悪魔と帰還!
投稿が遅くなってしまい、すいません!
「ラウムさん!?どうしてここに!?……もしかして帽子を届けに来てくれたの?」
「なんでそっちなの?……違うよ、帽子はついで。君たちを迎えに来たんだよ。」
いや、最初のはもちろん冗談ですよ、冗談。助けに来るのが遅いんだから、嫌味の一つくらい言わせてくれたっていいじゃないか。
帽子を渡してくれたラウムさんはいつも通りに優しげな、それでいてちょっと胡散臭い微笑を湛えていて安心した。良かった。いろいろあって大変な一日だったけど、ようやくお家に帰れるんだ。言いたいことも文句もたくさんあるけど、とりあえず帰ったらにしよう。
「セーラ…!その男から離れろ…!!」
「ぐへっ!!……リシューさん!?」
帽子を受け取ってそのままラウムさんに近付こうとすると、後ろからリシューさんが私のお腹に腕を回してそのまま引き寄せた。本人にはそのつもりはないんだろうが、勢いを殺さずに引き寄せられたのでお腹にラリアットを喰らったようなものだった。中身出る。さすが怪力。
……じゃなくて、てめ、何すんだコノヤロー!幼児の体は軽くて弱いんだから割れ物注意でお願いします!!
「どしたの、リシューさん。あの人はちょっと胡散臭いけど、正真正銘お父様の友達の悪魔だよ。助けも来たんだし、こんなところからさっさと帰ろうよ。」
「……いや、あの悪魔は怪しすぎる…。セーラは拐かされて、やっと見つけたはずなのにあの男は喜んでいるようには見えない…。それどころか、動じてすらいない…。おまけにあの男は僕達を『迎えに来た』と言った…。『助けに来た』ではなく…。どうにもおかしい…。」
確かに、ラウムさんの態度はあまりにもいつも通り過ぎるかもしれないけど、私とリシューさんの拉致に関わりがあるとしたらその利点が分からない。悪魔の子供とユニコーンを攫ってどうするというのだ。こんな穏やかじゃない手段に出たらこちらだって抵抗するし、特に私に何かあったらお父様が黙ってないだろう。
……あれ?そういえばお父様がいない。お父様はどこに行ったんだ?
「……あれ?そういえばお父様は?ラウムさん、お父様と一緒じゃないの?」
「ああ、キアスね。そろそろ来るんじゃないかな。」
私の質問にラウムさんがどこか苦笑するように答えたか、答えないかの内に床に見覚えのある黒い魔方陣が出現した。続いて、ヴゥゥンと小さな低い音を出して魔法陣の上に黒い人影が現れた。
「セーラッッ!!!」
「ぐはっ!!」
嫌な予感がして、リシューさんの腕の中から逃げ出すよりも速く、お父様が私を抱きしめた。というか、抱きつぶした。だーかーらー、もっと優しく扱えや、ゴルァ!!せっかく命が助かったというのに、お父様の手にかかるとか絶対嫌なんですけど!……あ、酸素が足りなくて苦しくなってきた……。なんだか大きな川が見えるよー。あ、お母様が手を振ってるー。お母様ー。(ブンブン)
「キアス、セーラちゃんが死んじゃうからそのくらいにしておいたら?」
「あ!ご、ごめんね、セーラ!……しかし、なぜお前がここにいるんだ、ラウ。」
やっと力を緩めてくれたお父様は、それでも私を離さないままラウムさんを睨みつけている。人里に降りている時は褐色に変えている瞳が、今は術が解けかかって赤に近くなっていた。白目の部分も充血していて赤っぽい。よく見ると、お父様の格好は最後に見た時と変わらないけれど、全体的に砂埃で汚れていて、服もくしゃくしゃだった。家の中でも乱れた服装など絶対に見せない、あのお父様が。
「もちろん、セーラちゃん達を助けるために決まってるじゃないか。」
「っ!!……よくもおめおめと口に出せたな、ラウ。後で絶対に殺してやるからな。」
「ははっ、殺せるといいけどね。」
ラウムさんとお父様はお互いに険悪なムードを出して会話しているが、余裕そうに笑みを浮かべるラウムさんに比べて、笑顔がデフォルトのはずのお父様は見たことがないほど恐ろしい顔をしている。眼光だけで一人や二人殺せそうな勢いだ。
……この話の流れだと、今回の一件には確実にラウムさんが関わってるな、この悪魔め!セリフも、浮かべてる黒い笑みも、悪役そのものだよ。これは必殺技を使っていいよね。むしろ使うべきだよね。さぁ、どんな技がいいかな。顎に向かって“ロケットずつき”かな、それとも二の腕に“かみくだく”もいいよね。いっそ、どっちも使ってやってもいいかもしれない。
ぐふふふ、と復讐方法を考えていると、ラウムさんがお父様から目をそらして窓の方を見やった。
「あんまりここでゆっくりしてる時間はないよ。そろそろ奴らが来てもおかしくない頃合いだから。むしろ、予想よりも遅いくらいだ。おちびちゃんたちをどうするの?」
「もちろん家に行かせる。私の家にアドラを呼んでおいたから、うまく対応してくれるだろう。お前の相手は全部終わったあとだ。……ユニコーン君。悪魔の事情に巻き込んでしまって申し訳ないが、今は時間がない。私の家に送るから、そこにいる悪魔から事情を聞いてほしい。戻ったらどんな謝罪でもしよう。セーラ、お父さんが戻ってくるまでいい子にしててね。」
そうお父様が言うと、リシューさんは黙り込んでいたがこっくりと頷いた。それを見届けたお父様はリシューさんに私を抱っこさせると魔方陣を出し、私とリシューさんを我が家へと転移させた。
「良かった、二人とも無事だったのだな。」
(一日も離れてないけど)懐かしの我が家へと到着すると、見たことがない悪魔のおねー様が迎えてくれた。角や羽は出してないけれど、鮮やかな赤い瞳と人外レベルの美貌が悪魔だと教えてくれる。淡い藤色の髪は腰まで伸び、少し厚めの唇と、切れ長の涼やかな目元が色っぽい。しかし、何より注目すべきはそのボンッ・キュッ・ポンッのボデーだ。なんと羨ましい。仲良くなったら絶対にボデーの秘密を教えてもらおう。
そう一方的に決意を固めていると、妖艶な悪魔のおねー様は自己紹介をしてくれた。
「申し遅れたが、私の名はアドラメレクという。見ての通り悪魔だ。アドラと呼んで欲しい。ラウムとキアスに代わってそなたたちに事情を説明するように頼まれたのだが、お腹も減っているだろうし、湯浴みもしたいだろう。暖かいご飯と湯を用意してあるから、説明はその後で良いだろうか。」
おぉ、アドラさんめっちゃいい悪魔だ!!もちろん、私に異論はないよ。今日一日、朝ごはんとベリー・ミルクしか口にしてないから、別に人間式の食事が必須ではないけど口寂しいし。リシューさんも湯浴みと聞いて嬉しそうだ。……あれ?何か、男女で反応する部分が逆な気がするんだけど。ま、いっか。
アドラさんが用意してくれた食事をとってお風呂に入ると、やっと人心地がついた。さぁ、なんでこうなったかを聞かせてもらいましょうか。