衝撃の真実!
なんやかんやで転生してから3年が経った。
言語習得は相当苦労するのでは、と内心ビビりまくっていた。だけど精神は大人のものとはいえ、体は幼児のものなので予想してたよりも物覚えが良かった。おまけにここの言語の文法は英語にそっくりだし、発音は聞き取りやすいもののおかげでだいぶ理解できるようになった。お父様がたくさん喋りかけてくれたおかげだ。ありがとう、お父様!
そして、衝撃の事実があった。私はずっとここはヨーロッパの国のどこかだと思い込んでいたのだが、どうやら全く違うらしい。私たちの家がある場所はリーチェル王国という国の端っこにあり、この世界には魔法まであるらしい。つまり、異世界だよ、イセカイ。
だけど、文化やら生物やらは地球のものとほとんど変わらない。というか、同じだ。転生してから二年間も気付かなかったのは決して私が鈍いせいじゃない。紛らわしいのが悪いんだ。私は悪くない。
このリーチェル王国の文化はヨーロッパの中世から近世くらいによく似ている。文明の進み具合や魔法はおいといて、この世界は地球にあまりにもよく似ているのでパラレルワールドなんじゃないかと私は疑っている。確かめる術はないけど。
あーあ、せっかくお決まりの異世界転生をしたんだから何かチートなオプションとかついてないかなぁ。
「どうしたんだい、セーラ。何かして欲しいことでもあるのかい?」
申し遅れましたが、セーラというのが私の名前みたいだ。本当はもっと長いんだけど、幼児の口では正確に発音出来ないので縮めてもらっている。舌が回らないんだよ、情けないことに。
「なんかね、あたまのよこがむずむずするの。そんでね、いたいの。」
うぅ~、はっきり喋れない。まだ言語習得過程なので、幼稚な喋りですみません。
「ここかい?」
「いたっ!!」
いたたたっ!!
痛いよ!幼児の皮膚は柔いんだから、もっと気を付けてよ!
頭がもげる!
「ご、ごめん。……あぁ、そろそろか。ほら、鏡を見てご覧。」
「んん?」
促されて鏡を覗いてみた。鏡には割とかわいい女の子が写っている。自分で言うのもなんだが、顔立ちはお父様に似て整っている。目はお母様に似ているそうで、垂れ目気味でぱっちり二重だ。惜しいことに髪の色はお父様と違って黒色だけど、瞳の色はお父様と同じ赤色だ。さすが異世界。カッコイイね。
お父様の瞳の色は、本人に頼んで目を見開いてもらうまでは赤とは知らなかった。別に目が小さいわけでもないのに、お父様はいつも笑っているように目を細めているのがデフォルトだから、頼んで目を見開いてもらった時はちょっと怖かったのは内緒だ。お父様が傷付くからね。
とにかく、鏡に写った私は特にいつもと変わらない。
…あれ?側頭部の上の方が何か腫れてる?たんこぶみたいなものができている。しかも両側とも。
おかしいな。昨日寝る前は特になんともなかったんだけど、寝てる間に何かぶつけたかな?
「おめでとう!セーラ。ついに貴女にも角が生え始めたね!」
「つ、つの?」
え?今、何て?
角って、あの角のことですよね?
あー、言語習得中だから訳し間違えちゃったのかー。もっと勉強しなきゃなー。
「大丈夫だよ。生え始めはちょっと痛いけど、そのうち痛いのもおさまるからね。伸びきるまでは押されたりすると痛いけど、3年の我慢だからねー。」
まじで?マジで言ってんのか、お父様?
「いやぁ、セーラもついに角が生えるような年に…。リリアにも見せてやれたらなぁ…。」
お父様はいきなりお母様の肖像画の方を向くと、絵の中のお母様に話しかけた。
お父様。感動したり、亡くなったお母様に報告したりするのもいいけど、まず説明しろよ!
あんたにもお母様(絵)にも角なんか生えてないでしょーがっ!!
なんで娘の私にだけ角が生えるんだよ!私はいったいナニモノだよ!!
「お、おとーさま。つのってなんですか。」
「角はね、大きくなると生えてくるものだよ。セーラも大きくなったってことだね。まだちっちゃいけど、もう立派な悪魔だね!」
え?今なんかいろいろ突っ込みどころがあったぞ。
落ち着け、私。ただでさえ話すのはまだ苦手なんだから、ひとつずつ訊いていかないと。
「おとーさまにもつのはあるの?」
「あるよ。普段は隠しているから知らなかったかな?いい機会だし、見せてあげよう。」
そう言ってお父様が立ち上がると、いきなりその足元に黒い魔方陣が出現した。その魔法陣の縁には知らない文字や幾何学的な図形と共に、小鳥が描かれている。そして魔方陣から黒い靄が出現したかと思うとあっという間にお父様の全身を包んだ。
おおー!!凄い!生魔法だよ!初めて見た。だけど、角だけなのに大仰だなー。そして、妙に禍々しいのは何故?…何か嫌な予感がするんですけど。まさかアレですか。悪魔に変身ですか。ついに正体を明かしてやるぞ的な。
靄が晴れて姿を現したお父様はスゴイ格好だった。頭の横には湾曲した大きな灰色の角が生え、なぜか背中には大きな皮膜の黒い翼、お尻には黒くて長い鞭のようなしっぽが生えていた。もちろん先っちょは尖っている。
……すっごくベタな悪魔姿だ。ちょっとがっかりしてしまう。いや、別に悪いとは言わないよ?でもさ、大げさな変身シーンだったから、もっと衣装なりオーラなり変わると思ってたんだよね。
でもお父様は角と翼と尻尾が生えた以外は特に変わっていない。はっきり言ってコスプレしてるようにしか見えないのだ。
お父様は何かを期待する眼差しで私を見つめている。どうしよう、本気でコメントに困る。お父様がどんな感想を求めているのか分からない。
「おとーさま、かっこいい……。」
「ありがとう!セーラ!!セーラが誉めてくれるなら、ずっとこの恰好でいようかな。」
お父様は相当嬉しかったらしくて、物騒な角の辺りの頭を照れたようにかいている。
チョロいな、お父様。こんな棒読み丸出しのお世辞に本気で喜ぶ人は初めて見たよ。本当にあなたは悪魔ですか?いや、証拠は見たけれどね。
「ねぇ、おとーさま。わたしもおとーさまみたいにつのとかはねとかがはえるの?」
「そうだよ。セーラは悪魔だからね。」
「あくまってなに?」
「お父さんやセーラみたいな人のことだね。お母さんもそうだったんだよ。」
「にんげんとはちがうの?」
「違うよ。人間は食べ物だからね。」
お父様はパンは食べ物だからね、とでも言うように言い切った。あんまりな内容に思考がついていけない。
……ニンゲンがタベモノ?
理解した瞬間、今までこの世界で口にした肉料理が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、私は気絶してしまった…。