始まりの日
何時終わるかも分からないものですがどうぞよろしくお願いします。
ちょっと修正しましたが中身は変わってません。
〈Other Life Online〉
それはみなが待ち望んだVRMMOのひとつ。
自由度の高さが売りでその名のとおり、別の生活を楽しめる。
これはそんなゲームをするプレイヤーたちの話。
暗くした部屋の中、主役の二人は同時にケーキの上のろうそくの炎を吹き消した。
「樹、葵、誕生日おめでとう。これは俺から。こっちは小父さんと小母さんからな」
幼馴染の少年、涼也は二人に封筒と、大きな箱を渡す。
葵は歓声を上げて喜んだ。
「頼んでたVR機の〈Other Life Online〉推奨機だ!後でお礼のメール書かなきゃ!」
「VR機って?」
樹は部屋の電気をつけ、涼也に聞く。
「VR機は最近発売された仮想現実体感機だ。
発売初日で売り切れたせいで現在生産中。
俺もこの推奨機手に入れるのに三日は並んだのに、小父さんと小母さんはどうやって二機も手に入れたんだろうなぁ」
「そんな事よりもだ。〈Other Life Online〉は明日サービス開始なんだから、早くキャラメイクしないと!」
「葵、食事はきちんとしなさい」
樹がご飯をよそいながら葵をしかる。
葵はしゅんとするが、運ばれてくる豪華な料理を見て目を輝かせた。
「今日は豪華に出前を取ってみたんだ。いただきます」
「いただきます!」
「いっただきまーす」
葵と涼也ががっつき始める。
葵はともかく涼也はまともなご飯を食べているはずなのにどうしてこんなにがっつくんだ。
「のどに詰まらせないでよ」
そう忠告しつつも、樹の箸の進みも早い。
父の単身赴任が心配で母がついていき早二ヶ月。
俺も葵も料理が下手なのでこんなにまともな料理は久しぶりだ。
ああ、でも涼也の料理はザ・男の料理って感じでおいしかったなぁ。
「…で、樹もやるよな?」
ぼんやりとしているうちに、葵と涼也で話が進んでいたのか葵にそうふられる。
「ごめん、聞いていなかった。」
「〈Other Life Online〉。通称OLO!食べ終わったら涼也にキャラメイクとセットアップ手伝ってもらおうと思うんだけど、樹もやるだろ?」
「そうだね、せっかく貰ったんだしやってみようかな。でも先に食器洗ってからね」
「じゃあ先に環境だけ整えとくな。勝手に部屋に入るぜ?」
「いいよ」
「ご馳走様!先に行ってる!」
「ご馳走様でした」
そういって二人は階上の部屋に向かう。
「あいつら、せめて食器を下げていってよ」
ため息をつき、食器を洗う。
シンクを片付け、樹は自分の部屋に戻る。
部屋では涼也がVR機をパソコンに繋いでいた。
「お疲れさん!ちょっとこれ被って」
VR機付属のリングを頭につけられる。
「脳波設定完了。後はキャラメイクだな」
「キャラメイクってどうするの?」
「自分の元の体とあまりにも違うと動かせなくなるからあまり変更は出来ないな。
性別を換えることも出来ない。全身の写った写真を取り込んで髪の色とか顔を変えたりぐらいかな。
性別のほうは写真から読み取って機械が判断するから変更不可能だしな」
「ふーん」
「じゃあ写真撮るぞ」
涼也の携帯端末のフラッシュが光る。
写真を転送し、涼也が聞く。
「後は自分でやってみるか?」
「いや、よろしく」
「変えたいところはあるか?」
「特に無いよ」
「せめて髪色だけでも変えようぜ」
「じゃあ…黒」
「それ今と変わんなくね?」
「いいよ。ぱっと思いつかないし」
「分かった。これで完了だ。チェックするか?」
「いい。明日の楽しみにする」
「本当にいいんだな?」
「?」
念を押す涼也に違和感を感じる。
まあ、気のせいだろう。
「いいよ」
「いいか、俺のせいにするなよ。もう確定したから変えられないからな」
「だから何を言って「涼也、セットアップ上手くいったか見てくれ!」
隣の部屋から葵が涼也に呼びかける。
「今行く!」
「俺も行く」
「はいはい、シスコンシスコン」
廊下に出ると、涼也が俺の部屋に携帯端末を忘れたと言い、取りに戻った。
先に葵の部屋に入ると、葵は自らの体でパソコンの画面を隠す。
「葵、どうかしたの?」
「はは、なんでもないさ。それより、樹はもうキャラメイクまで終わったのか?」
「うん、涼也がやってくれたよ」
「そうか」
パソコンの前、不自然な体制でプルプルしている葵は入ってきた涼也の声で振り向いた。
「お待たせ。葵、どう?」
「こんな感じだ」
葵は椅子を涼也に明け渡す。
涼也は画面を見ていう。
「うん、OK。ばっちりだ」
「そうか」
葵はうれしそうに笑った。
「それじゃあ俺はお暇するわ」
椅子の上で伸びをしながら涼也はいう。
「明日はスタートダッシュ決めたいしな」
「そう、ありがとう。助かったよ」
「じゃあな」
玄関まで涼也を見送った後、葵は宣言した。
「明日はスタートダッシュ決めるから最低限しか部屋を出ない。
だからおにぎりか何か簡単に食べられるものを作っておいて貰えないか?」
「分かった。けれど、水分補給忘れて倒れたりしたら二度とVR機に触らせないから」
「約束する。」
こぶしを握り締め誓う葵。
そんなにVRゲームをしたいのかな。
樹はそこまで考えてから、手を動かした。
「ジャンケンポン」
葵もとっさにグーを出す。
「私の負けか」
「じゃあお先に」
ジャンケンで風呂に入る順番を決め、樹は着替えを取りに部屋に戻った。
風呂上り、ベッドに倒れこむ。
明日は〈Other Life Online〉のサービス開始日。
葵も涼也もやるみたいだし、せっかく貰ったというのもある。
スタートダッシュとまでは行かないけれど、ちょっと頑張ってみようか。
その日、いつもなら遅くまで明るい竹中家の灯りは早いうちに消された。
翌日。
おにぎりをひたすら握る。
具は梅干しのみ。
おかずにきゅうりでも丸のまま置いてやろうかな。
昼食用、夕食用のおにぎりにはラップをかけて置いておく。
水のペットボトルを部屋に持ち込み、部屋に戻る。
ベットに寝転び、箱型VR機本体の電源を入れ、リングを頭に取り付けた。
目をつぶり、仮想世界へ。
* * * *
そこは石造りの町並みであった。
広場には多くの人が立っている。その隙間から見えるのは噴水だろうか。
視界の中央にある欄にホロキーボードで『ituki』と入力し確認する。
すると、今度はチュートリアルであろうウィンドウが開く。
一通り流し見して、最初の武器を選ぶ。
武器は無難に片手剣だ。
俺の専門はそれではないけれど、まあ使えるだろう。
「さて、これからどうしようか」
ひとまず街中を歩き回る。
初めて見る景色に樹は柄にも無くわくわくしてくる。
どの人物も生き生きとしていて、NPCとPCが分からないくらいだ。
ふらふらと歩いているうちに町の東、NPCの店のほうまで来てしまっていた。
多くの人が行き交い、立ち止まる中、その店の前には誰もいない。
だが、店の中からはおいしそうな匂いが漂ってくる。
「お腹、空いたな」
メニューを開き、ゲーム内時間を確認すると、ログインしてからすでに三時間も経っている。
入ってみようか。
樹は浮かれた気分のまま重い扉を押し開けた。