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とある悪魔の転生記  作者: 柚花
第一章 幼少期
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悪魔の食事2!

そんなふうに私が心の中で謝っている間にも、お父様は手を止めずに説明を続けた。なんでも、今日の夕方頃にお父様の契約者の一人が亡くなるそうなので、その人間の魂を私が頂くらしい。

……どうやって契約者の死期が分かるんだろう。エスパー?

そんなふうに内心首を捻っていると、お父様が珍しく説明を付け加えてくれた。いやぁ、びっくりしたよ。(←失礼)…だって、お父様はいつも言葉が一言も二言も足りないのだ。別に私への気遣いとかサプライズとか考えなくていいから、先に説明して欲しい。ただでさえ私はチキンなんだ、寿命が短くなったらどうしてくれる!


「いつかセーラが一人前の悪魔になったらもっと詳しく教えてあげるんだけど、契約すると悪魔の側はこの『生命の銀時計』と呼ばれるものが手に入るんだ。契約者の寿命があとどれくらいなのかを教えてくれる。」


そう言ってお父様が見せてくれたのは銀でできた懐中時計だった。蓋の部分には繊細な模様が細工され、中心には小さな赤い宝石が象嵌されている。とても綺麗だけど、普通の時計にしか見えない。

興味津々で眺めていると、蓋の模様に見覚えがあることに気づいた。何となく、お父様が変身してくれた時の魔法陣に似ている気がする。


「ねぇ、この時計の模様に見覚えがあるんだけど、お父様知ってる?」

「お!よく気がついたね。その模様はお父さんが悪魔の姿に戻る時に見せた魔方陣と同じものなんだよ。一回くらいしか見せてないのによく分かったね。」


まぁね、あれはいろいろな意味で人生で一番驚いた日だったから印象に残ったんだよね。別にお父様の魔方陣がカッコイイと思ったから覚えてた訳じゃないですから。だから、そんなに嬉しそうに頭撫でないでぇ!罪悪感がぁ…!

お父様はひとしきり私の頭をなでなでして満足すると、時計の蓋を開けながら説明してくれた。


「この魔法陣はただの魔法陣じゃなくて、悪魔にとってとても重要な意味を持つものなんだ。一人前になって初めて悪魔の姿から人間の姿に変化するときに顕現するんだけど、一人一人違うものなんだ。…ここに小鳥が描かれているのが分かるかい?これは悪魔の象徴といわれるもので、お父さんのはモズなんだ。」


へー。なんかファンタジーだね。一人一人違う魔法陣ね、印鑑みたいなもんかな?…イメージが壊れるな。もう、例えるのはやめとこう…。

しかし、お父様の象徴ってモズなの?あの、『モズの早贄』で有名な?あんな可愛い顔しといてしっかり猛禽類なあのモズ?……う~ん、似合うような、似合わないような。まぁ、ここは誉めとくべきだよね。空気が読める子の私はもちろん誉めますよ。でも、モズが似合う、って誉め言葉なのかなぁ…。


「へぇ~。お父様の象徴はモズなのか~。に、似合うねぇー。…私の象徴って何かな。カワイイ子だといいなー。」

「はは。ありがとう、セーラ。…セーラの象徴は絶対にカワイイに決まってるよ!オコジョとか、ヨタカとかアナグマとかかな?ミナミゾウアザラシもありかもね。ま、あと数年後のお楽しみだね。」


おぉ、さすがお父様。急な話題転換なのに、私の話題だと食いつきがいいね。相変わらず娘にベタ甘ですなー。…そして、なぜにカワイイ動物の例がそんなに微妙なの?確かにカワイイよ?でも、全て有名どころをことごとく外しているね。そして、ミナミゾウアザラシはなしだ。前世で一度奴らをテレビで見たけど、可愛らしいか?メスや子供は確かに可愛かったけど、オスのミナミゾウアザラシをカワイイと思ったことは一度もない。…とゆーか、ミナミゾウアザラシって。この例えだけ微妙にピンポイントだ。誰か実際にミナミゾウアザラシが象徴の悪魔がいるのかな?気の毒に。


「この魔法陣は目印として契約者の体にも刻まれているんだ。これを『刻印』というんだよ。『刻印』は契約者の心臓の真上に印してあって、これがこの時計と契約者を結んでいるんだ。この時計の蓋は持ち主の悪魔にしか開くことができない。…試してみるかい?」


そう言ってお父様は時計を私の手に乗せてくれた。確かに、どんなに力を込めても蓋を開くことができない。これ以上やると爪がボロボロになりそうだったので早々に諦めてお父様に返した。

お父様は時計を私の目線に合わせると、簡単そうに時計を開いた。心なしかどや顔をしているような気がする。私の被害妄想かな…。

時計の蓋の裏にはお父様と知らない人の名前が刻まれている。多分こっちが契約者の名前なんだろう。文字盤の方はかなり変わっている。大きさも形もバラバラな針が4本も並んでいるのだ。しかも、時計からはカチカチという音が響いてくるが、4本の針はどれも秒針ではないようで、ほとんど動いてはいなかった。文字盤の数字は1~12まであるのに、針はほとんど全てが一番上の12の数字を指している。いったいどうやって寿命が分かるのだろうか。

時計の説明を待っていると、お父様に時計の見方はまた今度教える、と言われてしまった。時間が押しているから無理なんだと。え~、そりゃないよ、お父様。自分から話題を振っといて最後まで話さないとかさ、もう嫌がらせじゃない?繊細な私は夜も続きが気になって眠れなくなるじゃないか。寝不足は成長に悪いのに。絶対後で埋め合わせ(お菓子)をもらおうっと。


「セーラ。準備が出来たからこっちにおいで。」


お父様はそう言って私に手招きをした。見るといつの間にか手には銀時計ではなく、グショグショに濡れたガーゼを摘んでいる。かすかに薬臭いにおいが漂ってきた。……なんの準備ですか、おとーさま?

すっごく嫌な予感を感じながらも渋々お父様のそばによると、いきなり頭を固定されて角にグショグショのガーゼを押し当てられた。

やめてよぉぉぉ!!私の角は指で軽く撫でる位でも激痛に感じちゃうほど敏感なんだぞぉぉぉぉ!!

そんなことされたら悶絶し……ない?あれ、痛くない?


「どう?麻酔薬を染み込ませたガーゼだから痛くはないと思うんだけど、塗り薬だからなぁ…。」


そう言いながら、ガーゼを次から次へと角と羽と尻尾に貼り付けるお父様。

ちょっと!何かする時は最初に説明してくれよ!何度も言うけど、私はチキンなんだってば。扱いは慎重に。


「お父様は何をしてるの?私はどこも痛くないよ。」

「あぁ、これはね、セーラに人間の恰好をしてもらうから羽や尻尾を押さえつけても痛まないようにしてるんだよ。ちょっとくらいは痛いだろうけど我慢しててね。」


そう言い残すとお父様は私の服を剥ぐと、角やら羽やら尻尾やらをサラシで押さえつけ始めた。

ひ~~!!何コレ。“お食事”の度にこんなことするの~!!?も、これからは絶対に好き嫌いせずにご飯食べる!!だから、もうちょっと優しく巻いてください~!!



約30分後。どこからどう見ても人間に見える父娘が出来上がった。娘の方が若干涙目に見えるのは気のせいだ。二人ともよそ行きの服装に着替えている。お父様の方はシャツとハンカチ以外は全て真っ黒な燕尾服で、私の方は同じく真っ黒の詰襟のドレスだ。襟元やドレスの裾に黒いレースをあしらってくれているんだけど、暗い雰囲気は拭えない。なんでもこれが悪魔の正装なんだそうだ。

…おおっ!悪魔ぽくっていいじゃないですか!そう、これ。これだよ。私はこういうのを求めていたんだよ。

一人で感動して悦に入っていると、お父様から大きな大人用の帽子を手渡された。もちろん色は黒だ。えー、何でこれ?せっかく悪魔の格好をしてるんだから、可愛いミニハットとかじゃダメなの?

お父様は私の不満げな様子に気がつくと、長々と人間の姿に変装する理由を説明してくれた。

いわく、悪魔狩りをするえくそしすとっぽい人たちの名前は聖騎士団というらしい。で、思ったとおり宗教に色濃く関係している。この世界の宗教は一神教で、統一教会が頂点に立っているそうなんだが、聖騎士団はそこの直属なんだと。そして神の名のもとに悪魔を討伐する正義の味方なのだとさ。

悪魔は人外なだけあって、とても強いので普通の人間である聖騎士団は敵いっこない。そのため、聖騎士団の主な討伐対象は契約者と悪魔の子供だ。見分ける基準は契約者は胸の『刻印』、悪魔は赤い目と角・羽・尻尾なんだと。…赤い目は遺伝じゃなかったのか。道理で両親とも赤い目なわけだ。髪の色はバラバラなのにスゴイ偶然だと思ってたんだよ、うん。

という訳で、角と瞳の色を隠すために帽子を目深にかぶった。お父様は変化の妖術で瞳の色を褐色に変えている。妖術は自分以外の悪魔にはかけることができないそうで、そのせいで私は面倒くさい変装をいちいちしなくてはならない。妖術といっても万能じゃないんだね。はー、早くオトナになりたい。



長々とかかった支度をやっと終えて、私とお父様は契約者のもとへと向かった。

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