおに伝言をしてくれたみたいですね。本人から聞きました」


 俺はシャーペンをノックする。残すプリントはあと五枚。この物理の授業の時間をフルに使えばギリギリ終わるだろう。


「しかし陸央は諦めなかったみたいですね。もっとも、これで諦めるような陸央ではないと思っていましたが」


 しかし、いくらノックしてもシャー芯が出てこない。課題の消化でシャー芯の消耗が激しかったせいで切らしてしまったようだ。


「とりあえずはお礼を言わせてもらいます。ありがとうございました」


 筆箱を漁って替えの芯を探す。

 ……だが、ない。新しい芯を買ってはきていたが、筆箱に入れてくるのを忘れていた。


「……替えの芯がないんですか?」


 ……いや、ある。


 テスト期間明けだったのが幸運だった。補充用の芯はないが、試験用の予備に持ってきたシャーペンがある。それになら芯がまだ残っているはずだ。

 筆箱から予備のシャーペンを出して、ノックする。シャー芯は無事に出てきた。そして何事もなかったように課題を開始する。


「……ちっ」


 思わず舌打ちが出た。ノートに文字を書こうとした途端、芯が引っ込んだのだ。

 よく芯を出してからもう一度トライする。しかし、何度やっても芯は引っ込むばかりで文字が書けない。


「……芯が短いのでは?」


 優等生の指摘はその通りで、ノートに芯を広げてみれば、予備のシャーペンに入っている芯は折れて一本一本が短くなっていた。


「……宜しければどうぞ。……せめてものお礼です」


 優等生は自分のシャー芯入れから芯を一本出すと、俺のノートに向かってそっと転がした。

 ……随分安く、雑な渡し方のお礼だったが、俺は黙ってそれを受け取った。


 俺は別にこの優等生が嫌いというわけではない。ただ、よくわかないうえに、話したりすると外野から妙な圧力や牽制が入ってくるので関わり合いたくないだけ。

 

 つまりはどうでもいいのだ。


 ほどなくしてうちのクラスの連中が物理室へとやってきた。俺への追及をしていたせいで昼飯を食べるのが遅れたのか、来たのは時間ギリギリだった。


 そして、物理室の準備室から池尻がやってきて授業が始まった。


「はいそれでは、今日は昨日できなかったテスト問題の解説から。……君たちね、補習が嫌なのはわかるけれど粘りすぎ」


 昨日の一点を巡る争いは熾烈を極め、授業時間のすべてを食いつぶした。おかげで不参加を決めていた俺はぐっすり眠ることができた。


「それから、補習の件で連絡です。今日全てのクラスの物理のテストが返しと採点ミスのチェックが終わりました。補習者は35人。過去最多です。でも平均点は上がったので先生は満足です」


 池尻は嬉しそうに言った。生徒からブーイングが起きたが、池尻は気にする様子もなく連絡を続ける。


「どこかの教室を借りようかなと思いましたが、ギリギリ物理室でやれなくもない人数なので補習はここで行います。

 実施日は明後日、木曜日の放課後。詳細は連絡黒板にプリントを貼っておくので見ておくように」

 

 連絡はそこで終わり、授業が始まった。


 俺は授業を聞き流して、課題に取り組み続けた。

 スピード重視で終わらせた結果、七枚あったプリントは全て終了した。

 七島優子の方も俺にシャー芯を渡したきり、話しかけてくるようなことはなかった。

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