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カマノナカ

「はぁーい!カマノナカへようこそ!今ご案内しますね!」


入ってきたとたん明るい笑顔で案内してくれたのは、かわいらしいフリフリのミニスカートをはいた、ごつい男。

あまりの衝撃にイツキは黙ってついていってしまう。


「今日のお勧めはマクの実のオムライスかしら」


メニューを差し出すその手は毛が濃い男の手。

さらに筋肉もついていて、片手で林檎どころか西瓜(スイカ)も割れそうだ。

じっと見るわけにもいかないのでメニューに視線を落とすが、固有名詞が分からず、よく分からない。

こうなったらお勧めを頼むのが一番いいかな。

そう思ったイツキは簡潔に頼む。


「オムライスで」

「わかったわ。今から作るからちょっと待っていてね」


目に毒のメイドがごつい声を精一杯かわいらしくして言い、去っていく。

メイドがキッチンに消えるとイツキはため息をついた。

本当に目に毒だ。せめて毛ぐらいは剃ってほしい。

というかごつい体でミニスカートもなぁ。クラシックスタイルメイド服の方ならまだマシなのに。

ぼんやりと机の上を眺めつつ、店の中を流れる音楽に耳を傾ける。

音楽の趣味はいいな。この曲を聴くために通いたくなる。

ほぼ音楽を鑑賞することが目的になりかけているイツキだが、そこで終わるほど甘くは無かった。


「お待たせしましたぁ~」


また目に毒なメイドがやってきて、イツキの目の前にオムライスを置いた。


「では、何かあったら呼んでくださいね~」


とメイドは去っていく。

イツキはため息をつきながら、スプーンに手を伸ばす。

食欲は無くなった。けれど残すのはもったいない。

そんな気持ちでオムライスを口に入れた。


「!?」


それはオムライスとは思えないほど繊細な味のオムライスであった。

卵はふわふわのとろとろでかかっているソースは市販のトマトケチャップなどではなく、きっとトマトから作ったであろうソースだった。

美味しい。

イツキの頭の中にはそれしか浮かばない。

さっきまであんなに気に入っていた音楽を気にすることも無く、イツキはオムライスを口に運び続けた。


「ご馳走様でした」


手を合わせてきちんと言う。

これは病み付きになる。

会計をしようと、イツキはさっきのメイドを呼んだ。


「すみません、お会計いいですか」

「はーい!1260(ギル)になりますね~」

「はい」


一食でこれは痛い。

でもあんなに美味しいなら払いたくなるなぁ。

残金740G早くクエストを受けてお金を稼がなければ。


「あら、あなたって冒険者?」

「はい、そうですけど…」


メイドはイツキがインベントリからGを出したのを見てたずねる。


「あら、なら後輩ね。どう?よければ冒険に必要な知識教えてあげるわぁ~」

「いいんですか!?」


なんか旨い話すぎる。

こういうのって後で悪いことが起きそうなんだけど…まあゲームだし、そこまで悪い事は起きないだろう。

葵や涼也と違って予備知識があるわけでもない。もらえるものは貰っとけって言うし。

駅前でティッシュを貰うようなものだと思えば、うん。


「ただーし!対価として教わっている間はこの店でバイトしてもらいます!いいわね?」

「分かりました。けど、居るときと居ないときがありますよ?」

「知ってるわ。ヒューマンは睡眠時間が長く、不規則なのよね?」

「へ?」

「あれ?知らないの?」

「え、ええと、たぶんそうです」

「……そう」


訝しげな目で見るメイドから目を逸らした。


「そういえばまだ名乗っていませんでした。イツキといいます。これからよろしくお願いします」

「私はリュナよ。よろしくね。ちょっと待ってね」


そういってリュナはキッチンに声をかける。


「カリン!バイトの子が入ったから自己紹介して頂戴」


キッチンから出てきたのは気難しそうな料理人。

彼は言った。


「カリンよ。よろしくね」


彼女であった。


「カリンはもともと宮殿の料理長だったのよ」

「そういうあなたこそ、竜殺しのテオとして有名だったじゃない」

「やだぁ、あの頃はやんちゃだったのよ!」


和やかに話す二人。

どちらも筋骨隆々である。


「さて、新入りには覚えてもらうことがたくさんあるわよ」


と、カリンにつれられキッチンに入るイツキ。

中で植物図鑑を渡される。


「貸してあげるからこれを覚えなさい。今度からあなたに採集してきてもらうから」

「はい!」


非常に興味深い図鑑だった。

メニューに出てきた単語がイラストと説明つきで載っていて面白い。


「あと、キッチンに入るときは髪の毛を結ぶこと。紐が無いなら貸すわよ?」

「……え?」


言われてから気がついたが、そういえばさっきから何かが視界の隅でちらちらとして邪魔だと思ったのは、黒く、長い髪の毛であった。


「イツキちゃんは可愛いからメイド服も似合うわよねぇ。客引きしてもらったらいいかも」


頷きながら言うリュナ。

え、もしかして。

イツキは部屋の隅により、二人に背を向けて、下を見る。


無い。

男として大切なものが。

……涼也が何かしたのか。

いや、性別は写真で自動に判別するといっていた。

じゃあ何故。

……そういえば、葵がキャラクターメイクしている画像を見せてくれなかった。

それに涼也も何度も、『確認しなくていいのか』って言っていたっけ。

もしかして、このアバターは葵の写真を基にして出来ているのか。

で、葵のキャラクターは俺の写真で作っていると。

はめられたな。

今から変える事は出来ないし。

諦めるしかないか。

なれているしね。


そこまで一気に考え、イツキはカリンに聞いた。


「今から出来ることってありますか?」

「そうねぇ、マクの実を採ってきてくれるかしら。東の森に生えているのよ」

「分かりました!」


少しでも逃避するためイツキは仕事に走り出した。


「リュナ。どっちが先に教える?」

「カリンね。カリンの教え方についていけないようじゃ私の方法なんて到底無理よ」

「わかったわ。本当に、後継者作りって面倒ねぇ」

「仕方が無いわよ。これも義務ってものだしね」



* * * *



カリンに散々植物の種類や魔獣や獣の種類、採集の仕方、解体の仕方や血抜きの仕方を教えてもらい、イツキはログアウトした。

頭の中はもういっぱいいっぱいである。

夕食にお握りときゅうり一本まるかじりし、樹は早めに寝た。




翌朝、葵は朝食を共に食べた後、すぐに部屋に引きこもった。

樹は慌てることなく、二人分のサンドイッチを作って洗い物をし、洗濯物を干す。

そこからが樹の自由時間だ。

部屋に戻りログイン。



* * * *



今日もまた、カリンに料理を叩き込まれつつ、接客もする。

昨日、一昨日はほとんど人がいなかったが、少しづつ人が増えてきている。

ふらふらになり、カマノナカの仮眠室を借りた。



翌日。

リュナにつれられ、イツキは狩りに出た。

そのまま、五日間ほどぶっ続けでサバイバル兼教育を受ける。



そんな感じに過ごすうち、イツキはだんだんこの生活に慣れてきた。

カマノナカのお客も増え、最初は一人二人来て逃げ帰ってしまっていたのが、ピーク時には10人ほどが来てくれるようになった。

ここの料理は美味しいので、一度食べてくれたらまた来てくれるのだが、リュナの見た目でみんな逃げてしまっていたらしい。

客との雑談でそういうことを聞き、イツキは決心を固めた。


「……と、言うことでリュナさん、そのメイド服辞めましょう」

「嫌よ!男の服なんて真っ平ゴメンだわ。スカートって動きやすいのよ!」

「俺はスカートが駄目なんていっていません。せめてこっちのメイド服にしてください」


イツキはリュナに一枚のメイド服を差し出す。

クラシックスタイルのメイド服である。

こちらのほうが露出度が低めだ。


「後、その見苦しい手の毛も剃りましょうか」

「……わかったわ」


誰に似てしまったのかしら、というような目でイツキを見るリュナ。

諦めたように店の生活エリアに戻る。


「あと、カリンさん、明日友達と約束があるので休ませて貰っていいですか?」

「いいわよ。強制バイトは教えてる間だけだから、休みがほしければいつでも言って」

「ありがとうございます」


そして、カランコロンとベルを鳴らし入ってきた客にイツキは笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ!」




これって女顔なのか、ネカマなのか。

ちょっと微妙なところです。


7/03ちょっと書き加えて直しました。

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