プロローグ
七島優子は完璧超人である。
俺がそんな話を聞いたのは戸成高校入学式が行われる前の体育館のことだった。
曰く、成績表ではAと5しかとったことがないとか。
曰く、テストと関するものに対しては満点しかとったことがないとか。
曰く、同じくテストだからという理由で体力テストにおいても全種目満点をとったとか。
そんな隣の席の奴からの話を俺は話半分に聞いていた。すると、周りの生徒も興味ありげに会話に混ざってくる。有名人の話は気になるもの、会話に入りたくなるのは自然なことだ。なんらおかしいことではない。
知らぬ顔ばかりで警戒心の渦巻くこの体育館でいかに早く相手と打ち解けられるか。その結果でこれからの学校生活が決まるといっても過言ではない。入学式の待ち時間から勝負は既に始まっているのだ。
隣に座っているのは、いい奴か厄介な奴なのか。会話の趣味は合うか。はたして自分の嗜好は周りに受け入れられるのか。
そういった品定めをしながらこれからの学校生活を共にする仲間を得ていく。友達は多ければいいというわけではないが、いなければ困ることの方が多い。
そういう点において、自分から積極的に周りが食いつきやすいような話題を振ったこの男子生徒は、自ら攻めに転じた強者であり、また均衡を打ち破った猛者でもある。見た目にもそれなりに気を遣っているようだし、きっとクラスの中心人物になるだけの素養を持ち合わせているのだろう。
この男子生徒の話に入ってきたやつらも大方、そんな予想を立てて会話に混ざってきたのだと思う。
学校生活を楽しく送りたいのなら、学校生活を楽しく送りそうな人間と一緒になるのが手っ取り早い。
何事ともスタートは大事。初め良ければ流れで終わりまで良くなるのが学校生活だ。
周囲の話が盛り上がっていく一方で、俺は適当な相槌を打ってお茶を濁していた。高校ではあまり口数の多くない寡黙な人間だと思われておきたかったからだ。
この先も最低限のコミュニケーションだけをとるようにして深く相手と関わらないようにするつもりである。
ひいては自分の時間を確保するために。少しでも学校にいる時間を短くするために。
そのためには、友人知人をむやみに増やさないこと。つきあいを狭くして自分に干渉されないようにする。関わり合いにならなければ何も起きない。何も起きないことが俺にとって一番の望みだ。
だから友達は、五人もいれば十分。
それ以上は、いらない。