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九十九高の雪月花。
可憐な二ノ宮さんが花、上品な灰音ちゃんが月、秀麗な私が雪らしい。
誰だこれ言い出した奴。
どんな人物かは分からないが、とりあえず凄く馬鹿だってことは良く分かった。
放課後。
「真白さん、ちょっと良いかな?」
「ん? 何?」
いつものように昇降口で待ち合わせていた久里浜君が唐突に訪ねてきた。
最近は校舎内で活動する私と久里浜君がここで待ち合わせ、その後に校門で黒斗と落ち合い、共に下校するのが定番となっていた。
まあ、たまに、というかかなりの割合でそれに三国が加わるのだが。
今日はまだ出現していない。
久里浜君はそんな三国が来ていないか確かめるように辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、おもむろに真剣な表情でこちらを見て。
「真白さん、好きです。付き合って下さい」
……は?
スキデス、ツキアッテクダサイ?
何それどこの言葉?
いやいや、これは日本語だ。好きです。付き合って下さい。
……え。でも久里浜君が?
「えっと……もしかして私、告白された?」
「うん。中学の時からずっと好きだったんだ。だけど真白さんはいつも黒斗のことを見ているし、僕が友達としてしか見られていないのは分かっていたから。でも……」
久里浜君は最後まで言わなかった。
だが、その言われなかったことは私にも分かった。
私と黒斗の間にはいつも一定の距離が有り、それ故お互い不安定だ。
ふらふらと別の子と付き合ったり、劇的に変わってもある程度以上は事情に突っ込まなかったり。また、その一定以上近づこうとしなかったり。
とても心地好くて酷く甘えた関係をお互いに享受しあってきた。
それはもう、終わらせるべきなのだろう。
もしかしたら、これはそのきっかけなのかもしれない。
そう頭の中で巡らせ、私が久里浜君への返事を口にしようとしたとき。
「え……?」
その場に第三者が現れた。
もしもこれが恋愛小説ならここに現れるべきは黒斗なのだろう。
しかし黒斗は現れなかった。
かといって何にも関係のないおじいちゃん先生が通りかかったわけでもない。
そこには、九十九高校トランペット奏者、三国黄壱がいた。
三国はつかつかとこちらへ向かってくると、私と久里浜君を交互に眺める。
そして。
「お前、真白が好きなの?」
と、先ほど呆けていた人物と同じ人かと疑うほどしっかりとした口調で久里浜君に訪ねた。
あまりの迫力に久里浜君はおたおたと、しかしはっきりと肯定を示す。
その答えを受け取り、三国はふーんと相槌を打つが。
「真白はお前にやれねーな」
「三国は何様のつもりなのよ」
「部活のパートナー」
まあ、確かにそれで合ってはいるが。
一体全体何なんだと言いたくなるような事態に二の句が継げない。
そうしているうちにぽん、と肩を叩かれ、そちらを見れば目の前に三国がいた。
ええっと。この状況は。
「好きだ。俺と付き合ってくれ。」
「話をややこしくしないでくれるかな」
「本気なんだが」
「狼少年って知ってる?」
「ああ。最後に本当のことを言う少年の話だろ」
その前に散々嘘をつくけどね。
申し訳無いけど三国の恋愛関係の話はどれが本当でどれが嘘なのか分からない。本人もそれは自覚しているらしく。
「ま。俺だし、このタイミングだからな。疑いたくなるのも分かるよ。だからこうしよう。試しでいいから俺と付き合ってくれ」
「軽っ」
「言っとくが時期は俺の方が先だぞ。俺は少四のとき、ピアノ教室に通っていたお前に惚れたんだ。他の女子と違って、見た目は男の子みたいなのにピアノの前では他の奴らよりスゲー楽しそうだった。だけど、俺は少五からはトランペットを始めて、ピアノを止めたから会えなくなった。その代わりお前が忘れられなくてこんなにチャラくなりました」
「まさかの理由だよ!」
これは即興じゃないな。だって当時私以外の女の子で、ショートカットにジャージの子がいないのを知っているから。
二人から同時に告白。
こういうのって本当にあるんだねって、私の周りでは結構そういう人多そうだな。黒斗がそうだし、黄壱も有りそう。二ノ宮さんも。最近では灰音ちゃんもそうなのかな。久里浜は本人と同じように彼を好きになる女の子も大人しいからなー。私は中学時代を含め、そこまではモテなかった。だってゲームと少年漫画好きだったもの。ヒロインはちょっとムリ。……いや、今の時代色々なヒロインがいるからな。有りか?
とにかく。
「二人ともごめんなさい」
私はもう答えが出ているので、それこそよくある恋愛小説のように返事を後回しにして事態を泥沼化させるつもりは無い。
「やっぱり駄目なのかな……?」
「うん……それに、今度は私も動いてみようと思っているの」
「……あんな優柔不断な奴がいいのかよ」
「それ、三国君が言えるの?」
「久里浜君は吹奏楽部員じゃないから分からないと思うけど、三国はムードメーカーなんだよ。女子部員が多いから女の子に囲まれているように見えるだけで部内では男子にも人気あるし。たまにサボるけど紳士な一面もあるよ」
「この間サボりまくっていたお前が言うなよ。つうか、そこまで言ってくれるなら俺と付き合――」
「だけど、恋愛感情は持てない」
「っ……そうか」
「うん」
「だが、俺は諦めないからな」
「恋愛は勉強と違って努力が報われないときもある」
「何でこのタイミングで言うんだよ!」
「私がそうだったから。ううん、そもそも私は始めから努力なんてしていなかったのかも」
全く。恋愛とは考えれば考るほど分からない。まあ、愛は万能、恋は盲目って言葉があるくらいだし、考えるだけ無駄な直感的なものなのかも。
その日、私達は久々にバラバラに帰った。




