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名前の読み方
八神 真白
七瀬 黒斗
久里浜 茶貴
十門 灰音
三国 黄壱
六井 橙子
二ノ宮 青依
四崎 緑
五倉 紫織
一条 赤里
「……何してんの」
夕暮れと夜の丁度中間ぐらいの空。青を薄く水に溶いたようなこの時間の空は私が好きな景色のうちの一つだ。
そんな後は闇が深くなっていくだけの決して遅くなくはない時間にぽつん、と野球部の大きなエナメルバックを持った、えー、まあ、顔は悪くない少年が校門に寄り掛かっていた。
てか、黒斗だった。
そんな顔だけは無駄に良い幼馴染みを冷ややかな目と声でここにいることを暗に非難する。
しかしまあ、相手も慣れたもので。
「何って。一緒に帰るためにお前を待ってたに決まってんだろ」
「いらないって言った」
「いいじゃん。この時期野球部も吹奏楽も下校時間ギリギリまで練習だし。俺も母さんにお前を送ってくるよう言われてんだよ」
「む……」
おばさんの話を出されるとこっちは弱い。100%善意だと分かっている分断りにくく、その善意を断るくらいならこの『送り迎え』の副作用をあしらう方がまだ楽だ。
「はぁー」
「おいこら。人が待ってまで送っていってやるってのにそのため息はなんだ」
「いや。別に」
私は諦めて黒斗と共に駅に向かって歩き出した。
「お前さ、中学の頃や休みの日みたいに学校でしないの?」
ホームで電車を待っていると、突然黒斗がそんなことを言った。
「……何で?面倒じゃん」
「面倒って……」
「女を捨てている」という言葉は聞き流す。
回りの女の子達が黒斗を見てはざわめき、その隣に立つ私を見ては怨嗟に似た呻き声を漏らす。
まあ、こいつ顔だけは良いからねー、顔だけは。
てか。
「何窓越しに人の部屋覗いてんだ」
「うっせーなあ。隣なんだからカーテンが開いてればそりゃあ見えるさ」
「ちっ」
案外まともだった切り返しについ舌打ちを突いてしまう。
中学の頃と並列で言われるところをみるとまず学校での私は有り得ない。
髪は一応櫛は通してあるものの、量が多くてボサボサ。無造作に伸ばしたそれを乱暴に後ろで二つに結び、同じく無造作に伸ばした前髪で顔はほとんど見えない。おまけにだぼだぼの制服のせいで太っているのか痩せているのかも定かではなく、どうやっても黒斗と釣り合う容姿には見えない。
これが、九十九高校に入学して一年と1ヶ月。私、八神真白の姿だ。
……別に、釣り合いたくなんてないのだが。
さっさと可愛い彼女作ってそっちに構ってくれ。
「……今度ギャルゲーしているところを隠し撮りして、全校の女子にバラ撒いてやろうかな……」
「はっはっはっ。そういうときはカーテンだけではなく段ボール防壁も使うので鉄壁なのだ」
「くっ……なら、遠征中に証拠品をサルベージっっっ……」
「フッ。甘いな。そういう最も危険なときに証拠品を残していくと思うのか?」
「何っ……!? ではま、まさか……」
「そう、そのまさかさ! 遠征中はその他もろとも久里浜に預けてくんだ!!!」
「……あ、もしもし七瀬おばさん? 久里浜君、はい、久里浜茶貴君の所だそうです」
「ましろーんっ!!??」
全く。何でこんなのがモテるんだか。