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花のように散り行く

作者: 西藤宮斗

5作目

 私はただ1人、樹海の中の遺跡を訪れていた。

 その遺跡は壁一面に植物の(つた)蔓延(はびこ)り、足下は地肌が見えぬほどに苔むしている。

 中に入るとしばらくはじめじめとした通路が続いたが、やがて広間に出た。

 そこだけは時間から切り離されたように蔦も苔も生えておらず、壁や床の大理石は滑らかな断面を保っていた。

 正面に天秤と水瓶を手にした老人の石像が(そび)え立ち、水瓶からは懇々(こんこん)と清水が湧き出して泉を作り出している。泉は排水溝など無いと言うのに溢れる事も無く清水を(たた)えていた。

 そして天秤の右の皿には今にも動き出しそうなほど精巧な石の蛇、左の皿には細長く白い花弁が長針のおしべと短針のめしべを取り囲む時計のような花が乗せられていた。

 右の皿の方が重いのは明らかなのにも関わらず天秤は水平のまま静止して動かない。

 この異質な空間を私は知っていた。

 500年ほど前、砂漠で遭難した私が当ても無くさまよった挙句(あげく)辿り着いたのが似たような遺跡だったのだ。

 そこで私は蛇を手に取り、不老不死に……正確には老いる事無く死んでも生き返る体となった。

 初めのうちは便利な体だと喜び、3度ほど死にながら砂漠を抜けた。

 しかし、友人も妻も子供も孫にも先立たれた頃から死を望むようになった。

 もう一度遺跡を訪れたがあの部屋は無く、あるのはただの古ぼけた神殿跡だけだった。

 不死の定めを断ち切る何かを求めて世界中を巡った。

 不死人を殺した逸話を持つ剣で喉笛を引き裂き、不死である神の子を穿ったと伝わる呪われた矛で心臓を貫き、(よみがえ)りし者の息の根を止める秘薬を飲んだ。

 それでも私は何事も無かったように目を覚ますのだ。

 旅の途中で強い生命力を持ち、脱皮が死と再生を連想させる蛇は不死の象徴であると聞いた。

 蛇、あの遺跡で蛇の石像を手に取ったが故に私は不死となったのだろう。

 そして20年ほど前に天秤と水瓶を持った老人を(まつ)る不思議な遺跡があるという噂とその遺跡に纏わる伝承を耳にした。

 その伝承によれば石の蛇を選べば不死となり、花を選べばその花の命と共に死ぬそうだ。

 私はどうにか場所を探り当て、永久の眠りにつくべくここを訪れたのだ。

 天秤に手を伸ばし、花を掴み取る。

 花のおしべとめしべが私の手の中でゆっくりと動き出した。

 長針のおしべが1周すると短針のめしべが花弁1枚分動き、花弁は急速に枯れていく。

 長針と短針が元の位置の戻り、全ての花弁が枯れたと同時に私は息絶え、二度と目覚めることは無かった。 

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