悪魔とお買い物!
今、私は狭い牢屋?らしき部屋にぶち込まれてます。
牢屋の外には見覚えのない小汚くて人相の悪いオジサンたちがうろついてます。
何がどうしてこうなった!!?
遡ること数時間前。
私とお父様は半ば強引にラウムさんに街に連れられてきた。二人ともそれぞれ赤い目を褐色と薄い茶色に変化させ、美形という以外は普通の人間と変わらない格好に変化したけど、私はそうもいかない。
仕方がないので魂を食べに行く時のように、羽と尻尾を晒しで巻き、角を帽子に押し込めることにした。
服は正装ではなく、お気に入りの子供用の簡易ドレスを来ていくことにした。若草色で、派手ではないけど裾の花模様の刺繍が可愛いワンピースに似ているドレスだ。靴もそれにあったものを選んだけど、帽子は生憎一つしか持っていないので、いつもの黒い帽子をかぶっていくことにした。
「うわぁー!!」
街につくと思わず小さな歓声を上げてしまった。なんせ、こんなに大勢の人間を見たのは久しぶりだからね。
街はよくテレビに出てきたヨーロッパの古い街並みに似ていて、家は石造りで道も灰色の石畳だった。しかし、今は露店があちこちに出ていて人も多いので、街並みを楽しむ余裕はない。朝市なんだろうか。
「はい、どうぞ。……あ、キアスの分はないよ。」
お父様と一緒になって人混みを呆然と眺めていると、ラウムさんがいつの間にか手に二人分のジュースをもって現れた。早っ!!居なくなってたことにも気がつかなかったよ。それとも、単に存在感が薄いのか?
などと失礼なことを思いながら、ジュースを受け取る。小さな声で呟くようにお礼を言うと、ラウムさんは嬉しそうに私の頭を撫でた。……帽子がずれるからやめれ。
二人してジュースを飲むと、私はジュースの味に驚いてしまった。何と、いちごみるくの味がしたんだよ!いちごの種や果肉が残っているところが前世で飲んだことのある、デパートとかで売っているお高いジュースに似ていて、すごく懐かしい。あまりの美味しさに夢中になっていると、ラウムさんが微笑んで教えてくれた。
「このジュースはこの街の朝市で有名なもので、ベリー・ミルクと言うんだよ。苺や木苺のジュースに牛乳を混ぜてより飲みやすくしたもので、女性や子供に人気なんだ。おいしい?」
「うん、すごく!!……あの、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
いい人、ならぬいい悪魔じゃないか、ラウムさん。私の中で好感度が15上がった。……いや、別にジュースに釣られた訳じゃないですよ、うん。
そんなことを思いながらラウムさんとジュースでキャッキャウフフしてると、後ろからジトーっとした視線を感じた。振り返ってみると、お父様は拗ねてます、という顔でラウムさんを睨みつけている。
「よくも抜け駆けしてくれたな、ラウ。この朝市で株を上げるのはお前だけじゃないからなっ!!……行くよ、セーラ!」
そう言うとお父様は私の手を握って、人ごみを縫うようにして歩きだした。ものすごい速さで店を見ては、私が欲しいと思ったものを買ってくれる。ラウムさんも、負けじと私に欲しいと思ったものを買ってくれた。
朝市が閉まる頃には、私たちは三人とも両手にいっぱいの戦利品を抱えている状況になった。私なんて、荷物でほとんど前が見えないくらいだ。しかも、そのほとんどが食べ物なので結構かさばる。
……私の欲望はほとんど食欲だということが証明された。しかし、後悔はしていない。多分。
食べ物以外で二人に送ってもらったものはそれぞれ一つずつしかない。食べ物に比べるとアクセサリーや服は高かったからついためらっちゃうんだよね。別に今の生活で十分に満足してるからね。それでも贈りたいと二人が言うので、一つずつ欲しいと思ったものを買ってもらった。
まず、お父様に買ってもらったのはオペラグラスのような形をした魔道具だ。これを覗くと魔力を霧のような実体として見ることができるという便利な代物だ。試しに覗いてみると、私は濃く黒い霧が全身を覆っているように見えたけれど、お父様たちには霧など一欠片も見えない。あれ、壊れてるのかな、と思いながら覗いていると、ラウムさんが自分たちは術で魔力の気配を消しているのだと教えてくれた。
さすが、悪魔。なんでも出来るんですね。多分気配も消せるんですよね。一人前になって自立したら、お父様にストーキングされそうで怖い。……いや、うん。大丈夫。お父様でもそこまではしないはずさ。はは。
人混みをオペラグラスで観察してみると、ほとんどの人には何も見えないけどたまに色のついた霧を薄く纏っている人がいた。赤やら青やらいて面白い。夢中で覗いているとお父様に取り上げられてしまった。
「面白いのは分かるけど、街にはスリとかもいるからそれくらいにしておこうね。後は帰ってから見ようね。」
確かに、この魔道具のオペラグラスは真鍮製で全体的に鈍い金色に輝いており、端についている棒のような持ち手や本体にも模様が刻まれていてとても綺麗だ。お父様に預かってもらったほうがいいだろう。
高い買い物をさせてしまったことに申し訳ないと思う一方、新しい宝物を手に入れられてワクワクしていると、負けじとラウムさんがプレゼントを買ってくれた。
ラウムさんが送ってくれたのは可愛い帽子だ。クリーム色の子供用の帽子で、つばが広いので私の目元まで隠してくれる。ライムグリーンのリボンが巻いてあってとても可愛いし、今の服に似合いそうだ。帽子のリボンは付け替えられるらしくて、換えのリボンを何本か買うと、家まで待ちきれなかった私は早速かぶってみることにした。お父様は心配性だから反対したけど、二人も大人の悪魔がいるんだから大丈夫だと言ってトイレで付け替えることにした。
トイレの鏡で確認して、テンションを上げながら外に出てみると、二人の姿はどこにもない。あれ、外で待っているって言ったのに。もしかして、もよおしちゃったのかな。
「お父様ー!ラウムさーん!どこにいるのー?」
朝市が終わったあととはいえ、まだ人が多い。あれだけ私のことを心配しといて、黙ってどこかに行くなんて結構薄情だな、お父様たち。と怒っていたから、気付くのが遅れてしまった。
後ろに人の気配がするなと思っていると、頭に重い衝撃が走った。角に当たってしまったのか、めちゃくちゃ痛い。そんなことを認識してる間に意識がフェードアウトして……
現在に至ります。




