穴へ
テストやっと終わりました。
ストックはまだあるんですが紙に描いているので打ち込むのがメンドクサイです。
樹はリングを外し、部屋のカーテンを閉めた。
ゲームをしているうちに日は暮れてしまっていた。
「葵はスタートダッシュで部屋から出ないんだっけ。夕飯は手抜きでいいかな」
冷ご飯に梅干を乗せ、お茶を注ぐ。
お茶漬けは手軽だし、最高だと思う。
ゆっくりと良く噛んで食べ、食器を片付け、シャワーを浴びた。
部屋に戻ると、携帯端末がメールの受信を知らせている。
「なんだ、涼也か」
明日町の西門集合という連絡だった。
樹は返信することなく、ベッドに倒れこんだ。
樹は目覚ましの音で目を覚ました。
顔を洗ってエプロンをつけ、キッチンに入る。
今日の朝食はカリンに教わったオムレツである。
「おはよう」
「おはよう」
欠伸をしながら葵が階段を降りてくる。
「ちゃんと寝てるの?」
「寝てる。ゲーム内で」
「それ、疲れが取れるの?」
「さあ?あと今日もレベリングするからおにぎりをお願いしてもいいか」
「分かった。でもちゃんと休息もとりなよ?」
「取ってるって。ゲームの中で」
「馬鹿」
「褒め言葉だな」
「ドヤ顔しない。冬休みの宿題は終わってるよね?終わってないならVR機取り上げるよ」
「終わってる。涼也と協力して終わらせた。樹は?」
「当然配られて一週間以内に終わらせたよ」
「そうか。あと、な」
「ん?」
葵は半分ほど食べたオムレツを見つめ、樹に言った。
「料理、上手くなったな。どうしたんだ?」
「ちょっとね」
樹は笑った。
* * * *
西門前。
約束の時間にイツキがそこに着くと、金髪の物々しい鎧の男がにかりと笑った。
「イツキ、別嬪さんだな」
「許したわけじゃないよ」
イツキがそういって睨み付けると反省しているのかしていないのか、笑ったままリョウは謝る。
「わりぃって。レベリング優先的に付き合うからさ」
「……ならいいけど」
「さて、どこに行く?」
「お勧めで」
イツキはまだ食材となる獣や、リュナに連れられていった森のボスとしか戦ったことが無い。
だから効率のいいスポットなんて知っているわけが無いのだ。
「んじゃあ、穴に行くか」
「穴?」
「運営がスタートダッシュイベントで開放してるダンジョンらしい。ハイペースでアンデッドが湧くから通称黄泉の穴」
「へぇ」
「そういやイツキのメイン武器ってなんなんだ?」
「鉄扇。」
「……それ、東の森のボスのレアドロップだよな?ネタ武器として有名な」
「これが一番使いやすいんだよ。君は知ってるよね」
「……恐怖の森宮道場か」
「そんなに叔母さん怖かった?」
「お前の叔父さんと叔母さんは怖すぎる。」
「あはは。後この武器暫撃が出来るようにしたいんだよね」
「そんな魔改造してくれるような鍛冶師はいないと思うぞ」
「じゃあ自分で作るよ。どこか弟子を取ってくれそうな鍛冶師いないかな」
「え、お前そのやり方でスキルを手に入れてたの?」
「他にあるの?」
「基本は生産なら生産系クエストを受けて生産系スキルを手に入れるんだ。作るのはシステムがアシストしてくれるからな。
あとは延々と作って熟練度をあげるといいものが出来るようになるって訳だ」
「へぇ」
「へぇって…お前今までスキルをとったことなかったのか?」
「ちょっと待って……」
イツキはメニューを開き生活スキルを確認する。
「料理と解体が入ってるよ」
「それどうやって覚えたんだ?」
「NPCの人に教わった」
「クエストじゃなくて?」
「うーん。特に依頼は受けてないと思うよ」
「いろいろな方法で覚えられるもんなんだな。
まあとにかく、料理スキルは自分の作ったレシピを登録できる。そこから量産も出来るから料理人をやるならお勧めだ。」
「ふーん」
料理人をする予定は無いけど、レシピが登録できるのはいいな。
何の材料を使うかのメモになるし。
「んじゃあ、遠いからそろそろ行くぞー」
「分かった」
西門から出て歩き、街道沿いに歩いて隣村へ。
村の奥、北のほうにある山へと登る。
山の麓、ぽっかりと真っ黒い穴が口をあけていた。
「アンデッドの活動時間の夜までだいぶ時間があるし。先にここで仮眠をとろう」
「穴からアンデッド出てきたりしないの?寝込みを襲われるのヤダよ」
「今までそんな例はないし、【索敵】で敵が半径50メートル以内に来たときにアラームがなるようにしておくから。安心して寝てくれ」
「分かった」
二人は洞窟の入り口の横岩場で座り込む。
イツキは疲れていたのかすぐにまぶたが落ちた。
「おーい、イツキ?イツキさーん?」
「ん」
イツキはすぐに寝入ってしまい、リョウにもたれかかる。
リョウが声をかけても唸るだけで起きようとはしない。
そんなにレベリングしていたのかなぁとリョウは誤解する。
ぼうっとしているうちにリョウも眠くなってくる。
リョウは現実での昨晩からほぼぶっ続けでレベリングにいそしんでいるのだ。
疲れていないはずが無かった。
リョウはメニューで三時間後。丑三つ時と呼ばれる時刻にアラームがなるようにセットし、眠りについた。
リョウはアラームで目が覚めた。
【索敵】のほうではなく目覚ましのほうだ。
空を見上げると満天の星が輝いている。
「イツキ、休憩終わり。ほら、起きろ」
「うー」
「ほら、飯」
リョウはインベントリからサンドイッチを出し、イツキに渡す。
イツキは時折かくり、と首を揺らしつつサンドイッチを食べる。
リョウはそんなかわいらしいイツキを見て、サンドイッチを具のはみ出そうな力で握った。
「リョウ?たべないの?」
「い、いやっ」
不思議そうに見るイツキを誤魔化すように、リョウは水でサンドイッチを流し込む。
「いざ、穴へ!」
「おー!」
そして二人は洞窟へと入っていった。
「痛った!」
「大丈夫か!?」
イツキは寝ぼけているようで蹴躓く。
前途多難である。