期間限定ダンジョン2
「ここが期間限定ダンジョンだ!」
ごつごつとした岩肌、じっとりと湿った空気。イツキは【暗視】スキルの発動を感じ、扇を手にした。
「セイは見えてる?」
「ああ、問題ない。行くぞ」
セイの足取りはしっかりとしている。イツキは安心して歩き出した。
暗い洞窟をゆっくりと進みながらセイはこのダンジョンについて説明する。
「このダンジョンに出現するのは主にロックゴーレムだ。剣は効きにくいし、魔法もあまり効果が無い。だから今までクリアされていないんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「ああ。だから急所を狙おうとするよりはHPを削っていったほうがいい」
「わかった」
「早速1体目が来たな。頑張れよ」
「え!?セイは?」
「俺は見学。体感しないとストーンゴーレムのめんどくささが分からないだろうからな」
「死ぬ前に助けに入ってよね」
「はいはい。ちゃんとやるから早く行って来い」
イツキはゆっくりと進んでくる紫色のストーンゴーレムを扇を構えて待ち構えた。
「4分14秒。ゴーレムにコアがあることに気づいたのは良いけどあれを壊すとドロップから大きい鉱石がなくなるぜ」
「そんな法則があるの?」
「ああ。普通のモンスターとかだと急所を狙った場合のほうがいいドロップになる。モンスターの体、欲しい部位を傷つけるとそこの素材は手に入らなくなるんだ。だから急所を狙って倒したほうがいい。ただ、ゴーレムは岩とか鉱石で出来ている。コアは岩や鉱石をまとめる力があると推測される。だからゴーレムの体の中で貴重な鉱石がまとめられ固形化しているのにコアを壊すとそれがばらばらになってドロップするのが破片になっちまう」
「今回は弱点はコア?」
「そうだ。運営も考えてるよ。死ぬ可能性が高いがいいドロップを手に入れるか、コアを破壊して大量に倒してちまちまドロップを集めるか」
「めんどくさいな」
「まあ、経験値はどっちで倒しても変わらないし、すげえおいしい。頑張ろうぜ」
「うん」
セイは行き当たりばったりに進んでいく。三つ目の曲がり角の先は広いフロアになっていた。セイが踏み込むと大量のロックゴーレムが出現する。
「げ、モンスターハウス」
イツキが呻くと楽しそうにセイは言う。
「ラッキー、イツキ競争しようぜ」
「なにで?」
「ゴーレムの討伐数。少ないほうが罰ゲームで」
「こんな死にそうな時に?」
「だからこそやるんだろ?モチベーション上げていかないと2人とも即死に戻りだ」
「……分かったよ」
セイの言うことに納得はしてもやりたくない物はやりたくないもので。イツキはため息を吐き、扇を持ち直す。
「じゃあ行くぞ!」
セイは色とりどりのゴーレムの中心に走りこむ。一拍おいてイツキも走り出した。
「終了っと!俺は29体。イツキは?」
「じゅういったい……ハァ、なんで、息を切らしてないのさ……」
「鍛え方が違うんだよ。俺の勝ち!罰ゲームは何にしようっかなっ!」
うきうきとセイは考え出す。もう好きにして、とイツキはつぶやき悔しい気分を叩きつけるように部屋の隅の採掘スポットを掘った。
がつんがつんとピッケルを叩きつける。すると取れるは取れる鉱石の山。しかも色とりどり。名前の知らないものばかりだが、さっきのカラフルなゴーレムからドロップしたものと同じようだった。
ドロップ品よりも掘った鉱石のほうがサイズが大きい。イツキはいっそう力をこめて掘り始めた。
八つ当たりとはいってはいけない。
イツキがいくつかの採掘スポットを掘り終え、次の採掘スポットを探していると、セイは楽しそうに声を上げた。
「よし!決めた。イツキには可愛い女の子キャラをロールプレイしてもらう!」
「は?ゴーレムの攻撃が頭に当たったの?」
「当たってない。イツキは元気系とクール系とミステリアス系どれがいい?」
「……どうしてそうなった」
「こうしてこうなった」
セイの言葉にイツキはまたため息をつく。がんがん幸せが逃げていっている気がするがもう癖になってしまってやめられない。
「セイが何をしたいのかがわからないよ」
イツキはピッケルを心の支えとばかりに持ち直し、採掘スポットに向かう。
「分からなくて良いけど約束は守れよ」
背後でセイはにやりと笑った。
次回まで限定ダンジョン編の予定です