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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドラコと賢者の日常

ドラコと賢者の日常

作者: まめ

疑似親子ものの短編です。

文章もグダグダしてるので分かり辛いです。


 ほのかに涼しい風が扉を開けた窓から入り、セティの頬を心地よいタッチで撫でていった。ふと今まで仕事に集中していた神経が解かれ、そこでようやく彼は今日がやけに静かであるということに気が付いた。何ということだ。このように珍しいことがあるとは。もしかすると今日は空から槍でも降って来るのではないだろうか。

 セティは賢者と呼ばれ、彼の住む場所には一筋縄ではいかない複雑な結界が施されている。その為に彼の持つ強大な魔力の影響が外に逃げることなく、結界の中に留まりこの場だけで作用し、かつては普通の土地だったこの場所を今やそれはそれは不可思議な場所へと作り変えてしまった。普通の人間ではここを見つけることすら出来ず、例え力がある人間がこの場を見つけ結界内に入ったところでセティの魔力がその人間を圧迫し狂わせてしまうことだろう。

 そういった理由からセティの家の周りは、彼以外に人はおらずとても静かでたまに訪れるものは、野生動物と彼が作る薬を買いに来る人外の客のみだ。

 セティは、己がどれだけ長い時間を一人で過ごしてきたかを覚えていない。彼は人の身でありながら、人から外れた時間軸を生きている。それを特に孤独と感じず、己の好きなことにだけ誰にも邪魔をされずに時間を割ける。彼はむしろ、そのことに喜ぶような人間だ。

 そんな彼だが、最近になって小さな同居人が出来た。その同居人は黒竜族の血を引く竜人で、背はセティの膝までしかなくとても小さい。その見た目は人間の幼児と変わらないのだが、背には蝙蝠のような羽が生えている。

 竜と人の間に生まれた竜人は、どちらの親の血を濃く受け継ぐかによって見た目も寿命も変わり、仮に竜の血が濃ければその成長は早く寿命は長い。知性はとても高いが、喜怒哀楽は表情で表さないので人間からは無表情に見える。その反対であれば人間より少し遅れはするものの、ほぼ変わらない速度で成長し、喜怒哀楽は表情で表すので人間から見れば感情が豊かだ。しかし知性は人間より少し高いくらいで寿命も少し長い程度となる。人間に近ければ、運が悪い者は幼いうちに死ぬこともある。

 セティの同居人は、ほぼ竜と言っていい程に竜の血が濃いのだが、彼は規格外の生き物だった。それというのも同居人はセティと暮らしてから、もう半年は経つというのに一向に成長する兆しが見えず、小指一本分すら背が伸びていない。むしろ伸びるどころか、来た頃と全く身長が変わらない。加えて感情表現はとても豊かで人間らしく表情をころころと変える。おまけに知性は人間の幼児とさほど変わりがなく、たどたどしい喋り方をする変な生き物なのだ。

 通常、竜の血が濃い竜人は生後半年もあれば、少なくとも人間の6歳児程度には成長する。知性は特に成長が早く、その頃には思春期の子供と変わらないものになっているはずだ。けれども彼の同居人は未だに片言でしか話さないし、落ち着きは卵の中に置いてきたのかというくらいにドタバタと遊び動き回る。そのおかげでセティはこの同居人と一緒に暮らし始めてから、本当に数える程しか仕事に集中出来たことがない。

 やれお腹が空いた、喉が渇いた。眠たいから一緒に寝ろ、怪我をしてびいびいと泣き喚く。まあこれ位ならば可愛い方だ。この間は仕事で使用する貴重な薬草畑を、同居人が吐き出した火で全焼させてしまった。その前は薬を引取りに来たオークに攻撃を仕掛け、手酷い反撃にあって同居人の羽がポッキリと折れてしまったこともある。あれはセティが付きっきりになって看護をしなければならず、その間は仕事が一切出来ずにどんどんと溜まっていくし、なぜ襲ったのか理由を聞けば美味しそうな豚肉がいたからと言うのだ。セティはあの時ほど脱力したことは無いし、疲れたことも無かった。


「セティ、セティ!へんなのいる。へんなの」


「……ああ?変なのってどこに」


「にわ。にわ。へんなのいる」


 ああ。今日は穏やかでいい。そう思った矢先にガタゴトと大きな音を立て、壁や家具にガンゴンと体を打ちつけながら同居人が慌てて家に入ってきた。

 よくよく彼の口元を見れば、口の端から垂れた涎が乾いて白い筋になっている。どうやら今まで静かであったのは、彼が庭で昼寝をしていたからのようだ。

 彼は小さな羽でふらふらと危なっかしく飛びながら、セティの胸元に掴まるとそのままぶら下がった。セティは彼が落ちないように両腕で抱え、カピカピに乾いた涎を服の袖で拭いてやりながら、同居人が言っていたへんなものについて考えを巡らせた。セティの家と庭には結界が施されている為、彼に悪意のある者は人であろうと人外であろうと侵入することが出来ない。仮に彼の結界の影響を受けない程に、強い力を持つものが侵入すればその力の大きさに気が付かないわけがない。それらを総合して思うに恐らく、セティの客の中でまだ同居人が見たことのない種族が訪れたのだろう。セティはそうであるならば、この同居人がややこしい事態を引き起こす前に止めなくてはと考えた。


「へんなの。ユニさんみたいなうしいる」


「ユニコーンみたいな牛?なんじゃそりゃ。ドラコお前、ユニコーンは見たことあんだろ?見間違えてユニコーンが牛に見えたんじゃねえの?」


「ちがう!ちがうセティ。あれユニさんちがう。ふとい」


「太い?ユニコーンは太くねえよ。だから見間違えたんじゃねえの?」


 太ったユニコーンなど存在しない。同居人のドラコがユニコーンではないと必死に否定するのを見たセティは、本当に牛がいるのかもしれないと考えた。そうであるならば、おそらく庭を訪れたミノタウロスをドラコが見間違えたのだだろう。

 やっぱり見間違えじゃないかとセティが繰り返しドラコにそう言うと、彼は烈火のごとく怒りだしセティの胸元をポカポカと叩いた。ドラコのそれは全く痛くなく、むしろセティにとっては良いマッサージになるので、彼はドラコの気が済むまでやらせておくことにした。


「ちがう!もう!みろセティ。みろ」


「おい、ちょドラコ。引っ張るな」


 そんなセティの反応にしびれを切らしたドラコは、再び危なっかしく宙に浮くとセティの服の襟を掴んで引っ張り外へと連れて出ようとした。少しでも抵抗すればセティはドラコを振り切ることも出来るが、そうすればドラコが盛大にスネて面倒くさいことになるので、彼はもう好きにさせておこうと仕方がなく庭へと足を動かした。


「……まじかよ」


 家の扉を開けて外に出ると庭にある泉でドラコの言う通り、ユニコーンみたいな牛、いや牛みたいに太ったユニコーンが今にも死に掛けながら溺れていた。バシャン、ジャバン、ゴボボボボ、バッシャン。大きな音を立て醜い姿で溺れるその様はいっそのこと滑稽だった。


「ほら。ちがう。ユニさんおぼれない。あれユニさんちがう。ユニさんににたうし」


「牛じゃねえよ。ユニコーンだし」


 いや今はそれがユニコーンかそうじゃないか、なんてどうでもいい。早く助けてやらないと死んでしまいそうだ。

 セティはドラコにそんな場合じゃねえよと言うと走って家に戻り、魔力を込めた投網を持って来た。人魚の捕獲用に作っておいたものが、こんなところで役に立つとは思わなかったが、セティはそれを泉に向かって投げるとユニコーンを引き上げた。

 引き上げられたユニコーンはその場に倒れるとフゴォ、フゴォと不細工な音を立てて激しく呼吸をした。しばらくすると呼吸が落ち着いたのだろう、ユニコーンはゆっくりと起き上りセティに礼を述べた。


「いやはや面目ない。助かったありがとうよ」


「ユニコーンが泉で溺れるとか、初めて見たんだけどよ。どうしちゃったの、あんたその体」


 普通ユニコーンは引き締まった身体をしているというのに、そのユニコーンはブヨブヨとした脂肪を蓄え、馬であるというのに顎が二重どころが三重になっている。このユニコーンはオスのはずだが腹は大きく膨れ上がり、その中には赤子がいるのかと思わせるほどだ。


「それがな。我らユニコーンは、神の使いとして人間の前に現れるようにしているのをお主もしっていよう?」


「まあね。実際は神の使いでもなんでもないけどな」


「うむ。人間をだまして遊ぶ、我ら種族のただの暇つぶしだからな。まあ、それでだな。その神の使いは当番制でな。今年は別の者が当たるはずであったというのに、そやつが途中で体を壊してしまったのだ。それで仕方が無く急遽、私が代役になったわけなのだが」


「仕方なく?あんたらなら喜んで行くだろ」


 人間にユニコーンの実態はよく知られていないが、セティはそれを嫌になるほど知っている。彼らはかつて、人の世界では獰猛な獣として知られており、今では神の御使いとして崇められる存在である。しかしながら真実を言えば、かつてはただ単に近付いて来る人間がうざかったから追い払っていたところ、悲鳴を上げて逃げる様が面白くなり、わざと追いかけて遊んでいただけだ。そして今はそれにも飽きてきたので、新たな遊びとして人間を欺くことを考案した。それは人間の愚かさを馬鹿にし、ユニコーンが優越感に浸るという趣味の悪い遊びだ。まあセティは元人間ではあるものの、過去に色々とあった為に人間は本当に嫌いなので、やつらがどうなろうと殺されようと正直知ったことではないが。


「それがな。今我らが遊んでいる人間どもは、まあ欲深くてだな。あれもしろ、これもしろ、それも叶えよと煩くてかなわんのだ。余りにも煩いのでな、深い泉の水面に逃げたのだが、そうすると今度は奴ら私への貢物に何か薬を混ぜたらしい。あっという間に肥えてこの様よ」


「つまり人間は、あんたを水面から引き摺り下ろすために何らかの薬を一服盛ったけど、あんたはそれに気付かずぶくぶくと太っちゃった。そんで本来なら、歩けるはずの水面をその重みのせいで歩けなくなって溺れたと」


「うむ。全くもってその通りだ。このままでは死ぬと思ってな。必死に亡者の道を通ってここに来たのはいいが、なにせ普段の我らは天の道を通っておろう?勝手がわからずこの庭の泉に出たというわけだ」


 この世には亡者の道と天の道という二つの道があり、これらの道は同次元や別次元に関わらず、様々な世界と繋がっている。力があるものはどちらかの道を使用し、様々な世界を渡ることが出来る。だがどちらの道も安全とは言い難い。

 亡者の道は暗闇に覆われ、その中には亡者と呼ばれる怪物がうようよといる。亡者はこの道を通る人間を欺き、食らいつくそうと襲う。ただこの亡者の不思議なところは、生きた人間以外は襲わない。したがって人外の生物であれば、ただ気持ち悪い生き物が多くいるワープゾーンくらいの認識ではある。ただ己の目の前で人間が、グチャグチャに食い殺されているのを見ても平気である者しか通ることは出来ないが。なにせ至る所でそれが行われており、見たくなくても目に入ってしまうのだから。

 もう一方の天の道は、亡者の道とは正反対で光に包まれた道である。この道は天界の一部を通っており、いわゆる天使と呼ばれる生き物がうようよといる。天使は決して人を食らうことはないが、気に入ったものは人間以外でも天界に連れ去ってしまう。連れ去られたものは殺されることはないが、その精神はグチャグチャに壊され見るも無残な状態となる。運良くまともなままで逃げ出せるものもいるが、それはごく稀な存在である。ただユニコーンのような常に暇を持て余す種族にとっては、それが面白いと好んでこの道を通う者もいる。

 セティの目の前にいる醜く肥えたユニコーンなど、天使の格好の獲物となるに違いない。何せこんなに太ったユニコーンを誰も見たことがないのだから。


「それでまた溺れたと。なんだそりゃ」


「うむ。返す言葉もない」


「あれか。注文は痩せる薬でいいんだよな」


「うむ」


 セティはユニコーンの語る下らない話に呆れ果て、大きくため息を吐いた。とはいえこれは仕事であるから、セティは気持ちを切り替えるとやせ薬の材料を頭の中に思い浮かべた。多分材料は揃っていたはずだが、彼は念の為に仕事部屋に戻り確認をすることにした。

 ふとユニコーンを見るとビショビショに濡れたままだったので、客をこのままにするのはまずいが自分でするのは面倒くさいセティは、ドラコに乾かしてもらうことにした。


「取り敢えず、俺は部屋に戻って材料があるか調べるからよ。ドラコお前はユニコーンを乾かしてやってくれ」


「わかった。ドラコ、ボーボーにかわかす」


「お前は馬鹿か。ボーボーにしたら黒焦げになんだろが。遠くから火を吐いて暖かい風で乾かしてやれ」


 ここでユニコーンを殺されたら堪ったものではない。奴らは種族間の絆がとても強く、一族の誰かがやられようものなら、総出で相手に復讐をするような面倒くさい生き物なのだから。オークを美味しそうだからと言う理由で襲うようなドラコであるから、このまま放っておけば本当にユニコーンを消し炭にしてしまうだろう。


「わかった。ドラコ、ユニさんあっつあつにする」


「熱々も駄目だかんな。いいか。ホカホカくらいにしろ。ホカホカだぞ、分かったな?」


「わかった。ユニさんホカホカ。ホッカホカ」


 そう言うとドラコはふらふらと飛び、ユニコーンから少し離れた地面に降りた。そうして小さな火を口から吐き出すと、背中の羽をパタパタと動かしユニコーンへ温風を送りだした。おお極楽、極楽と目を細めるユニコーンにセティは呆れ、小さくため息を吐いた。それからさっさと仕事を済ませる為、仕事部屋へと向かった。

 家に帰り仕事部屋に入ると、セティは薬品の材料を仕舞っている棚の引き出しを片っ端から開けた。そうして材料のマンドラゴラの葉、瑪瑙、蜂蜜を見つけたが、肝心の妖精の砂が無い。ああそう言えばこの間、ドラコが燃やしてしまった薬草畑を元に戻す為、手持ちの砂を全て撒いてしまったのだった。

 セティはふと目に映ったゴーレムの粉末で何とかできないかと考えるものの、やはり何かあったら面倒くさいと思い直し、材料を取りに行くことに決めた。材料棚の左横の壁に吊ってあった材料採取に使う袋を手に取り、肩に掛けるとセティは庭へと向かった。

 セティが庭に出るとドラコは既にユニコーンを乾かし終わっており、肥えたユニコーンの背の上で寝そべってそのプヨプヨした感触を楽しんでいた。よほど気持ちがいいのかドラコは上機嫌で、ほほほほほー、へへーと変な声を出していた。


「おいドラコ。材料が足んねえから、ちょっと土の妖精のとこまで行ってくる」


「ドラコもいく」


 セティがドラコにそう声を掛けると、普段の彼からは考えられないほど俊敏な動きで起き上った。


「え、行くの?留守番してたら?」


「いやだ。ドラコもいく。いくったらいく」


 セティとしては、正直に言うと留守番してくれていた方が助かるので、ドラコには付いてきて欲しくない。その方がさっさと採取を終わらせることが出来るのだから。セティのその気持ちに気付いたのだろう。ドラコはプンスカと怒りながら、セティに向かって飛んでくると彼が肩に掛けている採取袋の中に無理矢理体を入れた。


「ちょ、袋がぴちぴちじゃねえか。重いし出てってくんない?なあドラコ。留守番しててくれたら、お前の好きな砂ウサギ何匹か狩ってきてやるよ」


 セティがドラコにそう言うと彼は、またもや俊敏な動きで袋から出ていきユニコーンの背に飛んで戻った。そうして彼はセティに向けて両掌を開いて見せた。


「はいはい、十匹ね。了解了解。じゃあドラコ留守番頼むな。ユニコーンも悪いけど、ドラコのこと見といてくれ」


「おお私は治してくれるなら、何でも構わんよ」


 たったの砂ウサギが十匹で、採取の手間が大分と省けるのならばお安い御用である。砂ウサギの肉はドラコの大好物の一つなのだが、鈍くさいドラコがいると気配に敏感な砂ウサギは姿を現さずいくら賢者のセティでも狩ることが出来ない。だからドラコがその肉を食べる為には、留守番するしかないのだ。セティは上手くいったと、ドラコにばれないようほくそ笑んだ。


「やくそくセティ。きょうばんめし、うさぎだらけ」


 へいへいと気のない返事をセティはしながら、庭にある壁のない鉄の扉だけが立っている場所に向かうと、それを開いて意気揚々と亡者の道へ入って行った。

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