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とある悪魔の転生記  作者: 柚花
第一章 幼少期
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悪魔と逃亡!

私はずっと物陰から家政婦は〇た!のように伺っていたが、作戦が成功したのを見て取ると、屍(酔い潰れたオッサン達)を避けて、唯一立っているリシューさんのほうへと向かった。

リシューさんは私がこちらへ向かうところを見ると、元の姿へと戻った。

戻ったんだけど、……あれ?何か、様子が変だ。ずっと立った位置から動こうとしない。


「やったね、リシューさん!さぁ、早くここから出よう。……あ、あれ、リシューさん?あの、大丈夫ですか?」


とりあえず声をかけてみようと思って呼びかけてみたが、全く反応しない。それどころか、少し体が震えている。

おかしいな、お酒は口に入る前にリシューさんがユニコーンの能力“浄化”でただの水にしたはずだから酔うことはないんだけど。それとも、“浄化”に失敗しちゃったとか?

慌ててリシューさんの顔を見上げようとすると、リシューさんは突然動いた。


「ああああぁー、もう本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当の本当に気持ち悪かった!!!」

「リ、リシューさん!?」

「僕は、ユニコーンだから、汚らわしい男も、汚い場所も、男が酌をした酒も、全部全部、受け付けないんだよ!!!」


リシューさんは発狂したかのように叫ぶと、着ていたボロを地面に叩きつけて、言葉の合間合間に踏みつけ始めた。あっという間にボロは微塵になり、少し床にめり込んでいる。あれ、怪力使えないんじゃないの?

色々と止めなきゃとは思うんだが、怖すぎて近づきたくない。ねぇ、あれ本当にリシューさんなの?さっきまでの穏やか系美少年はどこ行った。

私がオロオロしながら少し離れたところで見守っていると、ご乱心中のリシューさんがくるんとこちらに目を向けた。


「セーラ!」

「ハ、ハヒイ!!」


突然呼びかけられて舌を噛んでしまった。あとで口内炎にならないといいんだけど。そんなどうでもいいことを考えていると、いつの間にかリシューさんが目の前まで来ていて、私の腕を掴んだ。


「こんなところに長居は無用だ…。盗られた荷物を見つけたらすぐにここを出るよ…。こっちだ…。」


そう言って私を引っ張るリシューさんは少しは落ち着いたようだ。話し方も元に戻っている。でも、背景に黒い炎の幻覚が見えるような気がしたので、逆らわずについて行く。

リシューさんはぐいぐいと私を引っ張りながらどこかに向かってるようなのだけど、盗られた荷物の場所が分かるのだろうか?さっき盗人どもにお酒を飲ませた時にでも訊いたのかな?


「リシューさん、盗られた荷物がどこにあるか分かるの?」

「なんとなくだけど…。でも、そこに全部の荷物があるかは分からない…。」


リシューさんと私は一階の広間のような広い宴会場を出ると、迷わず建物の奥へと進んだ。途中にいくつか部屋のドアがあったけど、リシューさんは全部無視して奥から二番目の部屋のドアを開けた。

……どうやって分かるんだろう?てか、そんなことがわかるんなら牢から抜け出してきた時に教えてくれよ。リシューさんはオッサンの服を着てたからいいけど、私はずっと下着姿なんだぞ。風邪引いたらどうしてくれる。

ちょっとムカッとしつつもリシューさんに続いて部屋に入ると、そこは倉庫のような部屋だった。ランプがあったので点けてみると、宴会場よりは暗いけど手元は十分見える。

一度部屋全体を見渡してみると、部屋の隅の方に見覚えのある若草色を見つけて安心した。良かった、まだ売り払われてなかったみたいだ。

部屋にむぞうざに散らばっているペチコートや簡易ドレス、靴などをかき集めて、埃を払ったあとに身に付けていると、服の汚れを執拗に叩き落としてから着ているリシューさんが見えた。……もう、何も言うまい。でも、部屋の中で叩かれると埃が立つのでやめてください。

あと見つかってないのは髪を結ぶリボンと大事な大事なイヤリング、今日ラウムさんに買ってもらった帽子だ。特にイヤリングは紛失しやすいので気を付けないと。

埃っぽい床に這いつくばって探していると、リシューさんに肩を叩かれた。


「はい…。これ、君のだろう…?」


そう言ったリシューさんの手には赤いイヤリングとリボンが乗っていた。間違いない、私のイヤリングとリボンだ。ちゃんとひと組ずつ揃っている。


「あ!…ありがとう、リシューさん!でも、これどこにあったの?」

「貴金属とそのリボンはこの袋の中にまとめてあった…。ほとんど売りさばかれる前で良かった…。」


そう言ってリシューさんは大きな石が真ん中に一つだけあるシンプルなサークレットを袋から取り出した。あの封印のボロい鎖とはエライ違いだ。でも、そんな目立つサークレットと、リシューさんが着てるワイシャツ・半ズボンの組み合わせは合わないと思うんだけどなぁ。サークレットを付けるならもっと王子様然とした格好をすればいいのに。絶対似合うのに。むしろしてください。


「しかし、この角カバーが貴金属扱いされるとは思わなかったな…。絶対に売れないと思うのに…。」

「へ?角カバー?」


意味不明なことをリシューさんが突然言い出すので尋ねてみると、リシューさんはサークレットを裏返して見せてくれた。


「ほら、この魔石の裏側は大きく凹んでるから角が隠せるんだ…。おまけに魔石でできているから紛失しても魔力を辿って探すことができる優れものだけど、形が歪だから売れないと思うんだけどな…。」


確かに、付いているムーンストーンのような大きめの石は表面は滑らかだけど、裏は円錐形に凹んでいる。リシューさんがサークレットを付けて見せてくれると、輪の部分は銀で出来ているし、石も透明感のある乳白色なので、髪と肌の色に紛れてあまり目立たない。隠していると言われても、角があるようには見えなかった。


「これも魔道具の一つだけど、自分で作るから非売品だよ…。……そういえば、盗られたものは全部見つかった…?」

「かぶってた帽子以外は全部見つかったよ。リシューさんは?」

「……財布の中身以外は全部見つかったよ…。」


そう言って、微笑みながら革のリュックサックを揺らしてみせた。……ちょ、笑顔が怖いんですけど。どれだけ入ってたんだ、財布。背後の炎がさっきよりもさらに大きく見えるよ。

いろんなものを見なかったフリをして、もう一度部屋の中を探していると肩を叩かれた。


「はい、見つかったよ、帽子。」

「あ、どーもです。」


ん?今、リシューさんの声とは違う声じゃなかったか?

びっくりして顔を上げると、いつの間にか目の前にラウムさんが帽子を持って立っていた。



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