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イツキの目を覚まさせたリョウは松明をともす。奥のほうから何かが這いずる音、何かがぶつかる音が聞こえてくる。イツキは鉄扇を握り、何時敵が来てもいいよう意識を尖らせる。
「準備はいいか?」
リョウは片手で松明を持ち、片手で剣を握っている。
「リョウ、明らかにアンデッドだよね。物理で倒すのが難しいと有名なアンデッドだよね?しかも数がおかしいのだけど!?」
「ああ!レベリングにちょうどいいだろ?残念ながら俺は光魔法系覚えてないから物理しか出来ないけど。イツキ覚えてる?」
「覚えているわけが無いよ。第一の町のそばではアンデットは出ないんだから!」
「そうかぁ。じゃあ物理で頑張ろうぜ」
「馬鹿!」
這いずるゾンビをスケルトンの攻撃をかわしたその足で踏みにじり、鉄扇でスケルトンの腰骨をだるま落としのように抜き、穴の壁にたたきつけて粉砕する。
背後から迫るブラッドバットを宙返りしたその足で地面にたたきつけ、さらにゾンビに向かって蹴り飛ばす。
「ワォ、俺のすること無いじゃん」
「黙って手伝って!」
「大丈夫だって。ほら俺松明を持つって仕事があるし」
「〈ライト〉とか魔法技でないの?」
「いつもパーティのやつに任せてた」
「……そう」
話している間もイツキはアンデットを屠り続ける。
床は哀れ踏み潰され、倒されたゾンビで足の踏み場が無い。まともな人間ならではあるが。
イツキはまともではないので気にせずゾンビを踏みつけている。
そうしてアンデッドを倒しつつ、進んでいるうちに、分かれ道があった。
そのどちらからもアンデットたちがあふれ出ている。
あまりの量の多さにイツキ一人では捌くので精一杯だ。
とても進む事は出来ない。
「イツキ、そろそろストップ。こっから先はボスが出るから行かないほうがいい」
「行かないの?」
「パーティで来ても全滅が当たり前のところだから駄目だ」
「了解」
そのままアンデットを捌くという作業をするイツキ。
さっきから何度もレベルアップを示すのであろう音がなっているがうるさいだけである。
集中力が切れるというか、電子音が不快だ。
何か気持ちの悪い音。
変えられないのかな。
なんてことを考えながらもイツキは止まらない。
しばらくイツキのみが戦っている間にだんだんアンデットの数が減ってきた。
「……イツキ、ちょっとまずいかも。これボスのときの音楽だ」
「さっきとどこが違うの?」
「ちょっと暗くなった」
「この廃人め。で、どうするの?逃げる?」
「逃げない。俺も参加する」
左側の道の奥から、がしゃん、がしゃんと、金属同士が当たる音がする。
「来た」
それは鎧を纏い、ハルバードを引きずった他の個体より少し大きいスケルトン。
「スケルトンナイトだ」
リョウは器用に片手に松明を持ちつつ、もう片手で剣を構える。
スケルトンナイトはハルバードを振り上げリョウに向かって突進する。
リョウはハルバードを剣で受け止めるものの、あまりの力の強さについ両手で剣を支え、耐える。
リョウの手から松明が落ち、スケルトンナイトに踏み消される。
「しまった!」
「リョウ!下がって!」
イツキは闇に目を慣らし、【暗視】スキルの発動を感じた。リョウとスケルトンナイトの間に割ってはいる。
ハルバードを扇で受け止め、鎧に蹴りを入れるもびくともしない。
イツキは一度スケルトンナイトから離れ、体勢を立て直す。
そして、スケルトンナイトの鎧と兜の間の首の骨を打ち、兜を地に落とした。
そのままスケルトンナイトの鎧の中に扇を叩き込む。
骨の砕ける音が聞こえ、鎧は地に落ちた。
「終わったのか?」
「うん」
「じゃあ早くここを出よう。松明が無い中次が来たらまずい」
「分かった」
イツキは鎧をどかし、扇を拾ってリョウを先導する。
穴から出てすぐの岩場で二人は座った。
「まず、一人で戦わせて悪かった。俺の準備不足だ」
「別にいいよ。レベルが上がったし」
「ありがとう。んじゃ次。【暗視】ってどうやって手に入れたんだ?嫌だったら言わなくてもいいぞ」
「バイトしているところの人との特訓の中で身についたんだよ」
「どんな特訓だ?」
「夜に獲物を狩ることだったと思う」
「なるほど。クエストでは覚えられないってわけか」
「どういうこと?」
「そこからか。まずスキルの取得方法は三つ。
一つ目はクエストで手に入れる方法。クエストの報酬として教わるタイプ。俺の【索敵】はコレ。
二つ目は系統樹。スキルを使って熟練度をあげていくとその系統のスキルが手に入るんだ。
三つ目は訓練。とにかく訓練する。ただほしいスキルにあった訓練をしなくちゃいけないんだ。スキルにあった訓練って言うのが分かりにくいからあまり使われない方法だな。お前のはたぶんコレ」
「へぇー」
「さてはお前、公式ページとか攻略サイトとか見てないだろ。」
「うん。」
「せめて公式だけは見てくれよ……。もしかしてメニューを換えてすらいないのか!?」
「なにそれ」
「……最初から説明するな。まず、OLOは自由度の高さが売りだ。ただ、βテストのときにあまりにもやり辛くて苦情が殺到。このままじゃ売れないと思った会社がシステムアシストとかを加えたメニューを追加した。でも自由にやりたい人もいるだろうということで、古いメニューが初期設定なんだ。このメニューだとカスタマイズ必須でめちゃめちゃめんどくさい」
「へえ」
「んで、お前のメニューは最初のまま。使いづらいままなんだ。メニューを変更することをお勧めするぜ。メニューの設定からボタンひとつで切り替えられるから。今のままだと、システムアシストもドロップアイテム自動回収もクエスト受注ウィンドウも出ないぞ」
「最初のメニューをカスタマイズしたらそれらは付くの?」
「ああ、付くと思うけど」
「あとシステムアシストって?」
「システムアシストはその名の通り、システムがプレイヤーのアシストをしてくれるんだ。技なら初心者でも熟練者のように技を放てるし、鍛冶も金属を叩くだけ。素人がファンタジー世界で生活する必須のものだな」
「ふうん。技ってアシストなしでも使えるの?」
「使えるぜ。すげえ難しいけどな。まず、初期動作っていう動きの型を自分の力できちんと決めないと発動しない上に途中でぶれたりしたらそれだけでもう失敗しちまう。ただ、途中の動きの型を左右逆にしたりは出来るぜ」
「そっちのほうが便利そうだけど」
「バーカ。素人が出来るわけないだろ。筋力が上がればマシになるとはいえ、剣は結構重いし。そんな重い剣を型どおりに振るなんて相当訓練しなきゃいけない。そんな事よりは技使ってがんがん倒したほうが面白いじゃん。だからみんな一度は挑戦して諦めるんだ」
「いつも背負ってるじゃん」
「腕だけで支えるのと体全体で支えるのは結構違うんだよ」
「そうなんだ」
「さぁーて、帰るとするか」
「うん」
イツキはリョウの武勇伝を聞きながら、街道を歩く。
まだ現実ではサービス開始から一週間も過ぎていないのに相当なことをしたらしい。
リョウとはウルカの広場で別れ、イツキは宿屋に部屋を取り、ログアウトした。
* * * *
リングをはずしてVR機の電源を落とす。
寝る前に携帯端末を確認するとメールが入っていた。
「師匠だ」
葵さんへ
お久しぶりです。久々に手合わせがしたいので明日の朝八時に道場に来てください。樹君もつれてきてくださいね。
「相変わらず強引だな、師匠。まあいいや。葵には明日の朝伝えよう」
きっと明日は道場で久々の稽古だ。早く寝よう。
樹はすぐに明かりを消した。
そういえば段落分けしていなかったなと思ってやってみました。
どこで分ければいいか良く分かりません。