初めての鍛冶
遅くなってすみません。少し短めです。
* * * *
宿屋でイツキは目が覚めた。
ちょうど良く朝である。イツキはカマノナカに向かい、カリンに今日必要なものを聞く。
「今日は……特に無いわね。お休みでいいわよ」
「ありがとうございます。あと、鍛冶を教えてくれそうな人、いませんか?」
「どうかしたの?」
「料理も採集も出来るようになったので次は自分の使いやすい武器が作れるようになりたいと思ったんです。俺の使っている武器珍しいので」
「それはいい心がけね。たしかウルカの鍛冶場はヒューマンが親方を怒らせて使えなくなったのよね。隣村のトーイ老のところがいいと思うわ。トーイ老は昔リュナの武器を作っていた凄腕の武器職人なのよ。私の包丁も彼の作品なの。あなたの事は前から話してあるし、ちょうど良いかもしれないわね。ちょっと待ってね、今手紙を書くから」
カリンは手紙をしたため、イツキに渡す。
「はい、コレをトーイ老に渡してね」
「はい!」
イツキは逸る気持ちを抑えきれず、町を出てすぐ走り始める。
全力で走っていると、ぴこん、と音がして、
【疾走】スキルが追加されました。
とログに浮かんだ。
隣村は小さく、すぐに鍛冶屋を見つけることが出来た。
「すみませーん!」
と店で大声を上げると、店の奥から目つきの悪いドワーフが出てきた。
「なんだ」
「カリンさんの紹介できました。鍛冶の仕方を教えて欲しいんです」
イツキはトーイに手紙を差し出す。
ドワーフは手紙を読み、イツキを見た。
「お嬢ちゃんがイツキか?」
「はい」
「ついて来い」
ぶっきらぼうなトーイについて店の奥、鍛冶場へ案内してもらう。
トーイは炉に鉱石を入れ、インゴットにして金床においた。
そして何度も打つ。
150回を越える頃形が整い、剣を冷やす。
そして研磨をして完成だ。
さすがOLO。ゲームといえども叩いたら勝手に完成するわけじゃないのか。
「やってみろ」
「はい」
イツキは真剣に炉に向かった。
「もっと強く打て!」
「そんなんで切れるか!もっと研磨しろ!」
などと散々に叱り飛ばされながらイツキは剣を打つ。
目は霞み、頭が少々ぼんやりするが体は教えられたとおりに動いている。
もうどの位剣を打ち直したか分からなくなり当分たった時、トーイはイツキに今までとは違う鉱石を渡す。
「次はこれで作れ」
イツキはそれを受け取り、無心で剣を打つ。
研磨を終わらせトーイに渡すと、トーイは剣をさまざまな角度から見て言った。
「いい出来だ。これでお前に教える事はもう無い」
トーイはイツキの最後に作った剣にあう鞘を見繕い、剣を収めてイツキに渡した。
「やる。持って行け」
「ありがとうございます」
差し出された剣を条件反射で受け取る。
イツキの頭はもうほとんど働いていなかった。
よく分からないけれど、とりあえず終わったんだ、という認識しかない。
フワフワとした足取りでイツキは鍛冶場から出ようとする。
「……あれ?」
安堵だろうか、イツキの霞んでいた視界が急に暗くなっていく。
「おい!大丈夫か!」
その言葉もフェードアウトしていき、イツキの意識はまるで電源が切れるように途切れた。
「……ここは?」
イツキが目覚めたのは知らない部屋だった。
イツキは何があったのか記憶の糸をたどる。
えっと、昨日は鍛冶屋に行ってトーイさんに教わって……。そうだ、その途中で倒れたんだ。俺って軟弱だなぁ。鍛えないと。
イツキがベッドで身を起こし、ぼんやりとしているとお盆に料理を載せたカリンが入ってくる。
「イツキちゃん、大丈夫?一昨日はごめんなさい。トーイ老は物事に熱中すると時間を忘れる人なの」
「そうなんですか」
どうやら俺は二日間も打ち続けていたらしい。それで倒れてカリンさんに連絡が行ったのか。
「イツキちゃん、本当にすまんかった。お詫びにお嬢ちゃんなら何時でも鍛冶場を使わせてやるよ」
開いたままの扉からトーイが入ってきて頭を下げた。
「ありがとうございます。ではさっそく作りたいものがあるんですけど……」
「駄目よ!イツキちゃんは病み上がりなんだから!」
「そうだ。後鉱石は自分で持って来いよ」
「トーイ老!あなたはちゃんと反省しなさい!」
「すまん」
カリンの怒りにトーイは小さくなる。
「分かりました。まだ今度にします」
イツキもしぶしぶ諦める。今日のカリンは力ずくでも自分をベッドから出さないだろう。
あんな筋骨隆々なカリンさんに力で勝てるわけが無い。
イツキはカリンに姫抱きにされカマノナカに帰り、その日はぐっすりと寝てログアウトした。
余談だが、カマノナカまでの道での視線は二人に釘付けであった。
読んでいただきありがとうございます。
ついでにカリンさんはヒロインじゃないです。