悪魔の勉強!
こんにちは。悪魔のセーラです。
あれから半年が経って、私も少しは悪魔らしくなりました。って言っても、角と羽と尻尾がそれぞれ少しずつ伸びただけなんだけどね。
最初に食べた人以外に、あれから私は二人の人間の魂を食べた。どうやらそう頻繁に魂は必要じゃないらしくて、数ヶ月に一人くらいのペースでいいんだってさ。まぁ、そうじゃないと寿命で死んだら食べる、なんて悠長なことやってられないものね。
まだ人間の魂を食べるのは慣れた、とは言えないけど、この分ならやっていけそうだ。恐ろしい難関さえなければな。その難関はというと……
「セーラ!また他事を考えていたね……。どうしても気が散るというのなら、対策を考えていないこともないんだよ。さぁ、どうしようか。」
目の前の悪魔(お父様)です。
もともとは私の言葉が原因だった。今まではお父様に怪しまれないように適当にポケーっと過ごしたり、こそこそ隠れて本を読んだりしていた(だって見た目は四歳児だもの)。だけど、もう読めるような本は全部読み尽くしてしまったのだ。そのほかの本は戸棚の高い所にあったり、封印が掛けられたりしてて読めなかった。おまけに、お父様に本が欲しいと言っても買ってきてくれるのは絵本ばかり(当たり前)。だから、ちょっと早いかもしれないけれどお父様に勉強を教えて欲しいと言い出したのだ。
今の私はお子様で無力だ。もし一人で外に出たら多分五分で殺される。聖騎士に殺されなくても、森の動物に殺られる。だから早く一人前にならないとちょっと外に散歩、すらできないのだ。その前にお父様が出してくれないし。
もういい加減ヒッキー生活はウンザリだ。早く外の新鮮な空気が吸いたい!そして妖術を使いまくりたい!……あ。本音が。
とにかく、一人前になる方法を本で調べてみた。すると、自分の力を完全にコントロールできると悪魔として一人前となれると書いてあった。すんごい抽象的だな、おい。
だいたい、まだ角が成長しきってないから妖術なんて使えないのだ。今の私にできる悪魔っぽいことといったら羽をパタパタさせること(激痛有り)とお父様を上目遣いで落とすことくらいだ。ホント、無力だな。
だから出来ることといったら本で今のうちから学ぶことくらいで、その本も尽きてしまったからお父様に勉強を教えてもらうことにした。
最初お父様に勉強を教えて、と頼んだら案の定大げさに感動して、まだこんなに幼いのに何て利発な!とか、やっぱり頭の出来はお父さんに似たね!とか言って喜んでいた。が、ここからがいけなかった。
「まだ幼いとはいえ、セーラは(お父さんに似て)優秀なんだから手加減なんてしちゃ駄目だよね。」
とニッコニコの笑顔でお父様が宣い、教育という名のシゴキが始まった。で、現在に至る。
……なんかさぁ、お父様キャラ変してない?さっきから笑顔がどす黒く見えるんだけど。いや、悪魔としては間違ってないんだけどさぁ、私としては永遠に娘に甘いお父様で居て欲しかったよ。
「セーラは四歳だから一日四時間勉強しようね。頑張って。ほら、あと一時間だよ。」
と、お父様が懐から懐中時計(普通の)を出して時間を確認した。
いやいやいや、ちょっと待て!どこの世界に四歳児にぶっ続けで四時間も勉強させる奴がいるんだよ!!(あ、ここにいるか)普通に考えておかしいでしょーがっ!!虐待だろ!
つーか、その考え方だったら二十四歳以上はどうすればいいんだよ。
「一人前になったら勉強はしなくていいからね。勉強が嫌なら早く一人前になるんだよ。」
「二十四歳になったらどうするの?」
「生まれて二十四年も経ったのに一人前になれない奴なんて知らないよ。…そんなことを考えるくらいなら集中しようね。」
……早く一人前になろう…。
くどいようだが私はまだ妖術が使えない。そこで私は世界の歴史だの、種族の分布と生態だの教養分野を学んでいた。文章が分かりやすいからまだいいものの、四歳児にこれはきつくない?転生者じゃなかったら一分で寝ますよ、コレ。
でもお父様はちっとも変だとは思わないようで、『世界の起源と変遷 入門編』を読み進める四歳児を見守っていた。誰かツッコめ。
で、この本を読むと今までよく分かっていなかったこの世界のことが分かってきた。地図を見ると、この世界の大陸は地球のものに非常によく似ていたが、微妙に異なっている。海が地球よりも小さくて、イギリスの北半分まで大陸氷河が押し寄せているのだ。しかも、地球で言うアラスカとシベリアがくっついている。パラレルワールド説は濃厚になったな。
ありがたいことに、人間の住める範囲が少ないせいか国の数は十数個しかなかった。よかった。私は地理が苦手なんだよ。しかも、覚えやすいことに東西南北に大国が一つずつあり、大国の間に中小国がちらほらあるという状態だ。地球もこうだったら苦労しないのにね。
お父様によると、今は大国だけ覚えればいいよ、とのこと。まぁ、相手は四歳児なんだからそれくらい手加減はしてくれるよね。ホント、頼むよ。
それぞれの国には特色があるらしく、それも合わせて覚えていった。東は“交易と商人の国エキダス共和国”、西は“文化と騎士の国リーチェル王国”、南は“農耕と信仰の国サラサ神皇国”、北は“霧と賢人の国ノルド帝国”が四大国だ。ちなみに私たちの住んでいる場所はリーチェル王国と隣国との国境近くにあるらしい。
今挙げた国は全て人間のものなので、他の種族の国はないのかと聞いた。すると、他種族は総じて数が少なく、自分たちの種族でかたまったり、悪魔のように個人主義だったりするので国という集団はできないのだと教えてくれた。良かったー。じゃあ、これ以上覚える国はないんだなー、と安心していると、目の前に百科事典も真っ青な大判の分厚い本が下ろされた。多分こいつ一冊が頭の上に落ちてくるだけで死ねるだろう。当たりどころが悪ければだが。
表紙には金の飾り文字で『他種族の分類とその簡潔な歴史』と書いてある。これ、フラグじゃね?
否定して欲しくてお父様の顔を見上げると、優しく微笑まれた。
「一緒に覚えていきましょうね。」
初・死亡フラグが立ちました。
お父様はこれでも甘やかしてるつもりなんですよ。
セーラにはこれからも頑張って欲しいですね(笑)
世界観は適当なのであまりツッコまないでください。
他種族についてはまた次話に載せます。